23章 いつかデートと呼べるひと時
この学園が一番華やぐ日がいつかと問われたら、きっと誰しもが今日と答えるだろう。
多分平均的な学校より奇人変人が多いこの学園は、無論学園祭の時だってその特異っぷりを遺憾なく発揮する。どのクラスも成績を犠牲にしてとんでもない出し物を拵え、各部活も本当に日々練習しているのか疑わしくなるレベルで盛大な余興を催していた。
この日の為だけに調理師免許持ちの他校生を引っ張ってきて小粒な飲食物ではなくマジでガチなフルコースを提供するクラスもある。一見普通のストラックアウトなのだが投球後にOBのプロ(防御率2以下)が投球フォームを見てくれる野球部もある。一見普通の休憩所なのだが何故か休憩と宿泊とフリータイムが選べるやべー出し物を提供する茶道部もあったがさすがに教師に止められていた。
そんな闇鍋の如き学園祭は当然近隣の住民だけではなくネットでも注目されているようで、まだ開門していないのに校門前には夥しいほどの来校者が集っていた。噂によれば徹夜組まで出ていたらしい。
俺はそんな光景を、学園祭実行委員会本部の窓から眺めていた。歩行者天国みてぇと感嘆する俺の隣で、鳳輔はオペラグラスを使って人混みの中からゲロマブな女を捜している。
「おい見てみろクロ。校門近くで彼氏といちゃこいてるマブしい女。あんなあられもない格好で栗の臭いを撒き散らす青少年の坩堝に今から身を投じようってんだぜ、そそり立つのが礼儀ってもんだよな」
「お前背後から暗殺されかけてるけど平気か?」
女色のいとをかしを嗜む鳳輔に向かってアイが二リットルペットを振りかぶっていたので、慌てて間に入って止める。
これ以上視姦を許すと流血沙汰が起きかねなかったので、とりあえず視覚を奪うため鳳輔に目潰しをしておき、膝から崩れ落ちた彼からオペラグラスを拝借した。
ゾンビ映画さながらに校門前へと群がる群衆。その中をしばらく探し、校内の地理を把握するために一般来校者として忍び込んできている諜報員の姿を確認した。
今朝早くに諜報員には計画の全貌を電話で伝えておいた。無論、永世中立国を謳っているのだから表向きは渋っていたが、王の要望なら断れないとかなんだとか言いつつシロガラ国とメース国へと虚偽の情報を流すことに加担すると言っていたので、内心は小躍りしながら作戦に協力してくれるだろう。
「……んまあ、クロも男の子ね。そんな熱心にゲロマブな異性を見漁るなんて」
諜報員が不審な動きをしていないか監視していたら、斜め後ろから生温い声が聞こえてきた。
誠に遺憾な勘違いだったので悪鬼羅刹のような顔をしながら振り返り、しかめすぎて梅干しみたいな顔になりつつも一睨みをくれてやる。だが声の主であるハルは全く平然とした様子で、隣にいるアイとやーねーとでも言いたげな表情でボソボソ話している。
「まー年頃の男の子だからって性欲ポリバケツな一面をつまびらかに開陳しちゃって。クロも意外と男の子だったのね。ぐすぐす」
「泣かないでハルちゃん。春季発動を迎えた男児なんてみんなそんなもんだよ、全員性欲のチンピラリティーを全開にしながら生きてるんだよ」
「ベッタベタな小芝居やめてくんない?」
本当に思春期の限界値を見せてやろうかと、こちらもいよいよ臨戦態勢に入ろうとした時、
「一年生の諸君ー、祭の雰囲気を楽しんでるところ悪いけど、そろそろ開幕の時刻だから色々注意事項話してもいいかな?」
窓際でワイワイと賑わっている俺たちを委員長が呼ぶ。
見れば他の上級生たちも整列しているので、俺たちも慌てて位置に着いた。
「じゃあ全員真面目になったところで、警備するにあたっての注意点を説明するね」
事前に用意していた資料を手に持ち、委員長は本日の注意事項を読み上げていく。
――東松山咲希。フェンネル家の末裔にして、大人になれない世界を作り上げようと目論む女。一見ただの顔がいい委員長だが、その実、彼女が掌握する魔力は半端なものではない。
もし中立国家が魔力奪還に失敗して正面衝突した場合、世界はどうなってしまうのだろう。
……奪還に成功して、望む世界が作られないと知った時……彼女はどうなってしまうのだろう。
ただそれだけを寄る辺として生きていたならば……大人になることが無意味なものだと本気で思っているのならば……彼女の迎える未来は……。
「……ま、注意事項はこんなとこかな。とにかく生徒、来校者の安全第一! 今日が一年間で一番楽しい日なんだから、誰かが怪我して泣くような未来は絶対ダメだよ。トラブルが起きないよう目を光らせておいてね」
そう言いながら、委員長は壁にかかった時計を見上げる。俺たちもそれに倣って時を改めた。
「さて……そろそろ始まるね」
時刻は八時五十九分。学園祭の開幕まで残り一分だ。
「敬愛する諸君。我々は学園の秩序を守る重大な役割を担っているけど――それ以前にただの一般生徒だよ。だから……僕たちにとっても、今日を一番楽しい日にしてね」
俺たちは顔を見合わせ、頷き合う。生まれた時と世界は違えども、きっと今の一瞬だけは同じ心を持っていた。
そして、時刻が丁度九時を迎える。それと同時に校内に鳴り響くチャイム、校門が開く音。
全てが同時だった。一寸のズレもなく学園祭が開始を告げ、雪崩れ込む人々の声で世界が一気に賑やかになっていく。
窓から見た景色は、つい十数分前とは全く違うものになっていた。聞こえる音も感じる雰囲気も、何もかもが全ての始動を伝える。
誰もが笑顔の理想郷。俺たちが過ごす最後で最高の一日だ。
「やっば、アタシらも早くいかんと二年三組のミルクレープ混雑しちゃう。野郎共! とりあえず行くぞ!」
野郎共と言いつつも立ち上がったのは先輩の女子諸君。職務のことなんかすっかり忘れて、クラスの出し物が決まった段階から目を付けていたであろう甘味を目指して馳せ参じていく。
「あたしもミルクレープ食べたいけど、鳳輔がオイタしないように見張んなきゃなんないからなあ。ほら行くよー、学園の規律を守るため練りに練り歩かなきゃ」
「まっ、待ってくれ。優美なナオンが溢れる場所に行く前に身だしなみとチンポジ直したい」
「んなもん誰が気にすんのさ。はよ行くよばかたれ」
慌てて蝶ネクタイを着けだした鳳輔を引っ張って、アイが賑わう学園へと進んでいく。
残された俺とハルは顔を見合わせて、やっぱりこうなったかと呆れ合った。
「私たちも警備に行きましょうか。クロは女子トイレ担当ね、私男子トイレ担当するから」
「越権行為でちょっとした知的好奇心を満たそうとするな」
いつものような軽口を叩きながらハルと教室を出ようとして――振り返る。
「委員長は行かなくていいんですか?」
委員会の総員が張り切って出て行ったのに対して、委員長は悠然と椅子に座ったまま窓から外を眺めていた。職務怠慢に見えるのに妙に絵になっている。
「僕は司令塔だからね、本部でどっしり構えるのが仕事なのさ。まー心配しなくてもいいよ、愛する生徒に危機が迫った時は学園外でも大空でも地中深くでも、どこにいたって助けに参じるからさ!」
「……なるほど。そいつは頼もしい」
ちりりと魔力の痺れを感じる。
魔法の力を使って、感情を検知する領域を近辺一帯に張っているらしい。焦りの感情や悲しみの感情が色濃く出ればすぐに出動するつもりのようだ。
「じゃ、俺たちも行ってきます。委員長もずっとそこに座っていないで、今日という日を楽しんでくださいね」
「はっは、みんなの笑顔さえあれば僕は最高に楽しいさ」
嘘偽りのないそんな言葉を聞いてから、俺たちは本部を出て廊下を歩く。
この辺りは学園祭実行委員会本部や生徒会本部など出し物というよりは運営側のエリアなので、会場の熱気は及び届いていない場所。しかしかつてみんなで塗った立入禁止のガードレールを跨げば、そこはもう世界が変わったかのような興奮に包まれていた。
「……」
さっきまで自分を抑えていたハルがウズウズしだす。その手には学園祭のパンフレットが握られているが、何度も読み返しているのか、既に古本屋に並んでいそうなほどくたびれていた。
「クロ!」
「はいはい」
やっぱり俺の名前を呼んだハルは、片手をぶんぶん振りながら色んなところを指さし始める。初めて遊園地に来た子供は多分こんな反応をするのかもしれない。
「どこいく、なにやる!? あのね、一年二組と二年二組がタッグを組んで作ったジェットコースターがイカレてるんだって! もう二年の教室の床ブチ抜いて作ってるんだって! 明後日から授業どうすんのって話だよね! いこっか!」
「行く、行くけど落ち着けお前。ただでさえ顔で目立つのに、このうえ声まででかいともう手ぇ付けらんなくなるから」
顔と体だけは満点のハルは学園祭でも絶好調。すれ違う若人が思わず四度見くらいしているし、学園祭の色めきだったテンションのままに連絡先を交換しようと目論む男がさっきからちらほら見受けられるし、挙句の果てには学生ですらない社会人からもコナをかけられている。
別にハルが勝手に目立つのならばそれでいい、いやなんかそれはそれでムカつくけどまあいい、問題は声をかけられまくって業務に支障が出ないかどうかだ。俺が心配しているのはそこだけだぞ、本当だよ?
「ねえ! クロ、クロったら!」
「ああもう、職務をすっかり忘れやがって……」
それでも、初めての学園祭に浮き足立っているのは俺だって変わらない。
仕事と言っても単なる見回りだ。何事も無ければ一般生徒と同じで祭を楽しむ立場。だから、ハルのようにはしゃぎ回るのが正解なのかもしれない。
「ねーねー、あそこ良さげな雰囲気じゃない?」
「ん? ……確かに良さげだけど、残念ながらあれは我がクラスの出し物だ。開始直後にもかかわらず楽しそうに突入してみろ、勤務態度を疑われるぞ」
「見回り中だからって言えば大丈夫でしょ! ほらほら、行った行った!」
ハルに背を押され、我がクラスプレゼンツ『超本格的プラネタリウム』へと向かわされてしまう。
扉の前で受付をしていたクラスメートが「わー、クロとハルがデートしてるー」と確実になにかを勘違いした羨望の眼差しを向けてきて、俺がそれに反論を申し立てようとしたが即座にハルが「へへー、いいっしょー」とピースをしてしまい、俺の言論は無邪気に封殺された。
受付を済ませて、出入口に張られた暗幕を潜って中に入れば、そこは一面星空の世界。
窓も出入口も暗幕で区切られ、カンカン照りの朝だというのに室内は真っ暗闇に満ちていた。そんな教室の中心には投影機が――ダンボールで作られたちゃっちいモノではなくかなり本格的な投影機が置かれ、教室一面を星輝く夜空へと変貌させている。
「わあっ……」
そんな星の海を見て、ハルが小さく声を上げた。
戦火の煙に塗れた魔法界の空では見られず、我々の住む首都圏ベッドタウンでも見られない、書物の世界でしか見られない星空がここにある。名前も知らない星々が、大三角と呼ばれる代表的な星たちが、七剣星と謳われた七曜の星が、季節も時間帯も関係なく寄り集まって瞬いている。
煌めく恒星は宝石のように、まるであの日、繁華街から帰る時の窓越しに見たネオン光みたいで。
ただただ美しく、俺たちとは遠い世界で煌めき続けている。
「…………」
せっかくプラネタリウムの中にいるというのに、俺は空を見上げるハルを――星々が投影されて仄かに瞬く彼女の姿を見つめていた。
きっと原理はあの日と同じ。例え幾億の星々でさえも、隣にいる彼女に適わなくて――。
「おー、クロだ。どしたのこんなとこで」
不意に話しかけられて振り向けば、クラスメートの流川が暢気な顔をしていた。
「仕事の都合で見回り。……そういや今更ながらホント悪かったな、クラスの出し物に全然協力できなくて。すげえよこれ、相当力入れて作ったんだな」
「ん? あー気にしなくていいよ。実行委員が忙しいのは仕方ないし、僕たちの出し物もそこまで手間かけたモノじゃないからねー」
……クラスのみんなが夜遅くまで残って、この出し物を作り続けていたことを俺は知っている。いつまでも教室の電気が消えない様子は、本部の窓から何度だって目撃してきた。
それは相手を気遣った、優しい嘘だった。
「ていうかクロたちアレか、デートか。よーし、デートなら星の軌跡モードに切り替えてみる?」
「いやデートとかじゃなくて見回りの一環だって。……まあハルはそのどっちでもないようだけど」
彼女の方を見遣ると、さっきまで一心不乱に空を見つめていつもの小うるさい様子を引っ込めていたのに、気づけば彼女は女子連中と姦しく笑い合っている。
共に教室で過ごして、心を通わせていった仲間。彼女が持つ絆は俺や鳳輔、アイだけじゃなく、委員会のメンツだけじゃない。……ちゃんとクラスメートとも仲良くなれていた。
「ま、照れてないでちゃんとデート楽しんでおいでよ」
人の話を聞いていたのか問いただしたくなることを言いながら、流川は俺の背中を優しく叩いた。ついでに頑張ってねとか言っていたが俺は見回り以外頑張る気なんて無いぞ。
その間もずっと、ハルはクラスメートたちと楽しそうにお喋りをしていた。
かつてくすんだ目をしていた彼女は、いつしか仲間の笑顔を瞳に映すようになっていて……きっとこんな姿、親でも見たことがないんだろうなと思う。
メース国の誰もが知らない、この世界だけが知っている彼女の姿。
しばらく――しばらく以上だと思える程に――俺はその姿を眺めていた。
「オメーよォ、そんなに邪念の籠った熱視線向けてりゃガン付けてると勘違いされんぞ」
そう言いながら肩を組んできたのは我がクラスの担任だった。さすがに外部の人間が来る日は平時のスタイルは看過されなかったのか、帽子でプリン頭を隠して教師らしい格好をしている。ついでに禁煙グッズも咥えていない。
「え、そんなに見てましたか俺」
「バッカオメ、迷惑防止条例に引っかかる程度には凝視してンだろ。青春真っただ中とはいえ、異性見つめんのは程々にしとけよ」
そんなことを言いながら、教師はパイポ代わりの長物菓子をガリガリと食べている。多分、基本的に口寂しいタイプの人間なのだろう。
教師は寝不足気味な目をこすり、クラスメートに囲まれているハルを見据える。
「……オメーらが転校して来てから2ヵ月くれぇか。通った日数は短ぇが、随分とまあ馴染んできたじゃねーの」
「そうですね。最初はクラスに馴染めるか不安でしたけど……というかハルがアナーキーな時点でこりゃ浮くだろうなって思ってましたけど、みんな好意的に受け入れてくれて何よりです」
「ハ、このガッコの奴らァちょっとばかりヌけた発言でドン引くようなシャバいタマじゃねえよ。オメーらの風変わりな言動より、入学初日の自己紹介で鶴ヶ島がぶちまけた挨拶のほうがよっぽどクラスと世論をざわめかせたわ」
何を言ったんだろうあいつ。いや具体的に聞かなくても何となく発言内容が推し量れるけど、何を言ったんだろうあいつ。
「……どうだ、高坂ァ」
「ん……なんですか」
呼ばれ慣れない苗字で呼ばれ、一瞬だけ反応し遅れる。
そこでようやく、今頃気付く。
苗字を呼ばれ慣れていないのは、みんなが俺を名前で呼んでいるからで……距離感を作らせまいとしているかのように、誰もが俺をクロと呼んでいて。
ああ、そうか。
俺たちが早々にクラスへと馴染めたのは、この校風だけじゃなく……受け入れる土壌を作ったみんなの厚意があったからなんだ。
「楽しいか、こっちでの生活もよォ」
「……」
きっとその言葉は、転校前の日々に比べてどうだったかという問い。以前通っていた学園のようにちゃんと楽しめているかを問いかける言葉。
以前の俺は戦火の化物だった。だから答えなんて当然の如く決まり切っているけれど……例え俺が今まで普通の生活を送っていたとしても、きっとこう言うはずだ。
「楽しいです。……きっと、忘れられないくらいに」
「そうか。そいつァ重畳」
カカカと江戸っ子爺さんのように笑い、教師は満足げな顔で菓子を貪った。無意識的に菓子の先をライターで焙ってから食べている時点でニコチンから逃れられていない気もする。
「……先生、前に言ってましたよね。学生時代が人生で一番楽しい時だ、大人になってつまらない毎日を始める前に今しかない時間を楽しめって」
「あー、確かにンなこと言ったなァ」
「辛くないんですか。……楽しい日々を謳歌した後に、つまらない毎日を生きていくのって。何の為に生きているのか分からなくなったりしないんですか……?」
「バーロ、学生時代が楽しかったから社会人として頑張ろうって思えるんじゃねぇか」
楽しそうに過ごしているクラスのみんなを見つめながら、ささやかな郷愁を言葉に乗せて教師は言う。先生が見つめる生徒たちは、まるでこの幸せが永遠に続くかのように楽しそうな表情を浮かべていた。
「アタシはオメーに楽しいか聞いた、したら楽しいって答えが返ってきた、そんでアタシは満足した。……大人が生きる理由や意味なんざそんなんでいいんだよ。それが大人の望む世界の在り方ってヤツなんだよ」
荒々しく撫でるかのようにぐしゃぐしゃと俺の髪を搔き乱して、大雑把に笑いながら教師は俺から離れた。
「分かんねぇなら大人になるまでに考えな。大人になる意味を考えんのも子供の本分だろ、毎日を楽しみながらゆっくり考えりゃいい。そういうモンだ」
そう言って、教師はプラネタリウムにそぐわない高笑いをしながら持ち場という名の控室に戻っていく。
……大人の生きる理由、か。先生が何を言わんとしていたのか、少しだけ分かる気がする。
もしもそれを言語化することができたなら、大人になりたくないと希う委員長たちを説得できるかもしれない。
でもそれを委員長に伝えられる時は来るのだろうか? 今日を限りに世界を去る俺が、彼女に大人の生きる理由を伝えられる時は来るのだろうか……?
そう憂いながらハルを見つめる。
無邪気に笑い合う彼女と、同じように楽しげな笑顔を忘れないクラスメートたち。教師が得ようとした光景がそこにある。
そんなハルは俺からの視線に気づいたのか、向日葵よりも眩い笑みを湛えながら――、
「クロ!」
誰よりも楽しそうに、俺の名前を呼ぶ。
そして俺の近くに寄ってきて、天に瞬く一際明るい星を指さした。
「あのギラついた星がなんて名前か憶えてる? ちょっと思い出せないの、星取表があればすぐ分かるんだけど」
「大相撲かよ。星座早見盤だろ」
今度こそ、彼女と共に空を見上げる。
俺だってこちらの世界の星座まで把握しているわけじゃないから、どれが有名な星座かなんて分からない。けれども適当なことを言って適当な返しをされて。そんなことを繰り返していく時間が一番楽しいのだから、別に分からなくたっていい。
くだらないことでもいい。たくさんハルと話せたならば、それでいい。
今日という一日が楽しいものになるならば。……魔法界に帰っても忘れられない思い出になるならば、それだけでいいのだ。




