ダンジョンに入る前に
片方の膝を折り曲げ、右手で反対の手を包み込むように握り、右胸に当て、瞳を閉じ、祈り捧げる。焚火が与えてくれた温かさに、安らぎに、新たな日を迎えられる喜びに感謝をし、胸にあてた手を広げながら、指先を合わせ、三角形の空間を作り、閉じる。軽くなるパンといった音と同時に、両手で作った三角の空間の先に見えていた聖なる灯が消えた。デリックが小さいころから焚火をして、自身の手で焚火を消す前の自己流の作法だったが、隠れたる力の開放をしてからは聖なる灯の火を消すための儀式となった。そもそもある冒険小説の件に同じようなポーズをしている挿絵があり、かっこいいと感じて始めた厨二病的なきっかけだったが、まぁ今となってはどうでもいい。
「うん、完全に消えた」
炭化した焚き木を確認して、うなずく。それと同時に聖なる灯で作り出された空間は消失した。ナルジャはすでに戦闘態勢を取っており、いつ襲われても対応できる様子だ。
俺はすぐに冒険者カードを取り出す。まだ焚火のバフ効果は消えていない。さらに食事で付いたバフは朝食をとったことで、変化していた。
今朝は胃にやさしい簡易なスープだけにしていた。昨晩遅くに食事をしたためか、胃がもたれてしまった。20代後半に入っているとはいえ、まさか。こんなにもおじさん化は早いのか。
朝食の量が少なかったのかナルジャが横で他には?といった顔をしている。バックパックから携帯食料を渡すとしぶしぶ食べていた。そして注目すべき点に戻る。昨日付いた食事バフが残っている以外に技量の項目が上昇していた。これはどうゆうことだ。
どうやらメインとスープは別らしい。でもパンと漬け込み肉は相反した。固形物と流動物の違いかな?今後はパンとスープ、肉とサラダ、サラダとスープの組み合わせを試してみたい。
今一度焚火として考えてみても、便利な能力だな。焚火で一番怖いのは残り火で、下手をすると残り火が燃え広がり、森林火災とかを引き起こしかねないのに、その心配がないのはいい。また護衛の依頼等があった場合は普通なら焚火の後からどのくらいの距離か悟られる可能性があるが、それが分かりづらいだろう。といっても今まで追跡者を相手にした護衛の依頼なんてものはないけど。
しっかりと焚火を消す儀式を行えば、きれいに鎮火してくれる。と感心しているうちに先ほどまで感じていなかった朝日と同時に別の何かを感じた。聖なる灯を消すことで自然の光を感じるのはなかなか神秘的で山から登ってくる太陽を眺めるのは爽快だが、いらんオプションがついてくる。
聖なる灯は範囲内にいるモンスターを消失させるわけではなく、範囲外に押しやるというか出ていかせるだけで、聖なる灯が消えたら、外に追いやったモンスターたちが戻ってくるということだ。実はキブリーたちとの旅でも何度かテントとかの片づけ前に焚火を消したら、戻ってきたモンスターたちに襲撃されたことがあった。
そんな奇襲にすら対処できていたのはバフのおかげだったのかもしれないが、当時は聖なる灯を使用するリスクとして挙げられ、蓄能結界杭の方へ傾く理由の一つになった。ここで、疑問、結界だって似たようなものだろと思う。これが、そうじゃないのが蓄能結界杭のすごいところで結界に攻撃能力を付与することができる、また能力を重ねることができるということだった。杭の寿命を早めてしまうが二つ以上の力を杭に込めることで、二つの効果を発動できる。方法は簡単で二人が同時にメインの杭に力を流し込むだけである。
前のパーティーではアッザの下心から、アッザとリゼッタが杭に力を込めていた。そうすると結界の表面は炎の性質をもった壁となり、内部は回復を促進する癒しの空間となる完ぺきな結界が誕生する。他のパーティーでも補助系+攻撃系の能力を注ぎ込むのが主流らしく、そうすることでモンスターの奇襲を防ぐだけでなく、モンスターの戦力ダウン、旨く行けば撃退してしまうことがあるらしい。
「俺の聖なる灯もモンスターにダメージ与えられないかな~」
ないものねだりはするものではないが、そうはいっても、解除後の騒動を考えると憂鬱になる。
「キシャ~~」ナルジャが銀色に輝く毛並みを逆立て始めた。
「おいでなすったか。テブルだな。」
さすがにダンジョン前の山腹なのでモンスターもねぐらにするような環境ではない。そのため来るとしたら空からのモンスターだと思っていたが、案の定テブルが6羽ほどこちらに向かってきている。
手遊びで両手の親指をくっつけて作る鳥があるが、そんな見た目をしたモンスターが一つの群れを成し、俺たちのところに近づいてきていた。
「ナルジャ、針を飛ばしてくれ、落ちてきたやつを俺が仕留める。」
ナルジャは言葉の意図を理解し、すぐに崖を上り、宙返りをすると一瞬で尻尾を強く降りぬき、尻尾に隠した針状のうろこを飛ばした。この針が直撃すればテブルぐらいなら一撃で仕留められるが、全部を打ち落とすことは無理だ。しかし、
「お、3羽はかすったか」
直撃した3羽は絶命したのかそのまま急降下してくるが、残りの3羽はびくびくしながら羽をうまく羽ばたかせることができず、高度を落としてきている。徐々に落ちてくるテブルに狙いを定め、ピッケルの先端を打ち付ける。やはりバフによる効果のおかげで、先端はモンスターの体を貫き、心臓にまで到達したのか、痙攣して動きを止めた。
「次~!!」
別の一体は斜面に急速落下した死体たちの間に降り立っており、バトルピッケルを思いっきり、上からびくびくとしびれているテブルに打ち付ける。
「もう一体は?」
振り向いたときにはすでにナルジャが強靭な牙でテブルの首にかみついていた。
「さすが、ナルジャ、ありがとう」
ナルジャが打ち出した針状のうろこには猛毒の効果があり、かすめるだけで猛毒におかされる。今のところモンスターで効き目がなかったのは同じように毒を有しているモンスター系だけだ。それも、特に強い猛毒を持つ種類に限りだが。
「おっ、次が来た。ナルジャ岩陰に隠れよう。」
山の上の方から岩がゴロゴロ転がってくる。一見すると落石のようだが、実はモンスターでトロール種の一種である。丸まった姿が岩と変わらないことから岩男といわれているが、しっかりと雌もいる。足が短く、腕が太くて長い、体表が固く、丸まって山頂から転がってきても大した傷にはならない。ただ転がっている間は周りを見ることができないらしく、目的の場所を通過していってしまうときもあるらしい。
「あちゃー、ちゃんと止まったか。」
多分テブルたちが落ちていくのを上から見て来たのだろう。転がってきた岩男はきっちりと戦闘があった場所に止まった。きょろきょろしたが、テブルの死体しかない周辺を見て、考え込んだかと思うと一羽のテブルを食べ始めた。
「あちゃー、腹が減ってたか」
岩男はある程度の知性があり、自分のねぐらを作ったり、村を作り集団生活をしたりする。基本彼らは料理という行為をして自分の好みの味付けを施すし、後者だと餌となるよう物は持ち帰ったりするが、その場で食べる場合は腹が減っている可能性が高い。
「めんどくさいな~、テブルを食べて状態異常おこすなよ~」
一羽を食べ終わり、どうやら猛毒の耐性はあるようだ。あとのテブルはお土産にすると思いきや、二羽目に手を出した。
「あっちゃー、あれはナルジャが仕留めたやつか~」
テブルの首にはナルジャの牙があけた穴がある。実はナルジャの牙からは麻痺毒を注入されることができ、さっき仕留めたときも多分打ち込んでいる。あのテブルを食べるとさすがの岩男もしびれてしまうと思う。かといって食事をしている岩男を邪魔すると暴れるから、止めることもできないし、あっ、痙攣し始めた。
「どうするかなー、麻痺が治るまで待つとかなり時間がかかるし、かといって倒すのも面倒くさいしな」
もう少し時間を待ってみて、他のモンスターが現れなければ、岩男の視界に入らないよう崖を上りつつぐるっと回ってダンジョンの入り口に入るか。ナルジャと一緒に少し息をひそめていると、またナルジャの銀毛が逆立った。
「次は何だ!」
ゴロゴロゴロゴロゴロ
岩なだれが麻痺している岩男を襲い掛かった。といっても、確実に岩男の群れであるはずなのだが、麻痺している岩男にぶつかっているし、2体ぐらいは止まれずにそのままふもとまで転がり落ちて行ってしまった。
辛うじて止まった3体(うち一体はぶつかったおかげで止まれたが)は倒れている岩男を首をかしげて見下ろしていた。
「どうした、兄弟。なぜ起き上がらない。なぜ止まっている。」
「どうした、兄弟。びくびくしているぞ!」
「どうした、兄弟。なぜ助けてくれない?」
助けてくれないって、受け止めてくれると思っていたのだろうか?でも確かに転がり落ちてきた岩男より、先ほどバクバク食べていたやつの方が一回り以上大きい。
「あ、あ、あ、あ、あ」口を開け、よだれを垂らし、応えられないようだ。
「さすが兄弟、ここにあるテブルを全部やったか。」
「兄弟、一人でつまみ食いをしたな。つまみ食いはよくない。罰が待っている。」
「どうした兄弟、なぜ返事しない。何があった。」
「あ、あ、あ、あ、あ」
「どうした、どうした。どうしたんだ、兄弟」
一体が大きい岩男をゆするが反応出来ない様子を見て、色々考え始めた。ヤバイ、どんどんダンジョンに入る時間が遅くなる。どうしようか。それにしても岩男は麻痺耐性が低いのかな、こんなに長く麻痺するとは。う~ん、どうするかな。ただ理性的な岩男たちだし、ためしてみるか。
「あの~、すみませ~ん」
「「「!!!!」」」
「人間だ、ご飯が声をかけてきた。」
「やった、今日はごちそうだ」
「兄弟、今日はついているぞ、兄弟?どうしたなぜ喜ばない、兄弟!!!」
「多分、そっちの岩男は体が麻痺をしているじゃないかな?」
「「「なに!!!お前がやったのか!!!!」
後ろからナルジャも姿を見せたので、余計に警戒心を強めた
「いやいやいや、違う、ちがう!!ただ、遠くから見ていてそこにある死体のテブルを食べたら、びくびくし始めたようだったから、もしかしたら岩男は落ちていたテブルの情報を知らないだろ。」
「どういうことだ、これは兄弟が倒しているのだ!!」
「ここいらのテブルは麻痺毒に感染しているから、食べると全身が麻痺してしまうらしいんだ。」
「「「!!!」」」
「だから今そこの大きい岩男さんは、麻痺毒に侵されているんだと思うんだ。」
「いけない、兄弟、我々は食べてはいけない!!」
「兄弟、特にびりびりに弱い!!」
「このままだと死んでしまう~~~~」
崖から落ちてきた岩男たちがうろたえ始めた。いや、確かに強力な麻痺かもしれないが、そこまではいかないとと思ったが、大きな岩男の顔が酸欠状態のような表情を見せているので、事態が深刻なことは分かった。
「ちょっと、落ち着いて、俺に見せてくれ、治せるかもしれないから、どいて!」
そういうと俺はカバンに常備している麻痺毒の抗体薬を取り出した。岩男3体はおろおろしながら、言われるままに後ろに退いた。抗体薬はナルジャの麻痺毒を改良したもので特別製なのだが、彼らはそんなことを知る由もない。体が大きいから1本では足りないかもしれない、念のため2本を口に流し込む。
びくびくぴく、ぴく、びく、ぴ、、、むく
大きい岩男が立ち上がった。どうやら治ったらしい。
「人間」
うっ、やばい、助けはしたものの、命の保証はない。相手の攻撃をよけられるよう身構える、その様子にナルジャも臨戦態勢に入る。
「心配するな。襲わない。命助けてくれた。人間だろうが、恩人は恩人」
ほっとした。
「それにしても知らなかった、テブルに麻痺毒をもつ奴がいるとは」
???どういうことだ。
「兄弟、この人間の仕業かも」
「だとしたら、こいつは俺を助ける必要がない。俺はテブルが落ちていくのを見つけて、駆け付けた。倒した奴はいなかった。多分お前じゃないのはわかる。」
どうやらフォローをしてくれているのか。
「多分テブルは別のところで襲われたここに流れ着いて力尽きた。本来なら村に持ち帰る。怪しんで、先に毒見をした。やはり俺のカンが当たった。俺は村のために終わることを受け入れた。そこをここにいる人間が助けてくれていた。」
「「「おおおお~~~」」」
「さすがは兄弟、つまみ食いはご法度」
「みんなでぼこぼこ!」
「でも村のみんなをびりびりから守った!!」
そういうことか、岩男のコロニーではつまみ食いは重罪なのかな。でもひときわ大きい岩男は配給かなんかでは足りないんだろうな。で、いち早く駆けつけて、バレる前に食べてたわけだ。今思えば、食べる前にきょろきょろしてたし、よく確認しないで食べていたしな。
「そしたら、テブル食べられないのか?」
「4体のテブルもったいない。村がおなかすく」
「でもおれたちびりびりによわい」
そうか、全部が麻痺毒に侵されていると思っているのか、他は猛毒なんだけどな~。う~ん、貴重な食糧なんだろうな。でも大きい岩男は最初の1体は普通に食べていたから、問題ないはず。大きいやつも自分が別のテブルを食べているから大丈夫だとは言いだせないし、困っているな。
「そしたら、俺がテブルのびりびりを無くそうか?」
「「「「!!!!!」」」」
「可能か!人間」
「本当か?人間」
「有能か!人間」
「大丈夫か?人間」
「安心しろ、さっき大きいのに飲ませた薬があっと一本あるから、麻痺毒がありそうな場所に塗ればなくなるよ。ただこれは貴重な薬だ、さっき2本も使ったからな。」
「何が言いたい?人間」
「奪うか、兄弟?」
「ちょっと、まって、急に襲う話はやめろ。別に何かを交渉したいわけではない。ただお前たちはどうやら他のモンスターに比べてしっかりと話せるから、もしよければ仲良くなりたいだけだ。仲良くなったしるしにこの薬の残りを上げるよ。」
「「「「おおおお」」」」
「これでびりびりに怖くならない」
「たまにキノコ間違える。でも心配いらない」
「どうする兄弟」
「この人間良いやつ、食べるのもったいない。いいだろう、俺たちは同胞に受け入れてやる。俺たちの村に来い。」
「いやいや、ちょっと待ってくれ、俺はそこのダンジョンで必要なものを採取しなければならないんだ。それが終わってからならいいよ。」
「ダンジョンに入るのか?何が欲しい?」
「???鉱石が2種類、紫録石と緑反石だが」
「名前分からない。どんな石だ?」
「???一つは紫色の光沢がある石と緑色のくすんだ石だが」
「多分村にある。だから村に来い。」
「えっ、どういうこと」
「俺たち、石が好きだ。石で物の交換する。だからあると思う。」
「本当に、う~ん、それなら、でも俺が村に入るのは大丈夫かな。」
「心配ない!俺たちがいる。旨そうな匂いでも、止めてやる。」
「びりびりなおす薬は重要。みんなわかってくれる」
「旨そうな匂い。でも我慢できる」
うわ~、捕食されそう。
「人間、心配するな。俺たちはこれでも賢い。利益がある者は活かす。恩人には恩を返す。」
「そっか、了解した。そうしたら、お邪魔するかな。ところで俺は人間ではなく、デリックというんだ。もしよかったら、デリックと呼んでくれ。」
「デリック。俺はガンズ。」大きい岩男が答えた。
「俺たちは・・・」
他の3体が名乗ろうとした時だった。ナルジャが、急にきょろきょろしはじめ、臨戦態勢の構えを取った。するとすぐにがけ下に落ちていった2体が、極太の腕で懸命に崖をよじ登って、戻ってきたが何か慌てている様子だ。
「どうした!バンズ、ビンズ!」
「兄弟!!助けてくれ、倒しきれない!!」
そういう2体の後ろにファルガの群れが見えた。器用に崖のわずかなでっぱりに飛び移りながら起用に上ってきている。
「犬っころどもが!!!」
「どうしたファルガならお前たちでも倒せるはず。」
「兄弟、あのファルガ普通と違う。」
「俺たち体がビリビリ。うまく動けなくなった。」
岩男は体の後ろ側は屈強な岩石のような皮膚だが、内側はとても柔らかいカエルのような肌をしている。下から来た2体はそれぞれ内側に少量の傷を負っていた。
「俺たち包まって、ビリビリ収まるまで耐えた。」
「急いで戻ってきた。助けてくれ兄弟。」
「なるほどパラファルガだ。あいつらの唾液には麻痺する効果があるからな」と、俺が言うと。
「奴らがテブルをやったはず。あいつらの唾液、テブルに残っていた。だから俺しびれた。」
ガンズは俺の発言をうまく利用して、先ほどの話に決着をつけた。なかなかに賢いようだ。
そうこうしているうちに蛇行しながら崖を上ってきた、パラファルガたちが続々と集結してきた。その数は24頭、見た目は狼のようで、頭の途中までしか毛がなく、尻尾も短い。異様に長い爪も特徴で、鋸状になっていて、一度引掻かれると裂傷をきたす。
「これはなかなか骨がいるな。」
そういうと俺は武器を構えた。
「デリック、確かにこいつらの骨はうまい。」
ガンズはよだれを垂らしている。
「人間?うまそう。村のみんな喜ぶ!」
バンズと呼ばれた岩男が俺に熱い視線送ってくる。
「落ち着け、こいつは仲間だ。デリック。」
「なんだ残念、楽しみなのに。」
「その気持ちわかる。でも我慢。」
「なんで」
「理由、あとで話す。」
いろいろ危ない話を繰り広げながらまとまっていくガンズたち。俺は人類で初めてではないだろうか人間と岩男の共同戦線を張る決意をした。その瞬間、後ろからひときわ大きいパラファルガが現れた。こかなりの激戦になりそうだ。




