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目的達成!!

聖なる灯が生まれた。

パチパチッパチ・・小枝が燃えるときに奏でる破裂音は人の心を癒す。

荷物にいつも常時している針葉樹の枝の束と広葉樹の枝の束を紐解くと、枝で合掌造りの焚火をすぐに組み上げた、針葉樹を内側に広葉樹を外側にすることで、内側は着火しやすく、外側は長持ちする。


俺が作る焚火の正体が隠れたる力である「聖なる灯」と分かって以来、旅に出るときは小さな焚火を作れる最小限の枝木を荷物の片隅にしまい込んでいる。たとえパーティーで結界杭を利用し始めてからソロ活動している現在もずっとだ。基本的には薪を持ち歩くのは荷物がかさばるため、薪は現地調達を旨としているが、緊急時にはとても重宝する。ソロ活動の時に何度もそれで助かったし、今回もこの聖なる灯のおかげで周りに充満しているであろう毒ガスから身を守れている。それでも、若干、匂いが、うっ。


「早く、焚火が強くならないかな」

小さい薪による聖なる灯はいきなりパッと力強く効果を発揮するわけではない。焚火と同じようにじっくりと温めてくれるように周りの環境を包み込んでいくのだが、今は速攻で範囲を広げるように燃えてもらいたいもんだ。徐々に明るさを増す焚火を中心に先ほどまでの出来事が嘘であったかのような穏やかな半球を描きだされた。


無機質な壁に囲まれた空間の一部は砕け散り、大きく崩れ洞穴のようになっている。遠くにポツンと落っこちている松明に照らされている奥の部屋のあちこちには、ナルジャが放った尾針や尻尾をたたきつけた際にできた大きな溝ができていた。壮絶な戦いを繰り広げていた、その実感がわかない。


それ以外にもあちこちの床や壁には正三角形の各頂点ぐらいの間隔でひらいた大きな穴やどろっとした気味の悪い体液、奥の部屋の中央には鱗の跡が残った大きなひび割れがあった。あのモンスターがジャンプしてボディープレスをした時にできた跡だった、イヤーほんとあれよくよけられたな。


もう一度崩れた壁の方に目を向けるとモンスターがその巨体を仰向けにして、古池のヘドロのような深緑の瞳で天井を見上げている。裂けた口から蛇のような舌をだらっと垂らし、鼻の少し上には俺のバトルピッケルが突き刺さっている。あそこは奴の大切な感覚器官の密集地だったのか、あの一撃が決まってから、戦況が一転した。


まるで視覚を失ったかのように苦界ナーガスはやたらめったら見境なく暴れ始め、三又の矛のような手で床を貫いたり、尻尾を振り回したりと周りの状況が見えていない様子だった。近づくことはできなくはなったが、距離を取っての攻撃に切り替えれば済む話だ。


そこからナルジャが尾針を飛ばし、暴れまわる大蛇を針の山にして、身動きをとれなくしてから、しっぽたたきつけでとどめを刺そうとした。俺もピッケルをたたきつけてから、攻撃手段を失ってはいたが、ナルジャのフォローをするため、左小手で床に刺さっていたナルジャの尾針を引き抜くと、わきに抱えた。ナルジャの銀色の肌が煌めき、尻尾の一撃が顔面を捉えると後ろにのけぞって倒れていくところに、俺はランスの突撃のように突進し、左わき腹から斜め上にめがけ、貫いた。



すぐにバックステップで距離を取り、崩れ落ちる苦界ナーガスを見て、一瞬息を抜いてしまった。次の瞬間、倒れた反動で払われた尻尾がこっちに飛んできた。ナルジャは跳躍してよけれたが、俺は吹き飛ばされた。ここまでは、俺の方が重症かと思われるが、俺はいたって平気だった。聖なる灯のおかげで耐久値も増えていたし、左の小手を先に出して、体を宙に浮かせ、わざと吹き飛ばされたことでうまくいなせていた。


それよりも問題だったのはナルジャだった。ナーガスは倒れた後ナルジャの方をめがけて臭い息を吹きかけていたようだ。ナルジャは自身が様々な毒を持っているからかそもそも毒とかの耐性が強いほうだ。たまに毒の含まれる食材を好んで食べているのもある。しかし臭いものは別の話だった。離れていた俺もグハッと声が漏れ出るくさい息をもろに喰らったナルジャは即座にその場からはなれると、こちらによたよたと近づいてきたが、明らかに苦しそうだった。


自分も匂いのせいで息苦しかった、すぐに聖なる灯で守る必要性を感じ、今に至る。やっと崩れた壁の手前までは聖なる灯の明るい光が包み込み、緊迫した重苦しい雰囲気が一気に柔らぐのを感じる。小さな焚火ではせいぜい半径数十m程度の範囲しか確保できないが、これで十分だ。先ほどまで若干漂っていた悪臭も消え失せている。


焚火のすぐ近くで丸くなり、苦しそうにしているナルジャをなでつつ、これで少し楽になるのではとほっとする。貴重な水を使い丁寧にナルジャの体を洗い流していく。俺自身に回復する能力はないけど、聖なる灯に当てておけば、身体強化による効果で少しは回復を促進してくれるはずだ。


さらに帰りにとっておいた食材を取り出し、帰路に餓死しない程度で何か食材が余ってないか確認すると、ギリギリだが、ナルジャに少しご飯を作ってやれそうだ。どんな効果が発動するかわからないが、ナルジャの体調が悪化することはないはず。


「クゥゥユゥウ~」可哀そうに、ナルジャは情けない鳴き声を上げるが、無理もない。

苦界ナーガスが命尽きる最後のすかしっぺをもろに喰らってしまったのだ。苦界ナーガスがあんなに臭いのはクズイカニを好んで食べていたからなんだろうな。あんな臭いカニを食べているんだ、そりゃ本人もやばいくらい臭いわな。


クズイカニの悪臭を発酵という上品さを無くした腐らせた匂いは、離れていた俺の嗅覚よりも視覚に訴えるような酸性のにおいと、胃の内容物をひっくり返したくなるような気持ち悪さ、いや、実際にあまりの臭さで焚火を作っている途中でおれも胃液を吐き散らしたか。


「ふぅ~~~、やっと落ち着けるな」

それにしても、今振り返っても、よく倒せた。バフがあったとはいえ、ぎりぎりだった。それもこれもナルジャのおかげか。みんなと合流しなくてもナルジャと二人なら、やっていけるのかな。でもぎりぎりの戦いだった。数の有利を考えるなら、やはりもっとパーティーに人がいるべきだし、今回はかなり無謀だった。今でこそ冷静になって考えると無茶をしてしまった。具合が悪そうにしているナルジャをなでながら今更になって反省する、もしナルジャがいなくなってしまったら俺はどうするつもりなんだ。今後はもっと慎重に計画を立てないと。


今までも二人で安全に活動できる範囲で依頼をこなしていた。絶対に無茶な依頼は受けないことを信条としていたが、今回は自分の目的達成が目の前に迫ってもいたし、何より自分の隠れたる力に関する妙な確信が余計な自信につながり、危険を冒す結果につながってしまった。


うじうじ考えているとナルジャが軽く頬をなめてくれた。舐められるとなめられた個所はヒリヒリするのでほんとは遠慮したいが、今回はありがたく慰めを受け入れられた。ナルジャをなでる手もそろそろ痛い。


「よし、もう良いかな。」

焚火の上に設置台を作っておいた鍋が煮えたらしい。いい香りがした。中に水と乾燥させた根菜類、そして発酵玉ねぎをいれ、小麦粉を練った団子を入れておいていた。簡単なごった煮スープだが、体には良いはず、火から遠ざけ、自分の器に一口分よそうと残りは鍋ごとナルジャの目の前に置いた。


ナルジャは動きたくないのか食べようとしない。それなのに俺の頬をなめて慰めてくれるとは、やさしいな。鍋の中身をお玉で掬うとナルジャの口元へ持っていった。ナルジャは目を閉じたまま口を開けたので、そのまま流し込むと、咀嚼をはじめ、飲み込んだ。ふぅ~、よかった。


状態的には異常かもしれないが、食欲はあるらしい。その後も口元に持っていった掬ったスープを呑み込んでいた。徐々に回復しているのだろう、後半はスプーンで掬う前に口を開けていた。少しずつしか運べないから直接食べればよいものを。まぁ、仕方ない。本当に頑張ってくれたし、少し甘えさせてあげよう。


ナルジャにスープをあげ終えると冷めきってしまった自分のスープを胃に流し込んだ。その時にはすでに気持ち悪さは抜けており、難なく食べられたが、う~ん、できればあったかいうちに食べたかったな。


フシュ~~~~~、和らかな寝息が聞こえる。ナルジャはもうしばらく休んだほうが良いだろう。ナルジャの様子を確認しつつ、倒した苦界ナーガスへ目を向けるともう半分以上が墨泥樹の根っこに吸収されているようだった。


「墨泥樹」地上にもいたるところに存在しているどす黒い光沢を帯びた樹はモンスターたちの死体があると根を伸ばし、死骸に根を絡ませ吸収してしまう習性がある。吸収するとモンスター1体につき一つの実を実らせる。実が熟し地上に落ちるとその実から吸収したモンスターと同じ種類のモンスターが生まれる。唯一違うのはサイズ感だけだ。


つまり墨泥樹がなくなれば、モンスターを復活させることはできないため、討伐していけばいつかは消滅させることができるのではないかと考えてしまう。墨泥樹自身は攻撃してくることはなく、無害ではあるのでさっさとすべてを切り倒してしまいたくなるがそうもいかなかった。人類が初めて伐採をしようと試みた際、樹は倒される前の対抗手段としてまだ熟していなかった実を選別し、別の実の養分を他の実へ移すことで、一気に成長させて、地表に落としていった。


そうして生まれたモンスターは複数種のモンスターの性質を掛け合わされた特殊なモンスターとして生まれ落ち、誕生してすぐに暴れまくった。その力は強大で、あと少しで一つの街を壊滅させるほどの被害をもたらしたらしい。それ以降墨泥樹が何らかの原因で倒れる際に大量に強力なモンスターを発生させることを「スタンピード」と呼び、二度と伐採してはいけないと人は決めたのだ。墨泥樹を伐採しない他の理由にモンスターの死骸を吸収してくれるおかげで大地が腐らずに済んでいるのではという考えもある。そう考えると墨泥樹は自然の浄化作業をしてくれるのかもしれない。


本来なら教訓から一般的には墨泥樹に対しては何もしないことがベストだった。その通説を打ち破ったのは聖ギーア教だった。彼らは特殊な方法で墨泥樹を浄化し、スタンピードを抑え、墨泥樹を伐採することに成功したのだ。その功績によってこの世界での一番の宗教になり、聖域都市を築き上げていったのだ。


そして彼らは名声を得た。さらに墨泥樹を利用することとでもう一つ大きな役割が担うことになった。彼らは当時伐採した墨泥樹の処分に困っていた。樹としては丈夫で、固く、軽いが、防具や武具として向いているわけでもなく、そんなに大量に伐採できないため建築資材になるにしても高額になりすぎる。ではどうするか。


彼らは素材としての貴重さを考慮し、作ったのが「貨札」であった。木札・銅札・銀札・金札・虹札の順に価値を定め、安価な木札は木の板に特殊判を押したもの、それ以外の金属札は木材を特殊加工し、判をしたもの、彼らの聖域都市内での通貨として利用していったのだ。軽く持ち運びに便利とあって、聖域都市外でも利用されるようになり、一般通貨として広まっていった。


そう、彼らは造幣を担うことになった。当初は聖ギーア教だけが造幣するのはかなりの抵抗があったみたいだが、当時の偉い人たちが教会から半独立したやり方を取り決め、うまいこと取りまとめられているようで、一応第3者機関として造幣を心掛けてはいるようだ。今は経済の状況や政府の提言を受けて造幣をしている。それにしても心の拠り所と俗世物の塊が一緒というのは面白いものである。


墨泥樹の根が苦界ナーガスの死骸を覆いつくし、脈を打つように動いている。本来ならモンスターの素材が欲しければ墨泥樹の根が絡みつく前に死骸から回収しなければならない。もし少しでも根っこを傷つければ、スタンピードの予兆になりかねないからだ。しかしモンスターの体内に入った鉱石たちは墨泥樹も吸収しないようで、奴らが飲み込んだ貴重な鉱石は墨泥樹の吸収が終わればその場に残ってくれる。


どのダンジョンでもモンスターを倒し、一定時間たつと必ず墨泥樹の根が出てくる。しかし本体の墨泥樹はどのダンジョンでも見つからない。墨泥樹の根が出てくるということはどこかにはあるはずなのだが。それにしても焚火を起こしてもあまり息苦しさを感じないのはかなり広い空間だからかそれともどこかしら空気穴があるのか、まだまだ謎深いダンジョンは本当に不思議な場所だな。


「終わったかな」

あれこれ物思いにふけっていると、きれいに鉱石だけが崩れた壁のところに転がっていた。あれだけの強大なモンスターを吸収したのだ、すぐには復活されないはず。復活されたとしてもここまで来るのに相当の時間がかかるはずだろう。地面に転がっている鉱石を眺めて、思いのほか大量の収穫にななりそうでほほが緩む。目的の鉱石以外にもいろいろな鉱石を食っていたらしく、すべてを拾ったらカバンがパンパンになり、かなりの重量となった。


「ナルジャ、もう大丈夫かい?」

「クキュル~」どうやらナルジャも体調が戻ったらしい。

松明を作り直し、安全圏の扉の広場まで向かう。

「よし、そしたら、さっさとダンジョンを出て街に戻ろう。」

全ての荷物を背負い降りてきた道を戻る。途中の安全圏でまた仮眠を取った後、ダンジョンの出口の一本道から抜け出したときはまぶしい朝日に照らされた。


「よっしゃ~,生き残った!」

「キッシャ~」

ナルジャもすっかり具合が良くなったようで元気に声を上げていた。

「うーん、ケツは痛くなるけど、ナルジャ、俺を乗せて走れそうか?」

「シャ、ッシャ~」ナルジャが気持ちの良い返事をかえす。今は早く帰ることを優先したい。

ナルジャが俺を乗せて走れば、適度に休憩を取ったとしても、明日の昼頃には町に戻れるだろう俺はナルジャにまたがり颯爽と街に向けて帰るのだった。


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