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真・恋姫無双 乱世を駆ける男  作者: 黄粋
孫呉任官編
28/43

第二十四話

大変遅くなりましたが二十四話をお送りします。

前回のあとがきで荀彧、蓮華、雪蓮について書くと予告しましたが蘭雪と陽菜がメインのようになってしまいました。

子供たちの話はまた追々やっていく事にします。

ではどうぞ。

「ほらほら、駆狼。こっちこっち!」

「ああ、わかったから引っ張らないでくれ」


俺の腕を引っ張る雪蓮嬢に苦笑いしながら街を歩く。



蓮華嬢と荀彧の俺を挟んだ睨み合いは、何の前触れもなく現れた乱入者の登場であっけなく終わった。

乱入者と言うのは今、俺を引っ張り回している雪蓮嬢ではなくその親である蘭雪様と陽菜の孫姉妹だ。


ノックしてから部屋に入るまでにまったく間を作らず。

目の前に飛び込んできた俺が二人の少女に挟まれているというよくわからない状況をじっくり五秒ほど観察すると。

姉妹間で意味深なアイコンタクトを一瞬で済ませて行動を開始した。


「よし、蓮華。今日は母さんと飯に行くぞ!」

「へっ!? 母様っ!?」

「荀彧ちゃんも一緒に行きましょう。建業のおいしいお店を教えてあげるわ」

「えっ? あ、あの……」


驚きと困惑の入り交じった表情を浮かべる二人を軽々と自分の腕に抱き上げる孫姉妹。



人に対して拒絶反応を起こすはずの荀彧だが、陽菜に抱かれても取り乱しはしなかった。

人に触れられた事への怯えや恐れよりも事態の急転に戸惑う気持ちの方が大きいんだろう。

陽菜が彼女の状態は把握しているのも大きい。

可能な限り体の力を抜いて意識を穏やかに保った状態で荀彧に触れている。

優しく包み込むように抱きしめているお陰で彼女が怯える事を避けているのだ。



少女たちを抱き上げてなにやらご満悦な二人であったが、この急展開にすっかり取り残されてしまった俺の事を無視するつもりはなかったらしく戸の前で俺に向き直った。


「駆狼。お前は雪蓮を連れて私たちを追いかけて来い。いつもの店と言えばあの子が知っている」

「あんまり遅いとお昼ご飯無しって伝言もお願いね?」

「は、はぁ……わかりました」


生返事を返す俺に満足げに頷くと二人は子供たちを抱き上げたまま部屋を出ていく。


「あの子、また辺りを散策しているみたいだから捜すのは大変かもしれないけど」

「あれは散策だなんて綺麗なもんじゃない。ただの放浪癖だろう。まぁとにかく雪蓮の捜索、頼んだぞ」


去り際に厄介事を押しつけて。


いや蓮華嬢と荀彧の諍いを止めてくれたのだからこの厄介事はその代価だ。

そう思えば文句を言うのは筋違いだろう。


それから俺は気を取り直して二人に言われた通り、雪蓮嬢を捜しに出たのだが。

彼女を見つけるのは大変だった。


なにせ猫のように気まぐれで奔放なのだ。

城壁に登っているのを見たと聞いて行けば、いつの間にか城の中庭で昼寝をしていたと聞く。

振り回されると言うのは正しくあの時の俺の事を言うんだろう。


俺が捜している事を知っていて逃げ回っているのではと思えるほど彼女はあちらこちらとふらふら歩き回っていた。


最終的に調練場で祭や累と一緒にいる所を捕まえる事が出来た。

頼まれた時間から既に一刻が経過した後だったが、まるで計ったかのように昼飯時の時間になっていた。


ここまでの流れを狙ってやっているのだとしたら恐ろしい姉妹である。


「ほら! そこだよ、駆狼」


雪蓮嬢に声をかけられ現実に意識を戻す。

俺の手を掴んで歩く彼女は人気の少ない静かな路地の端の店を指さして楽しそうに笑った。


「ほう、この路地に食事処があったのか」

「このお店は建業に母様が来る前からずっとやってたんだって!」

「老舗と言う事か」


なら味も期待できるな。

まぁ蘭雪様たちの行きつけの店と言う話だし、外れと言う事もないだろう。

値段と相談になるだろうが良さそうなら今度は宋謙殿や賀斉、蒋欽ら部下たちを連れてきてみるのもいいかもしれない。


「雪蓮嬢を捕まえるのに余計な時間がかかったからな。蘭雪様たちも待ちくたびれているだろうし、早く入ろう」

「ぶ〜、いじわる言わないでよ〜〜」

「ならばまず勉強から逃げないでくれ。やるべき事をやってくれれば俺も文句なんて言わないで済むんだからな」

「え〜〜」


不満顔で頬を膨らませる彼女の懲りていない様子にため息をつきながら俺は目前に迫った店の戸を開けた。


「邪魔をする」

「いらっしゃいませ……」


戸がない住宅や店などが多いこの時代でさらに珍しい引き戸を開けると同時にかかる、店内に良く通る来店を歓迎する声。

声の出所は店の奥、番台のようになっている場所に座っている老人のようだ。


「先客がいるはずなんだが……」

「お客様のお名前は?」


奥まった場所にある小粋な料理屋の店番とは思えない堂々とした態度と鋭い視線に気を引き締められる。

しかし敵意や殺気は感じられない。

恐らく常日頃からこの人物はこういう態度なのだろう。

隣の雪蓮嬢が老人の方を見てにこにこと笑っている事からも推察出来る。


「俺は凌操と言う。こちらは……」

「孫策だよ。おじいちゃん、ひさしぶり!」

「お久しぶりですな、孫策様。孫堅様方は奥の間に上がられておりますのでどうぞ」

「うん、ありがと!」


雪蓮嬢は繋いでいた手を離すとパタパタと駆け足で番台の横を通り過ぎて店の奥に向かっていく。

その様子を目で追いながら俺も後を追うべく店の中を歩き出す。

しかし番台を通り過ぎると言う所で老人が声をかけてきた。


「貴殿が近頃、噂になっている凌操様ですな。お会いできて光栄です」


老人は枯れ木のような細い体を流れるように動かし、俺に深く頭を下げる。


「俺は蘭雪様に見込まれて城に仕えさせていただいている成り上がり者です。さらに言えば俺の立場は兵卒よりも上である程度。孫策様はともかく俺に敬語は必要ありません」


領主の娘である雪蓮嬢に対してならいざ知らず、仕事ではない時の俺にこんな丁寧な姿勢で応対する必要はないだろう。


「あまりご謙遜なさりませんよう。貴殿は呉の民の平和の為に尽くされております。既に貴方は建業では知らぬ者などいないほどに有能な将。君主を得てわずか三ヶ月の間にこれほどの成果を挙げられる方など建業ではとんとお聞きしません。過分に胸を張るのは良くありませんが、しかしご自分を必要以上に低く見せる事が良い事とも限りません」


それは自身の体験を踏まえたような酷く実感の篭もった言葉だった。

じっと見つめる鋭い視線には俺を咎め、諫め、諭す真摯な意志が篭められている。

やはりこの老人、只者ではない。


「……ご忠告、ありがたく心に留めておきます」

「いいえ。こちらこそ、ただの飲食店の店主が過ぎたお言葉を言いました。ご無礼の罰はいかようにも」


俺が頭を下げると合わせて老人は番台を降り、あろう事か地面に平伏した。

まるでこれが俺が認識するべき将としての立場であり、民との違いなのだと伝えようとするように。


「貴方の言葉は俺を想っての忠告です。それを無礼と切って罰する事など出来ません。顔を上げてください」

「……心の広いお方ですな」


ゆっくりと頭を上げ、番台へ座り直す老人。


「礼には礼を、と心がけているだけです」

「ふふふ、左様でございますか」


老人は先ほどまでの刺すような雰囲気を解き、ほんの僅かに表情を緩めると雪蓮嬢が消えていった奥へ視線を向ける。


「奥へどうぞ。皆様がお待ちです」

「建業の大守が常連になるほどの味、楽しみにさせていただきます」

「もったいないお言葉です」


俺は頭を下げ、彼の横を通り過ぎて奥へと向かった。




ぐつぐつと出汁が沸騰する音。

具材が沸騰した鍋。

沸騰する出汁に揺らされる様子が食欲をそそる。


そしてそれを黙ってじっと見つめている五対の瞳。

俺よりも先に店に入っていた面々なのだが、俺が入ってきた事にも気づかず鍋に集中していた。


しかし驚いた。

まさか屋内で鍋料理とは。


野営する時の大人数用に大鍋を囲って食事をする事はあるがそれは周りに火が燃え移る心配がなく、野ざらしの屋外なら鍋をかけた火の熱や煙が篭もる事もないからだ。


前世のように換気扇などの空調設備などがない以上、密閉状態の室内でやるには難がある。

今の時代なら厨房以外で火を扱うのはせいぜい鍛冶屋くらいな物ではないだろうか。

だと言うのにこの店はそれを行っている。


しかもだ。

部屋の温度は少々高く感じられるが十分に許容できる範囲。

火をかけている鍋は部屋の中央に造られた釜戸の上にあるが、これは随分としっかりとした造りの物で店を出してから配置したと言うよりも最初からこの場所で造られていたような印象を受けた。

さらに煙を外に出す為なのだろう釜戸の裏から鉄製の筒が部屋の天井にまで伸びている。


「こんなに設備が整った店があるとは」


やはりこの時代はどこかおかしい。

まぁこの店の場合、店主と蘭雪様たちが古い仲のようなのでその付き合いの間に陽菜が入れ知恵した可能性もあるが。


「まぁ今はどうでもいいか。それよりも……」


この今にも鍋に飛びかかりそうな連中をどうにかしなければいけないな。

俺はため息をつきながらこの妙に緊張した空気を破壊する為に右手を振り上げた。



「っ〜〜。普通、主の頭に拳骨をするかぁ!?」

「なんで私まで!? 姉さんだけでも良かったでしょ、駆狼!」


子供と同じ視線で鍋を見つめていた保護者二人が頭をさすりながら文句を言ってくる。


「子供を窘める立場の人間が一緒になってはしゃいでいるのが悪いと思いますが」


文句を言う大人に苦言を言いながら、良い具合に煮えた具材を栄養バランスを考えて椀によそう。


「ほら、蓮華嬢。熱いから気をつけてな」

「はい!」


小さな両手で包み込むように椀を受け取る。

箸で掴んだ野菜を自分の息で冷ます様子を後目に次の椀に具材をよそっていく。


「荀彧、慌てずにな」

「ありがとうございます!」

「雪蓮嬢、しっかり食べろ」

「ありがと、駆狼!」


子供たちに椀を渡し終えた所でまだぶつぶつ文句を言っている大人二人を見つめる。

そして見せつけるように椀に肉多めでよそい、差し出すように二人の前に突き出す。


「いらないんですか?」

「食べるに決まってるだろう!」


飢えた獣のような素早い動きで椀をかっさらっていく蘭雪様。

今の姿を美命に見られていたら間違いなくお小言をもらっていただろう。

『平時でも主としての威厳を持て』だとかそういう事を言われていたはずだ。


「やれやれ……」

「駆狼、私の分もお願いね?」

「わかっているさ。野菜多めに、だろう?」

「ふふっ! よろしく」


肉よりも野菜が好きだった前世の味覚は今世でも健在のようだ。

俺も味の好みは前と変わっていなかったから、たぶん大丈夫だとは思っていたが気を利かせて問題なかったようだ。

自分の分をよそいながら昔と変わらない事がある事になんとなくほっとする。


「……お前等はこんな所でも見せつけてくれるのか。鍋よりもお前等の熱で熱くなって周りが困ってしまうだろう」


わざとらしく手で自分の顔をパタパタと仰ぐ蘭雪様。


やれやれ。

また俺たちをからかうつもりか。


俺と陽菜の仲を認めた途端、我らが主君は何かにつけて俺たちをからかうようになった。

帰還した昨日もそうだったし、今朝も俺たちの様子を見るや否やなにがあったかを察して玩具を見つけた子供のようにはしゃぎながらせっついてきたが。

どうやらまだまだ飽きていないようだ。


俺と陽菜に関して言えばからかわれて照れるような初々しさはとうの昔に卒業してしまっているのだから黙って流してくれれば良いものを。

よりにもよって子供たちの前で露骨にからかってくるとは。

この年頃の子と言うのは好奇心の塊ですぐに真似をするのだから、せめてこのような席ではやめてほしいものだ。


この場に居合わせてしまった子供たちを様子を窺う。


雪蓮嬢はワクワクした様子で俺たちを見ていた。

蓮華嬢は食事に集中して俺たちの事を気にしていない風を装いながらチラチラとこちらに視線を送ってくる。

荀彧は俺たちの会話の内容が飲み込めていないらしく首を傾げながら俺を見つめていた。


……どうやら既に二人に悪影響が出ているようだ。

早急に場を納めなければならない。

子供たちの健やかな成長のために、な。


「蘭雪様、お代わりはいりませんね?」


空になった自分の椀を見つめて苦々しい表情を浮かべる蘭雪様。

俺が何を言いたいのかを察したのだろう。


「……お前、からかいをさらっと流した上に胃袋押さえてくるなんて鬼か?」

「子供たちに悪影響を及ぼす言動をする主に容赦するつもりはありません。それで、どうされます? お代わりされますか?」


椀を持つ手とは逆の手で自分の髪をがりがりと掻く彼女に畳みかけの言葉をかける。

すると蘭雪様はしばし沈黙すると敗北を認めるようにため息をついた。


「わかった、わかったよ。今回は私の負けだ」


がっくり頭を垂れながら、それでもしっかりとした手つきで椀を差し出す辺り懲りていない事がよくわかる。

また次の機会に何か言われるだろう事がわかっているのでここでは少々、追い打ちをかけさせてもらうとしよう。


「おや、何か勝負などしていましたか? 俺には覚えがないのですが」

「ぬぅ……自分の君主を相手にならんと言い切るとは。駆狼、性格が悪くなってないか?」

「つい先日、義姉と呼ぶ事を許されましたのでね。家族に遠慮は不要でしょう?」

「ぶはっ!?」


俺の切り返しが予想外だったのか蘭雪様は口に入れていた野菜を噴出した。

食事をしながら話を聞いていた陽菜や雪蓮嬢たちも驚きで手を止め俺を見つめている。


「今後は主従としてと同時に義理の姉弟として改めてよろしくお願いしますよ。義姉上あねうえ

「お前、こんな場所でそんな重要な宣誓をするのか? しかもそんな場ですら直前まで平気で義姉をこき下ろしているし。まったく……こんな非道な弟が出来るなんて今日は人生で五指に入る酷い日だな」


ため息と共に大げさに肩を落としてうなだれたがその手にはしっかりと椀が握りしめられているので実の所そこまで落ち込んでいるわけでも、本気で今の言葉を言っているわけでもない。


「俺の性格については諦めてください。陽菜が見限らない限り、そして貴方が『最初の誓い』を破らない限り、俺がこの場所から離れる事はありませんから」


最初の誓いと言う言葉が何を指すのかを察したのだろう蘭雪様は真面目な表情で俺を見つめた。


「それをここで出すと言う事は、今のは嘘偽りのない言葉と言う事だろうが……いくらなんでもひねくれ過ぎだろう、駆狼」

「そんなに褒めても何も出ませんが?」

「微塵も褒めていないんだがな?」


してやったりと俺が笑うと釣られるように蘭雪様も笑みを浮かべた。


「安心して、駆狼。たとえ誰が貴方から離れても私は貴方から離れないわ。むしろ離さないわよ?」


俺たちの会話を黙々と食事しながら聞いていた陽菜が口を挟む。


「ありがとう」

「どういたしまして」


いつも通りの雰囲気で、生涯を共にすると言う重大な誓いをする。

先ほどの俺と同じ事をする陽菜に笑みを深めながら礼を言った。


「お前等、結局お熱いんじゃないか」


もはやからかう気も起こらないらしくただただ呆れる蘭雪様を見て俺と陽菜はもう一度、笑いあった。



それから食事はおよそ三十分ほど続いた。

荀彧と蓮華嬢が積極的に会話をしていたのが印象に残っている。

あれほど仲が悪かったように見えた二人だったから余計にだろう。

俺と蘭雪様のやり取りを見て何か感じ取ったのかもしれない。


なにやら陽菜と蘭雪様が微笑ましそうに彼女たちの会話に口を挟んでいたのも気になる所だ。



俺はと言えば彼女らの談笑には入らず雪蓮嬢と話をしていた。

荀彧と蓮華嬢は俺が間に入ると何故かお互いを牽制し合うようになるので、下手に手を出して今の雰囲気を壊したくなかったのだ。


雪蓮嬢との話は大半が俺が遠征していた頃の建業の話だ。


遠征が始まってから三日ほど、俺の置き土産のせいで祭と陽菜が使い物にならなかっただとか。

累が観世流仁瑠を振り回して訓練場の地面や壁を穴だらけにして美命の怒りを買い、武器を一ヶ月間倉庫預かりにされた上に罰として禁酒を言い渡されただとか。

武官と言うよりも文官になりつつある慎と深冬の仲が良くなって最近ではいつも一緒にいるようになっただとか。

文官修行中の激は文官連中に毎日しごかれ、蓮華嬢には文字の間違いを突っ込まれ、涙目にならない日はなかったのだとか。


こうして聞いていくと激の不憫さが際だっているな。

まぁ自分を磨く為の必要経費だと思えば安い物だろう。

何に置いてもそうだが強くなる事に楽な道やまして近道などないのだからな。


しかし慎と深冬は性格的に相性が良いとは思っていたが、俺がいない間にそこまで進展していたんだな。

弟分に春が来て俺としてもとても嬉しい。


累はもう自業自得としか言えないな。

自警団をやっていた頃からあれほど訓練であの馬鹿でかい大鎚を考え無しに振るうなと怒鳴ったと言うのに。


祭や陽菜については俺の責任だが、まさか三日も引きずるとは思わなかった。

色々と振り回された事への軽い意趣返しのつもりだったんだが今後は自重しよう。



「あとさいきん冥琳があそんでくれないの。いっつも本読んでばっかりで」


そして話の内容はいつの間にか冥琳嬢に対する愚痴に変化していた。

冥琳嬢への不満をぶつけるように鍋をがっつく。


その様子はなんとも微笑ましいのだが、内容がまるで仕事が忙しくて構ってもらえない夫に不満を持つ妻のようで年齢とのギャップがひどかった。


「聞いてる!? 駆狼! 冥琳ったら忙しい忙しいってそればっかりで……」

「ああ、聞いているから安心して話していい」


まぁなんだ。

こうして文句は言っているが冥琳嬢が何を考えているかなんてこの子もわかっているんだろう。

だから書庫に篭もる彼女を無理矢理外に連れ出したりはしないのだ。


だが理解しているから不満がないと言うことではない。

物事が上手くいかない歯がゆさや悔しさは心の底に溜まっていく。

それはいつか最悪の形で爆発するかもしれない危険な燃料にも成り得る。


だからこういう場で発散させなければならない。

この程度のガス抜きなら幾らでも付き合うし、こういうのも年長者の役目だろう。


「それでね、もぐもぐ……冥琳ってばね! おかわり!!」

「あんまり食べると太るぞ?」

「いいの! 育ちざかりだから!! もっとお肉入れて!!」

「はいはい」


いつの間にか愚痴よりも食べる事に集中し始めた雪蓮嬢。

どうやら適度に不満を発散させる事が出来たらしい。


明日には、いやもしかしたらこの後すぐにでも冥琳嬢に声をかけに行くつもりなのだろうな。

冥琳嬢が俺が今朝言った事をしっかり理解していれば、かなり高い確率で雪蓮嬢の誘いを受けると思うがな。


俺たちの昼食はこうして騒がしくも楽しい物になり、恐らくそれぞれにとって為になる物となって終わった。



さて午後はまず宋謙殿の奥さんの元に挨拶に行くとしよう。

彼が駐屯する判断を下したのは俺なのだ。

俺の口から説明をしなければなるまい。


俺は陽菜たちよりも一足先に鍋料理亭『虹』を後にし今後の予定を思案しながら街を歩きだした。




次回は荀彧が去る所か主人公以外の視点のみの幕間のような話を書こうと思います。

それではまた。

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