とある夜
ある夜、窓の外には柔らかな月明かりが差し込み、室内は穏やかな影に包まれていた。
家事や仕事を終えたマユとダグは、ソファに座り静かな時間を過ごしていた。
ダグの膝の上にマユが座り、甘えたように首元に腕を回していく。
「ねえ、ダグ……」
マユはわずかに頬を赤らめて、声をひそめて囁いた。
「今日、その……。いいと思うの……」
ダグは微笑みながらマユの手を取り、静かに指を絡めていく。
「もちろんだ。寝室に、行くか?」
「うん」
そうマユはダグの上から降りようとするものの、途端に持ち上がるその身に驚いてしまう。
「えっ……」
「俺が、連れて行こう」
膝の下に腕を入れられ、マユの身は軽々と抱えられていたのだ。
逞しいダグならではなその移動の仕方に、思わずマユは分厚い胸板に顔を埋める。
「……ありがとう」
胸の鼓動が、大きく響く。
マユは以前の結婚生活においては、タケシとは清いままでいたのだ。
新婚当初は何度か唇を重ねていたものの、次第にそれさえもしなくなってしまっていた。
対するダグは、期待で胸を高鳴らせながらもわずかな不安を抱えていた。
以前の妻は、ダグのことを夜の場でしか目に入れようともしなかった。あの、冷ややかな目を思い出す。
その苦い記憶に蓋をしていたものの、マユもまたそのような目を己に向けるのではないのかと。
大きなベッドの上にマユの身を横たえ、その上から覆いかぶさるようにしてダグはマユの瞳を見つめていた。
「本当に、いいんだな?」
「……うん」
ダグはそっとマユの胸に頭を預ける。温かな体温が肌へと伝わり、次第にそれは熱となる。
マユもまた、ダグの短い髪を優しく撫で、その指先で大きな肩や背を包み込むように抱き寄せた。
「愛してる」
どちらともなく呟かれたその言葉は、夜の深い闇へと溶けていく。
互いの熱い吐息を感じながら、そっと唇が触れるその瞬間、世界のざわめきは消え去り、二人だけの甘い静寂が広がった。
言葉は少なくとも、ダグの指先やその身のしなりで多くの愛が惜しみなくマユの身へと注がれていく。
時に穏やかに、時に荒々しく。まるで寄せては返す波のように、そのあまりの心地よさにマユはうっとりと目を閉じていく。
「ダグ」
差し出されたマユの手をしっかりと握りしめて、ダグは一際大きく息を吐く。
月明かりが室内を淡く照らし、二人の夜は静かにゆっくりと更けていくのであった。
やがて二人の穏やかな寝息だけが、闇の中に広がっていた。




