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アゲアゲに嫉妬

長屋の両端の部屋から出てきた男女はこちらに向かって、苦情を言ってきた。


「申し訳ない、騒ぐつもりはなかったんだけど、アグネスのパフォーマンスに驚いてしまって」

「しょうがないっしょ☆うちらのチームワークは完ぺきっしょ!」


アグネスの溌剌とした声に頭を押さえながら右端の部屋から出てきた男は大きなため息をついた。


「確かにそれだけの数のモンスターをテイムし、統率が取れた行動を行えるのは称賛に値するが、緊急時に各使役獣に的確に指示ができるのかは疑問が生じるところだね。まぁ、それとは関係なく、宿では静かにしてくれ。我々は探索から戻ってきたばかりで疲れて、休んでいたところなんだ。それなのに自慢をするかのようなパフォーマンスをして、休んでるのを邪魔するのはいかがなものかな。ただでさえビーストテイマーは一般の方からヘイトを買いやすいからね、日頃から整然とした態度で周りに迷惑をかけない姿勢は重要だと思うのだが、そういった考え方には至らないのかな。自分さえ楽しければ良いのかな。」


もっともな指摘と嫌味のアンサンブルに先ほどまではじける元気っ子だったアグネスはしゅんとし、下を向いてもじもじしている。


「ああ、すまない、わかってはいたんだけど、つい俺がアグネスをはやし立ててしまったんだ。申し訳ない。」

アグネスをかばうように前に出た。本人も悪気があったわけじゃないし、反省もしている様子。それにアグネス自体はまだ幼い印象を受ける、冒険者になって日が浅いのかもしれない。そんな子に冒険者が泊まる宿では他のパーティーに迷惑をかけない様静かに過ごすといった暗黙のルールを押し付けても可哀そうな気がした。


「う~ん、反省してそうですけど~、隣の部屋で~、何体も使役獣がいると~、暴走しないのか~心配で~、部屋から出るときも~、バタバタ~って煩いとなると~、本当に~迷惑だと~思うんですよ~。種族も~、バラバラだと~、喧嘩とかすぐに始まるんじゃないかと、ひやひやするんです~」

左端の部屋から出てきた女性がゆる~い口調でクレームを上げるとアグネスはさらに縮こまり、若干泣きべそをかきそうな雰囲気を醸し出している。


「ごめん(৹˃ᗝ˂৹)」

アグネスが改めて謝ると5体の使役獣モンスターはアグネスを慰めようと守るようにしていて、アグネスの周りを固めた。その姿を見た両端の男女の冒険者はなぜかまたイラっとさせていた。この3人は以前から泊まっていたから、何かトラブルでもあったのだろうか。


「すまない、今回の件は俺のせいであるから、この辺で勘弁してあげてもらえないか。」

「え~、まぁ~そういうなら~、いいですけど~、アグネスさん、気をつけてくださいね~。いっぱいモンスターをテイムすると目の行き届かないところで、いろいろと面倒くさいと思うので~、せめて2匹程度にすることをお勧めしますよ~。」


「ダルアの言う通りだ。統率が取れているようでも、周りに迷惑をかけているようでは同じテイマー職として、苦言を言わざるを得ない。君1人の行いが、他のテイマー職への偏見にもつながるから、日頃から気を付けてもらいたいものだ。」

「・・・・・(ぶつぶつ)」

自分のモンスターたちに囲まれながら、アグネスはぶつぶつ言い始めた。


「そうだ!二人は疲れているんだろ、そしたら、浴場に先に使ったらどうだ。俺たちはいま浴場に行く予定だったんだが、もしまだ浴場に行っていないなら、先に行ってもらえないか。実はうちのモンスターは麻痺毒持ちだから、もしものことがあったら、申し訳ない。モンスター用の浴場といっても広さに限りがあるだろうし、どうだろう。」


「そうか、君のモンスターは麻痺毒がって、・・・また変わったモンスターだな。」

「いやいや、よくいるモンスターの銀鼬だよ。ただ若干変異種らしくて、麻痺毒持ちなんだ。」

「ははは、なんだ、そうか、銀鼬か、だいぶ大きいが、なるほど変異種か、実は私のモンスターも変異種でね。そうか、そうか。同じ変異種を持ったテイマー同士仲良くしよう。ドローレス、よかったな、先にお風呂にいこう。」

そういうと右端の扉が開き、ゆっくりと赤い塊が流れ出てきた。


「キリトさ~ん、その人が先に浴場を譲ってくれるって言っているんですから~、先に行きますよ~。クエストから帰ってきて~、動きたくなくて~、諦めていたんですが~、銀鼬のテイマーさん、お名前は~?」

「デリックだ。」

「それでは、デリックさん、お言葉に甘えて、ふたりとも~いきますよ~。」

そういうとダルアと呼ばれた女冒険者の部屋からゴーレムが2体出てきた。一体は鉱石系、もう一体は樹木系と違う材質のゴーレムで、2体も使役できること自体、本来はすごいことなのだが、アグネスを見た後だと見劣りしてしまう。


「ああ、そうだな、それではお言葉に甘えて先に疲れを癒させてもらうとしよう。では、また後でデリック」

キリトがその場を離れると、赤い塊が地面を這うなめくじのような動きで後を追っていく。ただあまりにもゆっくりな動きなので、距離が開く、、、と思った瞬間、急に塊から腕が生えて扉を閉め、次に地面から塊が浮き上がってすごい速さで進む。よく見ると人の足のようなものが生えて、駆け足をしていたようだ。

さらに去り際にこちらに振り向いて、イケメン(?)の顔がウィンクをしてきた。いや、いきなり塊から人相が現れてウィンクしたらホラーだよ。


「・・あれって、ネンドンだよな。赤いのはめずらしいな。って、、アグネス大丈夫か??」

「・・・・・・・」

「アグネス?」

「・・・・っざぇけ・・・」

「お~い、アグネ~ス?」

「はぁ!!!!!なに、あの二人!マジ、むかつく!パネェ!!!」

「!!!!」

「こっちが黙ってれば!あっち迷惑かけてないし、っていくか、ひがみじゃね!今までモンスターが2体とか、珍しい変異種とかで、でちやほやされてたの、うちに取られて、ピキッたんじゃね!」


まぁ、そうだろうな。実際ダルアがテイムしていたのはメジャーな種だったが、一流テイマーの証である2体同時テイムで連れている。しかも同じ種族ではあるが派生の違いがあるため、他と比べて少しアドバンテージがあったんだろう。一方キリトという男性テイマーも1体だけだが、ネンドンという変わったモンスターのしかも変異種をテイムしていることに優越感があったはずだ、ただアグネスのバラエティー豊かで、しかもそれぞれ珍しいモンスター(1体は特に)を連れているとなれば、プライドが傷ついたんだろうな。


「っか、あの真逆カップル、マジないわ~」

「真逆?」

「そ、だって、考えてみ、彼氏っちはカチっとした装備で、話し方もパキパキなのに、つれているのはぐちゃぐにゃのネンドンでしょ?そんで、彼女っちは逆にとろ~んだる~な感じなのに、カッチカチのゴレムって、真逆じゃね?」

「確かに、しかも色合いもモンスターの逆をいっていたな。」

キリトの全体的な色合いは青、それに対して使役していたネンドンは赤。ダルアは全体白に近いベージュ色の恰好だったが、ゴーレムは灰色や黒といった色だった。

「しょ?だからうちは真逆カップルって呼んでんよ。あべこべすぎっしょ、マジうける」

「しょぼくれているよりは元気が出てきていいけど、あまり悪口は・・」

「別に、悪口じゃないし、ってか、先に向うだし、因縁つけてくるの、つか、もしうちの子たちディスってたらもっとぶちギレっしょ」

しゅんとしていたのは演技だったのか。


「ははは、さてと、これからどうす・・・て、いてて、ごめん、ナルジャ、予定変更だよ、見てただろ、仕方がないじゃないか。」

「うん、どした?」

「シャ~~~~」

「いやいや、ナルジャは本当に湯あみが好きでさ、でも、さっきの二人を行かせちゃったから、ちょっと不機嫌に、それで、クレームを、ごめんって」

ナルジャは自身の一番ざらざらしている箇所を重点的に俺にこすってくる。痛いっての


「マ?それウチのせいじゃね、デッチンがうちのために二人を行かせたんしょ」

「デッチン?いや、まぁ、気にしないで、先に食堂行って、仲間を待っているよ。」

「そっか~、ナルナルは湯あみが好きか~、ちょいまち、それならあたしにいい考えがあるっしょ。ねぇ、ナルナルは水でも良さげ?」

「シャ?」

「えっとね、水がドバドバは、ぶち上げ、最高~って感じ?」

「シャ!!」

「なるなる~、そしたらグッジーとケラッチ、あとチョッキ―も準備ヨロ~」

「ふぉぶ、ふぉぶ、ふぉうぶ」

「さわさわさわさわ」

「じょきんじょきん」


名前を呼ばれたモンスターたちがそれぞれアグネスの問いに答えた。キリトが指摘した通り統率はとれている。ただキリトに間違いがあるとすれば、彼らの場合テイマーがモンスターに指示する必要があるかという点だ。

先ほどもアグネスがうつむいた時に自然と5体のモンスターは主人であるアグネスに寄り添った。そんな姿を見ると明確な指示は必要なく、お願いとして何かを言えば彼らが彼らの判断でやってくれそうな気がする。


どうやったらそんな関係を築けたのか、もしかしたら俺と同じような特殊な事情があったのかもしれないとアグネスに聞こうと辺りを見渡すがアグネスの姿は消えていた。きょろきょろしていると大きな巨体を揺らし、二足歩行の鯨が目の前で胸を張った。アグネスはというと自室に戻り、水着に着替えて出てきた。なんだろう、まずい予感がする。


「アグネス、ちょっとまって・・」

「それじゃぁ、川の近くに移動するよ~」

「アグネス、申し訳ないんだがナルジャが川に入ると・・」

「わかってるっしょ、大丈夫、任せて☆」

ますます、嫌な予感がする。ナルジャをみるとなぜかルンルンだ。これから何が起きるか理解しているのだろうか。宿の敷地内に流れている小川に到着し、アグネスに呼ばれた3体はそれぞれ小川に近づくと、まず初めにグッジーが小川の水を大量に飲み込んだ。

やっぱりだよね。


「グッジー、アゲアゲで行っちゃって~」アグネスはけらけらと笑う。

その一言で胸を張っていて河鯨は背中を丸るめ、天高く、盛大に潮を吹いた。俺は何とか木の下に隠れると土砂降りは回避できたが、ナルジャは思いっきりグッジーの拭いた潮を浴びている、やたらと飛び跳ね、身を震わせて、大喜びだ。


「ね、ちょっと、デッチン、何逃げてんの、ないわ~、ほら、みんなで、浴びようよ~。」

「いや、俺はいいさ、ナルジャが堪能してくれていれば問題ない。」

それに俺一人じゃなさそうだしな、さりげなく俺の背中にはニャッチーがしがみついていた。そりゃそうだよね、猫だから水は嫌なんだろう。

「あれ、ニャッチーは?あ~、また逃げた~、やっぱり今度は縛り付けておくっきゃないかな~。ねぇ、デッチンはニャッチーみた?」

「いや、知らないな。」

背中に爪を食い込ませようとしないで。

「まぁ、仕方ないか、あたしたちだけでも楽しもうか♪」


ニャッチーを除いた子たちはアグネスと大雨の中一緒になって踊っており、お風呂の代わりにちょうど良い感じのようだ。その後、チョッキ―によるグッジーの洗体が行われ、それを見ていたナルジャが私もしてほしいと訴えかけていた。

「チョッキ―の水放射結構痛いけど、大丈夫?」

「シャ、っシャ~~~~♪」

「オッケー、そしたらチョッキ―、よろ~」

そういうと尻尾から吸い上げた水が外殻を通って、鋏に流れ、鋏を開いた口から強力な水鉄砲のように勢いよく水が発射された。これもだいぶ気持ちいいらしくナルジャははしゃぎまくっている。


最後にケラッチが根っこから水を吸収し、蜜っぽい何かと一緒に華から噴射していた。どうやら癒しの効果があるようで、みんなうっとりしている。

「ふぅ~、マジ、さいっこ~、デッチン本当に良かったの?」

「ああ、また今度機会があったら堪能させてもらうよ。ナルジャ~、もうおわりだぞ~、そろそろ食堂に集まる時間だ」


「シャ~~~」

良かった、上機嫌だから、素直に食堂まで行ってくれそうだ。

「あれ~、もうそんな時間?やっば、もしかしたら、ナグチンたちが部屋についているかも。みんな~急いで戻るよ~、って、ニャッチー、今頃出てきたな~、もう、今度は絶対に体洗うからね~」


俺の後ろに隠れていたニャッチーは、アグネスの掛け声すぐにグッジーの頭の上に移動していた。アグネスがニャッチーに説教をしているが、当の本人は聞く耳持っていない様子だ。

これだけ使役獣との距離が近いマスターも本当に珍しいものだ。

和気あいあいとした雰囲気で長屋に帰るとアグネスの部屋の前で2人の人影が見えた。


「あっ、っちょとお~、やっときたよ~、アグネスどこいってたんだよ。」

「メンゴ~、ナグチン、デッチンと意気投合して、バシャッてきた☆」

「さっすがアグネス嬢、もう友達作ったのか」偉いぞ~とともにアグネスの頭をガシガシなでる中年のおっさん

「えへへ、デッチン、紹介するね、ウチのパティメンのナグチンとやっさんで~す」

「はじめまして、ナグモといいます。アグネスに巻き込まれて、大変でしたか、大丈夫ですか?」

「どうも、”やっさん“ことジョー・ヤングだ」

「こちらこそ、初めまして、デリックと言います。アグネスにはうちのナルジャが満足するまで水浴びさせてもらったので、助かりました。」

「でしょ~、やっぱり、うちらってさいこ~、みんな!」

「「「「「ビシッ」」」」」5体の使役獣はみんなでポーズを取ると、その中に又アグネスが飛び込んでいく。


「はぁ~、まあいいや、ほら今晩のご飯持ってきたからみんなで食べよう。」

「?」

「な~に、アグネス嬢の使役獣は5体もいるからな。全員が食堂に行くと大変だろ、だから俺たちのパーティーはアグネス嬢のところにこいつらの分の飯も持ってきてるんだ」

後ろを差した親指の先には大量の食事を積んだ荷車がある。さすがに5体も使役獣がいると大変なんだろうな。

「ところで、あんたは今日来たパーティーのメンバーさんかい?」

「ん?ああ、そうだが」

「えっ、あ、そうか、そうだよな」

「?」

「なに、なに、ナグチン?どうしたの?」

「いや、ちょっと本館でな、軽く騒ぎに・・・・・」

「!!!!」

「え~、どんな~?」

「それって、もしや赤髪の・・・」


アグネスのパーティーメンバー二人が静かに下を向いた

「ごめん、アグネス、俺たち、すぐ行くから、ナグモさん、ジョーさん、ありがとうございます。本当にすみません」

そういうやいなや、本館に向かって一気に駆けだした。後ろの方で渋い声で「ありゃ、気苦労がたえないだろうな」という声が聞こえた気がした。


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