ヤンベルグ・ホン=フィンベルの過去
「「「いやいやいやいやいやいや」」」
「何、どうした?」
「ヤー、よく、まぁ~そんなほらを言えたわね」
「ヤーさん、うそつきは泥棒の始まりです。」
「ヤー、さすがに、それはちょっと信じられないぞ」
アッザやリゼッタに同意するが、この状況でそんな嘘は言わないと
「ちょ、ちょおっと待ってよ~、なんで~、嘘じゃないよ。こんな時に嘘は言わんでしょ」
だよな。
「確かに立ち居振る舞いからは感じられるところはなかった
「おい、キブリー氏、厳しい~」
ただ、ヤーがたまに見せた常識外れの答えや対応から、ありえなくはないかなとも思う。特に金銭感覚のズレがさ」
言われてみれば、ヤーの金銭感覚は若干ずれているところがあった。ヤーと出会った頃、ヤーと一緒にいった買い物で驚いたことがあった。一般的に商店で買い物をするときには値切りをする。まず店主の言い値で買うことはあり得ない。
値切り交渉は街で生活し、大人になっていく過程でほとんどの子供が通る儀礼的な行事だ。各家庭の子供はお使いができる年になると、お店が混んでないような時間に親が子供をお使いに出し、お店の人と会話させて、値切りを覚えさせる。値切り交渉が上手いとお店の人とも友好的になれるので、子供も楽しくなっていく。
それに子供の商品の価値や金銭感覚、大人との会話を学ばせるほかにも別の土地に行った時に騙されたりしない様にする配慮もあって、良い風習だと思っていたが、ヤーはその経験が無かったように思えた。いや、商人との会話に関して全く問題はないのだが、金銭の感覚だけは欠落しており、値切りの判断、どのくらいが適正価格なのかわからない様子だった。
その時はヤーが冗談半分で「いや、今俺は余裕があるから大目に払ってあげようと思ってさ」なんて言い、なんて豪快な奴だと思っていたが、もし貴族なら金銭感覚がないのは納得かもしれない。特に孤児院で貧しいながらも、下の子供たちを守り生きてきたキブリーにしてみればそれは異常に映っていただろう。
「やっぱり、あふれ出る気品はバレちゃうか、バレちゃあ仕方ないよね」
「いや、あんた、墓穴を掘っていたって言われてんじゃないの、それ」
「えっ、そうなの?」
「まぁ、そうともいうな。とにかく、ヤーが貴族というなら貴族なんだろう。それで?」
「うん、あ、ああ。まずは自己紹介からかな。改めて名を明らかにさせていただければ、これ幸いです。わたくしめはホン=フィンベル家の嫡男、ヤンベルグ=ホン=フィンベルと申します。今は無き一族であり、今まで皆様に偽りの名をお伝えしていたことをここにお詫びし、事情を察していただければ、幸いです。」
すらすらと丁寧な言葉を並べ、その所作から本当に貴族なんだな。
「って、ここまでにして、まぁ気楽に話していこうか」
「まぁ、雰囲気はそれっぽかったけど、ホン=フィンベルだっけ?聞いたことのない貴族の名前言われても、信用できないわよ」
アッザの言うことにも一理ある。
「そりゃ、そうだ。そうだな~、よし、ヒントとして、俺はラビーダ小街区に今までは行ったことはないし、死んでも入らない」
「回りくどいのは嫌いです」リゼッタが面倒くさそうにしている。いや表情は変わらないんだけどね。
「ヤーはラビーダ小街区に興味がないだけではないんだろ?まぁ確かにあそこに行っても、身内意識が強すぎて、クラウンに所属しないと親切にしてくれないからな~」
「デリック、そういうことじゃぁないんだよ」
ヤーの鋭い突っ込みにこれのどこに貴族要素があったんだ。
「もしかして、ラビーダを支援していた貴族がヤーの家だったのか?」
沈黙していていたキブリーがボソッといった。
「そ!そういうこと」
「「「???」」」
キブリー以外の3人はいまいちピンときていなかった。
「うちの家は王都でもあんまり裕福な貴族ではなかったんだけどさ、何も問題が無く平穏に暮らしていたんだ。それがさ、王族が出した立国制度のせいで、王都に冒険者たちがいろいろ来るようになったんだよね~。で、他の貴族連中はだ~れも見向きもしなかった冒険者も多かったみたいでさ。そこで気さくな一族であったじいちゃんと親父が、ある冒険者パーティーに声掛けたわけよ。」
「それがラビーダ?」
「そ、最初はすんごい仲良かったのよ、俺が言うのもなんだけど、親父たちも貴族っていうには、ちょっと変わっていてさ。冒険者のクエストとか一緒になって行っちゃうしさ。」
確かに今のヤーをみればなんとなくわかる。
「親父たちはできる限り支援していたし、積極的にかかわっていったから、どんどんクラウンもでかくなっていったから、みんな大盛り上がりで、俺も小さかったからさ、冒険者たちとバカみたいに騒ぐ親父たちを見て、何にも疑ってなかったなぁ~。ただお互いちょっと野心が芽生えちゃったのかな。」
ちょっと寂しそうな笑顔を浮かべた。
「親父たちは今まで馬鹿にしてきたほかの貴族に見返せると思っていたし、ラビーダ所属の冒険者たちも日に日に力を増す自分たちのクラウンにあと少しで立国の要件を満たして、そうすれば王族からの褒賞とかもらえるって。お互い前のめりになっていたんだけど。」
「今のところ仲たがいするような話ではないわね」
「ところがさ、ラビーダクラウンは褒賞をもらえれば貴族と同等の扱いになるわけで、そうすると立国した際に自治権の第一席は自分たちだと言い始めたのさ。」
「はぁ!?だって、それは今までヤーの一族が支援していたからだろ?」
「まぁね、ただ最初も言ったように裕福な貴族ではなかったから、別のクラウンと比べたらいまいちだったんだろうね。代わりに親父たちはマンパワーを提供していたつもりだったんだけど。要はなめられてしまったんだろうね、向こうから一方的にもういらないってさ。」
「それで?」
「親父たちも抵抗したけど、結局本鞘には戻らず、支援終了で。ただその後が痛かった、王族がせっかくそこまで大きくなったクラウンがつぶれるのはもったいないと思ったのか、うちの一族が利益目的に支援していたわけだから、ラビーダを支援していたお金全部を返済する必要はないって。」
「王さまって案外バカ?」
「いやいや、王族が判断を下したっていうよりはうちのことを妬ましく思っていた貴族たちがあーだこーだ言っていたみたいなんだよね。それも後に分かったんだけどさ、今更って感じで。」
「そんな、そしたらヤーさんたちはどうなるたんですか。」
「その後は転落人生ってなもんで、ラビーダを支援するために借金もしていたから、返済したらすっからかん、うちらは一家離散ってな感じよ。まぁ、親父たちは貴族というくだらない肩書がなくなって清々したって言ってたけど、悔しかったろうね。」
「それでヤーは一人で」
「そう、裸一貫で始めようと。ただ体しかないからさ、皮肉にも冒険者になるしかなかったってわけ。」
「ほかの家族は」
「親父たちは田舎で静かに暮らしているよ。昔面倒見ていた人たちが助けてくれてさ。あと妹がいるんだけど、妹はまだ王都にいるんだ。無事だといいんだけどな。」
「王都に着いたら会いに行けば良い?」
「いや、無理だろうな。」
「なんで?」
「俺にも親友がいてさ、貴族なんだけど、馬鹿みたいにまじめで、やさしくて、不器用で。そいつがさ、ずっぅと妹にホの字だったわけよ。そんで妹も目で追ってるくせに意地張ってさ。もう周りがやきもきですよ」
「「それで」」女子が食らいつく。
「俺はもちろん知っていたけど、変に突っつかなかったわけ。えらいでしょ~。で、うちのトラブルよ。普通ならそのままバイバイよ、妹もあきらめていた。もう号泣。そこでホッジが、ああ、俺の親友ね。ホッジがちょっと待った~ですよ。親父とお袋に話をして、向こうの親もねじ伏せて、一緒になるって。」
「「すてき~」」
「ただね。向こうの親との約束でホン=フィンベル家とは縁もゆかりもない話にしてあるから、だから俺は会いに行けないのさ。」
「つらいな」
「まぁ、妹が幸せなら十分だし、今回の件で俺の無事も伝わるでしょう。」
その後もヤーは貴族時代の話を、特に面白話を聞かせてくれた。
「ヤー、俺たちが貴族たち対面するときに注意することはあるか?」
「いや、特に何もない」
「作法的なものはあるでしょ?」
「いや、何も知らない方がいい。っというのも、もしそんな対応ができていたら、誰かしら貴族が俺たちに知識を与えたことになる。そこにいくら見た目が変わっているとはいえ元ホン=フィンベル家関わりあるものがいるとバレれば、俺たちのクラウンに嫌がらせが来るかもしれんからな。」
「なるほど。」
「それにしても天パのヤーさんが貴族の時はストレートにしていたとは信じられないです。」
「いやー、リゼッタ姫に見せたかったですよ。男前が4割ましだから、惚れちゃったかもね~。」
「リゼッタがあんたに惚れるわけないでしょ、あたしがいるんだし」
「・・・・」
「「そこつっこんでよ~」」
「それにしても、ラビーダにはなんか、いいのか?」
「ん?」
「いや、なんか悔しくないのかなってさ。」
「う~ん、何にも思ってないと言えばうそになるけど、親父たちと切磋琢磨していた頃を見ていた時にそんな悪い人たちに見えなかったしさ。それに今でこそ安定してそうだけど、うちからの支援が切れた後苦労してたみたいでさ。自分たちのアドバンテージだった蓄能結界杭の技術を売るしか、資金繰りができなかったのを見るとさ。もういいかなって。」
「そうか」
「まぁ、いつかあいつら全員に親父たちに詫びに行かせたいけどね」
ヤーの思いは王都から帰郷した数か月後、叶うことになる。キブリーの手はずでラビーダの上層部がヤーの親父さんたちを訪ねに行くことになったからだ。実はキブリーはギルドの飲み会等でラビーダの上層部とも少し面識があったらしく、彼らもあれだけ良くしてくれた人に恩を仇で返すような形になったことを気に病んでいたようだ。
後に分かることだが、彼らも王都にいるある貴族に唆されていい気になってしまったことであんな強行な態度に出てしまったようで、悔やんでいた。貴族ならそれなりに裕福だろうし、まさか一家離散にまで追いやるとは思っていなかったらしい。そこは政治に関わっていない冒険者の勉強不足だったのだろう。
ラビーダはホン=フィンベル家の支援が打ち切られた後、王都の貴族に飲み込まれそうになるが寸前のところで回避していたらしい、ただどこからの支援もなく、運営資金不足から蓄能結界杭を売る羽目になったそうだ。その頃ホン=フィンベル家の人たちの良さに今更ながら気が付いたとのことだった。
「俺たちがバカだった、おだてられて、のせられて。もう巻き込まれたくなくて立国をしようとは思わないけど、もしお前たちが国を立ち上げようとするなら。あの貴族には気を付けろよ」
ラビーダのトップが忠告してくれた。
「それにラビーダの連中より俺たちをはめた貴族を叩きのめしたい方が強いかな。」
「なんていう、貴族なんだ」
ヤーはラビーダのトップが教えてくれた同じ姓を告げていた。
「マックウィーン家、あいつらが元凶さ」
~王都「ハボン」~
いくつもある貴族の屋敷の中で面積は大きくはないが、その立地と確かな技巧を凝らした美しい屋敷はク=ズミ家の本宅である。その横には別宅として新婚の夫婦に与えられたこじゃれた屋敷が立っていた。
「ホッジ、ホッジ、ホッジ~」
オレンジ色の髪に少しウェーブがかかった長い髪をポニーテールのように結び、キラキラした笑顔で、同じようにキラキラしたドレスを着た女性が長い廊下を疾走していた。手には新聞を持っているようだ。
「ちょ、どうしたんだい?落ち着いて、キャルロット。おなかの子が驚くよ」
「ごめん、でも、これちょっと見て」
茶目っ気のある表情、ころころ変わる彼女の表情を見るのがホッジは何より好きだった。本宅では貴族特有の無表情に徹していないといけないが別宅では気にしなくてよい。彼女の表情を見るたび、やはり別宅を立てて正解だったなとかみしめる。
「ん?、って、え、これ!?」
「ね、だよね、あにさまだよね。」
広げた新聞には今度王都に来る冒険者パーティーの情報が載っていた。新たなクラウンの誕生は貴族の中でも注目の情報で、特に中級ぐらいの貴族にとっては上に上がるチャンスにもつながる。ただ最近はなかなか支援する貴族と受ける側の冒険者パーティーのマッチングが上手くいかないと聞いていた。
ク=ズミ家は王都と王族を守る上級の貴族であり、騎士団を取りまとめているホッジにとってみればあまり興味関心のないネタのためいつもスルーしていたが、妻であったキャルロットが新聞を読んでいたとは、そのおかげで自分の義兄、親友のヤンベルグの情報が入った。やはり妻は素敵だと感心する。
「あいつ、冒険者になっていたのか、一言言ってくれればいいのに」
「やっぱりこの人相書きはあにさまよね。さらにこの天パ、これは私たち家族しか知らないけど、やっぱりあにさまだわ。」
キャルロットは嬉々とした表情を浮かべる。
「ああ、多分な、あいつ相当頑張ったんだろうな。」
「たぶん、あ~、久しぶりにあにさまに会いたいな。色々報告したいし」
大きくなったおなかをさすりながら、キャルロットは微笑む
突然ホッジの後ろから冷たい風が流れる
「シャルロットさん、どうしたんですか?」
「!お義母様、申し訳ございません。」
そこにはすらっとした女性が佇んでいた。あまりにも綺麗な顔立ちで、顔には表情が一切なく、氷ついているのではないかと思ってしまう。氷の麗人と表現できよう人物は、一瞬男性に間違われてしまうくらいに整った男前だった。
「母さん、どうしたんだい?いつもは本宅にいるのに。」
「おなかのこの様子を見に来たんです。そしたらシャルロットさんが走っているから驚いたのよ。ホッジ、シャルロットさんね。」
「ああ、母さんすまない。」
「頼みますよ。まだかの家の名誉は回復されていないのですから。シャルロットさんもその辺をわきまえてね。」
「はい、すみません、お義母様」
冷たい顔をしたままキャルロットに近づくとおなかに手を当て、息子の嫁をそっと抱き寄せ、耳元でつぶやく
「キャミーちゃん、もう少しの我慢よ。あなたのお兄さんなら必ず家の名誉を回復してくれる。それまではあなたはシャルロット、いいわね。」
「はい」
そういうとすっと離れ、また冷ややかな顔に戻り
「それでは二人とも気を付けない。シャルロットさんは体を冷やさないように」
ホッジの母親はそのまま別宅を後にした。
「母さんは何だって。」
「いつもの優しい言葉、それとこれ」
抱き寄せた際にキャルロットに手紙を渡してくれていた。貴族が差し出すような確かな綺麗な手紙ではない。開いてみるとそこには懐かしい筆跡で書かれたていた文章、その懐かしい文字読むとキャルロットは目を潤ませた。
「なんて書いてあるんだい。貸して、あのばか、変に気を遣わせやがって」
しくしくする妻の頭をなでながら、手紙を読むとホッジも自然と目頭が熱くなった。
そこにはヤーがキャルロットに向けた内容が簡潔に書かれており、貴族社会で生きている妹への労いと、ハボンに着いてもキャルロットに会いに行くと迷惑になるため、他人でいるよう忠告が記されていた。
「あいつは全くこっちの気も知らないで」
「大丈夫、私はあにさまを信じているから、あたしたちの時みたいにうまくやってくれるよ。いつか上の子も含めて、みんなで集まれるといいなぁ」
二人はヤーが二人の結婚のために画策していたことをホッジの母親から聞かされていた。ホッジの母親はいくら愛する息子に懇願されたとはいえ、本来なら没落貴族との縁談はク=ズミ家のことを考えるとありえない。あんなことが無ければ、少し格は落ちるが納得できたものを。そんなことを悩んでいたと時に現れたのがホッジの親友のヤンベルグことヤンだった。
彼は一家離散となる際に残った資産をすべて妹のキャルロットに持たせ、ホン=フィンベル家とは全くの違うところ、一部の格が高い商会の娘というところから、ク=ズミ家に嫁がせられるように手はずを整えると。ホッジはたまたまその商会に顔を出した際に一目ぼれし、求婚したという設定にさせてくれと、ホッジの母親に頭を下げてお願いしてきた。息子の旧来の付き合いである彼からの提案に乗り、ホッジの母親はヤーと共謀した。ホッジの母親は見た目とは違う人情派の人だった。
そんなこととはつゆ知らず、結婚後一人目の子供がある程度2歳になったころに知らされた二人は暖かく見守ってくれ、最後には苦しいはずなのにすべてを整えてくれた兄を、親友を今度こそ助けるという固い決意していた。
「大丈夫、今度こそ、目を背けず、必ず助ける。」
「ホッジ」
二人は遠くこちらに向かってくるヤーに思いをはせていた。
~ハボンのはずれの大きな屋敷
「プラム様、プラム様・・・」
「どうした、ジェルム、慌てて」
「次のクラウン立ち上げを望んでいる冒険者パーティーの情報が届きました。」
「ほぉ、どれどれ、我がマックウィーン家の更なる繁栄をもたらしてくれる者たちかな・・・」
マックウィーン家は探究者たちをうまく活用し、探究者ギルドの運営を通じ、国民生活に豊かさをもたらしたことによって、貴族の称号を与えられていた。周りからは商人から成りあがった下級貴族というレッテルが張られているが、彼らは逆にそれを誇りに思っていた。
成り上がりのためには手段を択ばず、自分たちの地位向上のためには人の好い貴族を蹴落とした。良心の呵責に苛まれはしたが、自分たちの目的達成のためどんな罪でも背負う覚悟があった。
「何々、彼らも貧困から成りあがってきたのか、これなら我々と同じ道を歩んでいけるはずだ。ジェルム、彼らがよだれをたらしそうなものは何か。ほかの情報はないか?」
「かしこまりました。ギルドから更なる情報を得てきましょう。」
「ああ頼む、これで王族に認められ立国できれば、我々の理想国が出来上がるぞ!」
マックウィーン家の当主プラム・マックウィーンはこれまで発展させた祖先の遺志を継ぎ、一族待望の立国に向け、止まらない。ただジェルムがもたらした情報に載っている天パの男をよく見ておく必要があった。




