相似象の学徒
孤独な神が退屈を紛らわすために宇宙を創造していた。
宇宙を創らなくても創造はできたが一つ問題があった。
造ろうとした世界の事象に神の意思が必ず介入してしまい、試みた創造は全く同じ結果に帰結した。
そこで神は一人遊びの産物を創造の間の隅に追いやり、神の意志が介在しない自由な宇宙を創造した。
そうして生み出された宇宙に知性は存在せず、あらかじめ設定された法則に従って膨張を続けていった。
やがて暗黒の宇宙の性格は、その風貌を一匹の禺に変えた。
鍵盤を打鍵する禺に見えたのは、創造の苦難を分かち合うために神の無意識がそうさせたからだろうか。
神の期待をよそに禺はひたすら打鍵する。
その行為が禺の精神である無知性の宇宙に与えた意味は退屈だった。
孤独な神は打鍵する禺に嫌気がさしていた。
あまりにも変化に乏しい世界を望んだわけではなかったからだ。
神は打鍵する禺に失望したのでそれも隅に追いやってもう一つの宇宙を創造した。
二つ目の宇宙は神の寂しさを紛らわすためなのか模倣する禺に姿を変えた。
禺は創造の間で生み出されていたあらゆる存在を観察し模倣した。
その行為は禺の精神である知性の宇宙に新しい意味をもたらした。
突如発生した生命の起源は、宇宙に満ちていた模倣の力を使って知能を持った生物へと進化していった。
神の意志が介在しない世界に新たな知性が誕生したのだ。
知能は恐怖の闇に光を灯すため発見した物に名前を付け、自らの存在を確かなものにするために言葉を生み出した。
知性体は文化を継承し、世代を重ねるごとに感性は研ぎ澄まされていく。
酵素に命を支えられる知性体は、創造のための触媒になることにした。
知性体で溢れた宇宙はやがて模倣の禺とは異なる魂を宿し始める。
宇宙の情報量はどんどん膨れ上がっていき…………シャボン玉のようにパッと消えると模倣する禺も創造の間から姿を消した。
神は違う時空に新たに生まれた存在を感じ取り、また退屈が紛れたことに満足した。
だが打鍵する禺が一つの作品を完成させるまでに、再三再四箱庭の創造は行われるだろう。
◇
講義机で瞑想に耽っていた私の精神は時空の旅人の命綱であるイマジナリーフレンドによって……ではなく、昼食に誘おうと私を起こしてくれた友人の声で現実に帰還した。
「それじゃいつまで経ってもレポートは完成しないな。おい、早く席取りに行くぞ」
言われてノートパソコンを見ると、押されっぱなしのfがワードの世界を埋め尽くしていた。
「無限の猿以下だな、俺は」
さて、世界から学ぶために必要な活力を摂取しに行くとするか。
「禺」は人によく似たシルエットの神秘的存在を表現するために使用しています。ハ○レンの真理くんみたいな。
「無限の猿」だけ用語の意味を強調したかったので「猿」としました。