あたたかな新婚生活
ダグと過ごしていく日々は、いつしかマユの身にすんなりと馴染んでいく。
休日には二人で散歩に出かける機会も、次第に増えていった。
近くの公園までの道すがら、ダグはゆっくりとマユに歩調を合わせながら周囲の景色見渡していた。
そしてある場所を指さし、口を開く。
「……綺麗な花だ。名は知らぬが、色合いがいい」
「本当ね。見ていると、気持ちまで穏やかになるわ」
マユは心の中で、ふっと笑みが浮かぶのを感じていた。
ダグの声は低く落ち着きを帯びており、その言葉一つひとつに安らぎが宿っていた。
確かにタケシよりかは口数も少なく物静かではあったものの、マユは決してそれを退屈だとは思わなかった。
物言わぬその空気にも、ダグの優しさやぬくもりがあふれていたのだから。
誰かと共に過ごす心地よさを、マユは久方振りに味わっていたのだ。
料理も、二人で楽しむ時間のひとつとなっていく。
マユが野菜を切り、ダグが鍋の火加減を調整する。小さなキッチンで互いの手元を見つめ合いながら、不思議と会話は途切れずに続いていく。
「今日はこのスープに、少しハーブを入れてみてもいいか?」
「うん、いいよ?」
「俺の、故郷の味になるといいのだが……」
「そうなの?それは楽しみね」
調理中に指が触れるたびに、二人は軽く目を合わせては微笑む。
その距離感が心地よく、互いにあたたかな空気が生まれていた。
仕事帰りの夜も、二人の暮らしは静かに続いていた。
マユが帰宅すると、ダグはすでに照明を調整し、夕食の準備を整えていた。
短時間で手際よく整えられた食卓には、その心遣いが随所に表れていた。
「遅くなってごめんね。急に、書類が増えちゃって……」
「今日は大変だったな。まずは、座るといい」
「ありがとう、ダグ」
食卓を囲みながら仕事の話や些細な出来事を語り合う時間が、いつしかマユにとってはかけがえのないものとなっていたのだ。
以前は夫の態度に苛立ち、呟く言葉にさえ気を遣う日々でもあったのだから。
しかし、今は違う。
心から、ダグとの会話を楽しめるようになっていたのだ。
***
ある日の夜、二人はソファに並んで座り、穏やかな時間を過ごしていた。
そのような中でマユはふと、口を開く。
「ダグ……。私ね、前のことを思い出すとまだ少し胸が痛むの。でも、あなたといると安心できるの」
ダグは静かにマユの手を取り、そっと優しく握り返した。
「……無理に、忘れようとしなくてもいい。過去があって、今のマユがある。だから俺は、ここにいる」
その言葉に、マユの胸の奥がじんわりと熱を持つ。
日々のあたたかな暮らしが、二人の心をゆっくりと近づけていた。
掃除、洗濯、料理、そして会話。どれもが互いを理解し、信頼を深めるための小さな儀式のようでもあったのだ。
夜が更けると、マユはベッドに横になり、隣で寝息を立てるダグの顔をいつまでも見つめていた。
彼の穏やかな寝顔は、まるで時間そのものを包み込むようで、マユは思わず深く息をついてしまう。
この瞬間こそが、マユにとってかけがえのない幸せであったのだ。




