異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 64
今日の最後にお風呂に入ろう。
おいしいご飯の最後に月見酒。
肩まで湯舟に浸かって星空を見上げる。お星さまの大合唱。秋の実りを喜ぶ詩が静かに響く。
だが、露天風呂初体験のクレール姉妹はルクスさんをのぞいてたじたじである。服を脱いだはいいものの、素っ裸で他人と一緒にお風呂に入ることに慣れない彼女たちは入口で立ち止まる。
立ち止まった彼女たちを見た番頭の紫ちゃんが背後から喝を入れた。
「てめえらそんなところに突っ立ってんじゃないよ! さっさと体を流して風呂に入りな! 風邪引きたいのかい!? ほらほら、さっさと入んな! 露天風呂が初めてだってんなら、あたしが風呂の入り方を教えてやんよ!」
そう言って、紫ちゃんは勤務中にも関わらず全裸になってたじろぐシスターズを先導する。
それを見たキキちゃんがソフィアさんの隣に移動した。
「ソフィアさんの髪、洗ってもいい?」
「ん? うん、それじゃあお願いしようかな」
「やったー! 任せてっ!」
キキちゃんはソフィアさんの髪を流す。なので私はフィーアさんの髪を洗いたい。綺麗な赤毛だから。
「フィーアさん、私がフィーアさんの髪を洗ってあげます!」
「え? ん、おぉう、それじゃあお願い」
「お任せくださいっ!」
フィーアさんの髪は長い。真っ赤で綺麗な髪。おさげを解くとサラサラなストレートになる。水で大きな汚れを洗い流し、シャンプーを泡立てて上から下へと一本一本を丁寧に撫でるように洗い流す。
なんて綺麗な赤色の髪なんだ。羨ましいなあ。
「むむっ! どこからか嫉妬の波動がッ!?」
インヴィディアさんにほっぺをむにむにされるのは悪い気はしないが、今はフィーアさんの洗髪に集中したいので無心になろう。嫉妬心を悟られてはならない。
きらきらに光る赤い髪を洗い終えると、フィーアさんからありがとうのお言葉を頂戴仕りました。
「ありがとう、すみれ。誰かに髪を洗ってもらうなんて久しぶりだ」
「お褒めにあずかり、ありがたき幸せ」
「なにそれ? すみれは本当に面白いな。次はあたしがすみれの髪を洗ってあげるよ」
「いえ、誠にありがたきことにございますが、額に触れられたくないので髪は自分で洗います。ご容赦を」
「そういえば、額に触られるのが嫌いなんだっけ。そっか、それじゃあ先に湯舟に浸かってるね。またあとで」
「はい、またあとで」
フィーアさんには申し訳ないが、誰にも額を触らせるわけにはいかない。どういう理由か自分でも分からないけど、額に触られるのはすごく嫌なのだ。




