133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 3
一通り挨拶が終わったところで朝食に戻る。一緒の卓を囲もうということで、フェアリーたちと一緒に朝食。夢にまで見たフェアリーが、夢幻の存在が、私の目の前できらきらな朝食を目の前に、くるくると踊って机に着地。まず降り立ったのはふわふわなオムレツ。
これを見たローズマリーが喉を鳴らして笑顔になる。
「なんて美しいオムレツなんだ。きっととってもおいしいに違いないっ!」
続いて月下が言う。
「もしかすると、これはふわふわでふよんふよんで、中身がとろとろのやつかもしれません。ああ、やっぱり!」
月下が見たのはキキちゃんが食べるオムライス。ナイフで真ん中をすーっと切ると、中からふわふわでとろとろできらきらな半熟オムライスがおはようと叫んだ。
これを見たフェアリーたちは私にあるお願いをする。
「ねぇねぇ、ちょっとだけ、すぐ終わるから、オムレツをふよんふよんってしていい?」
バーニアに上目遣いされ、ハートを打ちぬかれた私に否定する選択肢はない。
「もちろん、いいよ♪」
「「「「「やったーっ!」」」」」
オムレツは卵2個分の小さなサイズ。さらに両端に2種類のケチャップがかけられていて、ふよんふよんするために触れる場所は真ん中の一か所しかない。ので、姉妹に手伝ってもらって一人一個をふよんふよんできるようにしてもらおう。
私のところには白い彼岸花から生まれた白雲が来た。さらさらストレートの銀髪と真っ白な着物を着たおとなしそうなフェアリー。さて、彼女はどんな表情を見せてくれるのだろう。
オムレツの前に正座して前かがみになり、オムレツの真ん中を両手で押す。押して引いて、押して引いて押して引く。
「きゃーっ! あたたかくて柔らかくて、なんてふよんふよんしてるのでしょう! 香りも色もとっても素敵~♪」
おしとやかそうな見た目に反してきゃいきゃいしながらオムレツをふよんふよんする姿がかわいすぎる。なんて幸せそうにオムレツをふよんふよんするんだ。一生見てられる。
頬を染めて踊るようにオムレツをふよんふよん揺らす。かわいい。動画に撮って永久保存だ。
ひとしきり満足したところで朝食に戻る。さっそく私もふよんふよんのオムレツを食べるとしよう。
キキちゃんと同じようにオムレツの真ん中にナイフを入れると、とろ~りふっくらな半熟オムレツがとろ~りと流れ出る。
「ちょーおいしそう……」
あまりに美しくて無意識に言葉が漏れてしまった。
ナイフで切り分けたオムレツと手前のケチャップをスプーンですくってぱくり。
「おいしいっ! オムレツも完璧なんだけど、ケチャップがおいしい。甘さ控え目でトマトのおいしさが際立つ。トマトの旨味とほのかな酸味。それにこの甘さは……?」
料理を運ぶすれ違いざまに、私の感嘆の叫びを聞いたすみれが答えを教えてくれる。
「そちらのケチャップは味を馴染ませるために3日寝かせたものです。甘さの正体は幻想神殿で採取される水のように滑らかなはちみつです」
「はちみつっ!」
突如、姫様の隣に控えるシェリーさんが大きな声を出して前のめりになる。シェリー騎士団長がはちみつ大好きって本当だったんだ。
子供っぽい姿を見せた騎士団長はいつもの大人の貫禄を取り戻そうと、なにごともなかったかのように席に引っ込んだ。
すみれの解説が続く。
「奥の少し色が濃いほうのケチャップは黒糖を使ったもので、コクと甘さのあるものです。足りなかったら言ってくださいね」
「わざわざありがとう。それじゃ、さっそくいただきます」
ぱくり。もぐもぐ。うまいっ!
「どっちもおいしい。これのレシピって教えてもらえたりする?」
「これらはフレナグランのレシピなので、アイシャさんに聞いてみてください。きっと大丈夫だと思います」
「なるほど。ありがとう」
「どういたしまして」
さて、朝食を続けよう。と、すると、白雲が私の目をまっすぐに見て訴える。
『自分も食べてみたい』
目が語るとはまさにこのこと。それならば、一緒に朝食をとろうじゃないか。
「白雲も一緒に朝食にしよう。好きなだけ食べていいよ」
「よろしいのですか? ありがとうございます! それでは、オムレツとスープを少しずついただきます」
そう言って、彼女はかぼちゃのスープをマイスプーンですくって飲み、おいしくって頬を染める。
オムレツとケチャップを食べては頬を染めて笑顔になる。
なんてかわいいんだ。移住したくなる。
「ソフィア、今、移住したいって思いませんでしたか?」
「思いました。思わない人類はいないと思います」
「わたくしも思いました」
「ですよね」
さすがの姫様もここにはつっこんではこないらしい。




