突然の来訪
リゼッタとアッザに部屋から追い出された俺は広い敷地の一角にある大きな木の下で、ナルジャと二人座りながらドット君が持ってきてくれた夕食を頂くことにした。部屋から出ていく際に自分たちの皿だけは持ち出すことに成功したものの、手元にあるのはサンドウィッチとスムージーが入った容器のみと、だいぶ寂しい。ナルジャもサイズ違いの同じ具材が入ったサンドイッチとなっている。
料理が自慢だと聞いていたから楽しみにしていたのに・・・・初日から質素な夕飯になってしまうとは・・・・でも本館から離れた場所に運ぶだけでも温かい料理なら冷めてしまうだろうから、あらかじめ冷めても良い食事を用意して、運んだほうが最適ないのかもしれない。
そう考えるとサンドウィッチは妥当か。でもせっかく料理自慢の宿なのに・・・
グジグジとボヤいてしまう心に活を入れ、持ってきてくれたサンドウィッチにかぶりついた。その瞬間、衝撃が走った。
「うまい。というか、なんだこのパン柔らか!」
そう、いつも食べているしっかりどっしりして少し酸味のあるパンではなく、もっちりして少し甘みのある柔らかいパンを使っている。それにサンドウィッチというと何か具をパンで挟むのが基本的だが、よく見るとパン、具、パン、具、パンとなっている。何層にも挟めるのはこの柔らかいパンのおかげだろう、一般的なパンで挟んだら、硬いし、ぼそぼそしているし、食べづらかっただろう。
具もシャキシャキレタスとローストビーフの層と薄切りのジャガイモや野菜がふんだんに入った厚焼きの卵の層があり、別々で食べても良さそうだが、一緒に食べることで何とも言えないハーモニーが生まれている。サンドウィッチでこれだけおいしかったのだ、食堂で出されていたご飯はもっとおいしかったのではなかろうか。隣のナルジャも大きなサンドウィッチをペロッと平らげて、味も量も満足いったのか、もう丸まって寝ようとしている。珍しいな。
夕飯を食べ終え、木の下で丸まっているナルジャに寄りかかりながら星空を見ると、色々とこれからのことを考えてしまう。明後日には王様と謁見するだろう、その後はすぐにボッサムに帰って、自分たちの街を作りに勤しむことになる。早く街が出来なければ、落ち着いて依頼を受けることも難しいからな。それから・・・・
いろいろと考え事をしている中で、ふとオーベルジュというのはなかなかいいものだなと思った。維持や管理が大変かもしれないが、自分たちで食材を生産し、宿泊者に提供する。冒険者をリタイアしたら、そういった生活を俺は望むのかもしれない。それでもまだ、みんなと冒険したいな。
軽く舟をこいでいるとどこからか、声が聞こえてきた。
「おい、起きろ、起きろ、デリック!」
「・・・ん、ぁあ、キブリーか、どうした。もうそっちは落ち着いたのか。」
「ああ、なんとかな、デリックには申し訳ないことをしたな。」
差し伸べられた手を握り、起き上がると眠気を吹き飛ばすように背筋をぐっと伸ばした。キブリーは空になったお皿に視線が行くと
「気にするな、今まで食べたことが無いサンドウィッチで、すごく満足したよ。」
「ああ、だからだよ、その、夕飯は、想像以上にうまかったからな」
「本当か!それは明日が楽しみだ!」
「ああ、それでな、うん、まぁ、詳しくは食堂で話そう。」
そういうとキブリーは本館の方を指さす。俺は同じくうとうとしていたナルジャを起こして連れて行こうとする。
「アッザとリゼッタにはすでに声をかけて、先に本館に向かっているから、ナルジャは練るようなら部屋で寝ててもいいぞ!」
「!!!それ、その、あ、っと、二人、何もなかったか?」
「ああ、二人は一緒にはいたが、何もなかったよ。」
・・・・終わった後だったのか?
「っていうか、キブリーは何があったのかわかっているのか。」
「?リゼッタの告白があったんだろう?」
「えっ、それじゃぁ、その後」
「だからって、リゼッタが簡単にアッザを許すと思うか?」
「?」
「リゼッタから提案があったんだ。アッザの制御が効かなかったのは私が態度を示さないからだろうって、アッザは嫌いじゃない、だけど受け入れられるほどではない。ただもう少し制御できるように縛っておくってさ」
「えっ、まじ」
「ああ、それで告白して、アッザが他に行かないようにするってさ。まぁ本人は受け入れられないとは言っていたけど、どうだろうな。満更でもなさそうだから、半分は本当なんだろうけど、もう半分は打算だな。」
「女って怖いな。」
「女って怖いんだよ。」
今、キブリーの頭には世界最凶妹が浮かんでいるのだろう。
なんとかナルジャを起こし、部屋まで行くとアッザとリゼッタの姿はすでに無く、ナルジャは無人の部屋に入るとそのまま丸まって寝始めた。
「さて、俺たちも本館に向かうか」
「そうだ、何かあったのか?もう今日は解散だと思ってたんだが」
「ああ、実はさっき貴族様の使者が一斉に来てな。今本館の食堂で待ってもらっているんだ。」
「?えっと、俺たちは宿を伝えてないはずなのだが?」
「ああ、あの後気配は一切感じなかったが、どうやら城の方で俺たちの宿を調べて、貴族たちに情報を伝えたそうだ」
「何のために、って、前にヤーが言っていた事か。城の前で出会ったマックウィーン家だっけ?あそこからも来ているのか。」
「ああ、あの時捕まえた人物ではないけど、マックウィーン家からも使者は来ている。マックウィーン家を含め、5つの貴族の使者が俺たちのパーティーに同じ目的で訪ねて来ている」
「謁見前に時間が欲しいと」
「ああ、どうやらその5つの貴族が謁見当日は支援を名乗り出るらしい。その際にどの貴族からの支援を受けるらしいんだが、その場は形式的なものらしく、事前にある程度は決めてもらいたいらしい。それなら立候補する貴族と直接話を聞いたほうが良いだろうと、王様はお考えの用らしく、使者の連中は王命でこちらに来たと言い張っていた。断ろうとしているこっちにしてみれば迷惑な話だが、そんなことを向こうは知らないだろうからな。」
「まぁ、向こうは親切心からだな、貴族の支援をすべて断ろうとしているとバカはいないと思っているだろうし。来たの人たちにそれとなく伝えるのは?」
「悪手だろうな。ヤーの曰く、話すらも聞かないのは完全に貴族のプライドを傷つけるだけ、だそうだ。」
「じゃぁ、話だけでも聞くのか。」
「ああ、ただ俺たちは滞在期間を短くしたい、しかもその間に資材を買い込まないといけない。できれば謁見が終わったらすぐにボッサムに戻って、俺たちのエリア建築作業に戻りたいからな。」
「そうすると、貴族との謁見組と、街での買いもの組に分かれるしかないってことかな。」
「ああ、そういうことだ。とにかく、まずは使者たちの話を聞こう」
本館につくと玄関を通り過ぎ、食堂の広間に向かった。そこにはテーブルをつなげ、手前にリゼッタ、むすっとしているアッザ、ヤーが並んで座り、奥に使者であろう人物が5人ずらっと座っていた。
「お待たせしました。これで今回王都に来た全メンバーです。」
キブリーが話しながら一番奥の座席に座り、俺も同じように席の橋に座った。この宿に泊まっている冒険者たちもぞろぞろと集まり、こちらに注目をしている。
「コホン、あまり長居をしてもよろしくないので、手短にお話しさせていただきましょう。」
そういうと使者の列で一番奥に座っていた執事っぽい細身の老人が話し始めた。
「それではこの場はこの私が取り仕切らせていただきましょう。なに事前にこちら側は私の方から全体の説明をするよう話をつけておりますので、悪しからず。まず私めはリヒター家より参りました。トレッジと申します。横にいますのがカン家、続いてク=ズミ家、トラップ家、そして末席にいるのはマックウィーン家の者たちです。それぞれ主人の代わりに皆様方にお話を伺いに来た次第でございます。」
「?」一瞬、ヤーがぴくッとした気が、、やはりマックウィーン家のことが気になるのか?
どうやら今回立候補した貴族の中で位順に座っているらしい、ヤーに聞いた話だとかなりのやり手だが、成り上がりで貴族になったため、周りの貴族からは疎まれているらしく、今回、末席に静かに座っている。
「一部を除いて、皆名家であります。謁見前に我らが主は皆様方と将来の展望などを語らいたく、交流の場を設けております。」
「トレッジ殿、申し訳ないのですが、我々は貴族の方々と話すような相応しい冒険者では・・・」
「大丈夫です、私の主は寛大なお方です。どんな相手であろうと懇切丁寧にお話ししてくださいます。それにご謙遜なさらずとも、王からの勅命があった時点であなた方の身分を証明しております。他の皆様のところも同じでしょう。」
そういうとトレッジという老紳士はほかの使者たちの方へ目を走らせる。
「まぁ、もし、すでに特定の貴族から支援を受けることを決めているのであれば話は別ですが、この場よりも先にあなた方に接触を図る姑息な貴族はいないと信じております。それと、あなた方に誘いを断る権利はないと思ってください。各家からの打診は必ずお聞きなさった方が身のためですよ」
この狡猾そうなじいさんの意図していることは分かっている。が、そもそも全部を断ろうとしている俺たちにとってみれば、結局結末はおんなじなのではと思ってしまう。
「かしこまりました。ただ我々も王都に謁見だけを目的に来たわけではなく、所用があります。2名ほどはそちらに回してもよろしいでしょうか。」
「・・・・かしこまりました。皆様のお手伝いをしたいところではありますが、まだ当家からの援助を受けられてない状態ですので、手助けできず、心苦しいばかりではありますな。その所用とやらは謁見の場以降ではいけないのでしょうか。」
「すみません、こちらもすでに約束を取り付けている部分がありますので」
「なるほど、致し方ありませんな。ただ、もしその用が買い物であれば、あまり買う必要はないとだけ申し伝えておきましょう。」
「お心遣い感謝します。それで明日はどちらの方へお伺いすればよろしいのでしょうか。」
「その点はご心配なさらず、明日以降それぞれのお屋敷からこの宿へ皆様をお迎えにあがりますので、本日は各家の者が皆様の顔を認識して、間違って招待しないようにするために伺った次第です。お疲れのところお時間を頂きありがとうございました。」
本当にこのじいさん一人だけが話して終わろうとしている。他の貴族の使者はそれでいいのかと思い見回すと、それぞれの使者は仕方がないといった表情を浮かべていた。ただ、ク=ズミ家だっけ?そこの使者は若干違う目線をヤーに送っている気がするが、気のせいか?
「ほかの皆さんはよろしいでしょうか。」
「「「「はい」」」」
リヒター家というのは貴族の位で上の部類なのだろうか。他の使者の人たちは従順だ、これでリヒター家を選ばなかったら、どうなるんだろうか。少し恐ろしいものがある。
「それでは我々は引き揚げますので、皆様お疲れ様のところありがとうございました。」
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「「「「「はぁ~~」」」」」
「なんかどっと疲れました~」リゼッタが机に突っ伏して溶けていった。
「ったく、これからって時に来て、やんなるわ。リゼッタ、大丈夫、疲れを癒してあげようか」アッザが近づいてくるのをリゼッタは手で押しのけている?あれ、二人の関係は?
「いや、はや、まいったね~、それキブリー氏、メンバーはどうするの?」
「そうだな、俺とヤーとアッザかな、買い物はリゼッタとデリックでお願いできるか?」
「だよね~、俺はそっちじゃないとだよね~」
「えっ、ちょぇ、やだ、あたしはリゼッタとが良い~~~、リゼッタとお買い物する!!」
「黙れ、今日は誰のせいで、こんなにつかれていると思うんだ」
「ごめん、本当にごめんなさい。お願い、後生だから、デリックと交換してよ!リゼッタとデートさせて~~」
「だめだ、あの荷台を引くにはナルジャの力が必要だ。そしてヤーは色々知識があるからこっちの方に来てもらう必要がある。つまり、アッザかリゼッタのどちらかが貴族のところに行かなければいけないことになる。」
「そんな~、それなら二人でヤーとキブリーだけで行けばいいじゃない。」
「あのね、アッザ、そういう社交の場で野郎二人はありえないでしょ?花がないと」
「ああ、それにもし貴族の中で花であるリゼッタを気に入った奴が現れたらどうする?」
「そんなの許すわけないじゃない。」
「でも、俺たちはなす術がないぞ。貴族からの求婚を受けるかどうかはリゼッタ次第だ。」
「・・・・アッザさんよりステキな人がいるかもしれません・・・」(ボソッ)
「それならあたしだって一緒じゃない。」
「お前はリゼッタ一筋なんだろ」
「・・・・アッザさんは私を裏切るんですか・・・」(ボソッ)
「ううううううう、そんなぁ~」
こうして明日の朝から二手に分かれ、行動することになった。




