表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

今回のダンジョンターゲット

「何度入ってもこの気味悪さは慣れないな」


ダンジョンに入るといつも感じるのは、人肌より少し低いぐらいの独特な生暖かさというか、なんか誰かの体内に入りこむような感覚だ。岩山の洞穴みたいなものなんだから、無機質で冷たいものだろうに、なぜか艶めかしい感じを受けるのはなぜだろう。


「この壁もどこも一緒だしな。」


ダンジョンの構造は大概似ている。入口の内部はどこも艶めかしい黒光りし、躍動しているかのような印象を受ける壁と天井だ。草やつたでおおわれているような訳でもないのに、なんか生物感が醸し出されているので薄気味悪い。以前、城塞都市の調査団が調べたらしいが、何も分からなかったとのことだ。


実際個々の壁のようなものを削り取ろうとしても、ダンジョン外に持ち出せないのだ。というのもダンジョンの入り口の外に持ち出すと消えてしまう、そのため物質とも言いづらく、不可解なものでしかない。


 ダンジョン共通の事項はこれ以外にもある。実は入り口からあるところまでは下に下っていくだけの一本道になっているところ。それまではこの気味の悪い物質に囲まれて進むのだが、この間にモンスターたちが出ることもないし、安全なのだが、ここで休憩しようという気持ちにはどうしてもなれない。なぜか周りに見られている感じがするせいだろう。


 「ナルジャ、ついてきているか?」


 相棒も俺と同じ感覚の様子で、あまり楽しく進んでいかない。なぜか周りをきょろきょろしながら進んでいくので、何か潜んでいるのではと思うのだが何もない。やっぱりダンジョンをくだっていくのは気持ち悪い。


 「おっ、そろそろ着くぞ。」


 以前来た時と変わらず、一本道の突き当りに唐突に人工物でできた扉が現れる。他のダンジョンも一本道の終わりには必ず扉や中に侵入するような枠的なものがあり、そこをくぐると全く違った世界が広がっている。なので冒険者の多くはダンジョンの入り口はここからだと提唱する者もいるぐらいだ。


「ナルジャ、ちょっと待っててくれ、すぐにたいまつを焚いて、中にくぐろう」


今までの一本道は暗闇ではなく、全体が黒光りする感じのためほのかに明るく視界が保たれるが、このダンジョンの扉をくぐると真っ暗闇なのだ。なので視界の確保のため、松明が必要になる。

さてここで俺の能力の次の検証をしよう!


俺は今まで自分の安全の確保のため、この入り口付近に焚火を張っていた。これで入り口からある程度の範囲は安全圏を確保でき、その安全圏内でのみ採掘をしていたのだが、今回は松明で奥まで進んで行き、聖なる灯の効果が継続されるかどうかだ。


そもそも焚火ではなく、松明でも聖なる灯の効果があるのか。パーティーにいたころは閉所的な場所では松明ではなく、アッザのマッポが光源を確保してくれていた。ソロになってからも安全性の確保のため、聖なる灯の範囲内で活動していた。だから松明を使ったことがなく、どんな効果が現れるのかわからない。


期待を膨らまして、前日に見つけていた松明に適した木の棒を取り出す。すでに先端を薄く何回も切り込みを入れ、ヤーの爆発ヘアーのような形状を作っていく。そこに少し油をしみこませた布を巻き、愛用の手作り火起こしで着火する。自分の手になじむように作ったグリップに刺さった適度な長さの火付け石2本を打ち付けるとすぐに火花が飛び散り、すぐに松明に着火した。


やってる作業的には焚火と一緒だ。ならこれも聖なる灯といえるはず。すると松明を中心に一気に明かりが広がった。そしていつも聖なる灯をともした時の感覚に近いものを感じた。


「これはもしかすると、聖なる灯と一緒なのか?」


まずは自分の能力値を確認しよう荷物から冒険者プレートを取り出す。全体的な数値に変化は見られない。昨晩聖なる灯から得たバフと変わらない。ただ朝食で得たバフは消えていた。それは時間的なものなのか、それとも戦闘が終了したことによるものなのかわからないが、今は聖なる灯のみ力だけである。


「30分ぐらいたったかな。」松明を見てみると依然として煌々と燃えており、炭にはなっていない。明るさに関しては100m先まで明るいというわけではないが10~20mの範囲は明るさが保たれている。バフに関しては能力が増えることはなく、減ることもない。変化が見られない。これについては再度検証が必要かもしれない。


後はモンスターがこの範囲内に入ってくるか、いや10~20mの範囲でモンスターが立ち止まってもな~微妙だな。どうやら焚火ほどではないが松明でも少しは力が発動しているという見方が正しいだろうか。


「よし、気を引き締めていくぞ、ナルジャ、よろしくな。」

「キシャ―!」


防御用の左小手に松明を持ち、右手にバトルピッケルを携えて、扉をくぐると踊り場的な場所があり、すぐに下階段が現れる。ナルジャの銀髪が逆立っていないので近くには敵はいないようだが、気を引き締めていこう。


「さて、何階ぐらい下がれば見つかるかな。」


コツコツコツとつづら折りになっている階段を下りていく。一本道の壁とは打って変わり、内部は凹凸のない整地された壁と人間業とは思えないほど整った階段を下りていく。要所要所に扉があり、その扉が階層の目印である。今5つの扉を過ぎたから、次が地下6階だ。これも大概のダンジョンの大きな特徴といえる扉を開くとそこの階層のフロアに突入することになるのだが、当たりの階層もあれば、外れの階層もあったりする。むやみやたらに扉を開いて、フロア探索をするとモンスターだらけの階層で、何も鉱石が見つからなかったりもするため、注意が必要だ。


「よしここがまずは一層目だな。」


20階程度降りたところで階段が途切れた。ここからは一度フロアに出て、次の下りる階段がある部屋を見つけなければならない。第一層目は大体階段にモンスターは現れないが、キブリーたちからの話だと深層という地下に潜れば潜るほど、階段付近にもモンスターがうじゃうじゃ現れるらしい。俺はそんな深くまで行ったことが無いが、想像するとぞっとする。


またあるダンジョンの第2階層はスイッチを押すと自動的に扉が開き、任意の階層で降ろされるらしい、その箱の中は安全らしいが目的地に着いたら勝手に扉が開くため、強制的に戦闘開始というパターンもあるというのだから、恐ろしい。


「ナルジャ、行くぞ」


第1層目の最深部の扉を開ける。扉をくぐるとかなり開けた空間が広がる。床は布製の床であり、壁が石工のようなものだが、継ぎ目がなく、どうやって出来上がったのか、見当もつかない。前回はここまでがギリギリ聖なる灯の範囲内だった。だが今回は聖なる灯は用意していない。ここで聖なる灯を展開しても良いのだが、ある可能性を無くす危険もあるため、ここに灯は設置しない。


長方形に近い部屋のような空間には何も物がなく、北西側と南東側に長方形の空洞があり、ダンジョンが続いているのだが、以前南東側の空洞の先に光を吸収し、紫色に光る石と反射し鮮やかな緑色を壁に写す石が壁に埋まっていた。


今回俺がどうしても手に入れたい紫録石と緑反石だったが、前回はその場所に苦界ナーガスという厄介な相手がいた。全身がぬめりのあるうろこに覆われ、頭はコブラのような形をしているが、人間のような上半身を持ち、下半身は大蛇。はっきり言って当時の俺では勝てる見込みはなかった。まだナルジャとの連携も整ってなかったし、俺自身も隠れたる力を理解しきれず、うまく立ち回れる自信はなかった。そのため、俺の聖なる灯の範囲内で、そいつがその部屋にあった鉱石を次々に飲み込むのを眺めるしかなかった。


奴は自分のお気に入りの鉱石を飲み込むと、こちらに見向きもせず後にしていったのだが、そう奴が飲み込んだのがまさに紫録石と緑反石だったのだ。なので俺は見つからずに鉱石を探し出すか、ここにいるフロアで2つの鉱石を飲み込んだモンスター(できれば奴でないことを祈るが)を倒して、鉱石を手に入れるか。この2択を迫られていた。


ダンジョン内外のモンスターの違いはこのダンジョン内で生成される鉱石を取り込んでいるかどうかだ。ダンジョン内モンスターを倒すと体内にため込んだ鉱石を手に入れることができる。これがダンジョン外だと何も持っていない。奴らがなぜ鉱石をため込むのか、この地下ダンジョンの謎を探ろうと探検者たちは潜るのに対して、モンスターのドロップ鉱石が欲しいため冒険者たちはダンジョンに潜るといっても過言じゃない。


地上でのパラファルガと岩男との戦いがあったように、モンスター同士も戦う。しかしあの大きさから言って苦界ナーガスはこのフロアのボス的な立ち位置だろうな。あれを倒さないとお目当ての鉱石は手に入らないと思っていい。


「よし、気合を入れていくぞ。」


ダンジョンのフロアを進んでいく。大概フロアのセクションは四角形のかたちをしており、東西南北のどちらかに次のセクションに続く穴が開いている。なので比較的マッピングしやすいので助かるが、ダンジョンによってはへんてこな場合があるらしく、俺はまだそんなダンジョンに巡り合っていない。


「キシャ~」

低くくぐもったうなり声をナルジャが発し、周囲を警戒し始めた。どうやら次のセクションに何かしらがいるらしい。普通の松明の光なら相手がすぐに警戒するが、俺の松明ならどうなるかな。南側に大きく開けた空洞を抜けるとそこにはこちらに警戒態勢を敷く2匹のクズイカニがいた。光を感じ取って警戒したのか?やはり松明では「聖なる灯」の効果にはまらないのか?部屋の壁際に松明を置いておく。


「苦界ナーガスの前哨戦としてはなかなか骨がいるが、やるか!」

奇襲がするアドバンテージはないがクズイカニ2体は自分の力量を図るのにちょうどよかった。俊敏性はなく、甲殻類特有の堅い表皮をまとっているわけでもない。しかし特徴として弾力性のある体は普通の攻撃をはじき返す。またクズイカニのはさみは断ち切るというよりは、親爪が丸みを帯びたハンマーのような形をしており、爪先は申し訳ない程度にしかついていない。その爪を使った戦闘方法はシンプルで自慢の弾力性のある体で攻撃をはじき、体勢を崩した相手を拳闘士のごとくカウンターブロウで狙ってくる。


クズイカニの攻略方法としては攻撃をはじかれても体勢を崩さないこと、また斬撃や打撃といった攻撃よりも刺突系の攻撃が適している。以前パーティーで対峙した時はヤーがかなり苦戦していた。熟練度が低い破砕衝では弾力のある体に効果が飲み込まれてしまったためである。ここで活躍したのは意外にもリゼッタだった。


 その当時すでに魔道型スリングを手に入れていたリゼッタがクズイガニを打ち抜くと穴から何とも言えぬ異臭を放つ体液を垂れ流し、さらにハチの巣にされた体からは穴をあけられた水風船のように大量に体液を流し、人間でいうところの出血多量で倒せた。リゼッタはモンスターを倒せたことに喜んではいたが、近接で戦っていたヤーや俺はその異臭で夕飯を食えなくなるといったダメージを負っていたっけな。


なぜクズイカニか、大型のカニのくせして、倒したところで食べられない、まぁ、身はうまみもなく臭いのだ。さらに素材としても利用しようにもどんどん腐って劣化していく特徴があり、例えば一緒に置いた周りの素材までも腐らせていくため、クズ以下のカニで、クズイカニとなった。そのため冒険者もあまり討伐する気持ちにはならない。リゼッタも結局はアッザが燃やしたクズイカニの異臭でもう二度と倒したくないといってたな。


「俺のピッケルの先端なら、貫くことは可能。ナルジャの尾針も期待できる。あとは俺がうまく立ち回れるかだ。」


俺たちのやる気を感じたのか、こちらの様子をうかがっていたクズイカニも臨戦態勢を取った。一体は目を引っ込め、親爪を前面にし、脇を固めて構えている。もう一体は目を引っ込めず、両腕を八の字に下げ、いつでも迎撃できるようにしている。クズイカニは基本の戦法は一緒のくせに、個体ごとで構えが違うため、初級冒険者は対処に困ってしまうが、原理が分かれば大して問題ない。


殻にこもるように固まっている奴は前段で話した完全に防御に徹してくるタイプで、じりじり近づいてくる。こいつは遠距離でチクチクしてやればよい。


「ナルジャ、クズイカニに尾針をぶち込んでやれ!」

ナルジャに指示を出すと同時にカニに対して、尻尾を一気にひねり、尾針を放った。案の定防御に徹しているカニは自慢の体で針をはじこうとしている。確かにカニの甲羅や爪は弾力性が特に強くはじき返せるかもしれないが、体の表面や足などはそこまで弾力性が無く、傷がついていく。


それに比べ、はさみを八の字のようにぶら下げこちらの出方を待っていたカニは、飛び道具を警戒しているタイプで、常に移動して的を絞らせないタイプもいたりする。俊敏性はないものの左右へのステップには自信があるらしく、飛翔物が来ると瞬時に左右に移動して回避する。


ナルジャの尾針も一気に加速して、よけていた。それに合わせて俺も横に移動する。

「ナルジャ、そっちをそのまま尾針で仕留めろ!」

ナルジャは本当に優秀だ。獣なのに言葉が分かっているかのように俺の指示が良く理解できている、いやそれ以上かもしれない。


一体をナルジャに任せ、もう一体のカニに対して対処する。カニは前には進めないため、ぐるっと回り込んで体をぶつけ、体制を崩し来る。そのため、俺はカニと並行して移動する。一気にこちらから正面に近づけばよいかといったら、それはあまりよろしくない。もし一撃で仕留められるなら、問題はないが、もし親爪ではじかれたら、そのあとに強烈なしっぺ返しが来る。


不用意に近づかないことが重要、そうすると奴らは


「足をそろえた!来るか!!」


その瞬間、クズイカニは高くジャンプした。そして俺をめがけ押しつぶそうと落っこちてきた。すでに見切っている俺は落っこちてくるカニの背中側へよけると、すぐさま振り返り、背中が丸腰のカニに対して、下から抉るようにピッケルをかちあげた。


ピッケルをくるっと反転させ、ひっくり返り青空を仰ぐかの如く天井を見たカニの触角と目を横に薙ぎ払った。するとカニはもうなす術がないといった感じで爪や足をだらっとさせる。

軽くバックステップし、距離をとると、いきなり足や爪をじたばたさせる。カニは何の反応もないと思い腕を再びだらっとさせた瞬間、一気に近づき、目と目の間の急所にピッケルを思いっきり打ち付けると、ぴゅーと勢い良く臭い体液を巻き散らした。


「よし、いけるな。ナルジャは、問題なさそうだな。」


もう一体のカニもあお向けになっている。しかし体の表面はナルジャの無数の尾針が突き刺さり、まるで剣山のようだった。最初の一撃でたぶんマヒしていたんだろうな。最初の一から動くこともできず、くし刺しになってかなり痛々しい光景だ。


「よし、かなりいいぞ、やはりバフの力があるな。」


本来は見た目で分かる甲羅の中心部に弾力性が低い場所があり、そこにピッケルを突きつければ一瞬で片付いた。代わりに一気に臭い体液が飛び出すので、別の方法としてカニをひっくり返し、目と触角を飛ばし、仕留めるやり方だった。

ただこれをするにはそれなりの力と機敏性が必要で、以前の俺なら難しかった。今はバフが乗っているからいけると思い試してみたが、うん、これならいける。


「そうだ、ナルジャ、あまり匂いをかぐなよ。気持ち悪くなるぞ~」と俺が注意する前にすでにナルジャは距離をとっていた。さすが、ナルジャにとっては所見とは言え、危機管理能力が高い。


「さてとこいつらも鉱石をため込んでそうだけど、どうするかな~」


どうやって、こいつらを解体するか悩んでいる俺をよそに、ナルジャは背筋をピンとさせ、何かに聞き耳を立ていた。


ずすずるずる


クズイカニの芳醇な香りにつられ、移動を開始されていた。


「おわっ、どうした。」


急にナルジャが立って考え込んでいる俺の足の間に頭入れ、持ち上げ、担ぐとすぐにその場から離れたのだ。


「おい、どうした、ちょっと、たいまつが」


俺の苦情をよそに二つ前の部屋に戻ろうとするナルジャが、急にピタッと止まった。そして元の居た部屋のほうへ警戒態勢を向ける。


「なぁ、どう。うん?」


「「が~す~~~」」


前にいた部屋の方から響いたかすかに聞こえる鳴き声でやっとわかった。


「ふ~、連戦か、だけど、ここでやらないと仕方ない。」


前の戦いで少し消耗はしているが、今はやる気のほうが充実している。


ゆっくりと前の部屋へと進んでいく。中を覗き込む前に松明の光に照らし出された大きな影が見える。その影はどうやら、むしゃむしゃとカニをほうばっているようだ。


「ナルジャ、作戦を考えよう」


隣で俺たちが仕留めた獲物を貪り食っているモンスターに気づかれぬよう小声で相棒に話しかける。


さて苦界ナーガス、どうやって仕留めるものか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ