クラウン立ち上げ~王都への道のり~
再びパーティーへと戻った俺はキブリーたちと一緒に王都に向かっている。新しい小街区を運営する冒険者クラウンとして、城塞都市での正式な申請手続きと権利授与式に出席するためだ。昔はクランと呼んでいたが、今は冒険者たちの一つの共同体を冒険者クラウンと呼んでいる。クラウンといえば冠や王国といった意味の印象を受ける言葉を使うのには、この国の歴史から冒険者たちに向けての期待が向けられた流れからだろう。
今俺たちが住んでいる世界には今のところ国は一つしかない。城塞都市を王都とし、三つのギルド自治都市、一つの聖域都市、と複数の産業都市、これらが存在する領土以外はまだまだ未開の地となっている。それ以外にも国に所属していない都市が点在しているらしいが、詳しいことはわからない。
とにかく人の生活圏、整備されてない場所にはモンスターが頻繁に出没し、さらに冒険者が向かうような地図すらない場所は危険極まりない状況もある。それこそガンズたち岩男たちの集落があるのだから、意思疎通できるモンスターたちの国があってもおかしくないかもしれない。そういえばガンズたちに会いに行くと言ってから、だいぶたってしまった。戻ってきたら会いに行かないとな~、でも俺の顔とかわすれられてそうだなぁ~。
さて話は戻るが歴史書曰く、そもそもこの世界は一度崩壊した世界で、生き残った人々はモンスターたちに追われながら生活していた。ある時力を持った英雄たちが生き残った人を集め、都市を形成していこうとした際に、一体の怪物<嘆きの巨人>が現れ、それを退治したのが現在の王都にいる王族であるドス・メノス家だった。
<嘆きの巨人>を倒した初代の王は何でも特殊な玉を作り出し、自由自在に操るらしく、その王の力を色濃く受け継いだ子供が次の王となることから、王と定められた者が座る椅子「玉座」の語源の由来にもなっているとのこと。
強大な怪物はまだこの世界のあちこちにいるかもしれないと考えた王は人々の安全を確保するため城塞の都市を築き、それが現在の主都「ハポン」となった。それからは生活の安定のため産業都市を、この世界の開拓をしていくためギルド自治都市を築き上げ、生活圏の拡大発展が図られてきたのだが、ある時を境に横の広がりが止まってしまった。
探究者の登場だ。探究者はこの世界にあるダンジョンを深堀していくことを目的としており、ダンジョンの奥底にある過去の文明や遺物を解き明かしていくことに専念した。そして彼らがダンジョンから持ち帰ってきた情報や遺物は人々の生活の質の向上につながっていった。例えば水路の構築方法などは遺物書によるたまものだ
ダンジョン探求にも危険はつきもので、モンスターは多く存在し、命の危険はあるが、地上との違いは安全地帯があること。冒険者のように未開の地で24時間全方向危険と隣り合わせといった環境よりはマシである。そのため、未開の地開拓よりもダンジョン探求の方が人気になり、ダンジョンの探索で値打ちのあるものを見つけて持ち帰れば、それだけで生活ができてしまう。そのおかげで探究者人気は高まり、実際2つ目にできたギルド自治都市は探究者のための都市だった。
探究者に対する人気が高まるにつれ、未開の地を踏む冒険者の数は日に日に減っていき、人類の生活圏拡大は止まり、代わりに探究者がもたらした技術により生活が安定し始めた。一見喜ばしい限りだが、問題が起こり始める。一つ目は生活レベルが向上したことで人口が増加し領土が狭くなったこと。二つ目は探究者が飽和状態となり、人と人との摩擦が生じ始めたこと。三つ目に現在の人類安全圏の中でダンジョンの数にも限りがあり、新たなダンジョンを見つける必要があったこと。
他にも細かな問題は起きてはいたが、早急に対応すべき3つの問題を解決するためには開拓者となる冒険者を活性化させる必要があった。そこで王族は世界の更なる発展を目指し、未開の地を歩む冒険者へある権限を与えた。それは「立国」。今までの都市の自治権などの権限を飛び越え、自分たちで国を作ることを許可したのだ。
別の国ができることに、国民は熱狂したかというと、・・・そんなことにはならなかった。はっきり言うと冒険者を含め一般人は総ポカンだった。いきなり国を作っても良いと言われても、想像が湧かず、誰も気にもしなかった。また別の国ができたら自分たちの生活がどう変わるのか、どういった対応をするのか想像がつかなかった。
だが、強く関心を持ったのは王都を作った際の建国メンバーの末裔だった貴族たちだった。彼らは王族からの指示を受けこの国の政をしており、国の運営に精通していた。彼らには向上心や野心があり、もし自分が国のトップとして君臨するならこうするのにといった考えを持っており、「立国」権限を考えた当時の王も貴族がそういった願望を持っているのを知っていたからだろう。
ただこの荒れ果てたモンスターだらけの世界で王都に安全に暮らしている貴族は別に今を不満に思っているわけでもなく、王に対して反感もあるわけではない。だから何も反乱を起こしてまで国を乗っ取ろうとしたいわけではないし、自ら進んでいばらの道を歩みつもりもない。
そこで王が考えたのが冒険者へ立国権限を与えることだった。自分たちが一国の主となりたい貴族には資格はない、資格を与えられているのは冒険者だけ。ではどうするか。貴族は冒険者のスポンサーとなり、国を作るための条件達成を確保させ、タイミングを見てスポンサーとなっていた貴族が冒険者となり、立国するといった流れを考え付いたのだ
貴族を安易に放出してしまっては現在の国が弱ってしまうという危険もなく、もし国を立ち上げる途中にモンスターたちに蹂躙され、貴重な人材を失っても困ってしまうこともない。貴族の流出を防ぎ、冒険者も貴族からの手厚いサポートを受けられ、一気にのし上がることもできる。また昨今貴族と冒険者、一般国民との距離を感じてもいたため、交流を通じてお互いを知る機会となるwin-winな制度のはずだった。
さらに都合が良く、制度を発令する直前の良いタイミングで、ある冒険者パーティーが新たな導き石がある昇華の祠を見つけた。王族はそこに冒険者のためのギルド自治都市を築く際に、これからその都市を運営するメンバーに考えた新たな制度を説明し、これからの冒険者パーティーが立国を目指すための支援をする目的で、そのギルド自治都市にもし国を築いた際の予行練習を行えるような環境づくりを提案した。
ようはギルド自治都市に集まった有望な冒険者パーティーがクランとなり、小街区を築き、その街区内での自治権を与え、貿易から運営等好きなようにできる。そうすればギルド自治都市を中心に街は拡大していくとしたシステムを提案し、導き石を発見した冒険者パーティーはその提案を受け入れ、ギルド自治都市を運営することになった。
それが「ボッサム」というギルド自治都市の特徴であり、すでにボッサムの都市の周りに三つの小街区があり、それぞれ城塞都市「ハポン」に住む貴族が支援している冒険者クラウンは日夜条件達成のため奮闘している。冒険者クラウンは条件さえ達成すれば国を立ちあげるはずである。
小街区を運営していくうえで、単に冒険者パーティーが集まった集団を運営するというだけでなく、街の維持や産業の発展など様々な資材・人材を集められなければならない。それがクラン設立という小国の設立に近かった。実際冒険者たちが立国した際、王族のような立ち位置になることから自然に「冒険者クラン」ではなく「冒険者クラウン」と呼び名を換えたのだった。まだ一つの国もでき上ってないが、それぞれクラウンの名称が国の名前にもなるのだろう。
まぁ、あるクラウンは貴族からの支援を受けてはいたが国を立ち上げる条件を満たしそうなところで自分たちにあまり利益が無いと思ったらしく、条件達成を積極的に行わなかった。その結果、業を煮やした貴族から支援打ち切りの勧告をされたが、すでに小街区を数年維持していた彼らに今更貴族の支援がなくとも問題なく、逆に貴族に対しての上納金を払っても運営はできるとして、決別してしまったケースがあった。
最も貴族からの報復があればすぐにでも潰されていたかもしれないが、王族がそれを見破れなかったのはその貴族の落ち度であり、一切の報復を認めず、逆にその冒険者クラウンに立国はしなくても良いから積極的に領地開拓をしろと要請したぐらいだからな。その一件を反面教師として、残り二つのクラウンにはそれぞれ支援している貴族から視察や自分の子息または関係者をクラウンに送り込んでいるらしい。それのせいでうまくいってないと噂もあったりする。
さて俺たちはどうなのか?すでに貴族からの支援打診はあるのか?そんなものはない。各自バラバラの出自で基本的に底辺から這い上がってきたようなものだ。貴族とのつながりはなく、最初からの支援なんてものはない。そうつまり今回王都に行くのは、真っ白な俺たちクラウンの貴族に対するお披露目会で、品評会のようなもの。実際に今までもクラウン申請した冒険者パーティーはこの品評会に参加し、王都の貴族たちによる品定めを受けていた。
はっきり言うと小街区運営にはかなりのお金がかかる、なので貴族からの支援はあってほしいのは当たり前で、なければ前途多難となる。新設の冒険者クラウンに価値があれば貴族たちは支援を申し出てくる。一番良いのは貴族たちが競り合って支援額が高くなり、条件交渉ができることだ。それが無ければ冒険者クラウンは貴族に泣きつくようなことになり、底値で支援されることになる。
現状存在するクラウン以外にもクラウン申請を試みたグループはいくつかあったが、その支援の交渉が上手くいかずに、設立したものの小街区建築までこぎつけなかった。彼らの実績が悪かったわけではないのだが、いくつかの悪例が出てしまったために、貴族側も冒険者側も条件が厳しくなり、うまくマッチングができなくなっていたのだ。
では俺たちも同じようにマッチングが出来なければ、資金・人材不足で設立をあきらめるのか。いや、違う。俺たちはそもそも最初から貴族の支援を当てにしていない。というより資金・人材を必要としていないといったほうが正しいかな。
俺たちの冒険者クラウンメンバーはみんな貧しいところから出てきているせいか、ひどい浪費癖はいなさそうだ。また俺の聖なる灯で、防壁や結界の維持費等大きな経費が削減できるため、まず手始めには最小限の設備で問題ない。設備や街も徐々に拡張していけば良いという共通認識をメンバーが共有し、納得していた。
実際守銭奴?のキブリーが計算した現状のシミュレーションでは、初期投資額から運用費を含め、冒険者パーティーの3チームが上手くクエストをこなしていけば、資金に困ることはないようで、その説明や資金運用的なものも情報共有された。孤児院を運営している際にある程度大きくなった子供たちがお金のことを心配してきた経験からキブリーはここら辺をしっかり説明してくれる。
また人材の問題もキブリーの孤児院の子供やキブリーたちが育てた冒険者パーティー、それ以外にも駆け出しのころ俺がサポートしていた1組のパーティーも参画することが決まっていたらしい。
みんなと離れた際に何組かの新米パーティーと組んでは別れを繰り返していた。その際に彼らのパーティーから俺が離れていった後、ヤーやアッザが彼らのところへフォローしていたらしい。その際にそのパーティーはうちらのパーティーの目指すところに共感を持ったらしく、クラウンの話をした際には加入に対して前向きだったようだ。
今まで組んだ新米パーティーの彼らには最終的に期待にそぐえず、離れていったので後ろめたさがあったため、ヤーやアッザがしたことは少し余計な事とばつのわるい感じもしたが、俺は自分の力を見定めるための間に周りがどれだけ動いてくれていたのか、今更ながら知って、何とも言えない。俺がつなげた仲らしいが俺自身に自覚はないけど、まぁとにかくマンパワーもかなり確保できている。
つまりは、俺たちは確かに王都へ品定めされに行く、しかしすべて断ってしがらみのない冒険者クラウンを築こうとしているのだ。苦難の道だろうが、楽しみで仕方がない。
「ねぇ、デリック、ナルジャのうろこって、きれいよね~」
アッザは馬車に揺られながら、並行して歩くナルジャをみてそっとつぶやいた。
「だめだからな」
「銀色がキラッ、キラッして」
「無理だからな」
「・・・・まだ何も言ってないじゃない。」
「前にも言っていたからわかっているよ。ナルジャのうろこが瞬時に生え変わるならいいが、そういった鱗じゃない。」
「別にタジットみたいにすべてのうろこを引っぺがそうとは思わないわよ、ただ2,3枚くらい減るもんじゃないし、いいじゃない。それがあればきれいなアクセサリーができるの」
「ナルジャが痛がる。却下だ。」
「ねー、リゼッタ~、リゼッタも欲しいよね?おそろいのアクセとかどう?」
「アッザさんとのおそろいは別として、確かにナルジャさんの鱗はきれいなんで、欲しいです」
「ほらね、デリック!リゼッタもおそろいのアクセが欲しいって。ねぇ、ナルジャのマスターなんだからぴぴって取っちゃってよ。」
「だめだ、それとナルジャは耳が良いからな、アッザ。」
「キシャー!!!」
「ちょ、ちょっとナルジャ、冗談よ、冗談、あ、まって、きゃー~~~」
アッザはナルジャに連行された。
「ナルジャ~ほどほどにな~。まったく、アッザも分ってて、やってんだから」
以前にも同じようなやり取りをしており、二人はじゃれ合っていた。どうやら王都までの馬車旅が退屈で、それを紛らわすためのやり取りだったようだ。
ナルジャはアッザを馬車から引きづりだすと上に放り投げ、アッザは器用に空中で回転しナルジャの背中に乗るとロディオがスタートした。
「アハハハッハ、ソレ~~」
「キャシャーーーー!!」
二人とも楽しんでいる。
「アッザさん、お尻がずり剥けても回復しませんよ!!」
「!!それはまずい、ナルジャ、ストップ、終わり!終わり!!」
「キャシャシャシャシャシャ~~~」
「ごめ~~ん、もうやめて!!」
「「「あはははっはは」」」
俺たちはその光景を見ながら笑っていた。ただ一人ヤーだけが笑っていない。ヤーは少し神妙な顔をして、馬車の手綱を握っている。今思えばそういったものはキブリーや俺に任せるヤーが自ら買って出ること自体珍しかった。
キブリーと目が合い、俺が行くと合図した。キブリーは意図をくみ取り、再度申請書類や工程表などの確認に戻る。
「ヤー、どうしたんだ?」
「ああ、デリックか、ごめん、ごめん、ちょっと考え事をしててさ。まぁ、取り越し苦労なんだろうけど」
「そうか、俺から一言だけ言っとくよ。ヤーあんまり一人で抱え込むな。」
「おう、どうした。」
「いや、今回の件でさ、俺は自分がいっぱいいっぱいで気づいてなかったけど、周りの人が結構支えてくれていたことを知ってさ。」
「な~んだ、そんなことかい?そんなの当り前じゃないか仲間だろ?」
「そう、その通り、だからヤーにも同じことを分かってほしいわけだ。」
「・・・・」
「俺が何かを話さなくてもみんなは俺をフォローしてくれていたんだろ?だから、ヤーが何も言わなくても俺たちはヤーを支えるさ。ただ先に話してくれれば、それなりに対応しやすいってことなんだが・・・」
「・・・たしかにな~、え~、そりゃ、デリックがナルジャを連れてきたときはキブリーと俺は本当に焦りましたよ。」
「ああ、そうだったのか?」
「あら、無自覚ですか。いやね、ビーストテイマーってのがあるのは知っていたけど、まさかデリックがそっち行くとはね。確かに修練道場では素養があるとは言われてたけど、でもテイマーが連れてくるようなモンスターとは全然違っていたしね。」
「そうか、そういえば、みんなには俺とナルジャとの出会いは話していなかったんだっけ?」
「そうそう、それですよ。デリック君は何にも話してないね。」
「そうです!ナルジャさんとの出会いは私たちも聞いていません!」
「ああ、そうだな。確かに、俺たちは誰も知らないな。」
リゼッタとキブリーも俺たちの会話を聞いていたのか、聞いてきた。自分では話していたつもりだった。
「そうか、そしたら、王都までの時間まだたっぷりあるし、別に隠すようなことではないから話をするか。そうさ、ヤー、別に隠すことが無いようならさ、気兼ねなく話してくれよ」
「そうですよ、ヤーさん。ヤーさんはすっからかんとした元気が良いところなんです」
「リゼッタ姫、それは褒めてくれているの?まぁ、そうだな、俺らしくないな・・・、うし、みんなにおいらの過去を赤裸々に語っちゃおうかな!今日は寝かさないぞ~~」
それから他愛もない話をしながら、夕暮れ迄街道を進み、王都までの当初予定していた野営地についた。
「今日は~ここを~キャンプ地とする!!」
久しぶりに聞いたヤーの掛け声とともに野営の準備に取り掛かる、今晩はヤーの過去と俺とナルジャの話の二本立て、長い夜になりそうだ。




