133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 5
朝食を食べ終わったあと、コーヒーを飲み干して一服すると、リィリィちゃんが大きなバスケットを持って隣に座る。
「これね、今朝ね、みんなでクッキーを焼いたの。ローズマリーたちが集めてくれたお花の蜜を使ったとっても甘くておいしいクッキー。ソフィアさんもどうぞ♪」
「いいの? ありがとうっ! それじゃ、いただくね。おっと、その前にコーヒーを淹れなおさなきゃ」
フレナグランに常備されてるというコーヒー。これがめちゃくちゃおいしい。深いコクとおいしい苦味の奥に、じんわりと広がるコーヒー豆独特の甘さを感じる。これはぜひともお土産に買って帰りたい。
おかわりをもらうと同時にインヴィディアと呼ばれる女性がコーヒーカップを持って隣にやってきた。朝食を終えた彼女もクッキーとコーヒーでブレイクタイムを楽しむみたい。
「おはよう、ソフィアちゃん。貴女もコーヒーが好きなの?」
たしかこの人、昨日、嫉妬癖のあるデーシィのほっぺをもにもにした人だ。悪い人ではなさそう。
問われ、彼女の質問を肯定する。
「はい。コーヒーもハーブティーも、紅茶も大好きです。それにしてもこのコーヒーは本当においしいですね。インヴィディアさんもコーヒーが好きなんですね。きっと焼きたてのクッキーと相性抜群ですよ」
「ええ、それではさっそくいただきましょう」
ぱくり。さくさく。もぐもぐ。うっ、うまい!
「焼きたて独特の香ばしい小麦の香り。練り込んだ花の蜜の甘さと、花独特の華やかな香りが鼻を抜ける。これはどんな花の蜜を使ったの?」
リィリィちゃんに聞くと、満面の笑みでクッキーを食べながら答えてくれた。
「それはねー、分からないんだって!」
「分からないッ!?」
私は今、なんだか分からない花の蜜が入ったクッキーを食べたようだ。
そこに安心を届けようと、クッキーの欠片を持った白雲がふわりと飛んでやってきた。
「花の蜜はフラウウィードの南にある島にたくさん咲いていました。見たこともない大きな樹木で、花がたくさん咲いて、花からたくさんの蜜が溢れていました。彼らに名前を聞いたのですが、自分たちの名前は分からないとのことです。もしかするとヘラ様ならご存じではないかと思い、スケッチを持参しました」
「スケッチ? 見たい見たい。見せてもらっていい? ヘラさーん、白雲が見てほしいものがあるそうですよ」
「あら、なにかしら?」
ヘラさんが正面の椅子に座ると、自然とフェアリーたちが集合した。ライブラから取り出したスケッチには大きな葉をつけた大きな樹木の絵。下向きに咲く花の絵。花の付け根についた巨大なラグビーボールのような何かがくっついた絵。
異世界にあるのだから、異世界にいるヘラさんに樹木の判別ができるのだろうか疑問である。それにしても、フェアリーのスケッチがめっちゃ上手だな。
ヘラさんが楽しそうにスケッチを眺める背後で興味を持ったレーレィさんとサンジェルマンさんがスケッチを覗き込む。すると、二人は感嘆の溜息をついて呟いた。
「おぉー、これはアレだね」
「あら? これはアレじゃない?」
ヘラさんは振り返って二人に言う。
「やっぱりアレですよね」
なんと。これがなにかが分かったらしい。異世界にある樹木のはずなのに。




