回想~初めての遠出~その2
まだモンスターとのバトルシーンは描いてないので
躍動感がないかもしれません。
キブリーの指示にみんなてきぱきと動き始めた。俺は出発の前に仕込んでおいた生地を棒に括り付け、焚火の近くで焼き始めた。生地の中には肉や刻んだ野菜が練りこまれており、坊にくっつけて焼くだけの簡単なものだが、焼けたときに具材のうまみが生地に染み込んでうまい。何より生地や具材が生のため、街から出発してその日の野営で食べてしまわないといけないというデメリットが大きく、大量にもっといけないのが残念で仕方ない。
それ以外に体を温めるスープも用意した。これは玉ねぎ等を麹発酵させた塊をお湯に溶かしただけのシンプルなものだが、コクがあっておいしく、長期の持ち運びに便利である。味付けにも使えるとあって、大量に持ってきている。
俺は幼いころからキャンプをしていたのでキャンプの際の便利な料理を多数知っていた。だから野外でも食事に関してはできるだけおいしいものを食べたい主義である。しかし、何回か依頼をこなしていて分かったことは、みんなは食事に対して思い入れが無い。結果俺だけ休憩の際に自分で用意していたものを食べていた。一回だけみんなに昼食を作るか提案したが、興味がなさそうだった。
それにほかの冒険者たちも同じくクエスト時の食事は特段こだわっていないようだった。前に他のパーティーと一緒に昼食を取った時も、俺以外の全員が携帯保存食を食べていた。携帯保存食は小麦粉を練って固めて焼いたもので、水分量も少なく、長期保存がきく。しかも安くて重さもなく、腹にたまる。ただ味気なさ過ぎて、俺は食べる気はしなかった。
今回は初の野営だったので、俺が食材や道具を全て用意していた。みんなと最初持ち物の話になった時、野営時の食事は携帯食料と干し肉をあぶったもので終わらせようと考えていたので、全力で止めた。せっかくの焚火なのに、何を考えているのか。キブリーからは予算に関して口酸っぱく言われたので、質素ではあるが満足できるものを用意したつもりだ。
「おっ、いい香りがするね~」
生地に練りこんだ香草と肉の香りが辺りを包むころ、ヤーが近づいてきた。
「でもさ、デリック、結局のところ、野営した時の食事なんて大したもの喰えないんだから、手間暇かける必要はないと思うよ、正直」
「ほう、あと数泊するよな?だったら、今回の全キャンプで飯が旨かったら、どうする?」
「いやいや、そんな無理でしょ。なんで街の酒場や飯処が賑やかか知ってる?冒険者たちは依頼中にうまいもんなんてありつけない。だからストレス発散もかねて、うまいものを求めて店はにぎわっているんですよ。どんなに手を加えても街の外で用意できるものには限りがある。だから荷物のこととか考えてみんな携帯食料になるんだよ。」
ヤーの言うとおりだった。依頼によっては何泊もする。そのため荷物はできるだけ重くはしたくない。水を沸かすにもポットが必要なように、料理をするなら鍋やまな板とか必要になる。さすがにそんなガチャガチャしたものを用意していくほど余裕はない。たまにお金持ちパーティーや上級者パーティーは運び職を雇って、彼らにキャンプ用具一式を運ばせている。
「つまりヤーは無理だと思っているのね。」自分の支度を終えたアッザが話に入ってきた。
「いや、だって、そりゃ、そうでしょう。ねー、リゼッタちゃん」
ヤーはリゼッタも巻き込んだ。リゼッタもあとは食事を待つだけのようで、焚火の周りに刺さった生地はふくらみ、魅力的な焼き色を見せ始めた。それを眺めながら、
「さすがに初日はおいしそうです。ただ、これが続くとは思えません。」
「あら、リゼッタはそっちにつくのね。よし!そしたらあたしはデリックにつく~♪」
「いがいだね~、アッザなら確実な方につくと思ったよ。」
「何言ってるの?賭け事は大穴を狙うから楽しいのよ」
おい、アッザ負けることが前提でかけていやがるのか。
「あっ、キブリーはどっちにする」
周りの哨戒を終えて戻ってきたキブリーにアッザが声をかけた。
「何の話だ?」
「デリックさんのご飯の話です。今回の冒険中は毎晩のご飯はデリックさんの担当だったので、ずっとおいしいご飯が出るか勝負しているのです。」
「今のところデリックとアッザが組んで、こっち側と分かれているんだけど、そんなうまい飯はホイホイでるわけないでしょ」
キブリーはデリックの性格をよく知っている。基本的に無茶な冒険はしないし、できないことを言う奴じゃない。何かしら勝算があるのだろう。ただ今回キブリーがデリックに提示した予算ははっきり言って一般的な予算より少ないため、かなり厳しいと判断していた。そんな中で野営時の食事が毎晩おいしいとは到底思えない。
「無理だな。そもそも冒険中に食べられるものに高望みをしていないとはいえ、限界がある。デリックも考えがあるだろうが、さすがに無理だ。」
「よし、これで賭けは成立したな。俺とアッザ、キブリーとリゼッタとヤーだな。さてと何を賭けるかな。」
「あたしはリゼッタとの一晩が良いわ」
「おっ、それいいね。俺もそうしたい」
「ヤーはそっち側でしょうが。」
「なん、そしたらそっちに・・」
「ヤーさんはこっちのとりまとめです。アッザさんも変なこと言わないでください。」
無表情ではあるがほほを赤らめたリゼッタが言った。
「あらあたしは本気よ」
「俺も本気ですよ」
「だったらなおさら立ちが悪い。リゼッタ気にしなくていい。そしたら今回の報酬の割合を勝った方が多めにするのはどうだ?」
「いや、そんなのだめだ!!そこは均等だ、減るのは許されん。」
「ちょっと、勝手に賭けの内容かえないでよ。あたしはリゼッタが良い~」
「アッザ、ちょっと黙れ、キブリーお前は俺が旨い飯を用意できないと思っているんだろ、負けないと思っているなら別に報酬割合をかけてもいいじゃないか。もし負けると思っているならこっちに来ればいい」
キブリーは押し黙ってしまった。悩んでいるのは明らかだったが、こちらには来ないだろう。今回の提示された予算ははっきり言ってきつい、キブリーも承知していることだ。だが俺には長年の経験があり、勝算がある。
「わかった。乗った。勝ったら俺たち3人1割増しで報酬をもらう。その分そっちの2人は減るが、良いな。」
「よし、乗った。」
「あたしは乗ってない。あたしはリゼッタが良い~~」
「了解です。ちゃんと料理は公平に審査しますよ。」
「まぁ、無理だと思うけどね~」
大体の話がついたところで、ちょうど練りこみパンとスープが出来上がったところだった。全員にパンを2種類とスープを配り終え、みんなで一斉に食べ始めた。次の瞬間・
「「「「うっっま~~」」」」
「なにこれ、デリカのパンよりおいしいわよ。」
アッザが街にある有名なパン屋のパンよりうまいとほめてくれた。
「あー、かみしめばかみしめるほどうまみが・・・」
ヤーが目を閉じながらかみしめている。
「馬鹿な、あんな金額では高級な材料は買えないはず」
ふふふ、キブリーよ。料理は食材だけではない、腕がものをいうのだよ。
「ももひとふいいでふか?」
口いっっぱいにパンを入れているリゼッタがお代わりを要求してきた。
「すまんがおかわりはあまり用意していないんだ。あと2個だけ余分がある、もう少ししたら焼ける。」
「ではその2個で良いです。」リゼッタは意外に大食いだった。修練道場ではそんなところは見なかったし、今までのクエストでも携帯食料1本をぱっと食べて終わらせていたような・・
「ちょっと、リゼッタ、そんなに食べるとスレンダーな体系が台無しよ。代わりにあたしが食べてあげる。デリック2個渡して」
「まて、デリック、最近リーダーたちとの飲みでだいぶ消費していたから、食費を削っていたんだ。前に俺に援助するといっていたよな。その二つを渡してくれ。」
「何言っているんですか。まだ二人は食べ終わっていません。お行儀が悪いです。こういうものは早い者勝ちです。」
「デリック、あたしはあんたとの賭けのパートナーよ。パートナーに渡しなさいよ」
3人がギャーギャー醜い争いをしているが、こういう時にヤーが入って来ないのは意外だった。不可思議に思った俺はヤーを見ると、スープを飲んで、目を閉じながら上を見上げるヤーがいた。ヤバイ、なんか変なもんでもあたったか。
「スープ、うめぇ~~」
3人はそのヤーの一言で忘れていた存在を思い出した。一瞬で目線を自分の手元にあるスープに戻すと、勢いよく飲み始めた。さすがに暑くて一気に飲み干せなかったが、3人とも夢中になっている。その間にパンを焼いてしまおう。俺は自分の分をゆっくりかみしめて食べていた。なぜだろうか以前焚火で焼いたときよりうまいが気が、、、気のせいか?
「デリック、スープは余ってないのか?」ヤーはスープが気に入ったらしい。
「スープは残っているよそれでもまだ水の確保ができてないから多くは作ってない。あと1杯分ぐらいだな。」
「よし、それじゃ、それで俺は手を打とう」
「ヤー、何勝手に話進めているのよ」
そういいながらアッザはフレイムタンを放つときの構えをしている。
「おい、全員落ち着け、俺は自分の分だけで大丈夫だから。スープはヤー、パンはリゼッタとアッザが1つずつでいいだろ。キブリーは今度孤児院で同じの作ってやるから、今回は落ち着け」
このままでは仲間割れが起きる。妥当な提案を出した。
「妹弟に食べさせられるなら・・」キブリーなら納得してくれると思っていた。
「さっすが、デリックさん、分かってらっしゃる」ヤーが持ち上げる。
後は残りの二人だが、、、、
「まぁ仕方ないわね」アッザはクリアした。よし、このまま交渉成立だ。リゼッタは聞き分けが良い娘だ。大丈夫。しかし安心は一瞬で砕けた。
「ヤです。パンもスープも私のです」うわ~、駄々っ子が現れた~。意外だった。リゼッタがこうなるとは・・・
「ふぅ~仕方ないはね、リゼッタ、パン2つで納得して。」アッザがあっさり引いた。
「ありがとうございます!!」リゼッタ満点の笑顔を見せた。いつもの無表情からのギャップにみんなが驚いた。
「リゼッタ、その代わり今晩は私と添い寝して♡」
一瞬でリゼッタの顔が戻った。くそっ、余計な一言が無ければ、もう少し笑顔が見られたのに。それにしてもアッザはうまい提案を。どちらにしてもアッザにはおいしい話じゃないか、くそ、俺が焼いたパンなのに。
リゼッタが熟考して「添い寝だけですよ。変なことはしないですよ。」と念を押して、パンを選択した。それにしても、こんなに食いつくとは、意外だった。
「それにしても、パンもスープも異常においしくないか」ヤーがぼやいた。
みんな食事を終えて、支度も整えているので、あとは寝るだけで、各自一人用のテントに入っている。ただ一つのテントは荷物でパンパンになっている。アッザとリゼッタは狭いテントに二人で入っている。二人の表情が対照的過ぎて、面白い。
「皆さん叫んだら助けに来てください。」
「大丈夫よ、あたしがすぐに助けてあ・げ・る。」
「やっぱり外で寝ます。」
「だ~め、さっきの約束は?パン食べたでしょ?」
「だったら、さっきの約束で添い寝だけです。変なことはなしです。」
「抱きつくのは?」
「だめです。」
「じゃぁ・・」
アッザとリゼッタは交渉で忙しい。何かあったらアッザを引っぺがすつもりだし、そもそもアッザがそんなことはさすがにしないだろ、たぶん、うん、だめかな?
「聖なる灯の効果かもしれない」
キブリーが煌々と燃えている炎を見ながらヤーの疑問に答えた。
「どういう意味だ?」
「焚火の強化というリゼッタの意見を考えると、「聖なる灯」といわれた炎で作られた何かはその性能を増すんじゃないか。今回は聖なる灯で料理したから夕食がよりうまくなった。」
「なるほどね~、それはあり得るかもね。」ヤーが適当な相槌を打ってきた。
「その原理だと武具を作るときに俺の火で作れれば、性能が増すことになるが、陽鋼石をダジットに持っていく時に試してみるか」
今回の依頼主であるダジットは何件かある街の防具屋の亭主で、俺が足繁く通っている店の一つだ。盾役になると決めてから町に数件ある防具屋を見て回ったが、ダジットが一番親身になって話を聞いてくれた。それ以来防具の微調整等足繁く通っていたことで、他のメンバーもダジットに防具を依頼することになった。もしクラウンを作ることになったら、真っ先に入ってもらいたい一人である。
パーティーが上級者になっていくにつれて、専属の武具屋や運び屋、道具屋といった存在が重要となっていく。クラウン(共同体)として活動することで、冒険者は安く武具の調達や調整ができるし、武具屋等は定期的な収入やギルドを通して材料の調達をしなくて済む。また所属しているクラウンが有名になれば、お互いのブランド力が高まるため、お互いにメリットが大きい。
俺たちの目標もクラウンを立ち上げることだし、更なる夢として、新たな導き石を発見し、自らの自治都市を築くことだ。これは全冒険者の夢ともいえる。
今回はダジットがギルドに出したクエストを俺たちが受けた形だ。クラウンに所属しない限りは
直接冒険者に依頼することができないが、裏で示し合わせればそれも可能だ。というかよくあることで、中級以上のクラウンを作る一歩手前のパーティーはよくやっている。
では、なぜペーペーの俺たちパーティーにダジットがここまで協力してくれているのか。それは防具屋に対しての昨今の風当たりが大きく影響しているのが強い。
現在の傾向では防具に関しては、比較的動きやすく邪魔にならない、回避型防具というものが好まれている。命を守るために防具は重要ではあるが、攻撃を受けることを前提の防具だと依頼の都度防具のメンテナンスが必要になり、コストがかかる。さらにもし怪我をした場合は治療費もばかにならない。さらに装備が重くなるとそれだけ冒険の移動等日程も考慮しなければならない。
それなら攻撃をよけることを前提に、できるだけ早くモンスターを倒し、怪我を最小限に抑え、最低限関節と命を守れる装備へと冒険者全体が好みが傾いていった。その結果、冒険者の熟練度も成長が著しいが、大きな攻撃を受けた大体の冒険者は、命を落とすか、冒険業を廃業する状況になる。まぁ、その一方で保険屋といわれる稼業も潤っているのはたしかだ。
俺も回避型盾役を考えたが、そこまで俊敏性はないため、現実的ではなかった。導き石から「見切りの神髄」という能力を見出されれば話は変わっていたが、基本耐性値が高いことが分かっていたのでどっしりと構えた盾役になることにした。ただこれも「不壊の心得」といった適合した能力があれば良かったのに。
世が回避型防具傾向にあったため、売っている防具の中から自分のスタイルに合う防具を見つけることに四苦八苦していた。その時に出会ったのがダジットだった。彼は命を守る装備をおろそかにする今の世論に真っ向から対立していた。ただ肉盾といわれるような鈍重だけど攻撃を全て受ける装備ではなく、より冒険に実用的な防御型防具装備の開発にいそしんでいた。
お互いの考え方に共通点を見出し、意気投合した俺たちは互いの将来についても語り合いだし、現在の交流につながっていた。まぁ都度で差し入れをしていたのも功を奏したのかもしれない。
「それにしても、ダジットはやっぱり変人だよ。陽鋼石を防具に取り入れようと考えているのは。ふつうは武器でしょ。」
「確かにな、ただ俺たちはこれまで難なくモンスターを倒せたかもしれないけど、今後はどうなるかわからない。それなら防具に何かしらの性質を付与したほうが良いだろう?」
「いや、そうだけど、それでも防具にのせられる性質って多くないって聞くよ。それなのに大枚はたいて陽鋼石取ってきてってなぁ~」
「まぁいいじゃないか、依頼主の希望なんだから。それに大枚ってほどの金額じゃないだろ。」
「そうです。ヤーさんだって納品数以上の陽鋼石はもらう条件で受けたではないですか。」
アッザにがっつりホールドされたリゼッタが無表情の顔をこちらに向けていた。アッザに根負けしたようだ。そのアッザは幸せそうにリゼッタを抱き枕に寝息を立てていた。
「まぁね、ただ納品数が少ないからさ~、無駄金に近いんじゃないのって思っただけでさ」
「そうだな、確かに納品数と依頼金は比例するから少なくなるのはわかるが、今回はやけに少なかった。俺もダジットに確認したが、実験で使うからそんなに必要ないらしい。それなら市場で買えば済む話だが」
キブリーとヤーが詮索し始めた。まずい。
「そこは俺がダジットと話をしていたのが影響したのかもしれない。俺の能力が開花しないから遠征するクエストが受けられないとか、手ごろなクエストが無いかキブリーが探しているとか話していたからな。」
半分本当の半分嘘だ。
「な~るほどね、デリック君は悩んでいたのか、うん、うん、わかるよ~その気持ち」
ヤーが納得してくれた。やーも自分の「破砕衝」の感覚に苦慮していたから通じるものがあったらしい。
「だからダジットから突然話が来たのか。そっか、それはすまなかったな。俺が焦らせてしまったみたいだな。」
感が良いキブリーも俺にプレッシャーを与えていたことに気が病んでいる様子だった。
「いや、気にするな。リーダーとしては当たり前の判断だし、みんなの能力がはっきりしてからの方が遠征クエストの成功確率は上がるからさ。それに能力が分からなかったのは俺の問題だし、代わりに街の周辺のクエストでパーティーの攻撃連携の確認や、そもそもこのパーティーの攻撃力が高いことが分かったわけだし。」
「そうだよ、キブリー、街周辺で地道に活動したおかげで、俺も破砕衝になれたわけだし、今回の遠征でデリックの力も分ったわけだし、結果オーライでしょう。」
「そうだな。初の遠征がこんなに危なげないのはいいことだったな。」
あぶね、何とか回避できた。ヤーはたまに変なところに感付くし、キブリーが熟考し始めるとヤバイ。実はダジットに悩みをちょろっと話ときに依頼を持ち掛けられたのは事実だった。ただ納品数と依頼料に問題があった。本来のダジットが必要としていた陽鋼石の数は今回の納品数より多かったが、それをギルドに依頼してしまうと依頼料が高くなってしまい、クエスト発注ができなくなってしまう。
それじゃ、ギルドを通さなければ良いか?そういった依頼を脱クエと呼び、バレるとギルドからの斡旋がなくなり、のけ者にされてしまう。そこで俺たちは二人で共謀することにした。納品系のクエストではリゼッタが言ったように余剰分は自分の報酬として受け取れる。ギルドクエストの場合は一度ギルドを通し、任意の店に売ったり、オークションにかけたりすることができる。クラウン内なら直接渡せるからいいのにな。
それならギルドを通して、ダジットが買い取れば良いのか。それもルール違反となってしまう。なぜなら今回のダジットが依頼をしたおかげでほかの店はおこぼれをもらえるかもしれない。それなら依頼をしたダジットにも微々たる金額が返還されるべきだということで、売却やオークション売却額の約2~5%がダジットに入ることになる。そこの管理兼手数料もギルドが担っている。
依頼料の手続き料等で成り立っているギルドが黙ってはいない。ならどうするか。誰にもバレないようにダジットに陽鋼石を渡すしかない。バレたら咎められるが、金額の授受がない寄贈ならそこまでは問題視はされないだろう。ただギルドには目を付けられるかもしれない…。
みんなには申し訳なかったが、俺の今後を考えるとなんとしてもダジットに協力しておきたかった。そのため、今回は率先してポーター(運び屋)的役割を担い、ダジットからもらった二重底のポーターバックを作ってもらったのだ。ダジットは心配してくれていたが、なんとかやるしかない。
はっ、リゼッタが無表情な眼で俺を見つめている。疑いのまなざしだ、感づかれたか。。。
「デリックさん、確認です。」
「はい」
ヤーとキブリーも注目する
「夜食はないのでしょうか?3人で食べようとしていませんか?」
ズコッ、俺たち3人はこけた。
「リゼッタ、さすがに期待には応えられない。明日少し多めに分けてあげるよ」
「本当ですか!?それなら大丈夫です。おやすみなさい」
花柄が周りを囲んでいる雰囲気を出すが、表情にあまり変化はない。
しかしこの様子なら今回の賭けは俺の勝ちだな。
「それじゃ、俺たちも寝るか。聖なる灯のおかげで、安心して寝られるってのはいいね、休み」
ヤーはそういうと自分のテントに潜り込んだ。
「明日は目的地につくし、モンスターとの衝突も避けられないから、気を引き締めていこう、お休み」
キブリーは自分に言い聞かすように周りに注意して寝床に入っていった。
「お休み、俺は焚火を調節してから、寝るよ。」
そう言うと焚火の様子を見た。薪木はまだまだ問題なさそうで、一晩ぐらいなら持ちそうだった。というより、減っていない。普通ならすでに炭となっていてもおかしくないのに。導き石によって自覚されたことにより、以前の俺の焚火とは違うかもしれない。
「これは検証していくべきだな。」
みんなはもう寝てしまっているので、話はできなかったが、自分の能力の特異性を確かめていくことに少しワクワクし始めていた。
こうしてデリックたちの初めての遠征の初日は終わった。この時までは自分の能力がパーティーにとって有効だと思っていた。それが結局はたかが「焚火の強化版」という位置づけで終わってしまうとは。デリックは今思うとあの時もっと真剣に調べておけばよかったと感じていた。