異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 48
ぷりぷり怒るのはルクスさんだけじゃない。どういうわけかシャルロッテ姫様もぷりぷり怒る。怒りの矛先はソフィアさん。
「これはどういうことなの!? わたくしの元を離れたと思ったらこんなところで油を売って! 早くわたくしの侍女に戻って! 一緒にティータイムをするんだからっ!」
「姫様の侍女に……うーん…………」
「どうして悩むのッ!?」
「悩むところしかないんですが」
ソフィアさんは姫様の元侍女。仲良さそうなのにどうして侍女を辞めたんだろう。
事情を聞いてみよう。
「家族旅行するのにどうして侍女まで辞める必要があったんですか? 失恋と何か関係があるんですか?」
「そこ聞いちゃうよね。片思いの相手に告白して、そのまま付き合う気でいたから仕事を辞めて出てきたの。結局玉砕しちゃったけど」
「そうなんですか。それじゃあこれからどうするんですか? やっぱり侍女に戻るんですか?」
「特にまだ考えてな
「失恋したならわたくしの侍女に戻ってきてよおー! ずっと寂しくてうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「姫様、泣くのはともかく、私の服に顔を埋めるのやめてください。汚いです」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「話しを聞いてください」
みるみるうちにソフィアさんのお洋服がたいへんなことになっていく。シェリーさんが姫様を引き離してみると、それはもう無残な顔を浮かべる姫様が現れた。
ソフィアさんはそんな姫様を見ても顔色ひとつ変えない。
替えの服に早着替えして、涙で濡れた姫様の顔を机の上に置いてある台拭きでゴシゴシとこする。不幸中の幸いなのは、その台拭きは今しがた新しいものに取り換えたところということ。
涙を拭いて、ソフィアさんが姫様に向き直る。
「申し訳ございません、シャルロッテ姫様。もう少し心の整理をしたいので考えさせてください」
「ううううううううう……。どうしても即決してくださらないのですか?」
「はい、姫様のお転婆に付き合うとろくなことがないので」
「うがあああああああああああああああああああああッ!」
姫様が急に怒りだした。泣いたり怒ったり忙しい人である。姫様だけに、ご多忙でいらっしゃる。




