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回想~別れのクエスト~

焚火がパチパチといい音を奏でている。その間にデリックは今日の寝床を組み立てていた。デリックの焚火「聖なる灯」が発動すると、範囲外がたとえどんな大雨だろうと、範囲内は霧雨程度、暴風も凪程度に変わってしまう。そのため野営器具はそんな大それたものは必要ない。だから今組み立てているのも簡易の寝床だ。


「聖なる灯」が発動してから1時間ぐらいが経過したころ、デリックは自分の荷物から筒状の薄い一枚の金属板を取り出した。それを広げ、1滴の血を垂らすとそこにデリックの名前や隠れたる力、スタミナ、俊敏性といったステータス的な言葉が様々な色で浮かび上がってくる。


この金属板を冒険者プレートといい、導き石から隠れたる力を解放し、冒険者になりたいものが冒険者ギルドに登録する際に作成されるもので、記入された人物の能力が分かる便利な代物となっている。本来ならギルド本部で保管され、定期的にプレートに触れることで冒険者の情報が上書きするのがルールだ。


 しかしギルド職員にお願いすれば貸し出してもらえる。ただし、これを紛失すると再作成費用がかなり高く、安くするためには材料を採取しに行く必要があるのだが、これがなかなか難しい。「虹血石」という簡単に言うと導き石の親戚みたいな鉱石らしく、採取するクエストも高ランクのため、簡単にはいかないのだ。


 「よし、やはり色は変わったままだ。ただ10分後と変わらないな。焚火に当たる時間が長ければ、その分効果も増えるかと思ったけど、違ったな。」


現在プレートに浮かび上がっている文字の色を見て、デリックは焚火ノートに細かに記載をしていった。デリックはずっと「聖なる灯」の検証をしていく中で、一つの仮説を証明できたことに喜びを隠せなかった。残念なことは予想以上の効果ではなかっただけで。


無血の冒険者プレートに初めて流された血の者が、そのプレートの所有者となり、その血を流した時の情報が反映される。映し出されたステータスの文字は8色で表示され、赤・橙・黃・緑・青・藍・紫・虹の順に能力の高さが分けられる。例えば「筋力」の文字が赤色だと筋力が全然ないが、逆に虹色に輝いているとものすごい力を持っていることになる。

修練道場に通っていた際に授業の中でオズル教官がプレートを見せてくれた際に藍色や紫色が多くを占めていた。筋肉の化け物だけあって「筋力」は虹色だった。


改めて自分の冒険者プレートを見てみると、ギルド本部受付で確認した際はデリックの力は薄い緑色だった。ただ「聖なる灯」の焚火を受けるとはっきりとした濃い緑色に変わっていた。つまり焚火の炎を浴びていると能力値が上がっているということだ。デリックとしては数字で分かりやすく表示してくれれば、どれだけ上がっているのかわかりやすかったのだが。


これは強化バフといわれる現象だとデリックは推察していた。身体能力の強化等は魔法や術によって行う以外は、薬療法師や錬金術師が作る薬が必要だ。前者の魔法等はなかなか珍しい魔法らしく使える者もあまりいないと聞くし、後者の薬は高価なものが多く、冒険者クラウン(共同体)内に錬金術師等がいないとおいそれと用意はできない。


 それに比べれば、「聖なる灯」は焚火の炎に当たっていれば、よいのだ。しかも一つのステータスが上がるだけでなく、すべてのステータスが同じくらい上がるのだ。デリックのプレートにある各種ステータスは黄色から青色の薄い表示だったのだが、現在はすべてが色濃くなっている。力と俊敏性が同じ薄い緑色だったのが同じ濃さの緑に代わっているのを見て確信していた。


 あと検証すべきなのは、効果受ける条件と効果時間である。聖なる灯が照らし出す範囲内にいればその効果を永続的に得られるのか?効果範囲から離れたらどのくらいで効果が続くのか重要な検証項目である。これが分かれば、聖なる灯の価値が大きく跳ね上がる。能力次第によっては、みんなともう一度冒険ができるかもしれない。デリックの心は大きく震えていた。


 当初は「聖なる灯」によって野営するための荷物の量を減らせたり、夜の安全を確保出来たりと初心者に対するメリットが多かった。しかしあるクラウンが開発した「蓄能結界杭」が市場に出回ったことが大きかった。そのクラウンは運営資金難に陥ったためクラウン固有の技術を解放したのだが、これがバカ売れし彼らの窮地を救ったようだった。


 蓄能結界杭は隠れたる力を流し込むことで指定した範囲を結界で守ると同時に流し込んだ力を範囲内にいる人間に与える。要はバフも付けられるので、リゼッタの「癒しの波長」を流し込めば、範囲内にいる人は回復効果が見られ、ちょっとした怪我なら治ってしまう。またキブリーの「霞隠れ」の力を注げば、完全に姿を消すことができる。


 本来なら破格の値段となりそうだが、そのクラウンが資本金や生産技術を持たず、ギルドに相談したことによって、お手頃価格となった。ギルドとしては初級者の冒険者からだれでも手に入るようにすることで、死亡率を減らせるし、相談したクラウンもギルドが後ろ盾になって特許保護等をしてくれるのでwin-winのようだった。


 1本の杭を中心に五角形の角に5本の杭を打ち込み、力を流し込めば結界が作れるようになるこれはかなり画期的な発明だった。6本の杭だけと持ち運びは便利、火に関してもアッザが作り出せてしまうので、火つけセットなど必要なくなる。ともなれば荷物の軽減につながる。焚火の延長上の能力しかないと考えられていた、デリックの力の優位性が薄れていってしまった。


 しかし、「聖なる灯」のバフ効果は蓄能結界杭とは比べられないほど優秀だった。本来なら肉体強化系の力を流し込まないと身体強化はあり得ない。しかも基本的に俊敏性や耐久性といった特定の能力を向上させるだけだ。「聖なる灯」は違う。すべての能力を向上させる。しかも少量ではなく、特大とはいかないものかなりの向上率だった。このことをもっと早く分かっていれば、パーティーから外れなくて済んだのではないかとデリックは思っていた。


 仲間とは別れてはしまったがデリックはまだ「冒険者」をあきらめてはいない。デリックは自分の能力の詳細を必死に焚火ノートに書き込むことで、自分の冒険者としての可能性をみいだすために必死だった。彼は冒険者以外の仕事を選択肢には入れたくはなかったのだ。


 デリックの住む大陸デルウムンドでは「冒険者」「探究者」といった仕事が存在している。デルウムンドはまだまだ未開の地であり、未知なる資源も多く、更なる生活の向上を求め、人々は新しい物を欲している。ただモンスターの存在がある。


 そのため、そうやすやすと何の知識も力もない人々は冒険や探索には出かけられない。新しいものが欲しい、新しいことを知りたい。また町の外にある必要なものがあるとしても、自分たちは危険を負いたくない、そんなとき活躍するのが冒険者や探究者となっていった。ギルドにお金を払いクエスト発注することで、冒険者たちが欲しいもの・必要なものを収集してきてくれるのだ。


 需要(クエスト)が多いため、その分自然と供給(冒険者・探究者の数)も増えていった。今では市民から冒険者になり、そのまま成り上がっていった者が多く存在する。その存在が更なる供給を生み出してもいった。

 

 供給を促進するために導き石が近くにある場所に街を築き、冒険者等を育成する施設ができ、それに必要な店が立ち並び、それらを支える人々が暮らしていった。その中で王族や貴族が住む城塞都市のほか、冒険者たちが集ったギルド自治都市が三つと、聖ギーア教の中心地である聖域都市が築かれ、各都市で導き石を有していた。それ以外に導き石を有している都市はあるらしいのだが、自分たちの生活圏外のことで、あまり情報がない。


 デリックが幼少期を過ごしたのはそれ以外の都市である、導き石が無い生産物を輩出する産業都市の田舎であった。本来なら、導き石がある都市だけが栄えていきそうだが、導き石が存在する都市はなぜかうまく作物が育たないため、食料などは産業都市に依存している。さらに各産業都市は横でしっかりとつながり、他の都市との違いはあれど、従属的な立場というよりはしっかりと確立していた。


 城塞都市に生まれた貴族や聖域都市に住む聖職者といった特別な人種以外は、自由に各都市を行き来し、自分がなりたい職業につくため、ギルド自治都市や産業都市からの出身者が冒険者になっていった。それでも危険の多い冒険者等になりたい人よりは農家や商人といった職種に従事するのが一般的ではあった。貴族や聖職者の中には変わった人もおり、進んで冒険者なった者もいたりはするが、それもごく稀であった。


 デリックが冒険者をあきらめるということは絶対にしない。彼は冒険者になることを決めたとき、自分の田舎を捨てることを選択した。特定の人とは親しくはなったが、町全体では彼に対しての視線はつらいものがあった。別に家族と不仲というわけではなかったかもしれないが、彼らとの距離があるのを感じていた。森の中でキャンプをして、訪問した村人たちと仲良くなっていったとしても、つまるところ、彼は自分が育った町が嫌いだったのだ。


 今思えば大胆なことをしたとデリックは思っている。10代の若気の至りとはいえ、自分がまるで何かに襲われて死んだかのような演出をして、当時キャンプをしていた場所を飛び出し、ボッサムに流れ着いた。とにかくそこまでして過去の自分と決別したかったのだ。その後数日の旅に何事もなく目的地にたどり着いたのも今を思えば「聖なる灯」のおかげだったのだろう。導き石による自覚が無くてもある程度の能力は発現していたということだ。


 ギルド自治都市のボッサムは人の出入りが激しく、住みつくには最低限の身分を明かすので十分だった。特に冒険者を志望する人間は今の人間性を問われることがあっても、過去については一切咎められることはなかった。自分の過去の情報を出したくないデリックには好都合であり、ありがたかった。実は前パーティーメンバーと知り合った際に意気投合できたのは、それぞれ詮索されてほしくない過去を持っており、暗黙の了解で今の自分たちしか見ないことができたからだ。


 お互いに過去のしがらみがないからこそ、情に流されることなく今の自分の能力で判断される。今、パーティーに必要かどうか、これからのクエストに耐えられるか。以前のパーティーリーダーであったキブリーから「聖なる灯」は焚火の強化・便利にした能力でしかないと見解を示されたとき、反論できなかったデリックはパーティーを離れるしかなかった。


 


~デリックがキブリーたちと別かれる直前のクエスト~


 「リゼッタ、どんな具合だ?」


 「大丈夫です。デリックさんは無事に回復しています。」


 「ごめん、モンスターを仕留めるのに意識を集中しすぎていた。」


 アッザの謝罪に片手をあげで答えると、先ほどのモンスターとの戦いで負った傷がうずき、顔をしかめる。リゼッタからは「まだ動いてはだめです。」と忠告を受けた。俺が倒れてから、周辺のモンスターを蹴散らし、蓄能結界杭でキブリーが安全を確保してから、リゼッタが癒しの息吹で損傷した個所の修復機能を向上させ、かじり取られた箇所があっても肉が盛り上がり治療されつつあった。


「いや~、今のは危なかったね~ナイスセーブですよ、デリック」


「まぁな、うちの火力をやられたらどうしようもないし、それにそれがタンクの役目だしな。アッザもそんな顔すんなって、もう終わったことだし、それに確実に仕留めるにはあのタイミングだったって」


「・・・・・・・・・」


 う~ん、アッザがへこんでいる?でも仕方ないだろ、アッザの最高出力であるフレイムタンは手から超高温の炎の刃を発し、切り付ける技。技を当てるためには近づく必要があった。さっき戦ったモンスターは「ステンアイ」という大きな一つ目に大きな口のすぐ下に四つ足が生えた気味の悪い奴で、大きさは中型犬のサイズのぐらい、大体4~6体の群れで活動している。


 さらに今回はその中に「タングステンアイ」という進化したのが2体もいた。タングステンアイはかなりの強度を誇り、並大抵の攻撃は跳ね返してしまう。さらに大きさも一回り大きくなり、危険度が増す。ただ相手にするのは問題はなかった。ヤーの「破砕衝」が大活躍するからだ。


 ヤーの破砕衝はどんなに硬い表面だろうと粉砕することが可能だ。しかもヤーは破砕衝を昇華させ「木っ端破砕衝」というワンランク上の技を打てるようになっていた。実際1体を請け負ったヤーは見事に木っ端みじんにしていた。ヤーは戦いの後の高揚感からか硬い相手を粉砕できたことでの爽快感からかはつらつとしている。


 キブリーが立てた作戦は有効打を持つヤーとサポートのキブリーが1体を集中して撃破し、その間はほかのメンバーが他のステンアイを抑え込む。2体目のタングステンアイをヤーが対峙する間にほかのメンバーが普通のステンアイを片付ける手はずだった。


 戦闘なのでイレギュラーは起きるので仕方がなかった。しかし、今回はタンクとして俺が各ステンアイをひきつけ、アッザが遠距離による精霊術ファイヤーアローやヒートウェイブでフォローしていく体制だったところ、急にアッザがタングステンアイに接近戦を挑んだのが今回の痛手の原因だった。


 アッザのことだから隙をついて狙ったのだと思うが、タングステンアイを一撃で仕留められなければ、大きなカウンター口撃を喰らいかねない。まぁ一撃で仕留められなかったものの、ひるんだおかげでヤーが間に合いとどめを刺してくれたので良かった。


 ただアッザはタングステンアイを仕留められなかったのがショックだったのか、一度動きが止まってしまった。それまで俺に集中していたステンアイたちが、一瞬で停止した獲物にかみつこうとした。回避型の装備にしているみんなではステンアイのかみつきでも簡単にかみ砕かれるか、防具がない箇所なら食いちぎられてしまうだろう。アッザの露出した腕の筋肉が旨そうだったのか、2体とも二の腕の位置にかみつこうとしていた。


 1体をバトルピッケルで仕留めた俺がアッザと2体のステンアイの間に入りガードした形だった。1体は盾で防げたが、もう一体をピッケルでさばききれず、腕に嚙みつかれたが、さすがダジット特性の小手、石もかみ砕くステンアイのかみつきを防いでくれた。ただそれでもすさまじい圧力で少し小手がゆがんでしまい、腕も損傷を受けてしまった。改めてモンスターの恐ろしさを実感する。


 アッザの停止は一瞬だった。俺がステンアイ2体を留めた次の瞬間には両方に連続でファイヤーアローを放ち、息の根を止めていたのだから、さすがアッザだと感じた。


「それにしてもアッザはどうしたの?なんで作戦通りにしなかったのよ~」

 ヤーが陽気にアッザを責める

「う~ん、フレイムタンの一撃で仕留められると思ったのよ。実際一番最初の遠征の時、覚えている?ほら、陽鋼石取りに行ったクエスト。あんとき、タングステンアイにばったり遭遇しちゃったじゃない?あの時はフレイムタンで仕留められたのよ?」


「それは、今回のタングステンアイが前のより強かっただけじゃないの?個体差ってやつよ」


「でもそれならさ、あれからだいぶたって、あたしもいろんな能力マシマシになってるわけだし、いけると思ったんだけどな~。あたち、か弱くなった?てへっ!」

おふざけが出始めたアッザ、結構プライド傷ついてる?


「何言ってんのさ~、弱くなるわけないでしょ~、そんなことがあったらたまったもんじゃないですよ。それなら、ほら俺が一撃でやってるじゃん。」


「ヤーはね、だって前はただの破砕衝で、今回は木っ端破砕衝で技がアップしてるじゃん。くらべられないでしょ?あたしは同じフレイムタンよ、威力が弱まってない限り、仕留められるはずでしょ?」


「それは、やっぱヤーの言う通り個体差じゃないのか?」

 俺は納得がいかなそうなアッザにそんな気にすることじゃないと諭したい。


「アッザさんの言う通りです。」

リゼッタが口を開いた。

「少し前から私もなんか違和感というか、おかしいと感じる部分がありました。それこそ一番最初の遠征クエストです。あの時は洞窟に潜る前や潜ってからも結構モンスターに遭遇しましたが、皆さんバッタバッタと倒してました。」


 確かに俺たちのパーティーは最初の遠征クエストで大成功を収めた。初心者パーティーとは思えないほど様々なモンスターに対応できていた俺たちは快進撃を続けて、今では中級者の中でも指折りのパーティーとなっており、ボッサムでもそれなりに認知されている存在になっていた。


「私も攻撃が不得手でしたが、少しは貢献できていました。それが最近は全くダメです。ダメダメになってしまっています。これは個体差だけの問題ではないと思います。」


 リゼッタは回復役(ヒーラー)のため、注目(ヘイト)を集めるような行動は控えるべきだったが、意外にも射的が上手だった。ボッサムのお祭りが開催された際、一緒にお祭りをめぐったヤーとアッザが射的で勝負したところ、リゼッタが一人勝ちしたのだ。百発百中に近い勢いだったらしく、意外な才能だった。


 そのあとリゼッタの才能を生かそうと、メインウェポンの杖に邪魔にならない様々な遠距離武器を試してみたが、なかなか良いものには巡り合えなかった。ある日たまたま別のお祭りで、射的の屋台で懸賞品に魔導腕輪型スリングショットを見つけた際にはリゼッタはとても喜んでいた。イヤーあの日のリゼッタの集中力は半端なかった。


 自分の隠れたる力を籠めることで威力が変わるスリングショットはリゼッタにばっちりあっていた。それこそ装備した初めのころはスリングショットで相手をひるませたりすることで、見事にみんなをカバーしていた。威力もそこそこあったので、たまにモンスターを仕留めたほどだった。リゼッタ本人は攻撃に参加できないことに申し訳なさを感じていたらしく、始めてモンスターを仕留めたときは無表情のままぴょんぴょん跳ね回っていた。


 その当時、リゼッタは遠距離攻撃もできるヒーラーとして、他のパーティーからも引き抜きの声がかかったほどだった。あれには焦った、うちのパーティーの大事な、大事な癒しがなくなるところだった。リゼッタが「私はほかのパーティーにはいきません」と強くいってくれて、うちらもぐっとガッツポーズしたっけな。


 ただいつ頃からか定かではないが、モンスターには当たるがひるまなくなってきていた。それこそ仕留めるなんてことはなく、ちょっかいを出したことで逆にヘイトを集めてしまい、守るのも一苦労だった。そのため、最近では暗黙の了解でリゼッタのスリングショットはいざというとき以外は禁止となっている。今回も攻撃には参加しない前提の作戦となっていた。


 ランランとしていたリゼッタの雰囲気がしょんぼりした時にはみんなで慰めたり、お菓子を与えたり、好きなものをあげたりと慰めていた。若干餌付けに近かったが。ただ本人は頑張って威力を上げようと武器の練習をしている様子だった。


「籠めている力は同じなのに威力が違う、前と同じ威力を出すのに前よりも籠める力を強めなければならなくなっているのは、明らかにおかしいです。」


 リゼッタの主張は確かにそうだ。破竹の勢いだった俺たちが今は明らかに低迷していっている。その原因は全員の不調というか、弱体化であった。各々リゼッタの指摘に思い当たる部分があるのか考えこんでしまう。

「確かにリゼッタの指摘も分かるが、それは自分たちの力量が不足しているだけで、鍛えていけば打開される問題だと思う。」


今まで会話に参加していなかったキブリーが口を開いた。


「ただもう一つ考えるべきことがある。なぜアッザがタングステンアイを仕留めに行ったかということだ。」


「そりゃ~、自分の今の力を試したかったからじゃない、アッザ自身も言ってたよ」

ヤーが突っ込む。


「それも理由だろうが、別の理由があるんじゃないか、アッザ?戦いを長引かせたくない理由、早めにタングステンアイを仕留めたかった理由が。」


俺の心臓の鼓動が早くなる。


「ないわよ、そんなの」


「いや、あるはずだ。というか気付いていたから、動いたんだろ」


ヤーとリゼッタの頭の上に?が浮かぶ一方でアッザの顔が曇る。


「やめよ、あたしが試したかっただけだし、みんな無事なんだからそれでいいじゃない」


「いやだめだ。これははっきりしておかないとこれからのみんなの命に係わる。」


「・・・・・・・」


「俺だろ」

 今まで会話に参加したくなかった俺が声を上げた。相変わらずヤーとリゼッタに?がついている。アッザは顔をしかめ、キブリーは俺の発言を止めようと声を出そうとしていた。


「キブリー、良いよ変に汚れ役をやろうとするな。俺も分っていたし、アッザもうすうす気づいてたってことだろう。」


「ごめん、ちょっと話が見えないんだけど、どういうこと。」


「ヤー、結論から言うぞ。俺がタンクとしての役不足だからアッザが早くに仕掛けることになった」


「役不足って、なにさ、ちゃんとステンアイとか引き付けてたじゃん」


「そうだな、ただタングステンアイの攻撃は危険だったということさ。俺は回避型のタンクじゃない。だからある程度の攻撃を受ける前提で防ぐ。」


「そうだよ、今までだって防いでたじゃん。」


「今まではな。たださっきの議論で弱体化しているのではっていう話があったろ。ご多分に漏れず、俺も同じなのさ。実際ステンアイの一撃で腕がいかれるとは思ってもみなかった。」


「それは、個体差ってやつで・・・」


「だとしてもさ。タングステンアイだった場合はたぶん防ぎきれなかっただろうな。それを危惧して、アッザは早くに仕留めるように動いた。そのあとも仕留められなかった理由を自分に向けさせたのさ。」 


「それを私がみんな弱くなっているって気付かせ・・・」


「いや、ヤーもそれとなく気付いていたと思うよ。弱くなったといったアッザに対して、自分の出来事のように否定していたし、遅かれ早かれ、はっきりしたことだ。」


そろそろ幕を引かないとか、悲しいな。


「もういい、そこからはリーダーである俺が説明する」


「いや、みんなはこれからまだあるんだから、これは俺が話すよ。お前が負うべきことじゃない。要するに俺はこのパーティーのタンクとして機能してないお荷物になりつつある。というかなっているのかな。俺には耐久性を上げる力はないし、モンスターを仕留める力もない。これから上級を目指すパーティーとしては力量不足ってことだ。」


自分で言ってなんかすっきりした。


「やだ、そんなことない」意外にもアッザが否定してくれている。


「いや、俺たちは上級パーティーになって、ゆくゆくはクラウン設立を目指しているんだ。こんなところで立ち止まれないだろ、俺のせいで立ち止まることになったら、俺が嫌だ。

 だから俺の代わりとなるタンク適性を持った仲間を見つけてくれ。俺は今回のクエストでこのパーティーを外れる」


みんなが切り出せないこと、言えないことを代わりに言う。これがタンクってもんだろ?


 「な~に言ってんのさ、そんなのみんなでフォローすれば…」


 「それ本気で言ってるのか?デリックが覚悟して話したことは理解できているだろ?それにこれから無理に上位クエストになって、何かあったらどうする、責任とれるか、ヤー?」


 「責任って。。」


 「デリック、ありがとう。ここまで肩代わりしてくれるとは思ってみなかった。」


 「気にするな、俺が抜けてからみんなが気まずくなる方が嫌だからな。」


 「あたしは追い出したかったわけじゃない」


 「わかってるさ、アッザが気にかけていてくれただけでうれしい。ただこれからまだ伸びる可能性があるみんなの足は引っ張りたくない。ただ俺だったこのままで終わるつもりはないからさ。俺に見合ったレベルで足掻くさ」


 「冒険者はやめないんだな?そしたら、また合流することもあるよな?」


 「ヤー、そうだな、俺がみんなに追いつけたら、迎えてくれ!それまでに俺はちょっと鍛えなおすよ!!それか早く駆け上ってクラウン作って、俺を迎え入れてくれ!」


 「あぁ、約束する俺たちは必ず上に上がって、またみんなでクエストを受けよう。」

 せっかく明るく言ったのにキブリーがまじめに返すから、また重苦しくなる。


 「そうと決まれば、慎重にさっとボッサムに納品しに帰ろうぜ!」

 俺は悲しい気持ちを押し殺して、明るく言った。この結論に向かうまでリゼッタは終始目を潤ませて、口を一文字に閉じていたのが印象的だった。こうして俺はみんなと分かれ新たな道を歩むことを決意した。


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