貴族とのやり取り
「はぁあああああああああああ」
キブリーは両手を前に組み、その両手の間に何かを見ているのかのぞき込むように額を当て、口から白い煙を吐き出しているみたいだ。
「ぐぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁ」
アッザは椅子に座り握りしめた左腕をテーブルに乗せたまま下を向いて、奥歯をかみしめているようだ。
「あ~~~~~~~~~」
ヤーは椅子の背もたれに頭を預け、手足をダラッとして口から頭から湯気が立ち上っている。
「・・お疲れ様でした。」
「・・お疲れ様」
3人のあまりにもの憔悴しきった姿にそれ以外の言葉を発することができず、リゼッタと俺はお互いに困惑の表情を浮かべていた。
本当なら、今から情報交換をすべく話を聞きたいし、話をしたいところだが、それを許さない雰囲気が3人から醸し出されていた。
俺たちも大変だったと思っていたがこの姿を見ているとまだ良かったようだ。
「すまない、30分ほど気持ちを切り替える時間をくれ、アッザ、ヤー、それぞれ30分後に気持ちを切り替えてここに戻って来よう。」
「「・・・・」」
二人は静かにうなずくとふら~とどこかへ消えていった。キブリーも重い足取りではあるがゆっくりと自室に戻っていった。
「まぁ、おとなしく待っておくか。」
3人が戻ってくる間、リゼッタと俺は穴兎亭の食堂端のテーブルで、各貴族の屋敷で何が起きたかを推測しあっていたところに、この宿の看板娘であるクラリスが話に入ってきた。噂話好きというか推理好きというかいろいろと想像するのが好きらしい。
やんややんやと話をしていると遠くで「ああああああ」という大きな声が聞こえたかと思うと「くそおおおおおおおお」という声も聞こえてきた。その声が聞こえるたびに3人であーでもない、こーでもないと想像を膨らませていた。
30分は少し手前くらいにキブリーが食堂に戻ってきた。どうやら一風呂浴びたようで、だいぶすっきりとさっぱりしている。
「あとの二人はもう少しかかるかな。」
そういうとクラリスに何でもよいから軽食が取れないか質問し、厨房にいる兄弟にあり合わせで軽食を持ってきてもらうようお願いした。
「なぁ、キブリー、大丈夫か?」
「ああ、俺はまだいい方さ、アッザにはある意味苦行だったし、ヤーにとっては苦悩かな。それで、そっちはどうだった?」
俺とリゼッタは手短にこっちで起きた出来事を話し、買付は半分程度終わっている旨伝えた。
「そうか、そしたら明日は買い付けが終わったら、用事を頼まれてくれないか。」
「いいですけど、どういう用事ですか?」
「二人が来るまで、もう少し時間がかかるだろうから先に話し始めるとするか・・・、話が長くなるけど、許してくれ俺の話で疑問に思うところがあったら適宜質問してくれ」
まず初めに向かったトラップ家、この貴族はランクとしては中級らしく伯爵家という家柄らしい。ヤーの記憶の中の話では特に目立った特徴はないという話だったから、適当に話を併せておけば終わるだろうと思い、俺たちは完全に油断していたんだが、なかなかの癖のある家だったんだ。ああ、そうだ、何となく、協力するかしないかごまかす感じで断言はせずに、難しい話ではあるがな。で、まずトラップ家に到着したら当主である伯爵様から家柄や王都内での立場、トラップ家が支援するメリットなどの説明を直接受けた。ああ、冒険者には異例というかやはりクラウン立ち上げに注目しているんだろうな。さらに詳細の提案を聞いて、多分まずまずの内容だったような気がする、ん?なんでうろ覚えかって、それが、話の途中から突如お香みたいな煙が充満してきてな。最初は貴族の嗜む何かなのかと思ったら、俺とヤーの両脇にいきなり、その美人の給仕たちが現れてさ、何か得体のしれない飲み物を勧めてきて。伯爵もその飲み物をやたらと勧めてくるんだ、色々話を聞いて疲れただろうから一杯飲んでくつろいでくれと。あからさまに怪しくて、飲むのをためらっていたがさすがに断ることもできずに飲みながら横を見たら、アッザの横にもイケメンと美少年のペアがいつの間にかついていた。
そしたらさっきの美人の給仕たちは後ろに下がらず、俺とヤーにまぁ、その纏わりついて、リゼッタ、そんな顔しないでくれ、ああ、デリック、その通り、まさかの催淫効果のあるお香と飲み物で、そう、利用したまさかのハニートラップを仕掛けてきた。貴族がそんなことをするとは知らなかった。ん?結果はどうなったかって?いや、その、アッザにとっては不幸な話さ、アッザの横にいたイケメンはアッザを落とせる絶対の自信があったんだろう、強引にアッザへキスしたんだ。ああ、大丈夫だって、アッザが好きなのはリゼッタ、つまりは君だろリゼッタ、だから、もしよかったら、慰めてやってくれ。いつも男もいけると言っても本心は嫌だったんだろうな。催淫剤と迫るイケメンに困惑してプッツンしたアッザとそれに同調してしまった火の精霊マッポが暴走して大騒ぎになったんだ。その騒ぎでお城から調査団とかが来ててんやわんや。トラップ家は何もしてないと言い張ったが、何もないのに小火騒動は起きないだろ。
トラップ家側から、今回の件については内密にしてくれと懇願してきたから、話を併せる代わりに貸しを一つ作った感じだな。その様子からすると小火騒動はこっちの方には届いてなかったようだな。まあ、結果オーライなんだが、ああ、それは、口から出まかせというか、トラップ家がアッザの実力が見たいとマッポの力を試そうとしたときに、たまたまくしゃみをしてしまい、粉のお菓子が飛散して爆発を誘発してしまったということにした。ああ、調査団もリヒター家も釈然とはしていなかったさ。だからか、お城の調査団がしつこかったのとその後のリヒター家がかなりご立腹のなんの。なんせその騒動のせいで自分たちの持ち時間が少なくなったと。ん?トラップ家は強引な方法で俺たちを取り込もうとしたのが外にバレたくなかったようだ、ただトラップ家を言いなりにしたところで発言力とかはあまり期待できなさそうだからな、貸し一つ作ったぐらいがちょうどいい。
次のリヒター家は何というか、当主の人はすごい寡黙な人だったんだが、取り巻きがすごかったな。ああヤーも言っていたんだがリヒター家は多くの優秀な研究家を輩出している貴族らしく、その取り巻き、要は研究者たちが何とか俺たちを取り込もうと躍起になっていた感じだ。本来ならお昼をゆっくり食べて、自分たちの研究成果や開発したものなどを紹介しつつ、最先端の技術提供をするからとプランを立てていたんだろう。ヤーもリヒター家ならそうすると言っていた。ただ調査とかのために時間が昼を大幅に過ぎていたからリヒター家に滞在したのは実質2~3時間ぐらいだったかな。
もうそしたら単刀直入に俺たちの協力を得ることで、向こうとしては王都の勢力拡大を目指している、ぜひ力になってほしいといってきてが、それは建前で新規クラウンを通じて、王都でやれないような調査研究をしたいみたいといってきた。どうも王都でやるには危険な実験とかも俺たちのクラウンならと思っている節があるみたいだった。ああ、俺たちを実験材料と思っているんじゃないかというくらいに横暴だった。こっちはもう小街区の設計図は出来ていると話したら、追加で工事をすればいいその費用は私たちが持つとか言い出して、とにかく俺たちを駒にしたい感がすごくてな。こっちが不信感を抱いていると、柔軟な姿勢を見せてきて、クラウンの一部分を分けてもらえないか、共同で研究所を作らないかとか別の提案を繰り出してきてな。
そんな得体のしれない研究を自分たちのクラウン内でやってもらいたくない、内容を説明してくれと言ったら、冒険者には関係のない研究だ、でも人類には重要だから協力しろとまた強気な姿勢に戻ったりして、研究者としては一流かもしれないが、交渉人としてはどうだったろうかな。そしたら、いきなり、取り巻き連中の騒ぎに嫌気がさしたのか、当主が ドン!ってテーブルを思いっ切り叩いて、そしたら重い空気が立ち込めて、取り巻き達がまた話し始めようとしたら「出て行ってくれ」と一言、でもその一言で全員黙って出て行って。
ああ、これで終わったと思ったよ。でも本当はこれからだったんだよ。向こうの当主が取り巻きの研究者たちが騒いだお詫びに夕食を早めに用意してくれて、ああ、ありがたかった、朝から何も食べてないようなものだったからな。最初は堅苦しい食事になるかと思いきや、給仕と一緒にあの老紳士も現れて、ああ、執事のようだ。冒険者は堅苦しい食事は不慣れだろうからと好きなものを取って食べる形式にしてくれたんだ。そうさ、ヤー以外はまともなテーブルマナーは分からないから助かったさ。
食事中のたわいない会話の中でなぜ研究者たちが捲し立てるように支援享受を迫ったのかとかいろいろ説明をしてくれて、当主の人が寡黙で思慮深い人柄って分って、よかったよ。ああ、このままで終われば、な。あの執事が何気なく当主に俺に質問してみてはどうかと。今思えばわかって質問を振ったに違いない。当主から「ふぬ、冒険者とは?」といったことを聞かれたから、少し考えて「明日を見据えて切り開くもの」って、ああ、そうだ、真面目に答えすぎた。もっとふざけた答えをすれば価値無しの判決を受けて終わりだったろうに。完全にこっちの警戒が薄れていた。だから普通に考えて答えてしまった。そこも計算されて組まされたんじゃないかと思う。そっから当主の人と禅問答のような質問の嵐で、頭がパンクしそうだった。まぁ。答えていったら・・・・物凄く気に入られてしまって。そういうな、俺だって、そのつもりはなかったんだよ。ああ、残りの時間は俺の頭が爆発するのではないかと思うぐらいの受け答えで終了した。もうその時点で俺とアッザは消耗しきっていたかもしれないな。
最後のマックウィーン家に連行された時、ヤーが俺に「大丈夫、何もないさ」って言ったとき、意味としては「騒ぎを起こさない」という決意だったんだろうな。ん、いや、ヤーは何もやってないさ。多分そういった気持ちがあったから、俺に対して意思表示しておきたかったんじゃないかな。ああ、一発ぶん殴ってやりたかったろうけどさ。あのプラムっていう当主の話を聞いて納得したんだろうよ。ああ、俺たちを尾行していたあの男もいたよ。まず相手は自分たちの将来の展望を話してきた。ああ、どんな国を作りたいか。それが、俺たちと一緒で身分のない、貧困のない国を作ろうとしてたんだ。なんでって、思うだろ。ヤーの家を蹴落としてまで貴族になったというのに解せない話だったんだが、プラム・マックウィーンの半生から納得はいったかな。トラップ家の一件もあったし、貴族っていうすべての人種が崇高な志を持った者たちばかりではないということさ。今の貴族は、貴族という特権を享受しながら、それを当たり前と思い、その特権に紐づけられた責任・責務を果たさず、認識すらしていないって。本当かどうかは知らないさ、でもあの様子は本当のことを話していると思う。それはそうさ、だからって関係もない人たちを巻き込んでいいわけではないさ、ましてや恩人ともいうべき貴族の家族を不幸のどん底に突き落としていいわけでもない。けど、うん、そういった過ちも全て背負って、貴族となって、権力をもって、貴族や階級のない世界を作ろうとしているのは分かったかな。
ヤーだって、すぐに納得したわけじゃないさ、プラムっていう男の野望の犠牲者なんだから。
皮肉った言い方で、きれいごとばかり言っているが、結局は嫌っている貴族と一緒じゃないかって。ああ、敵地のような場所で喧嘩を売った感じで、あの従者がとびかかってきそうだったよ。ただプラムが制して、すべての業を背負って、貴族と違うということ証明するために結果を作りたい。だから協力してほしいと言ってきた。そして、ヤーの本名を言って。ああ、みんな驚いたよ。ヤーだって、実際プラムと面と向かってあったことが無いと言っていたし、気づかれるなんて微塵も思ってなかったから。プラムは自分が蹴落としたものの情報は全て把握していたって言っていたよ。ああ、人相書きも手に入れていたようで、顔も影に隠れてみていたようだ。その際とだいぶ様変わりしていて、向こうも最初は分からなかったが途中から気付いたらしい。ヤーと真っ向から向き合おうとした姿を見て、本気なんだと思ったよ。言い合ってはいたけど、ヤーは貴族の責務っていう言葉を初めて痛感したみたいだよ。裕福じゃない貴族っていう表現に対してプラムからの指摘も身に染みたみたいだった。ああ、王都に来るときには叩きのめしたいって言ってたけど、叩きのめされた感じだった。
それで、驚いたのはその後さ、改めてマックウィーン家から支援をしたいと話が出てきたんだ。ヤーがいるからわだかまりができて、支援をやめると思ったんだが、もし支援を受ければ、ヤーがホン=フィンベル家の者であることはして口外しないと約束するが、もし支援を断ればと脅し文句付きでな。プラムとしても腹を割って話ができたと言っていたが、理想の実現のためには使える手段は何でも利用する姿勢は驚嘆したよ。まぁでもその考えは俺たちがどこかの貴族からの支援を希望していると思っている前提なんだろうけどな。まぁはたから見れば金欠の孤児育ちが多いクラウンだからなり上がりたいとはたから見たら思うだろうさ。ああ、ぐうの音も出ない雰囲気を醸し出して帰ってきた感じだ。帰りの馬車ではあの尾行していた、名前はジェルムって言っていたかな。が、プラムについて誤解が無いようにフォローの話をしてきたよ。家臣には慕われている様子だった。
「まぁ、大体の出来事は分かったよ。大変だったな。」
そう言って肩を軽くたたき、労うとクラリスが軽食を持って現れた。どうも話が一区切りつくまで待ってくれていたようすで、お皿を置くと、今日はほかの冒険者パーティーはクエストに出て帰ってこないみたいだから、自由に食堂を使ってと言って去っていった。言われてみれば、他のパーティーを見ていないな。
「ところで、肝心のキブリーさんの用事について話が無かったと思うのですが・・・」
「ああ、リゼッタ、今から話すところさ。二人にはマックウィーン家について、話した内容が本当かどうか調べてほしいんだ。と言っても、ヤーの家に対してやったことではなく、マックウィーン家が本当に貴族の責務っていうのを果たしているかどうか。」
「貧困エリアに行って、マックウィーン家の支援を受けている場所があるかどうか調べるってことか。」
「ああ、評判を聞いてきてほしい。」
「わかった。買い付けが終わったらでいいから。」
「でも、どこら辺がマックウィーンさんの援助を受けているのでしょうか。」
「「「う~~~~ん」」」
「幌馬車にそろばん」
聞こえた声の方を向くと、ヤーが食堂の入り口でこちらに向かいながら疑問に答えてくれた。
「キブリー氏は、俺に気を遣ってくれたのかな。なあに大丈夫ですよ。そんないちいち落ち込んでられないよう。デリックとリゼッタ姫には申し訳ないけど、「幌馬車にそろばん」の家紋がある場所で聞き込みしてみてちょうだいな。それかおれも随行したいけど」
「申し訳ないが、ヤーの事前情報は貴族との対話の前には必要だ。」
「だよね~」
「ヤー」
「ヤーさん」
「なぁに、大丈夫だよ、ちゃんと踏ん切りつけてますよ。ただプラム・マックウィーンが言っていることが本当かどうかは確かに興味があるからね。」
その後、泣きながら食堂に入ってきたアッザをリゼッタが無表情で慰めながら、軽食をみんなで食べ、明日の英気を養うため早めに寝ることにした。
「あの人がホン=フィンベルの家の人・・・・」
クラリスとその兄弟たちはバックヤードで会話に聞き耳を立てながらそんな俺たちの様子を見つめていた。




