異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 52
ここで私の乙女スイッチが作動する。彼女の涙を少しでも温かくするためにできること。彼女の話しを聞いて共感してあげることではないでしょうか。
という建前のもと、恋バナ聞きたいスイッチオンの私は地雷原につっこんでしまう。
「ええと、もしもよろしければ恋の成り行きなど伺ってもよろしいでしょうか」
そう言うと、恋バナが大好きなハゲタカたちが群がり始める。そうとも知らないルクスさんはハゲタカに餌を与えた。
「聞いてよ、すみれちゃん。彼ったら私たちの大事な妹と両想いなのよっ! それを姉が横取りしようとするなんてできないじゃないッ!」
「それはたしかにそうですね。それと申し訳ないのですが、この話しはなんだかドロドロしたやーつになりそうなので話題を変えていいですか?」
「えぇー、でもおー……」
ルクスさんが逡巡した隙を狙い、嫌な予感が的中すると直感した暁さんが強引に話題を逸らしに入る。
「ルクスは8人姉妹なんだよな。ほかの2人は一緒じゃないのか?」
「2人はスタンドプレーが好きなタイプだから家に送り届けたよ。せっかく集まったんだから宴会くらい一緒にしてくれてもいいのにねー」
「ん、おおう。そうだな……」
ルクスさんが一升瓶で一気飲みするから、泥酔を嫌がって宴会に参加しなかったのでは?
とはとても本人の前では言えない。
♪ ♪ ♪
もっとルクスさんにお酌をしたかったのだが、飲み方が尋常じゃなさすぎるので暁さんに任せてグリムさんの隣へ行ってみよう。彼女の周囲には、養子にとってグリムさんに義姉になってもらいたいペーシェさんと、養子にしてグリムさんを義娘にしたいレーレィさんがグリムさんをよいしょしていた。
グリムさんは楽しそうにお酒を飲み、ドラゴンステーキに舌鼓を打つ。
「グリムさん、ドラゴンステーキのお味はどうですか?」
聞くと、満面の笑みでアルカイックスマイルを崩すグリムさんがいた。
こんなにも子供っぽい笑顔を見せるグリムさんを初めて見たかもしれない。
「信じられないほどおいしいですっ! 味、香り、食感、全てが信じられません! どう表現すればいいかわからないほどにおいしですっ!」
「ですよねですよね! ドラゴンのシチューもあるので食べてみてください。今日はチーズ入りのバクラヴァをフェアリーのみんなと一緒に作ったんです。これをシチューに落として、少し温めるとバクラヴァに挟んだチーズが溶けて、とってもとろ~りするんです♪」
「ッ!? それはぜひとも味わってみたいです。でもまずはあつあつのステーキを食べてからですね。冷めてからでは味が落ちてしまいますから」
「ぜひぜひ。自分のペースで召し上がってください」
「ありがとうございますっ!」
グリムさんはハティさんに並ぶ健啖家。おいしそうに、本当においしそうに食べてくれるから作り甲斐があるというもの。
ステーキを食べきり、シチューを楽しみ、メリアローザで作られるストレートの赤いワインを飲み干した。
「おいしいです! ステーキもシチューも絶品です。ステーキは素直にお肉が、シチューはお野菜が、赤ワインは水がいいですね!」
「おぉーっ! グリムが食通なのは知ってたけど、その歳でそこに気づくとは」
驚いた声を上げたのはラム・ラプラスさん。彼女はメリアローザに来て醸造場に見学へ赴き、素材と酵母が持つ自然由来の製法に感動と共感を覚えたのだ。




