異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 72
シェリーさんを制し、ソフィアさんがグリムさんに抗議を続ける。
「冗談でもそういうことは言うもんじゃないの。人生に関わる大事なのよ?」
「でも、仮に義姉になればシャルロッテ姫様の、『ソフィアと一緒にいたい』という願いは叶えられます。それに、王族となれば国務がありますので、それを理由に姫様との距離感を調整できるのではありませんか?」
「王族がどれだけ忙しくてストレスの溜まる仕事か分かってる? 私には到底無理。やりたくない。善良な一般市民が一番幸せ」
「そのへんは、ほら、国王様に忖度していただいて」
「グリム、もしかしてかなり酔ってる?」
よく見ると、グリムさんは顔が真っ赤っか。月見酒が気に入ったのか、温泉卵と熱燗をけっこうな量を飲んだところを見た。珍しくお酒に飲まれたみたい。
ペーシェさんがグリムさんを引きはがしてレーレィさんたちのところへ持っていく。
入れ替わりに姫様がやってきた。
「ソフィアがわたくしの義姉になるって本当ですか!?」
どうやら聞いてしまったようだ。こういう人の地獄耳は、宇宙の果ての真空の中の彗星の中で木霊する宇宙の神秘ですら聞こえてしまう。
ソフィアさんは迫りくる姫様の両肩を抑えて否定した。
「違います。グリムが酔った勢いでとんちんかんなことを言っただけです。一般人が王族になるだなんてありえない話しですから」
「うわあーん! ソフィア大好き! ずっと一緒にいてーっ!」
なりふりかまわず酔いに任せてダイレクトに思いをぶつける。泣きながら抱きしめられて、まんざらでないソフィアさんはがっくりと肩を落とし、優しく抱きしめて頭を撫でてあげる。
なんだかんだでこれが一番効果的だったみたい。
「はいはい。もう分かりましたよ。でも今後のことについてはしっかりと取り決めさせてもらいますから。そのつもりで」
「うおぉーーーーん! わたくしの伴侶になってくださあーいっ!」
「――――――ベルンにアラヴァミンマイの二号店が出店しないかなあ」
ソフィアさんは泣きつく姫様から腕を解き、満天の星空を見上げて溜息をつく。
これから訪れるであろう、苦楽を想像して。




