異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 61
最後のクレールシスターズはデーシィさんとティアさん。
デーシィさんは奇跡の国と呼ばれるシャハルサハに住む占い師。さらさらストレートと褐色の肌。柔和な笑顔が素敵なお姉さん。
ティアさんはさすらいの風来坊。ツインテールと大きな笑顔がトレードマークの親しみやすい女性。腕力が強すぎるあまり、物を持つとなんでも破壊してしまうのでデーシィさんにスプーンで料理を口に運んでもらう。
ティアさんはシチューを飲むたびに頬を染めて喜んでくれる。
「ぅんまぁ~い♪ シチューもステーキも絶品だ。しばらくここに住んでもいいかもな」
「わたくしもしばらく滞在しようと思います。ルクスも住んでるということですし、宿の心配がありませんからね。シャハルサハではできない体験もたくさんありそうです」
「それな! ティアのミミックを育てられる環境も整えてやらないと」
「ミミックってなんですか?」
聞くと、ティアさんはライブラから宝箱をひとつ取り出した。開けてみると、なんと中にはいろとりどりの宝石が詰まってるじゃないですか!
これに反応したのは宝石大好き華恋さん。
「これ、アクアマリンじゃないですか! こっちはエメラルドの原石。こっちは……普通の橄欖石。これはティアさんの持ち物なんですか!?」
「持ち物でもあるし、ミミックが吐き出した排泄物とも言える」
「排泄物ッ!?」
華恋さんが飛び上がって後ずさる。宝石や鉱石が排泄物とはこれいかに。ミミックという名前の動物も聞いたことがない。いったいどんな生物なのだろう。
驚く私たちを前に、ティアさんは鉱石を破壊しないように静かに取り除いてみせる。すると鉱物の下から見覚えのある茶色っぽいなにかが現れた。これがミミックという生き物なのか。とても動物には見えない。
どちらかというとキノコ。マイタケが積み重なって巨大になったキノコのようだ。
ティアさんは自慢のミミックの特徴を自慢げに話してくれる。
「要するにミミックはキノコだ。こいつは鉱物や土に付着する微生物を主食にする。食べる時に鉱物を溶かす溶解液を出して鉱物を分解するんだけど、体内で溶かした鉱物を種類ごとに選別して結合させる。ミミックは洞窟で見つけたんだ。洞窟内の鉱物を溶かして微生物を食べて洞窟を掘り進む。穴の空いた洞窟が崩壊しないように鉱石を再構築して吐き出し、洞窟を支える柱にする。これを繰り返すことで、世にも奇妙な鉱石の柱が乱立する洞窟ができあがる。この特性を利用して、小さな、それでいて同じ宝石を食べさせて大きな結晶体にする、ってわけ」
ティアさんの話しを聞いた華恋さんは飛び上がり、頬を染めて彼女の手を取る。
「素晴らしい発見です! もしできるならこのミミックをメリアローザで活用してください! ティアさんに太陽のギルドに入ってほしいです!」
手を取られたティアさんは逡巡する。人一倍、力の強い自分はいろんな物を壊してきた。だから人とうまくやっていける自信がない。だけど、だからこそ、誰かに求められ、誰かのためになれる自分になりたいと強く願う。
彼女は俯いて、彼の言葉を思い出して、決意して華恋さんに向き直った。
「ティアで、よければ……」
「ありがとうございますっ!」
「で、でも、ティアは力が強いから。自分でも制御できなくて」
「そこのところはアルマか誰か、陽介さんあたりがなんかこういい感じにしてくれるはずです!」
「なんか今、華恋さんの無茶振りがアルマに向けられた気がするー。いつかこんな日が来るだろうとは思ってましたが」
「思ってたんだ……」




