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真・恋姫無双 乱世を駆ける男  作者: 黄粋
孫呉任官編
26/43

第二十二話

投稿遅くなりました。

仕事の忙しさで執筆する時間がなかなか取れず、ほぼ一カ月経っての更新になります。

申し訳ありません。

おまけに今までの話に比べて短めです。

ですが仕事の方が落ち着いてきたので今後はまた隔週の更新に戻れそうです。


8/1 若干の加筆と誤字の修正


それではお楽しみください。

「凌操他百名。只今、帰還いたしました」


ここは建業の玉座の間。

俺は部屋の奥にある玉座に座る蘭雪様に片膝を付き、頭を垂れた姿勢のまま報告をする。


蘭雪様の両隣には陽菜と美命。

俺を挟み込むように左右に並ぶのは深冬を筆頭とした臣下たち。

勿論、祭や激、慎や累たちもそこにいる。


俺と共に帰ってきた賀斉や蒋欽たちは鍛錬場で待機している。

報告を終えた後に正式な辞令を持って部隊の動向を決めなければならない。

故に建業城に帰ってきた所で、すぐに流れ解散と言う訳にはいかないのだ。


俺たちは帰還命令が出てから、少しばかり急ぎ足で建業へ帰ってきている。

言うまでもない事だが俺を含めた全員が相当に疲労していた。

出来ればすぐにでも休ませてやりたいのが本音だ。

しかし残念ながら軍隊としての規律を軽んじる理由として『すごく疲れました』と言うのは少々弱い。

だから彼らには報告が終わるまでのもう少しの間だけ気を張っていてもらわなければならないのだ。

流石に遠征を終えた部隊にすぐさま通常任務に就けとは言わないだろうが、それでも気を抜いて良い事にはならない。


荀彧は建業に到着した後、すぐに貴族と関わりを持った事がある古参の文官に身柄を預けている。

迎えに来たのが女性、それも穏やかな風貌の老婆であった事が幸いしてか、例の拒絶反応は起こっていない。


建業への行軍の最中、何度か旅商人の団体などに出くわしたが彼女は一度として姿を見せなかった。

たまたま彼女を見かけた賀斉によれば、荷車の中でじっと息を殺していたのだと言う。

俺や部隊の人間とは打ち解けてくれた彼女だが、例の症状は緩和されただけであり完治には及んでいないのだ。


しかし老婆には荀彧も素直に付いていってくれた。

不安そうではあったが、それでも文句を言わなかったのは幼くも聡い性格故だろう。


老婆が自分に危害を加える人間ではないと察したのだ。

同時にここで彼女を拒否する行動を取れば、この後に報告に向かわなければならない俺に余計な負担をかけると思ったのだろう。

荀彧は俺に懐いてくれているが、ただ甘えてくるわけではない。

甘えるのにも状況を考えて配慮して行動しているのだ。

あれで十歳にも満たないと言う事実には驚嘆する。

先が楽しみと言うか末恐ろしいと言うか。

気遣いをありがたいと思うと同時にあの年齢の子供に気を遣ってもらっている事を情けないとも思っていた。



「任務ご苦労。凌操、お前たちは考えうる限り最前の結果を持って帰ってきた。胸を張り、誇れ! だが今回の結果に慢心する事なく日々の訓練に励めよ? 部下たちにもそう伝えろ。重ね重ねになるが任務、ご苦労だった。しばらく、と言っても二、三日程度になるが休みをやる。各々好きに休み、羽を伸ばすといい」

「はっ! ありがとうございます!!」


儀礼に則りつつも親しみの篭もった言葉に心中で苦笑いする。

ちらりと見やれば美命はあからさまにこめかみを押さえて頭痛を堪えていた。

恐らく最初はもっと形式張った言葉になる予定だったんだろう。

隣で陽菜が子供を見守るような笑みを浮かべている事からもその事は容易に想像が付いた。


懐かしいなどと感じるほどここを離れていたわけでもないと言うのに。

彼女らのいつもと変わらない様子を見て俺は帰ってきた事を実感していた。


「報告は定期的に受けていたが、お前の所感を改めて聞いておきたい。甘寧たち錦帆賊の事、調査した領内の村の生活、そして例の人身売買とお前が保護した荀家のお嬢ちゃんについてな」


最後の言葉で俺は帰ってきた実感で緩みかけていた気持ちを引き締めた。


「わかりました。ではまず……」


俺は蘭雪様が言ったとおり自身が見た事、聞いた事、感じた事を正確に伝えられるよう慎重に言葉を選んで報告する。

この言葉をどう感じ、どう捉えるかは報告を受ける側の問題ではあるが可能な限り詳しく、しかし簡潔に伝えられるように努力しなければならない。


たまに居並ぶ面々が蘭雪様から発言の許可をもらって質問し、俺がそれに答えていく事があったが大きな問題が起こる事はなかった。


報告が終わったのは開始から二刻ほどが経過し、日が暮れかかる頃。

蘭雪様の目配せを受けた美命が玉座の間に響くように解散の言葉を言い放ち、俺を含めた臣下全員が揃って礼を返す事でこの報告会は終わりを告げた。


去り際に俺に労いの言葉をかけてくる皆。

俺も一人一人に言葉を返し、同僚たちとの久しぶりの会話を楽しむ。


そして最後まで玉座の間に残ったのは蘭雪様と美命、陽菜。

そして祭を初めとした幼馴染たち。


「ふぅ、やれやれ。やはりこういう形式ばったやり取りは慣れんなぁ。肩が凝ってしまう」

「はぁ……いきなり気を抜く奴があるか。馬鹿者」


玉座にもたれ掛かりわざとらしく肩を叩く蘭雪様。

その様子を見て頭痛を堪えるように額に手の甲を当ててため息をもらす美命。


これまた『いつも通り』の二人に俺は肩の荷が降りた気分になった。


「……相変わらずのようで安心しました」

「駆狼、それは皮肉か?」

「いいえ、今の素直な気持ちです。お二人のやり取りのお陰で適度に肩の力が抜けましたので」

「そういうのを皮肉と言うんだが?」


肩を落としながら俺を睨みつける美命。

だがそれも数瞬の事だ。


「ふっ……お前も元気そうで何よりだ。……色々と遭ったようだから気落ちしているかと思ったが、その調子なら大丈夫のようだな」


公務から私事に気持ちを切り替え、柔和な笑みを持って彼女は労いの言葉を紡ぐ。

美命の変化を合図に俺の後ろで控えていた幼馴染たちが待っていたとばかりに駆け寄ってきた。


「駆狼、ご苦労さん!」

「操にぃ、お勤めお疲れさまです!」

「お疲れ様ね、駆狼!!」


労いを込めて激、慎、累に次々と体を叩かれる。


「ああ、ありがとう。しかし俺がいない間、そちらも大変だったんだろう? 苦労したのはお互い様だ」


俺を囲い込むように集まる三人に俺は笑みを浮かべながら応えた。


俺たちが遠征任務をこなしている間、定期的に建業に報告を送っていた。

報せられてきた事柄は報告する側の俺が言うのもなんだが多岐に渡る。

それらに対して激、慎、美命に深冬、陽菜を筆頭とした文官たちはどう対処するのかをずっと考えてきたのだ。

それも俺たちが報告を送る度に考えなければならない事柄は加速度的に増えていく。

その苦労は俺たちと同等、あるいはそれ以上かもしれない。


そして文官勢が大わらわになっている間も祭や累たち建業の守備を担当する部隊は常時取り組んでいる治安維持に従事し続けなければならない。

恐らく激や慎、深冬たちが文官として動いている間、その穴を埋める為に奔走していたはずだ。

それは口で言うほど楽な仕事では断じてなかっただろう。


「それはそうですけど……一番大変だったのはやっぱり操にぃですから」

「……何度も言うが苦労したのはお互い様だ。ただその苦労の形が違うだけでな」


俺を讃え労ってくれる慎の気遣いはありがたいと思う。

だがそれを素直に受け取れるほど、俺は自分たちの報告で建業の皆が被った苦労を軽く見ていない。


それぞれに抱える苦労が異なる為、単純に比較出来る物ではないのだ。

そうであるが故に、時にお互いの問題が見え難くなる事があり、それが元で不平や不満、そして不和へと繋がる事もある。

前世でも現場の判断と上層部の決定が噛み合わずに軍が軍として機能出来なくなった事があったのだから。


「ほんと、駆狼ってば真面目過ぎよね」

「ったくせっかく俺たちが労ってんだから、もう少し力抜いて気持ちを受け取りゃいいんじゃねぇか?」

「頭ではわかっているんだがな。恐らく無理だ」

「自分で恐らくとか言うか」

「でもすっごく駆狼らしい気はするね」


累と激が呆れるのも当然だと思うが、こればかりは性分だから仕方ないと思ってもらうしかない。


こいつらも俺の性格はよくわかっているはずだ。

その証拠に呆れてはいるが否定したりはしない。

昔は自分が気に入らない事があるととにかく突っかかってきた物だが、この二人もしっかり成長していると言う事なのだろうな。


「なんか失礼な事考えてねぇ?」

「気のせいだろう」

「……ほんとに?」

「……」

「駆狼てめぇ、目を逸らすんじゃねぇよ!?」


勘も良くなっているようだ。

ふむ、頼もしい限りだ。


「っと、俺らからはこんなもんだろ」

「うん、言いたい事も言えたしね」

「そうだね」

「? 何の話だ?」


三人の会話の意味がわからず聞き返す。


「俺たちはここで解散ってこった。他にもお前と話したい奴はいるし」

「『私的なお話』を立ち聞くのは良くないですしね」

「それが甘ったるい話になるってわかってるんだから尚更よね」


意味深な目配せをすると三人は俺たちのやり取りを笑いながら見守っていた蘭雪様たちに頭を下げる。


「操にぃ、また明日にでも」

「お疲れさん、駆狼」

「それじゃあね、駆狼」


三者三様の言い方で俺に声をかけ、慎たちは玉座の間を後にした。

なんなんだ、一体?


「さて、私たちも邪魔だろうから消えるとしようか」

「言っておくが仕事はまだ終わっていないからな。消えるのはいいが執務室に直行だぞ?」

「はいはい、わかっているさ。……ちっ」

「舌打ちするな。それじゃあ陽菜、祭。久方ぶりの殿方との逢瀬だ。今まで我慢してきた分、たっぷりと楽しむといい」


不満げな表情の蘭雪様の引きずりながら美命も玉座の間を出ていく。


「ふふ、ありがとう美命、姉さん」

「あ、ありがとうございます。蘭雪様、美命殿」


残されたのは俺と陽菜、祭の三人だけ。


ああ……そう言う事か。

まったく。

気を遣ってくれているのはわかるしありがたいのだがこうもあからさまにされると、何とも言えない気分になるな。

と言うかまさか陽菜たちを含めた全員が共犯とは。

面白半分で加担しているのが何人かいるな。


「あの、じゃな。えっと……」


なるほど、祭が慎たちと一緒に話しかけてこなかったのはこの為か。

逢瀬のお膳立てをされてしまった状態で柄にもなく緊張してしまい、いつもの調子で俺に話しかける事が出来なかったわけだ。

もしかしたら遠征に出る直前に置き土産(不意打ちの接吻)を残したのがまだ効いているかもしれない。


「はぁ、やれやれ。……まずは、ただいまになるな。祭、陽菜」


しかしまぁ、わざわざ主君や同僚たちが用意してくれた機会だ。

有効活用するべきだろう。


「う……あ、ああ。お、おかえり、駆狼」


顔を赤くしてどもりながら応える祭。


「ふふ、お帰りなさい。駆狼」


いつも通りに応える陽菜。

対照的な二人。

俺の想い人たち。


「そう緊張するな、祭」

「いや、あのその、な、なんだか皆にせっつかれてしまうと、変な感じになってしまってな……」


身振り手振りで自分の精神状態を説明しようとする。

だがまぁ自分の今の気持ちが整理し切れていないらしく説明らしい説明にはなっていない。


俺は陽菜に視線を送った。

苦笑いしながら彼女が頷くのを確認し、祭を落ち着かせるべく行動に移る。


「わひゃぁっ!?」


そっと祭の体を抱きしめる。

悲鳴が聞こえるが知った事ではない。


「く、くくく駆狼!?」

「黙っていろ」


さらさらの銀髪を梳きながら囁く。


「う、あう……」


先ほどよりも顔を赤くしながら祭は金魚のように口をぱくぱくとさせる。

しかししばらくすると落ち着いたのか俺の背に手を回してきた。


「ふふふ、駆狼。次は私にもお願いね」

「お安い御用だ」


自分を差し置いて目の前で仲睦まじくしていると言うのにまったく変わらない様子の陽菜。

この場に嫉妬して咎めるような者などいないと言うのに。

昔は俺が女性と話しているだけでむくれた物だが、さすがに九十年も前と比べるのは失礼か。


「駆狼……ああ、駆狼」


うわ言のように俺の名を繰り返し、背中に回していた手に力を込め自分の身体を俺に押し付ける祭。

感極まった様子で潤んだ瞳を俺に向ける。


「どれだけ離れていようとも、儂はお前の事を……」

「皆まで言うな。わかっているつもりだ」


耳元で囁く祭に同じように囁きで答える。


「俺はお前と陽菜……」


視線を陽菜に移し、言葉を続ける。


「お前たち二人を愛している」


俺は幸せ者なのだろう。

俺を一人の男として想ってくれる人が二人もいるのだから。

紆余曲折はあったが、こうしてそんな二人と共に在るのだから。


「儂も愛しているぞ」

「勿論、私もよ。駆狼」


我慢できなくなったのか陽菜は俺の背中に抱きついてきた。

猫のように俺の背中に顔を擦り寄せる。

鎧こそ脱いでいる物の筋肉質な男の背中などごつごつとして固いだけだろう。


「背中に顔を押し当てても痛いだけじゃないのか、陽菜?」

「そんな事ないわ。暖かくて気持ち良いわよ」

「……そうか」



俺たちは久方ぶりの逢瀬を楽しんだ後、玉座の間を後にした。

とはいえお互いに燃え上がった状態での逢瀬がこの程度で済ませられるわけがなく。


部下たちへ今後の指示などの仕事を終わらせた俺は部屋で待つ二人と昂った心のままに肌を合わせる事になった。


翌日、つやつやの肌をした二人と疲れ切っている俺の姿を見た蘭雪様たちが何かあったのかを察し、散々にからかわれる事になる。


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