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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の夫は×××で×××

作者: ISTORIA



 ――「アナタ、飛び降りるの?」


 大学時代、とある事件に巻き込まれて、理不尽な理由でいじめを受けた。

 相手は女友達で、高校時代からの恋人まで奪った。

 親族もいない私に味方はいない。何もかも疲れたときに、その人と出会った。


 ――「だったら、アタシの物になりなさい」


 最初はドン引きした。何度も逃げた。

 けど、不思議と楽しかった。決まって泣きたいときに現れて、笑わせてくれた。

 そんなある日、ぱったりと現れなくなった。

 遊びだったのかと勝手に失望して、自棄酒したとき、不覚にも危ない目に遭った。


 ――「ちょっと、アタシの女に手ぇ出すんじゃないわよ!」


 まさにヒーローみたいに、その人は助けてくれた。

 登場の仕方はアレだったけど。

 仕事の帰り途中らしくてめちゃくちゃ汚れていたけど。


 ――「結婚しよう」


 酔った勢い任せに、告白をすっ飛ばしてプロポーズした。



     ◇  ◆  ◇  ◆



「課長、今日もすごいですね」


 大学を卒業して三年。ホワイトな企業に就職して、上司にも部下にも恵まれた。

 まさか二年で課長に昇進するなんて、五年前では考えられない大出世だ。


「どうしたの、唐沢(からさわ)さん」


 ちょうど昼食時間。持参したお弁当を食べていると、同じ部署で働く女性の後輩、唐沢さんが声をかけた。


「だって課長、あんなに仕事をこなしておいて、お弁当は健康的で、しかもなんか可愛いですし」


 私のお弁当は、卵焼き、唐揚げ、アスパラベーコン、彩のあるポテトサラダ、海苔と佃煮でパンダっぽく作られた白米、刻みたくあん。

 改めて弁当箱に詰め込まれたおかずを見て、確かにどことなくファンシーだと感じた。


「料理上手なんですね」

「……いえ、これは夫が作ってくれたの」

「へえ、夫……夫ぉ!?」


 唐沢さんが叫んだ。どこに叫ぶ要素が?


「課長、旦那さんいたんですか!?」

「いるけど、どうしたの?」

「いやいやいや、指輪してませんよねえ!?」

「ペンダントにしている。傷がついたら大変だから」


 服の下から指輪を出す。プラチナに小ぶりのダイヤモンドが嵌った綺麗な指輪だ。

 指輪を見た唐沢さんが、絶句した。

 そこに、騒ぎを聞きつけた女性の部下が来た。


「え、すごい。課長、これいくらしたんですか?」

「さあ? はぐらかされるから、知りたくても聞けない」

「へえー。課長の旦那さんって男の中の男なのねぇ」


 男の中の、男……? あの人が……?


「え、なに、その微妙な顔」

「……いえ。夫が男の中の男ってイメージが湧かなくて……」


 想像しようにも、普段の彼が脳裏にちらついて男らしさが浮かばない。


「じゃあ、課長の旦那さんってどんな人なの?」


 復活した唐沢さんが詰め寄ってきた。ご飯粒、口についているのに……。


「簡単に言うと、男より女が似合う人」

「「……は?」」


 夫の印象を教えると、二人は目を丸くして固まった。


「炊事洗濯掃除も得意。料理だけじゃなくて裁縫も上手。お洒落のセンスもいいし、私の好みを把握しているから、服選びも肌に合う化粧品に関しても文句が言えない」

「……それは……なんていうか……」

「そう。敗北を敗北と感じさせないくらい女子力が高い」


 そう。夫は、基本的に負けず嫌いの私が完全敗北を宣言するほど女子力が高いのだ。


「そのくせ私より稼いでいるから『仕事なんてやめていい』なんて言ってくるし。私を堕落させたいのかと言ったら笑顔で頷くし……あれは思わず殴った。防御されたけど」


 ギリッとお箸を握り締めると、今度は二人が微妙な顔で私を見ていた。

 自業自得だけど、なんだか腹が立つ顔だった。


「旦那さん、キャラ濃いんだ……」

「でも、ちょっと羨ましいかも。そんなに甘やかしてくるなんて」


 確かに世の中の女性なら、甘やかしてくれる男に弱くなる。

 でも、あの人に関しては断言する。


「言っておくけど、あの人と付き合える人は私以外いないから」


 むしろ私じゃないと無理だと胸を張れる。

 きっぱりとした口調で言えば、二人は生温かい目で私を見た。


「課長……ベタ惚れじゃん」

「クールな課長が……意外すぎ……」


 ……なんだか、勘違いされている。


「私の夫に会ったら、そんな感想、すぐに吹っ飛ぶよ」


 そう言って、あの人が作る大好きな卵焼きを食べた。うん、出汁が利いて美味。




 ――あれから数日が過ぎた頃の終業時間。

 遠方まで仕事へ向かったあの人も、そろそろ帰ってくるだろうか。

 そんな予想をしながら、会社から出ると唐沢さん達が集まっていた。中には男性社員もいる。


「あっ、課長! 一緒に食べに行きませんか?」


 唐沢さんが手を振って誘ってくる。

 たまには付き合ってあげるのもいいけれど、あの人、いつ帰ってくるか分からないし。


幸奈(ゆきな)ちゃん!」


 不意に、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 聞きなれた声の方へ向けば、一気に目の前が真っ暗になった。


「こんなところで会えるなんて奇遇ねえ!」

「ちょ、力っ、苦しい……!」


 人前で抱きついてきたこの人を剥がそうとするが、洗ったばかりの時に香るシャンプーの匂いがした。しかも、家で使っているものじゃないヤツ。


「……お疲れ様」


 今回ばかりは甘んじて受け入れましょうか。

 ぽんぽんと背中を叩いてあげると、腕の力が強くなった。


「やっぱり幸奈ちゃんは癒しだわー」

「はいはい。今日は私が作るから、何がいい?」

「幸奈ちゃん特製ハンバーグ。熊さんで」

「りょーかい」


 私も少しだけ腕の力を強めて、パッと腕を放す。

 彼が名残惜しそうに放れたところで、唐沢さんが声をかけてきた。


「か、課長……その人は……?」


 恐る恐る訊ねられたので、私は隣にいる彼に指を向けた。


「夫よ」

「幸奈ちゃんの旦那さんでーす」


「「「はああああああ!?」」」


 その場にいる全員が絶叫した。

 気持ちは分かる。

 私の夫、修也(しゅうや)は顔がいい。そこらのモデルより輝いて見えるほど。

 しかし、中身はオネエなのだ。


「それじゃあ、また来週」


 今週の仕事は終わり。明日はお休みだ。

 硬直した同僚に軽く手を振って、修也の手を引いてその場から離れた。


「まったくもう、何のための指輪だと思ってるのよぉ」


 私の左手を見て、修也が不満げに言った。

 不機嫌そうな彼に、小さく苦笑する。


「だって傷つけたくない」

「明日からちゃんと付けなさい。って、これ何回も言ってるわね」


 修也の言葉にクスクスと笑いつつ、スーパーマーケットへ向かった。




 夕飯が終わり、お風呂上りにテレビを見ていると、速報が流れた。

 なんでも、死刑を免れた服役中の犯罪者が、外泊中に銃殺されたらしい。

 これを見て、あー、これかー、と思った。


「幸奈ちゃん」


 ニュースの途中でテレビが切れる。顔を上げると、修也が何か言いたそうな顔で後ろから抱きついてきた。

 いつも元気で女子力が高い彼が弱気になるのは、決まって私が彼の仕事を知った時。

 毎度のことだから慣れているけれど、髪はちゃんと乾かしてほしい。


「修也、タオルは?」

「ん」

「はい、じゃあ座って。床が濡れる」


 タオルを受け取って促せば、私の隣に座った。そのままわしゃわしゃと髪を拭いていると、また抱きついてくる。私が濡れるのは、この際仕方ないとして。


「嫌わないよ」

「……本当?」


 私を見下ろす修也は、弱々しく眉を下げている。

 子犬か、と思った私に非はないはず。


「修也が私を助けてくれた時のこと、覚えてる?」

「……ええ」

「あの時、仕事帰りだったんでしょ? その上で暴漢を殺してさ、血塗れになったじゃない」


 私と出会って、数週間ほど会えない日が続いた。

 遊ばれていたと思った私は自棄酒して、帰る道中で悪漢に襲われかけた。

 そこを修也が助けてくれた。相手を殺して。


「あの時の修也にプロポーズしたのは私だよ? そもそも私以外、あのタイミングでプロポーズすると思う?」

「……思いません」

「なら、もっと自信持ちなさい。私は修也だからこそ好きなんだって」


 自分に自信が持てないなら、何度だって言ってやる。私が惚れているのは修也なのだから。


「ふふっ……おっとこまえー」

「私が修也に勝てると言ったら、修也への想いだけだからね」

「そうかしら」

「そうだよ。結婚して何年経つと思ってるの」


 若干生乾きだけれど、タオルを外して修也の頭を抱きしめた。


「オネエでも殺し屋でも、あんたへの愛情は無限大だってこと、ずっと教えてあげる」


 孤独だった私を救ってくれたヒーローは、女子力が高くて、ちょっぴりヘタレ。

 そんな私の夫は、オネエで殺し屋なのでした。



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