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回想~初めての遠出~

少しずつですが、デリックが一人旅をすることになった経緯が明らかになっていきます。

ただ今デリックが思い出しているころは、そんなことになると思ってもいませんでした。

 強化された焚火と揶揄されたデリックの聖なる灯が拠点を煌々と辺りを照らしている。焚火なので燦燦とした夏の昼のような明るさではなく、穏やかな橙色の明るさなのだが、少し普通とは違う点がある。


 それはデリックの焚火から1m離れたぐらいの明るさが半径100mの暗闇を包み込むように照らしている。本来焚火の明かりと暗闇の境界線はあいまいで、焚火から離れれば徐々に暗闇と同化していく明るさとなるはずが、そんなほんわかした空間というものが存在していない。100m先は境界線が貼られたかのように唐突に暗闇と化している。


 さらに面白いのは明るさが焚火を囲む球体上にひろがっており、例えば地面を100m掘っても明るいのだ。さらに焚火の種類や大きさによって、明かりの調整や広さも変えることができるのはとても便利だった。


 今回ホールドオーバーにした理由も焚火する上で必要な資材があったというより、ホールドオーバー形式の場合、明るさの広さは大体半径100mちょうどというところからだった。拠点から洞窟までの距離であり、100m先の明日に潜り込む洞窟入り口付近を確認できるのでちょうどよかった。


 クエスト(冒険者への依頼)ではないが、久しぶりに未知の洞窟に潜り込むため、デリックは緊張していた。だが不安や恐怖といった感情は一切なく、明日の探索のための準備をし、夕食をしっかり食べ、明日に備えようと考えていた。


 ここで普通の冒険者なら一つ疑問が残る。人々が住まう場所以外ではモンスターと呼ばれる化け物が存在する。彼らは人々を襲い、破壊の限りを尽くしているため、人々からモンスターと認定され、恐怖の対象となっている。まぁモンスター側からしてみれば餌と認識しているか、自分たちの住処に勝手に侵入してきた敵と認識したから攻撃したという程度で当然と思っているかもしれない。ただ襲う側の理由は関係なく、人にとっては彼らのすべての行為は被害に当たり、敵対する化け物となる。


 そのモンスターがいるため野外でのキャンプでは一人見張りを立てなくては危険である。冒険者なら誰しもが知っていることで、パーティーを組んでいるのは順番に見張りをするためだ。もし結界を張れる魔道具や何かしらの術者がいたり、キャンプをする周辺に何かしら罠を張っていたりするのであれば見張りはそこまで必要ないが、デリックは一人だ。魔道具も持っていないし、魔法使い等ではないし、罠を張る技術はない。ではどうやって彼は自分の安全を確保しているのか、冒険者は訝しがるだろう。


 「やっぱり俺の焚火にはモンスターは寄り付かないで間違いないな」


 デリックは几帳面に焚火の詳細を書き込んでいた。「焚火ノート」という自主作成のかなり使い込まれたノートには今まで冒険に出たときの焚火の様子を書きこんでいる。焚火に使った木材の種類、焚火の方法や明るさの範囲と推測等詳細を書き込むことで、自分の「聖なる灯」の効果を検証しているのだ。


 書き始めた当時、パーティーのメンバーのリアクションは様々だった。ヤーとアッザは大笑いし、馬鹿にはしてはいないものの、そんな真剣に焚火の研究をしても仕方がないだろうと言われた。リゼッタは興味関心がなさそうだったが、パーティーリーダーのキブリーは真剣に何を書き込むべきか一緒に考えてくれていた。ただ今思えばその当時からデリックをパーティーの不安要素と思っていたのかもしれない。


 デリックが導き石から知った自分の隠れたる力の発動した時は、パーティーと初めて遠征した洞窟を探検した時のことだった。デリックは今でもその時一瞬だけ見せたみんなのアホ面を思い出すと笑みがこぼれる。あのリゼッタですらぽかんとした表情をしていた。



~パーティー初めての遠出~


「あっ、これが聖なる灯だ」


「「「「へっ」」」」」


「いやいやいやいや~、これはただの焚火でしょ~、何が聖なる灯なの?」


「どうゆう意味だ?デリック」


「いや、導き石から超感覚形式で伝えられたから分からなかったし、調べても出てこなかったけど、今自分で焚火を起こしたら、これだって感覚があってさ。多分間違いない。これが俺の隠れたる力みたいだ。」


実は今までみんなと少しずつ依頼をこなしてきていたが、「聖なる灯」という自分の力を発揮できていなかった。というのも隠れたる力について調べることができるのだが「聖なる灯」というものがヒットしなかった。


 冒険者たちは街にあるギルドで冒険者登録をすると各自の隠れたる能力について詳細を逐次報告する義務が発生する。これから冒険者になろうとする者たちが導き石から与えられた力を有効活用できなければ、町の外の脅威にすぐやられてしまうためだ。


 だから各都市は必ずといっていいほど隠れたる力について綴った記録書「アビリティーレコード」を保有している。これは「冒険者」の生存率を高めるために重要であり、全都市の冒険者たちには情報がすべて共有されている。


 ただ俺の「聖なる灯」はそのアビリティーレコードに無い、新しい隠れたる力だった。似たような名前で「聖なる波動」という力があり、詳細に記載があった。なので、複数ある「聖なる波動」の発動方法を全部試しては見たものの何も発動はしなかった。ただ試行錯誤の過程は恥ずかしいものだった。


 方法1、両脇を閉め、地面に力強く踏ん張り、気合を入れることで発動する

     →対象者の周辺に円形状の聖なる波動が発動し、周りにいるものを吹き飛ばす。

 方法2、両手首を合わせて手を開いて、腰にもっていき、体の前方へ突き出す

     →開いた両手から球体上の波動が現れ、対象物を破壊する。


修練道場の一部を借りて試したのだが、一心不乱にポーズを決めているが何も発動されていない様子を道場に通っている冒険者見習の人たちにくすくすと笑われてしまい、結局は違うものだという結論で終わった。


「なんだか、「聖なる」って感じがいっさらしないのですが、間違いじゃないのでしょうか?」

焚火を見て、リゼッタが言った。方法だけで考えると聖なる波動もいかがなものかと思うが、確かに俺が認識した「聖なる灯」という名の焚火からは名前から察する神々しい感じはない。すると


「デリックの言ってることは間違いないわ。この焚火は普通の火じゃないみたい。マッポが火として操れないみたい。」


 アッザに名前を付けられたのか、自分で名前を教えたのかはわからないが、アッザは火の精霊に「マッポ」と呼んでおり、マッポ曰く俺の付けた焚火はマッポが火の精霊として認識し操る対象外の存在となっているとのことだった。もっと詳しく聞きたかったが、アッザが「ったく、ダメな子ね。このくらいの火も操れないなんて」とボヤいたために、機嫌を悪くしたのかそれ以上は教えてくれなかった。といっても、精霊が操れないのだからその性質がわかるはずもないのだが。


「そうなんですか。なんかパッとしない、残念な感じですね。」

 リゼッタの相変わらずの一言にグサッとくる。


 みんなで話し合って、各自の力をしっかり把握してから本格的なクエストを行おうと決めていたが、なかなか判明しない俺の力に業を煮やし、今回初めて野営する必要のある遠征クエストを選択していた。


 これまでもボッサムの街の近くで薬草や鉱石を取る依頼やそこまで強くないモンスターを狩る討伐クエストをこなしてもいた。さらにキブリーが冒険者リーダーとの交流から得た情報も加味して俺の隠れたる力が無くてもいけると判断しての選択だった。


 冒険者ギルドにパーティー登録する際にリーダーがだれかも登録する。これはギルドが定期的に情報共有を図る会を開いてリーダーを招集していため、必須項目なのだ。いくら広いギルド本部の建物といえど、数多くいるパーティーのメンバー全員を集めたらパンクする。またそのあとに行われる情報交流会という名の宴会費用を考えると集める人数は絞りたいのだ。


 この宴会の席は同じ会議に出席している冒険者からクエストやモンスター、目的地周辺の地理といった様々な情報を得る貴重な場で、ギルド本部も場所や食べ物の提供などある程度の援助をしてくれている。彼らもこういった場を設けて、所属している冒険者たちと親密になることでギルドのより一層の組織強化を図っている。


新米パーティーはこの場で諸先輩方から貴重な情報を聞く、まぁ酒の席なのでみんな口が軽くなるのだが、さすがにタダではない。お酒は有料のため、情報を持っている相手に1杯おごるのが通例だ。ただ、情報を聞き出すために何杯もおごらないといけないかもしれないし、飲ませすぎて、肝心の情報が聞けない可能性もある。


 キブリー曰く、ワイワイガヤガヤした席で落ち着いて話すよりは、ヤーのような気楽で盛り上げられる性格の方がよりいろいろな情報を得られるらしい。確かにヤーは他人の懐に入るのが旨い。だからキブリーがヤーにリーダーを任せたかった理由の一つだ。あと、奢る1杯の金額もキブリーにとっては嫌な出費というのもある。これは当日参加したリーダーの自己負担で、ケチといわれてしまうかもしれないが、キブリーの事情を考えると申し訳ない。


 とにかく今回の冒険は初めての遠出のため万全を期して、情報収集から日時調整まで細かな部分まで詰めて挑んでいた。これはキブリーの性格がリーダーに向いている証拠だとも思うのだが。


 キブリーを通じて、先輩冒険者たち話から夜のフィールドや野営するときの気のゆるみがどれほど危険か知ったメンバーはかなり緊張していた。なぜなら徐々に暗くなるにつれ、いるかいないかわからないモンスターたちの気配を必死で探し、警戒しながら進んでいた。街からだいぶ離れ、これから潜ろうとしている「陽鋼石の洞穴」の手前でヤーがいきなり「今日はここをキャンプ地とする!!」といった時には一瞬緊張も和らいだが、すぐに気が引き締まった。


 そんなとき焚火経験が豊富な俺が焚火の用意を率先して行い、他のメンバーが2名周辺警戒、2名テント設営をしていたタイミングで、焚火が大きな火を上げたときにいきなりの「聖なる灯」発言をしたので、みんな一瞬止まってしまった。

 

 「アッザのマッポは正しいのかもしれない。周りの明るさがおかしい」

 おれの「聖なる灯」宣言から周りをよく観察していたキブリーが気付いた。空を見上げると明らかで焚火を中心として一定の明るさを保ち、唐突に明るさは消えていた。薄暗いところはなく、影も発生していなかった。


 「なんだかな~、釈然としないんだけど~、「聖なる灯」ってこんなもん?」


 「ヤーさん、それはデリックさんの気持ちを代弁したのですか?」


 「火の熱さは普通の焚火と変わらないわね。マッポなんでこれが操れないのよ」

 アッザはまだ焚火の火を操ろうとしている。焔使いとして気に入らないみたいだ。


 ボンッ!!


 「アッザ、どうした?」

 「うわっ、ちょっといきなりなにすんの。なんかやるならひとこと言えよ」


 「ごめん、ごめん、ただ強い炎なら打ち消せるかと思って」


 「確かに一理あるが、いきなりはどうかと思うぞ。しかし、やっぱり本物みたいだな。焚火には何ら影響がない。」


 キブリーの一言にみんなが同意した。アッザがいきなり放ったファイヤーアロー(火の矢)はそこそこの威力があり、焚火の木を一瞬に消し炭にできるはずだった。だけど、俺が作った「聖なる灯」という名の焚火の炎が、アッザのファイヤーアローを飲み込んだのだ。


 「う~ん、これは色々検証してみないとわからないな」

 キブリーの一言に、俺も同じ意見だった。


「ちょっとむかつくわね~、フレイムタンを打ち込んでもいい?」

アッザが何としても聖なる灯を上回りたいらしい。


「確かに焚火の炎に火の矢は吸収されたから、フレイムタンなら薪を焼失させて消せるかもしれないな。」

キブリーがつぶやきながら答えたが、それ以外のことも考えているらしく顎に手を当てている。


「いやいやいや~、さすがにそんなことやったらあぶないでしょう」

といいながら、ヤーは若干焚火から離れて行っている。アッザがフレイムタンを打ち込むことを想定しているのだろう。俺を含めアッザ以外後ずさりしている。


「そうです。アッザさんのせいでモンスターが近づいてくるかもしれませんよ」

リゼッタの至極まともな意見、


「あれ、そういえば今誰が見張りをしている?」

 その俺の一言にみんな一斉に周りを警戒した。ヤーのやっかみやアッザの挑戦的な試み、キブリーの推測に、リゼッタの無感情のボーっと、全員が周りへの警戒を解いていた。あれだけ夜が危険だと意識していたのに、俺の突然の隠れたる力「聖なる灯」の発動でみんなが忘れていたのだ。やばい、本能がそう伝えていた。伝えてはいたのだが、、、


「な~んか、何にもなくない?」


「そうね、ファイヤーアロー撃った時にも音はしただろうに」


「モンスターは夜活動が活発化しやすいから音とか光に過敏になっているんだよな?」


「あぁ確かそのはずだ。」

俺の確認に応えたキブリーも不思議そうだ。先輩冒険者から何度も言われていたのだろう、俺たちにも何度も口を酸っぱくして説明していた。


「ヤーさんなら酔いすぎて、他のリーダーさんの盛った話を鵜呑みにするかもしれませんが、キブリーさんならそんなことはないと思います。」


「リゼッタ姫~、俺をけなしてない?」

「けなしていませんよ?事実の確認です(にこっ)」

ヤーはしょんぼりしながら、リゼッタの事実確認を聞いていた。


「そう、事実の確認をしよう。まずデリックの作った焚火は「聖なる灯」だ。

 アッザのファイヤーアローや、この空間に広がる明るさが証明している。次に今俺たちがいるのはモンスターがいるフィールドで、外から見れば暗闇に見える大きな目印となっているはず。モンスターには視覚に頼る奴らもいるだろうからな。さらにアッザの精霊術を放った音や精霊力を感知する奴らもいるから、普通は狙われる可能性が高くなるはず、しかし周りには気配が一切ない。みんなそれ以外で気づいている点はあるか?」


 さすがキブリー、こんなに冷静に判断できるのだから、やはりリーダーはキブリーだ。


「一つあるわ、私とマッポのファイヤーアローの威力が高すぎてモンスターたちが逃げたってところよ」

 自信たっぷりに言うアッザに、苦笑しつつも確かに一理あった。アッザは修練道場でもかなりの好成績だったし、他焔使いのファイヤーアローを見た時と威力が違っていた。放たれる時にボンっと爆発音をだしてとんでいくもんな~


「う~ん、なんか釈然としないな~。アッザのことは認めているよ。でもさ~、さすがにそれはちょっと、いきすぎでしょ~。ちょっとみんなで光の端っこまで行ってみない」

ヤーの提案にみんなうなずく。ただアッザはちょっとフクれていた。


 野営地の設置を後回しにすべきかどうかは微妙だったが、今起きている現状把握を優先し、光の際まで歩いてみた。注意深く観察し端まで来るとそこから先が通常の夜の暗さが広がっており、そこからキブリーの指示で際をぐるっと回ってみた。そこで分かったことは焚火の光がドーム型に広がっており、ドーム内は統一の明るさだが、ドームの範囲を超えると途端に夜の暗さが広がっているのだ。


 またぐるっと回っている最中にガブリスというモンスターを発見した。最初は並行して歩いていることに気が付かず、ヤーがいきなり驚いた声を上げたことで気が付いた。本来ならキブリーが最初に察知するのだが、考え事をしていたようだ。ただヤーの声が届いてないのか、ガブリスは全くこちらに興味関心が無さそうで6体が周りを警戒しつつも移動しているようだった。

「面白いな」キブリーがつぶやくと光量の範囲と性質について仮説を俺たちに説いた。光はある程度の広がりを見せドーム型に広がっていること。また結界のようにその中にはモンスターは居られないし、入っても来ない。


「ここにガブリスの足跡がある。最初はここにいたのがデリックの焚火から逃げるように光の外に出たんじゃないかな。この数からして、先ほどの6体だろう」


 確かにその足跡や状況から整理するとそれがもっともらしい内容だった。


「いいじゃん、結界いらずじゃん」焚火の方へ歩き出しながら、ヤーが陽気に声を上げた。

すでに周囲への警戒が解けており、夜の怖さを感じる必要がなくなったので、だいぶ気が緩んでいた。


「そうね、キブリーの仮説が正しければ、今晩は安心して寝られるわ。夜更かしは美貌の妨げになるし、私の美貌が損なわれるのは人類の宝を失われるのに等しいことよ」

 アッザ、それを言えるお前がすごいよ。


「結局、聖なる灯は焚火の強化版という感じなのでしょうか。」リゼッタの言葉が俺を曇らせた。


「かもしれない。昔から俺は焚火をするのが好きでよく森の中で焚火を起こして過ごしていた。その時も何のモンスターも襲ってこなかった。特に考えたこともなかったが、今思うと森の中で野営していたのに襲われないってことは偶然にしては都合が良すぎたかもしれないな」


 なぜリゼッタが焚火の強化版という表現をしたのか。それは冒険者ギルドや道具屋で「聖なる灯」のような力を発する「魔除け香木」といった道具を売っているからだ。使い方も焚火にくべるだけで周辺のモンスターを寄せ付けないし、光も強くなる効果があった。


 結界を張ることができないパーティーの必需品であり、罠などを設置する時間や見張りを置く必要も無くなるので上級者のパーティーでも利用されているほど便利なのだ。ただ匂いがちょっと苦手な人も多い。


「でもよかったです。私あの香りが少し苦手で、これから火にくべるかと思って、実は気が滅入っていました。」


「そうね、マッポもあの匂いは好きではなかったみたいだし、よかったわ。」

「そうだね、飯のうまさが半減するし、ちょうどよかった」


 それぞれの意見を聞いて、案外便利な能力かもしれないと実感していた時に突如キブリーが雄たけびを上げた。


「ぬぁぁぁぁ~、先に知っていれば、香木代が浮かせられたのに、しかも荷物も減って、もっとアイテム収集できたのに~~~」


「すまん、キブリー、先に力が判明していればこんなことには。」


「まぁ、いいじゃん、香木は必需品だから定価で売れるよ。荷物の量はペナルティーとしてデリック君が多めに持ってくれるさ」


「はぁ!?ヤー、いや、それとこれとは・・・」


「おやおや~、今謝罪したのはデリック君でないかい?」


「デリック頼んだ、俺には少しでも金が必要なんだ。みんなのために」


「ぐっ、そりゃ知っているけど。わかった。頑張ってできるだけ持つよ。ただあまり期待するなよ。」


 キブリーは孤児院出身で、今は訳があって出身の孤児院を運営している。現在そこにいる子どもたちの父親的存在になっており、パーティーメンバーもそのことをよく知っているし、それ以外にも知っていることがある。


 「お兄ちゃんに何かあったら、お願いします」

 丁寧な口調とは裏腹に包丁を突き付けてくるかわいらしい女の子を思い出し、ゾクッとした。あれは頼みではなく、「何かあったら、ただじゃすまないぞ」という脅しだった。女たらしのアッザでさえ、入り込めないほどキブリーを慕っているのはラピスという少女で、キブリーの妹的な存在だ。同じ孤児院出身でキブリーがいない間は彼女が子供たちをまとめている。いわばお母さん的な存在だ。そんなことをほのめかすと「お兄ちゃんと夫婦だなんて」と妄想を広げ始める。俺自身はキブリーが彼女を妹的に扱っている姿しか見たことが無いから何とも言えん。


 今回のことも何かの拍子にラピスに伝わったら、「お兄ちゃんを助けなかった」とか言って、包丁を突き出しかねん。そのことを知っているから、ヤーも話を振ってきたのだろう。くそっ。キブリーにはラピスの手綱をしっかり握ってほしいのだが、ラピスを含めた孤児院の子たちに対してはとことん甘い。


「はぁ~とりあえず、夕食を作るよ」俺が疲れた表情で提案した。


「そうだな。他のみんなは寝床の準備と明日の探索の用意をしてくれ。俺は念のためもう一度周辺をみてくる。」


 キブリーの指示で各自散開していった。


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