異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 55
がっくりする私の隣でほろ酔い気分のグリムさんが料理を食べる手を止めずに言った。
「ラプラスの謎を題材にしたラブロマンスのことですか? あの映画、面白いですよね。私はとっても好きです」
「あ、それならあたしも知ってる。ブドウの収穫時期になると必ず映画館で再上映されるやつだ。何度見ても面白いよねー♪」
「そうなんです。展開が分かってても何度も見ちゃうんです!」
フィーアさんも大好きな映画のひとつみたい。私も大好きな映画です。
ラムさんはどうだろう。ラプラスの身内としてもやもやしたりするのだろうか。
「私も好きでよく見るよ。というか、両親が好きでよく見せられる。事実は分からないけど、ラブロマンスとしてよくできてるし、そうだったらいいなっていうところも気に入ってる」
続いてレーレィさんは頬を染めて概要を説明してくれる。
「内向的な村でワイン造りをしながら、旅人にわざと不味いワインを出す風習に疑問を持った青年の恋物語。外からやってきた明朗快活で破天荒な魔女に惹かれていって、村の掟を破っておいしいワインを飲ませてあげるのよね。そこからフランベのように燃え盛る恋が始まるのよきゃーっ♪」
「村のしがらみを、他のワイナリーとの地位争いを、魔女さんのコンプレックスを解きほぐしてあげて最後に結ばれる二人きゃーっ♪」
私とレーレィさんはグリムさんを挟んできゃいきゃいした。
いつだってどこだって、燃え盛るラブロマンスにきゃいきゃいしちゃうのが女の子なのです!
「ところで、ペーシェさんはどこに?」
「ペーシェさんなら足早にあちらのほうへ行かれました。どうしたのでしょう?」
あちらと言って指し示されたのはおトイレのほう。ご飯を食べたから腸が動いたのだろう。
真実を知らない私たちは料理と酒と会話を楽しむ。
話しを始めたのは食べるの大好きグリムさん。もしかしてと思っていた食材をフォークに乗せて質問する。
「スモークサーモンとトリュフを使ったクリームパスタということですが、これがもしかして黒トリュフですか?」
「そうなんです。なんとメリアローザのダンジョンの中に黒トリュフの群生地があるんです。黒トリュフが手に入ったので、ラムさんと一緒にトリュフ料理をメリアローザの方々にお伝えしたところなんです」
「黒トリュフ! なんて素敵なことなんでしょう。私もトリュフは大好きなので、いくつか加工されたトリュフを持って帰りたいところです」
「暁さんに頼めば譲ってくれると思いますよ。ルクスさんと仲がいいですし。トリュフがある場所はモンスターも出ないので、暁さんの許可があれば採取させてくれるかもです」
「なんと! それはぜひとも体験してみたいですね。トリュフ採取なんて滅多にできるものではありません。それではルクス、仲介を頼みましたよ」
「え? なんの話し?」
へべれけなルクスさんは当然、隣の席の会話など聞いてやしない。ので、グリムさんが簡潔に説明する。
「トリュフというキノコを採取してみたいので、暁さんに頼んでダンジョンに入れるように許可を取っていただきたいのです」
「グリムが下ネタ言ってる!」
「ッ!」
真剣なグリムさんが怒る。デコピンの構えを取って素早くルクスさんのおでこにドンッ!
一升瓶を抱えたルクスさんは後ろにすっ飛んでいってしまった。ルクスさんはひっくり返ってうつ伏せになり、額を抑えて呻きを上げる。
額を触られたくない私はとっさに額を両手で覆った。誰が私の額を触るわけでもないけど、なんか急に抑えたくなった。




