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若き王とみにくい妃

作者: オードリー

舞台は、トアール国。


大きな森が広がり、小さな湖が点在するその国には、ふたりの悩める男女がおりました。


城の一室。


若き王は、端正な顔に憂いた表情を浮かべていた。


「いかがなさいましたか、陛下」


宰相は、どうせくだらない悩みだろうと思いつつも、律儀に尋ねた。


若き王は、宰相のヒラメに似た顔をちらりと見たが、すぐに両目を閉じて、はあとため息をついた。


「何なんです」


宰相は、もう一度聞いた。


やや間があって、若き王は、片目だけ開いた。


「お前達にせっつかれていた妃の件だが、」


宰相は、ぱっとあげた。


細い目には、明るい光が差している。


「やっとご決心されましたか」


「ああ」


若き国王は、気が乗らなそうに答えた。


「お相手は、どちらのご令嬢ですか。ビジョー家のローズ様ですか。それともオーガネ家のエリザベス様ですか」


「いや、違う。美しいから側室にいいが、王妃にふさわしくない」


若き王が面食いなのを承知している宰相は、些か当てが外れたという顔をした。


「と申しますと」


「いいか、宰相。もし美しい女と結婚すれば、俺は、女を愛するようになるだろう。一人の女、しかも正妃を愛するのは、後宮を持つ国王としてはよろしくない事態だ。母上ひとりに溺れた父上がいざ戦争という時に国内の有力貴族から助力を得ることができず、手痛い仕打ちを受けたことを覚えているだろう」


「しかし、先代国王陛下は、御身自ら前線に赴き、他国の進攻を退けてくださったではありませんか」


「その時の負傷のせいで、早死にしたがな」


若き王は、すげなく言い放った。


「物事の見方は、人それぞれですから」


そういいつつも、宰相は、内心反論せずにはいられなかった。


若き王は、美しい上にすこぶる有能であったが、合理的すぎるきらいがある。


バラッドになるほど熱烈な恋愛の末、早世してしまった彼の両親は、息子に愛情を与える暇もなかったから、仕方ないことなのかもしれない。


「よし」と若き王はとうとう腹を決めたように言った。


「国中で一番不器量な娘を連れてこい。それほど醜いなら、決して好きなることはあるまい。俺は、その娘を妃にしよう」





城より南に二十キロほど離れた村で、女は、村の学校で教師をしていた。


二十歳をいくらか過ぎた年頃で、すらりと背が高い女である。


遠くから見れば、声をかけたくなるような、均整とれた締まった体つきをしていた。


しかし、いざ近づき彼女の顔を見た人間は、必ず失望する。


ひどく醜い顔をしていたからである。


女の顔は、イボだらけで、ぺしゃんこの鼻とぎょろりと大きな目とこぶしがひとつ入る大きな口を持っていた。


それから、彼女は、分厚いレンズがはまった黒ぶち眼鏡をかけていた。


彼女を初めて見た人間は、大抵彼女をイボガエルのようだと思った。


その証拠に、彼女の生徒は、彼女のことをミス・カエルと呼んでいた。


そう呼ぶと、彼女は、大きな口を半月形に歪めて、にやりと笑うのだった。


女は、辛抱強い勉強家な上、子供達の大騒ぎに自ら参加できる童心の持ち主だったから、出来が良い生徒も悪い生徒も皆こぞって彼女を尊敬していた。


ある日、授業を終えて帰宅すると、両親と村長が揃っての家を訪ねてきた。


「父さん。それに村長まで。一体どうしたんです」


女は、驚きつつ、彼女の簡素な家に二人を招き入れた。


小さなテーブルを囲み、三人で夕食を食べていると、女の父親が重たそうに口を開いた。


父親は、自分の言葉が娘を傷つけるだろうことをちゃんと知っていたから、なかなか言いだせなかった。


「学校のことなんだが、もう潮時ではないか。何年も不作だったから、今年は援助できない」


父親の言葉を聞いた女は、案の定、眉をひそめた。


「でも、子供達には、教育が必要だわ。今のことよりも子供の将来のことを考えてよ。読み書きと計算ができれば、お城に仕えて、出世できるかもしれないのよ」


「お前の気持ちもわかるが、ここは小さな村だ。明日の食べ物だって困ることもある。それにたった一、二年かもしれない。豊作が続けば、また開校できるはずだ」


「二年も経てば、年長のチャーリーは、じき十四才になるの。あの年頃の一年がどれ程大切かわかっているの? 」


「我が儘を言うんじゃない。現実を見なさい」


一瞬、眼鏡の奥にある女の青い瞳に鋭い光が走った。


「現実?見ているわよ。読み書きや計算のできない子は、一生苦しい生活になるのよ。彼らだけじゃない。彼らの親や子供も苦しむのよ。今年に入って、栄養失調で亡くなった村人が何人いると思う?五人よ。我が儘でも何でもいい。私は、我慢できないわ。ちゃんと家族を支えていける人間を育てなくちゃいけないの」


イボだらけの顔を真っ赤にして、女は、まくしたてた。


気性の荒いおんどり顔負けの剣幕に圧倒された父親は、しょんぼりと黙った。


父親の沈んだ様子に気付いた女は、はっとして口を押さえた。


ついかっとなってしまった。


気まずい雰囲気が漂う中、今まで沈黙を守っていた村長が口を開いた。


「あんた方の言い分はよくわかった。そこで、ちょいと提案がある。先だて、国王様が御妃候補を募っているとの通達が届いたんじゃ。候補の条件がなかなか興味深い。なんでも、国で一番不器量な娘を妃にするらしい」


「村長さん。今の私達にその話が関係あるのかしら」


女が口を挟むと、村長は、長いこと生きてきた者らしい謎めいた笑みを浮かべた。


「大有りじゃよ。年寄りの正直で失礼な意見じゃが、わしは、あんたが妃候補になればいいと思っている」




「して、宰相。女の名前は、何といったか」


「 アマンダです。アマンダ・ミラー。ミラーだけに粉ひきの娘です。年は二十二才。村の学校で教鞭を取っていたようです」


「ブスか?」


「ご期待に沿える程度には。しかし、陛下。庶民といえど、女性を前にあまりブスブスおっしゃらない方がよろしいかと」


若き王は、フンと鼻を鳴らした。


「その不器量女にはいつ会える? 」


「明後日迎えをやる予定です」


「俺が迎えに行こう。俺の妻がどれほど不細工なのか早く見てみたい」


若き王は、唖然としている宰相に悠然と微笑んだ。


二日後。


アマンダは、城から迎えにきたという男の不遜な態度に苛々していた。


そもそも、アマンダを魔物と勘違いして、出会い頭に切り殺そうとしたので、いくら陽気なアマンダでも許しがたいものがあった。


アマンダが人間の娘で、しかも、自分が迎えにきた王妃候補だと知った男は、なぜか大爆笑した。


妙に馴れ馴れしい態度に豹変したところも気に入らなかった。


自分に取り入れば、出世できるとでも思っているのだろうかとも考えた。


たとえ機会があっても、こんな男の口添えなんぞ御免だとアマンダは彼女には珍しく頑なに思った。


ところが、城に着いた途端、姿を消したはずの男が、謁見の間で玉座に座ってにやにやしているではないか。


国王は、どうやら自分をからかっていたようだ。


アマンダは、綺麗な顔をした人間に馬鹿にされるのが苦手だった。


まるで、自分が本当に人間でない何かになってしまったかのような気分になるのだ。


アマンダは、ワインレッドの晴れ着の裾をぎゅうと握り締めると、彫刻のように整った顔に悪魔めいた笑みを浮かべた若き王を睨みつけた。


「恐れながら、国王陛下。なぜ、私のような醜い娘を妃に望むのでしょうか」


アマンダの朗々とした声は、人気のない広間に響き渡った。


国王は、アマンダをまじまじと見つめた。


「答えてやろう。俺は、一人の女を深く愛したくないのだ。お前のように醜い娘を正妃にすれば、俺がお前を愛することも、お前が後宮の女達から嫉妬されることもない」


今度は、アマンダが微笑む番だった。


「お優しいのですね」


「そう思うか」


若き王は、つまらなそうに言った。


「俺は、醜い正妃を望んだ。お前は、何を望む」


「施しを頂戴したく存じます」


「何の為だ」


「村の子供達に教育を受けさせてやるためです」


「中途半端だな」


アマンダが「え?」と聞き返すと、若き王は、もう一度言った。


「中途半端だ。どうせやるなら、国の教育改革をしろ」


いとも簡単に言うので、アマンダはひどく困惑した。


「わたくしにできるでしょうか?」


「しらん。自分で考えろ。俺は、中途半端が嫌いなだけだ。正妃でいる限り、民は、常にお前を見ている。美しくない人間は、何かを成し遂げない限り、尊敬されることはないと思え」


アマンダは、ふい胸に熱いものがこみ上げてきた。


若き王は、知っているのだ。


アマンダがどんな人間なのか。


アマンダ・ミラーは、村で一番の金持ちの粉ひきの娘。


だけど、不幸なアマンダ。


醜い、イボガエルのようなアマンダ。


優しいアマンダは、子供達を教育してきた。


村を守るため、ホントの心は、村人の心を勝ち得るため。


「分かっています。ずっと、そう思っていたから」


アマンダが低い声で言うと、若き王は、目を細めた。


「舞台は、用意した。思う存分、やるがいいさ」


物語は、始まったばかり。



ノリで書きました。


国名すら、思いつかず、とある国→トアール国になる始末です。


短い上に中途半端ですみません。


続きが書けたら、掲載します。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白かったです!! ぜひ続編期待してます★
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