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真・恋姫無双 乱世を駆ける男  作者: 黄粋
孫呉任官編
16/43

第十二話

この話は主人公が最後にしか出てきません。

それと史実改変、時期の変更など独自要素に溢れています。

それを踏まえてお楽しみください。


かの者は義に篤く己の意志を貫く。

決して他者に誇れる立場にはないが、それでもかの者は弱き者を守る。

例え賊徒と蔑まれようとも。


SIDE ???


「国が人を守られねぇってんなら俺が人を守る。国の兵士が人を守らねぇで逆に虐げるってんなら俺は賊で構わねぇ」


玉座でふんぞり返っている男を睨み付けて告げる。


「虐げる? 私は彼らを守っているだろう? 賊に襲われた村に救援を出し、日頃仕事に精を出す彼らを慰撫する為に街を出歩く。どこに虐げるなどと言う言葉が出てくるのだ?」


獣でさえ怯む俺の眼力を受けても平然とする男。

全然、悪びれもせずにてめぇの都合の良い解釈を言い募る。


「あんたの認識じゃ村が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際に部隊を送り込むのを救援って言うのか?」

「……」

「あんたの認識じゃ部隊を引き連れて嫌がる連中からむりやり税を徴収する事を慰撫って言うのか?」

「……」

「答えろや、劉表りゅうひょうぉおおおお!!!」


俺の怒声が玉座の間に響き渡る。

しかし劉表もその取り巻きどももだんまりを決め込んだまま。


「くくく、まさか私が、荊州刺史であるこの劉表が一兵卒風情にここまで噛み付かれるとはな」


肩を震わせて笑う劉表。

反省の気配なんて微塵も感じられねぇその態度が俺の神経を逆撫でする。


黄祖こうそ、この男の名は?」

甘寧かんねいと言います。腕っ節だけの無頼漢です」

「無頼漢ねぇ。人から搾り取る事にご執心のハイエナの同類にされるよりゃ遙かにマシじゃねぇか」


一応の上官である黄祖の俺を見下した言葉を鼻で笑う。

いざ戦に出た時はなにもかもを部下に丸投げするようなヤツだ。

敬う部分なんてまったく見えやしねぇ。

そんなヤツに使う敬語なんてねぇ。


「それで? 甘寧。私に対してそのような暴言を吐いたのだ。覚悟は出来ているのだろうな?」

「けっ! やっぱり俺の言葉に耳を貸す気はねぇわけかよ」

「なにを言う。しっかりと聞いてやっているではないか。私に対する暴言をこの両の耳でな」


わざわざ耳を指さして劉表は答える。


その態度で俺は確信した。

こいつは民から搾取するのをやめないんじゃない。

こいつにとって民から搾取するのは当たり前の事なんだ。


歩くのと同じくらいに。

腹が減ったら飯を食うのと同じくらいに。


こんなのが刺史として働いているって事実に、抑えきれない怒りを覚える。


「さてここに乗り込むまでに貴様は立ちふさがった兵を全て叩きのめしたな? これは私に対する明確な反逆だ」


笑わせやがる。

陳情なんて見もしねぇで握りつぶす癖に。

どんだけ『俺たち』が荊州の有様をなんとかしようと足掻いていたかも知らねぇで。


「黄祖、韓嵩かんすう蔡瑁さいぼう。この愚か者を殺し、その首を市中に並べよ。なぜそうなったかをありのままに書き記した張り紙も忘れるな。私に逆らった者の末路を民に知らしめてやれ」

「「「はっ……」」」


返事をし、剣を抜く三人の将軍。

俺も自分の愛刀『凜音』を抜き、威嚇するように息を吐き出す。


「劉表、てめぇは俺が殺す!!」

「ここで死ぬ貴様には出来ぬよ」


蔑みと嘲りを含んだ言葉に俺は盛大に口元を歪めた。


「ざけんな、てめえら如きに俺がやれるかぁ!!!!」




体が揺らされ、俺は夢から解放された。


「父……」


小さなその声が俺の耳に届き、俺はゆっくり目を開く。

俺を見つめる丸々とした一対の目が不安げに揺れていた。


「思春、どうした?」

「……うなされていました」

「ああ。昔、国に仕えていた頃を夢に見た」


今でも思い出すだけで腸が煮えくり返る。

あのクソ野郎の劉表は黄祖どもが俺を殺せないとわかると伏せていた兵に俺を追い立てさせた。


さすがに多勢に無勢過ぎてその場から逃げ出した俺は荊州中に賊として手配され居場所を失い、這々の体で揚州に落ち延びた。


血気勇んだ結果、俺は一度なにもかもを失った。


奴らに刃を向けた事に後悔はねぇ。

えげつないやり方で民を生かさず殺さず搾取していたあいつらを斬り捨てる事は俺にとっては当然の結論だったからだ。


後悔しているとすれば、奴らを殺す事が出来なかった事だろう。

今は俺がいた頃よりも遙かに力を増した劉表たち。

その影では平凡に暮らしている人間たちが泣かされているんだろう。

俺が仕えていた頃に見せつけられた惨状が繰り返されているんだろう。


だと言うのに俺は前のように奴らの所に乗り込む事が出来ない。

国の不正で居場所を無くした連中をまとめあげて、義賊として力を蓄えていた十年の間にそれだけの力の差が出来ちまった。

てめぇの力の無さに怒りが湧いてくる。


「父……」

「悪ぃな。怖がらせた」


母親譲りの紫色の髪を撫でてやる。

この十年の間に新しく出来た大切な者の一つ。


もしもおもえと出会わなかったら、思春が生まれてこなかったら、俺に付いてくる奴らがいなかったら。

昔のように後の事なんて考えないで突っ走る事が出来たんだろうかねぇ?


「んっ……」


気持ちよさそうに目を細める思春に俺も釣られて笑う。

俺を心配しながらも甘えてくるその様子はただの子供だ。


しかしこいつは俺よりも遙かに強くなれる素質がある。

親特有の身内贔屓もあるだろうが、それを差し引いてもこいつは強くなるって確信している。

既にその武の片鱗は見えてきている。

まだ数えで六歳だって言うのにな。


「さて、ちっと早く起きすぎたな。もうすぐ日が昇る頃か」


窓から外を見ながら今の時分を推測する。

微妙に山向こうから光が漏れている事からほぼ間違いないだろう。


「父、いっしょに朝日を見ましょう」

「そうだな。夢見の悪さを偉大なるお天道様に癒してもらうとするか」


思春の小さな手を握り、連れだって部屋を出た。

嬉しそうに俺の手を握り返し笑いかけてくる思春。


普通に親子をしている俺たちを見て江賊だと思う奴は果たしてどれくらいいるんだろうな。


そんな意味のない事を考えながら俺たちは船の甲板に出た。

日の出まではもう少しかかるか。


「お頭、お嬢。おはようございます!!!」

「おう、おはようさん!! なんか異常はあるか!?」

「いいえ、特には。いつも通りの朝ですぜ!」


見張り台の上から降りてくる声に大声で返事をする。


「わかった。交代まで気ぃ抜くなよ!!」

「わかってまさぁ!」


頼もしい返事を聞き届けてから俺たちは船首まで歩く。


国から弾かれた連中の集まりである所の俺たちは、国から街を預かる大守たちからすれば滅ぼすべき『敵』だ。


何度か討伐軍を送り込まれた事だってある。

一番、多かったのは建業からだったか。

とはいえ連中、数は多かったが水の上に慣れているヤツはいなかった。

だから連中の二割程度しか戦える奴がいない俺たちでも迎撃が出来た。


撃退する度に俺たちの悪評が増えていったが、長江の近くの農村は俺たちが義賊だと知っている。

俺たち以外の江賊や海賊、山賊から村を守っているんだからな。


本当なら大守の軍がやらなきゃならねぇ仕事だ。

動きが鈍い奴らから仕事を代行(勿論、許可なんぞ取ってないが)して、しかも見返りは最小限。

連中よりも俺たちが慕われるのもまぁ当然の事だろうよ。


「父! 日がのぼります!!」

「おお、今日も綺麗だなぁ思春」

「はい! とてもきれいです!!」


こんな殺伐とした場所で育ったってのに思春は真っ直ぐに成長してくれた。

そいつはすげぇ嬉しい事だ。

けどこのまま義賊としてやっていく事に迷いや不安がないわけじゃねぇ。


俺は劉表を殺し、荊州の民を救いたい。

しかしこのまま義が付くとはいえ賊徒としてやっていってその目的が果たせるのか?

たぶん無理だ。


建業の大守が入れ替わったお陰で討伐軍は来なくなったが賊って奴はどこにでも現れやがるし最近、規模もでかくなってきている。

正直、俺たちだけじゃ手が回らなくなってきた。

このまま行けば数の差でいずれ俺たちは負けるだろう。


だが教養のねぇ俺の頭じゃ数の差を逆転出来るような策なんざ思い浮かばねぇ。


どっかに仕えりゃまた話は違うのかもしれねぇが、俺たちは国に切り捨てられた連中の集まりだ。

国への、引いては大守への不信は拭えない。

だから踏ん切りがつかない。

このままじゃやばいって言うのは俺たち全員が理解している。

だがそれでも国が絡む連中に対して警戒し、身構えてしまう。

それはたとえここ四、五年ばかりで評判が鰻登りになっているあの『建業の双虎』であっても変わらない。


民の身で反逆し、大守の座に収まったという成り上がり者。

民の立場からすればもっとも身近に感じられる大守。

実際、何人か建業に偵察に向かわせたが治安は良好。

税金も劉表たちの所と比べれば、全然少ねぇらしい。

聞いた事のない政策で、街はすげぇ勢いで豊かになっているってのも聞いた。


そしてなにより仕えている連中も大守たちも民との交流って奴を大事にしている。


そんな連中が本当にいるのかって俺たちはそう思った。

けど実際に行ってきた連中が興奮した様子で語った言葉に嘘なんて見えやしない。


あいつらは建業の双虎ならば信じられるかもしれないとまで俺に言った。

国に失望した連中で作られた俺たちの仲間にそこまで言わせる建業の新しい大守。

俺らみたいな奴らからすれば正に希望の星って奴だろう。


だが結局、俺はいまだに動いていない。

この根強い不信感を消す術を俺は知らなかった。


「父、かんがえごと?」

「……ああ、ちょっとな」


このままだと俺たちは遠からず滅ぶ。

なにか切っ掛けが欲しい。

俺を含めた全員が抱く国への不信感を消しちまうようなでかい切っ掛けが。



「お頭!」


さっき朝の挨拶をした見張り番の慌てた声に俺は我に返った。


「どうした!?」


尋常ではないその声音に俺は見張り番のいる見張り台を見上げて声を荒げる。


「前方の河岸に軍隊がいる!!」

「なんだと!? 旗は見えるか!!」


見張り番が指さす方にある河岸に目を凝らす。

しかし日の光が邪魔をして何十人という人間がいる事はわかっても細かい所までは確認できない。


「旗は……『凌』だ!」

「『凌』? 聞いた事がねぇ……いや待てよ?」


確か建業に新しく仕官したって五人組の中にその文字が入っている奴がいたって聞いた気がする。


「ち、うだうだ考えても仕方ねぇか」

「父……」


不安そうに俺の服の裾を掴む思春。

俺はこいつの不安を消そうといつも通りに笑いかけてやる。


「思春、悪いが寝てる連中を叩き起こしてきてくれ。場合によっちゃやり合うって事も伝えてな」

「はい!」


慌てた様子で甲板を駆け降りていく思春を見送る。


「お頭! 連中、武器は抜いちゃいないようです。なんかこっちを見ながら旗を振ってますぜ!」

「やり合う気はねぇって事か。どんくらいいる!?」

「見える範囲じゃあだいたい二百、多くても二百五十くらいです!」

「少ねぇな。討伐軍なら千は寄越すはずなんだが……」


どたどたと船の中があわただしくなる。

思春に叩き起こされた連中が甲板から上がってきたんだろう。


「「「「「お頭ッ!!!」」」」」

「おう、てめえら。久しぶりに大守の軍が来たみたいだぜ」


旗を振り続けこちらに何かを訴えている連中を指さしてやる。


「あいつら、何をしてるんでしょうか?」


前までの大守軍とは違う行動を取っている奴らに部下たちも困惑してやがる。


「少なくともいきなり殺しあうって事にはなりそうにねぇな」


船は河の流れに沿って今も進んでいる。

当然、少しずつだが俺たちと連中の距離も縮まってきていた。


「てめえら! すぐに船を動かせるように準備しておけ!!!」

「「「「「おうっ!」」」」」


後ろが慌ただしく動き始めるのを感じながら俺はじっと連中を見つめる。


そしてお互いの顔がぎりぎり見えるくらいまで近づいたその時。

連中の先頭に立っている男と目が合った。


俺はそいつを睨みつけた。

男の方は静かに見つめ返してきた。


派手な口上の一つでもかましてやろうと考えていた俺が口を開くよりも早く、男が声を上げる。


「我が名は凌操刀厘!! 建業大守孫堅様にお仕えする者!! 貴殿らはこの辺りを根城とする義侠の徒『錦帆賊』とお見受けする!! 相違ないか!?」


日が昇りきった長江に大音声が響き渡る。

後ろで部下たちが息を呑む声が聞こえた。

無理もねぇ。

こんなにも心に響く真っ直ぐな名乗りなんて聞いた事ねぇだろうからな。


それにこいつは俺たちを錦帆賊と呼んだ。

俺たちが他の賊とは違うんだと言う事を教える為に名乗った俺たちの誇りをこの男は呼んだんだ。


そして今までただ賊として扱われてきた俺たちを義侠の徒と言った。

それは少なくとも目の前の男が俺たちを認めていると言う事に他ならねぇ。


「ああ、俺たちが錦帆賊だ!! 俺が頭の甘寧!! 鈴の甘寧だ!!!」


凌操と名乗った男に気圧されないように俺も叫ぶように名乗る。

自然と口の端がつり上がっていくのがわかる。

自分がひどく興奮していくのがわかる。

俺が思った以上にでかい『切っ掛け』が向こうから来てくれた事を俺は心の底から喜んでいた。



これが俺たち錦帆賊と長い付き合いになる男、凌操との出会いであり。

俺たちが孫呉という大きな家族を得る切っ掛けとなる出来事だった。

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