異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 56
おこぷんぷん丸のグリムさんは勢いよく、しかし小さく鼻息を噴いて暁さんに向き直る。
「食事の席で妹が、本当に申し訳ございません」
「いいよいいよ。ルクスの下ネタは今に始まったことじゃないし。てか、居酒屋で酒を飲んでる時はたいてい下ネタしか言ってないし」
「こ、この子ったらッ!」
「あぁあぁいいのいいの。そういうのがコンセプトのお店だから」
「下ネタがコンセプトのお店…………?」
グリムさんがルクスさんをゴミでも見るかのような視線で見下ろす。
ヒットポイントが少し回復したルクスさんはグリムさんの認識を正そうと待ったをかけた。
「違うッ! 私のお店はヤケ酒専門店だから! 下ネタがコンセプトじゃないからッ!」
「「「「「それもどうかと思うけど」」」」」
不意に全員の心が重なってしまった。
続いて暁さんが藪の中のヤマタノオロチをつつく。
「でも結局、客と一緒に酒を飲んで、言いたいことを全部言ってる間に下ネタカーニバルになるじゃん。あたしも乗るけど」
「暁ちゃんッ! 余計なことは言わないのッ! 余計なことを言わないのがいい女のじょうけあいたあッ!?」
二発目のデコピンが炸裂。どういうわけか、デコピンをしたグリムさんの指から摩擦熱による煙のようなものが立ち上る。
ルクスさんはというと、5メートル先の長椅子の端から転げ落ちた。
「もういいです。だから貴女とは飲みたくないんですよ!」
「お酒の飲みっぷりだけが原因じゃなかったんだ…………」
酒に酔ったルクスさんは、いらんことを言った暁さんの膝の上で大号泣を始めた。
♪ ♪ ♪
次に話しを聞きたい相手はソフィアさんとフィーアさん。二人はベルンで一緒に暮らしてる。フィーアさんはベルン騎士団員として、ソフィアさんはお姫様の侍女として。
そのお姫様がソフィアさんに抱きついて懇願した。
「なんで侍女に戻るって言ってくれないのお!? 私と一緒にいるのがそんなに嫌なのお!?」
「たいへんに疲れます」
「楽しいから疲れるってことでしょお!?」
「苦労が多くて疲れます」
「うわあああああん! ソフィアが酷いこと言うぅっ!」
取り付く島もないとはこのことである。
泣きつく姫様と泣きつかれるソフィアさん。
ひとまずおいしいご飯を食べて元気を出してもらいたいと思いますっ!
「シャルロッテ姫様、ひとまず味噌ポテトをどうぞ」
「うわああああんっ! いただきまはふはふ。んんっ! 外はカリカリ、中はほくほく、味噌の甘じょっぱさとポテトのほくほく味がマーベラスアヴァンチュール!」
「そうでしょうそうでしょう。アイシャさんから教えていただいたレシピなんです。フィッシュ&チップスに匹敵するおいしさだと思いますっ!」
「おいしいです! ソフィアもほら、食べて食べて!」
「もぐもぐ。んっ! これは本当においしいです。すみれに料理を教えてもらうためにグレンツェンに行くというのもアリか」
「なーんでそんないじわるいうのおー!?」
どうあってもベルンに戻る気がないらしい。だけど姫様は侍女に戻ってほしい。ソフィアさんはベルンを離れたことをきっかけに、なにか新しいことにチャレンジしようとしてる。
つまり、姫様の元でなにかしらチャレンジできることがあれば、彼女たちの願望を両立させられるに違いない。
完璧な閃きを得たと思い込んだ私は二人の手を取って提案する。
「姫様はソフィアさんに侍女に戻ってほしい。ソフィアさんは新しいことにチャレンジしたい。ということは、姫様の元で侍女をすることで、なにか新しいことにチャレンジすることができればお互いウィンウィンということですね」
「すみれさん、貴女は天才ですっ!」
姫様とハイタッチ。
続いてソフィアさんとハイタッチ。
だが、ソフィアさんの表情は芳しくない。
「私はどちらかというと、ベルンを離れていろんな世界の景色を見てみたいと」
「わたくしのことが飽きたんですか!? わたくしのことが飽きたから捨てるって言うんですかッ!?」
「言い方ッ! そういう態度だから侍女に戻りたくないんですよ」
「――――――――?」
「ふぁっ!」




