宿屋決定!
だいぶ期間が空いてしまいました。忙しくて書く時間がないのがつらいです。
夕暮れも近づき、俺たちが拠点としているボッサムなら繁華街以外は暗くなり始め、人気もなくなっていくはずだが、王都ではちらほらと街灯がともりはじめ、人の往来も減ってはいるが、一日の終わりを感じさせない。この街には街灯が至る所に設置されており、街自体が眠ることが無いかのようだ。ただその街灯も外壁の方へ目を向けるとまばらに設置してあるようで、明るさに合わせて街の喧騒は薄まっていくようだ。それでもボッサムよりは明るいな。
「いや~、あなたたちがうちに来てくれれば、箔が付くってものね」
城に呼ばれた冒険者クラウンをもてなせれば、大きなメリットになるからか、俺たちに声をかけた女性は声を弾ませ、ぐいぐいと俺たち、いや一人を引き込み、目的地へと連れて行こうとしている。話から宿屋の娘だろう。
「あはは、そんなおだてても、まだ、お宅の宿に決めたわけではないんだけどぉなぁ~」
ターゲットとされなかった爆発ヘアーは軽くぼやく
「あら、そうぉ?あっちの赤髪の美人さんは乗り気みたいだけど」
俺たちに声をかけた女性は商売っ気がある笑顔でアッザに目線を向ける。なぜだろう「きゅるるん」というような効果音が聞こえてきそうな感じがする
「ヤー、見目麗しい女性が勇気を出して誘ってくれたのに、ぞんざいに扱わないの、モテない男代表みたいで、一緒にいるこっちが恥ずかしいわ。うちのガサツの塊が、ごめんなさい、気分を悪くしないで。あなたのような素敵な女性が働いている宿なら、喜んでいくわ、そういえば、まだ名前を伺ってなかったわ」我がパーティーの一の好色家が、ファッサーといった効果音が出てきそうなくらいにオーラを出しながら、アクションを付けてその女性に手を差し伸べた。
「あたしはクラリスっていうの、よろしくね。美人さんのお名前は?」
「美人だなんて、ありがと。私はアッザよ、クラリスって素敵な名前ね、どこぞの野郎は「ヤー」なんて間抜けな名前だから新鮮だわ~」
「なぁ?はぁ!そんな、お前は・・・・」
「まぁまぁ、ヤー、気持ちは分かるがまずは宿を見てみよう、アッザもあまり刺激するなよ。」
相手にされなかっただけならまだ知らず、アッザにいい様に使われない様声を上げようとしたヤーをなだめつつ、アッザと話し込む女性を見た。
う~ん、大通りでの客引きの中にも大勢女性がいた。結構な美人もいた。まあアッザにアプローチをかけてきたのがほとんどイケメンだったから面白くなかったはずだが、アッザから客引きの女性に見向きもしなかった。城に行く前だったから自粛していたのか?
この女性のどこがアッザの触手に引っかかったのか?確かにきれいだが、特別見目麗しい女性という部類ではなく、よく働いて溌剌とした健康的な美しさといった印象を受ける。お客を引き抜くなら少し化粧ぐらいすればよいのに、顔も少し荒れているように見える。ただ不健康に荒れたというよりも日に多く当たって荒れているような感じだ。俺たちに声をかけるまで表通りで営業活動をしていたのかもしれない。服装もイマイチパッとしないというか、ぼわっとした感じがする。そのせいで体型はわかりづらいがロングスカートから垣間見える足首はきゅっとしまっている。あっ足は真っ白でキレイな肌だ。
「はぁ~、デリック、女性をじろじろ見るのはセクハラよ。まったく、ほんとにごめんね、うちの男どもはどうも・・・」
クラリスと楽しく談笑していたはずのうちの伊達女は俺がクラリスを観察していたのに気づいたらしく、まるで俺の視線から守ってあげるかのようにクラリスの肩に手を廻し引き寄せた。一瞬鼻の下が伸びたな・・・・まぁ、いい。俺もだしに使おうという気なら・・・
「・・・・ッコホン、リゼッタ、リゼッタはどんな宿がいいんだ?」
「ハッ!?」
アッザは思い出した。新しい獲物を前に自分の一番のターゲットを忘れていたようだ。アッザはゆっくりとリゼッタの顔をのぞき込んでいる。こいつは本当に脳筋狩猟民族だな、2頭追うもの1頭も得ずという言葉を知らんのだろうか、哀れだ。
アッザの態度を黙って見つめていたリゼッタは冷めた表情(いつも無表情だが、より一層)で「・・・・ご飯がおいしくて、1人部屋なら何でも良いです。」とボソッとつぶやいた。
「リゼッタ、ちょっと、さっき一緒にご飯を・・」
「それならうちの宿に任せて、ご飯はとってもおいしいよ。一番自信があるの!」
ショックを受けたアッザの小声を打ち消すかのようにクラリスは胸にトンっと手を当て自慢した
「っ、ちょっと、クラリス、話進めないで。」
「へぇ~、うちのパーティーの舌は肥えているからな」
「あら、どうして?」
「デリックさんの料理はとてもおいしいです。」
リゼッタの発言にクラリスは俺に視線を向けると、くるっと回り、にこっと笑いながら
「なら絶対うちの宿に泊まるべき、味を分かってくれる人なら期待してくれていいわ」
「いやいや~、デリック氏をこえるのはむずかしいよ~、俺も結構色々食べたけど、デリックの料理を超えるのは、まぁ、なかなか」
「うふふ、それは、それは、夕餉の時間が楽しみね」
よっぽど自信があるのか、ヤーの軽い口も弾き飛ばす。
「ねぇ、みんな、ちょっと聞こえている?」
「・・・リゼッタ、1人部屋は値段が張るから無理だぞ」
ぶつぶつ考え事をしていたキブリーが一瞬現実に戻ってきて、声を上げた
「!キブリー、そうよね!」
「ち、ち、ち、そこも大丈夫、1人一つ部屋用意するわよ」
「・・・・一人一部屋って、逆に値段がかかるだろう。」
「そんなことはないわ、ただ理由があるだけ。うちは一人一部屋で食事つきの2銀札よ。」
「はぁ!?、それって安すぎでないかい?」
都会での金銭感覚はまだわからないが、表通りの呼び込みが持っていた看板の値段には安くても10銀札ぐらいからだったはず。田舎でも、安宿で50銅札から泊まれ場所もあるが素泊まりに近い。食事がでてくるとなれば、そこまで高い値段ではないし、王都であればかなり破格な値段だと言えるのではないか。隣のヤーも驚いていた、今は訝しげにみているぐらいだ。
「え~、空室だらけで、やばいってことなんじゃないの、それ。」
「ヤー、クラリスになんてこと言うの!ごめんね、あたしはあなたを信頼しているわ、とても素敵な宿なんでしょ?」
「・・・・・」
「ハッ、いつもの癖が‼」
「くすくす、それは到着してのお楽しみにして!」
クラリスはわざとなのかアッザにウィンクを飛ばす。これは、今後の展開を見るのが楽しみになるな。それはそうと・・・
「あの、申し訳ないんだが、俺はナルジャと一緒の部屋が・・」
そういいながら、俺は銀色の鱗をきらめかせる相棒の頭をなでる。
「うちは使役獣用の棟は別にあって、4部屋しかないけど、たまたま今1部屋開いているから。そこを使ってもらう予定よ。値段は、その分割高で申し訳ないけど6銀札はもらうわ。どう?ああ、あと馬車は駐車場があるからそこにおいてもらうわ。安心してそこは料金取らないわよ。」
「どう?」キブリーにふる
「・・・値段が高くないから、かまわないぞ」
「キブリー、ありがとう、よかったな、ナルジャ」「シャ~~~~」金庫番からのお許しはナルジャにも分かったようだ。頭を俺にこすりつけた後、キブリーにもこすりつけている。
「キブリー、ちょっと、話進めないで。リゼッタ~、悲しいこと言わないで、1人はさみしいわよ」何とかリゼッタの機嫌を取ろうとアッザがあたふたしている。
「えっ、アッザさん、うちの宿に来てくれないの?(しゅん)」
「そんなことないわ、クラリス、あなたを悲しませるような真似をするはずないじゃない」
「・・・・」
こりゃだめだな。
その後も二つの獲物に対してあたふたするアッザをしり目に目的地へと歩いていく
「それにしても、結構中心地から離れて、だいぶ外壁の方へいくんだな」
「ちょっと話を無視しないで」さっきからアッザの声が遠いな
「あはは、はは、そこがね~うちの宿のマイナスポイントなのよ」
「デリック氏~、そういう所を突くのは良くないんじゃない。」
「いや、そういうつもりでは、ごめん、気に障ることを言ったか。」
「いいの、いいの、本当のことだし、それを補うために頑張っているから」
「あぁ、クラリス、なんて健気なの、あたしが慰めてあげようか♡、っは!イカン」
「アッザ、ありがとう」
「きゅぅん、って、っは、ちがう、これは」
「・・・・・」
本当にアッザは、あれが性なんだろう
「ところで、本当にかなり離れたな、場所はまだなのかい?」
「そろそろよ、ほらあそこの畑の真ん中に大きな建物が見えるでしょ?あそこ」
「まだ距離があるなって、あれ、ここって娯楽地区だよな。畑とかって」
「本来はね、畑とかはないんだけど、商業地区から持ってきた食材より、その場で採れたての食材の方が魅力を感じない?」
「なるほど、一理あるな」
「・・・期待が高まります。」
「・・もしかして、オーベルジュなのかい?」ヤーが聞きなれない単語を言った。
「良く知っているわね!だ・か・ら料理が自慢なのよ」
「なんですか、その「おー」何とかって?」
「リゼッタ嬢~、ナイスな質問、オーベルジュはね、良い食材を求めて中心街から離れたレストランから宿屋になったところを言うんだけどね、それこそ王都の有名なレストランがリバアルって、知っている?あのソースシリーズとかで有名な。リバアルに移って、開業して宿屋も始めたことからなんだけどね。でもまさか、王都内でやるとは。」
「お兄さん、良く知っているわね。ここ出身なの?」
「あっ、いや、その、違う違う、うちの田舎がリバアルと取引があってね。それで知っていたんだよ。」
「ふ~ん?」
「ところで!王都って、こんなに広いんだな。」ヤーの素性がばれるのは良くない
「ん?ええ、たくさんの人が入られるようにって大きく外壁囲ったのに、結局便利なお城近くにみんな集中しちゃって、おかげで外壁の近くはスカスカよ。だからうちは自分のところでは畑や動物を飼っているの」
「でもそうなると結構な土地が必要じゃないか?」
「だからこれだけ中心地から離れちゃうのよ。」
「でもいくら離れているからって、土地代とかものすごくかかったでしょ?」
「うふふ、そこは私たちラッキーだったの。お店を開くときに支援してくれた貴族がいるんだけどね、その人たち、色々あったらしくて消えちゃって。最初は彼らへの借金を別から取り立てられるのかと思ったら、その人たち、自分たちの借用証書を全部破棄してくれたみたいで、だから・・・」
「えっ、それって」
「いやー、ラッキーだね~、ほんと。それにしても畑とか牧畜とかやると広いし、維持管理が大変でしょ!」
ヤーはリゼッタの声を打ち消すように声を上げた。
「えっ、ええ、そこは家族みんなで手を合わせて頑張っているわ」
パーティーのメンバーはヤーの気持ちを察し、それ以上は聞かないことにした。
「それでも、うちのお父さんとお母さんが急に倒れちゃってね、今は兄弟で頑張っているわ」
なんともキブリーが感情移入しそうな話をもっているな。キブリーの見た目は冷たそうなのに、情に弱いからな~。
突如クラリスは後ろに振り向きながら威勢よく腕と建物のほうへ広げ、
「さぁ~ついたわよ。それでは、ようこそ「穴兎亭」へ」
「「「「「おおおおお」」」」」一応リアクションするのが礼儀である
「えっへん、(ぶちっ)」クラリスは手を腰に当て、ふんぞり返るパフォーマンスをした瞬間、何かがはじける音がした
「キャァッ」とクラリスは胸を押さえてしゃがみこむ
「「「「おおおおお」」」」俺たち四人は思わず感嘆してしまった中、
「ウホッ」一人だけ鼻の下を延し、下世話な表情を浮かる赤髪がいた。ああ、そうか、そういやこいつ、パイ好きだったわ。
夕暮れに映る建物は、どっしりとした造りで田舎にある大きな宿屋といった感じだ。大通りに合った宿屋に比べ、いつも俺たちがお世話になるようなタイプの宿屋で安心した。正直、大通りの宿はみんな派手すぎて、ヤーやアッザは問題なさそうだったけど、リゼッタやキブリーはちょっと委縮していたな。
「俺たちにちょうどよさそうだな。」
「ほんと?よかったわ、王様たちに呼ばれるような冒険者だから、もっと豪華な宿を求められるかと思ってた。リゼッタさん、これ、ありがとう」
「いえ、どういたしました。それより気を付けてください。うちには下世話な猛獣がいるので」
「いやん、それあたしのこと?リゼッタが代わりにあい・・・」
「だめです。少し反省してください」
「キャン」リゼッタは冷たくアッザをあしらった。
それにしても、この女は、さっきクラリスの双丘が飛び出しそうなとき、キブリーとヤーと3人で力を合わせて抑え込んだことを忘れているのか?よくもまぁ、こうコロコロと
「あははは」
大変立派な胸を持っていたクラリスはリゼッタからもらった布で素早く胸元を隠すようにしていた。それ以降はアッザに思わせぶりな態度を控えている、適切な警戒だ。いつ猛獣が鎖から外されるかわからんからな。
「コホン、身分相応、俺たちは下から這い上がってきているからな。豪華なものにあこがれはあるが、身の丈は理解しているつもりさ。それでも一晩銀札2枚とは思えない宿だ。」
キブリーは完全にこっちの世界に戻ってきたようだ。
「だねぇ~、今から宿を探し直すのは無理でしょ~、今回はクラリスちゃんのところにおせわになりますかね~。アッザ、よかったな。」
「ほんと、嬉しいわ!ぜひぜひ入って。」
「ヤー、今更クラリスの株を上げようったって・・・ね、クラリス」
「アッザさん、よかったですね。」
「いやん、リゼッタ、すねないで~。」
「まぁまぁ、まずはみんなで中に入ろう」俺はナルジャに少し待つように指示をして、大きな扉を開けると
「「「「「いらっしゃいませ~~」」」」」
なかから元気な声が飛び出してきたかと思うと
「おねぇちゃん、おそかったね、大丈夫だった?って、どうしたのその布、もしかしてまたやった?」
「ごめ~ん、アンちゃん、やっぱりちょっときつかったみたい。」
「はぁ~、あとでタクトにお願いしよう。で、そちらの人たちはお客様だよね。うちの説明はした?」
「まだ、アンちゃん、お願いできる?」
「はい、そしたら、おねぇちゃんは裏に行って。」
「そしたら、皆さん一度こちらで失礼します。また後で、ちょっと待っていてください。リゼッタさん、あとでこれ返しますね。」
クラリスはそういうとつかつかとカウンダ―の奥の扉に消えていった。
そのやり取りの間に2組の冒険者パーティーが俺たちの脇を通り過ぎ奥の階段へと登って行った。クラリスの発言通り、結構宿泊者は多く、クラリスの妹であろうアンや他の子たちとのやり取りから、どうやら長期で宿泊しているようだ。
「ふぅ~、お待たせしました。まず姉に変わりお礼を申し上げます。さて、当穴兎亭の宿泊方法についてご説明します。」
「いや、そんなに待っていないが、宿泊方法って?」何やら聞きなれないワードが
「はい、うちの宿は一風変わっていまして、基本的に一人一室になります。」
「おお、それはすごい、でも、そんなに部屋があるようには・・・」
扉を開けて左にカウンター、食堂であろう大きな広間の奥には右左に分かれた大きな階段がある。左右に分かれたという点は気になるが一見すると良くある宿のようだが、先ほど2パーティーの合計人数は10名程度だろうか、つまり俺は別の棟と言っていた除くとしてもキブリーたち4名含めると14名分の個室が必要になる。さらにさっきの会話の中で、もう1パーティーいるような話をしていた。それだけの部屋数が入る大きさの宿には見えないけどな。
「うふふ、皆さん不思議そうな顔をしていますね。いいです、いいですよ。それではこの絵をもって説明します」
そういうときれいに書かれたボードを差し出してきた。
「うちの宿の個室はこの絵にあるように横になって少し余裕のなるスペースしかありません。これがなぜ私たちの宿を「穴兎亭」と呼ばれるようになったかの所以です。」
そこには穴兎の巣穴のように空洞に横たわる人の絵が描かれていた。
「基本的に上下に巣穴があって、各自その中が就寝スペースつまり個室になっています。広さは座って過ごせる程度の高さとご自身の装備と簡易な荷物ぐらい置くスペースはありますが、大きな荷物とかは荷物置き場をご利用ください。なお鍵付きの荷物置場は別途料金がかかります。」
なるほど荷物が最小限なら安く済むが、もしクエスト終わりで希少なものを持っているパーティーならお金を払わないといけなくなるな。なかなか商売上手なシステムになっている。
「個室は男女別に分かれています。奥の階段を見てもらうとわかるように左の階段を上ると女性用の個室、右が男性用の個室です。こちらで受付すると個室の番号をお伝えしますので、各自でそちらに行っていただく形になります。」
「・・・ところで、1点確認したいことがあります。」リゼッタは恐る恐る質問した。
「はい、何でしょうか?」アンの営業スマイルがまぶしい。
「とても重要なことです。」
「はい?」リゼッタの真剣な顔に笑顔が一瞬困惑の雰囲気をまとう
「女性用の個室には扉は付いていますか?」
「?いえ、扉なんか付けたら息苦しいですよ。」アンは平然と答える。
「「「「だめだ(です)!!!!」」」」
「でも安心してください。カーテンで隠せますよ!」
「「「「もっとだめだ!!!」」」」
我々が危惧していることを理解できず首をかしげるアンの横で、先ほど横を通り過ぎたパーティーの中にいた女性を思い浮かべながらガッツポーズをとるアッザがいた。




