妖精図鑑 3
晩御飯も食べ終わり、今日の出来事を振り返ってみる。
俺たちはミーナさんとの出会いの話しを語らっていた。気づくと彼女のインパクトが大きすぎて、ミーナさんの一挙手一投足ばかりを口にしている。
葉っぱをお札に変えて左団扇にしたとか、元ネタは東洋の妖怪だとか。妖精の出現を待って早朝から張っていたとか。鷹の名前のこと。キッチンでのこと。
一番面白かったのが|ミーナさんのペットの鷹の一発芸。キリッとしたクールな表情から一変、ハムスターのようなかわいい顔つきに変わる瞬間には噴き出してしまった。
効果音で表すと『きゅるる~ん』だろうか。いきなり目がキラキラして描写も変わったんじゃなかろうかという変貌っぷりには驚かされた。
動物に魔法を教えるのは凄いことだが、アレはそれとは別次元の凄さがある。俺がもしもペットとか召喚獣を従えることになったら覚えさせてみたい。
意気揚々と面白おかしく語ってみせたのに、なぜだか観衆の表情は芳しくない。
気に障るようなことを言っただろうか。母に目配せをすると、やれやれといった顔をして肩を落とす。なんなんだ。何がいけなかったのか。
それが分かってない時点で俺はダメダメなのか。
「課題とか妖精の話しはわかったけど、それにしてもミーナの話しが多いです。もしや何かあったですか?」
ニャニャの視線が攻撃的。なにかまずいことを言っただろうか。
「もしやって、え、何?」
「むぅ、その様子では特に何もなかったようですね。よろしいです」
「?」
「まぁまぁその話しはおしまいにして、ニャニャ先輩たちの方はどうだったんですか? シェリー騎士団長が無事に召喚獣を従えたということですが」
リリィの言葉に同調するように、俺の意識が前に向く。
「そうそうそれそれ。それ聞かせてよ!」
こっちはこっちで面白い1日だった。
対してフィアナたちも相当に刺激的な1日だったらしい。
まさか召喚獣を通り越して神様を召喚してしまうとは。壊れそうな氷の心を溶かし、手をとり合おうとするなどさすが騎士団長。やはり俺たちなどとは器が違う。
それから猫好きだというのも朗報。次のバレンタインデーには猫型のチョコレートを渡そう。
決してラブな意味での贈り物というわけではない。敬意を込めての行動である。老若男女問わず、他の人もそうしてる。中には本命もいるだろうけど、少なくとも俺は違う。
なぜなら俺の本命は姉ちゃんだからなッ!
★ ★ ★ 【レーレィ・アダン】
我が息子ながら末恐ろしいほどに女の子にモテる。それこそ頭と貞操は大丈夫かと心配になるほど。
小さい頃から甘いマスクと人当たりの良い性格で、周囲の女子を魅了したものだ。
成長して成人し、ベルンで勉学を学び、大人になっていく姿を見るとどんどん父に似てきている。違う点があるとすれば、重度のシスコンということか。
それを知らぬ彼女たちは、必死にマルコにアピールしようと頑張っている。なんと健気なことか。悲しくて涙が出てきそうです。
しかも本人は、彼女たちからのライクではないラブな視線に気づいていない様子。
死ねよ。
……っと、実の息子にそんなことを言ってはいけませんね。
リア充は爆発してしまいなさい。終いなさい。なんちゃって。
まぁなんにせよ、死ぬ前に初孫の顔が拝めそうで何よりです。
でも間違っても姉を襲ってはいけませんよ。はぁ~、どこかに彼のシスコンを解消してくれるお医者様はいらっしゃらないでしょうか。
ないならシスコンを取り払うイベントでも起きないかしら。そんな都合の良い出来事など起きないでしょうね。
あぁまたあの子ったら、他の女の子の話しを楽しそうにしちゃって。見てるこっちが気が気でないわ。
それにしてもこの子たち、みんな真面目ねぇ。さっさと奪っちゃえばいいのになぁ。マルコはおバカさんだけどヤル事をヤッたらきちんと責任を取るでしょうから、さっさと襲っちゃえばいいのに。
あらいけない。母親がこんなことを考えてはいけませんね。反省反省♪
マルコにお風呂を催促して退場願い、少しばかり彼女たちを値踏み…………じゃなくて、お話ししてみましょう。
私の好みとしてはリリィちゃん。私と同じで貧乳なところがポイント高いわ。小さくてかわいいし、奥ゆかしいからマウントできそう。
他のやつら……子たちは胸が大きすぎね。素直にムカつく。
エディネイは明るい笑顔が素敵だわ。角は邪魔そうだけど、削ってしまえば問題ないでしょう。
フィアナは正真正銘のご令嬢。ご両親との付き合いが面倒くさそうね。
ニャニャは何を考えているかよくわからないわ。でも見た目に反して料理は上手だから、家事を任せてだらけさせてくれそうではある。
アナスタシアは一人称が独特で雰囲気を飾り付けようとしすぎて気持ち悪い。見た目は綺麗なのにもったいない。
「みんな、マルコと仲良くしてくれてありがとうね」
これは本音。
「そんな、お礼だなんてとんでもございません。お母様」
「そうです。いつもニャニャたちのほうがお世話になってばっかりで感謝しっぱなしです。お母様」
「はい、マルコは素敵な殿方でございます。お母様」
「そうっすよ。俺なんかいっつも頼ってばっかりです。お母様」
「ベルンで彼と知り合えたことは一番の幸せな出来事です。お母様」
まだお前らのお母様じゃねぇよ。
ポイント稼ぎが露骨すぎてヒくんですけど。ペーシェのことを『お姉様』と呼んでたことから考えて、本気でマルコのことを狙ってるに違いない。
私としては孫だけ預けてくれれば嫁が誰だろうがどうでもいい。ここは彼女たちをおちょくってみましょうか。どんな反応をするでしょう。ふふっ。
「で、みんなはマルコとXで終わる楽しいSはもうしたの?」
「「「「「ッ!!!???」」」」」
鳩が機関銃を食らったような顔をして、飲み下そうと準備した紅茶を私の顔にぶっかけてきたわ。
ぶん殴ってやりたい気持ちをなんとか抑えたおかげで、慌てふためく彼女たちの反応を楽しめました。
顔を真っ赤にして右往左往する小動物たちのなんと滑稽な姿だろうか。
抱腹絶倒して床に転がりそうになる衝動を抑え、もう1つ、爆弾を投下してみましょう。
「そういえば、バティックの一部の地域では重婚が認められているらしいわよ。一夫多妻限定らしいけど」
炸裂した言葉の爆弾は彼女たちの意識を吹き飛ばして思考を停止させた。
頭の中で木霊する理想の世界を思い描き、幸せな妄想に没頭する。
この子たち、本当に仲良しさんね。普通は1人の男を奪い合って血で血を洗うような戦争になるものだと思うけど、横一列に並んで手を繋ぎ、みんな一緒にゴールをするっていうのが若い子のトレンドなのかしら。
時代は変わったものねぇ。
ニコニコ顔で返答を待つものの、屍と化した娘どもはしばらく生き返らないみたい。
やれやれ青春してるわね。私がいるとこしょこしょ話もできないでしょうから、盗聴器を仕掛けて部屋を出るといたしましょうか。
あたかも空気を読んだかのように言葉を置いて姿を消すと、鬼が消えたぞ、それ急げといわんばかりに会話が始まった。
「バティック…………海か。夏期講習はあるけど連休もあるわけだし、夏は海に行くのもいいな」
「拙者は海に行ったことがないから分からないが、ぜひ一度は行ってみたいものだ」
「海…………ぐぅっ。ダイエットしなければ」
「水着も買わなければなりません。今年の夏は忙しくなりそうです」
「バティック………………………………別荘がありますわ」
さすが真正のお嬢様。別荘を持ってる人なんてドラマの中でしか見たことない。
あったらいいなとは思うけど、実際に持っている人を見るとヒくわ。そもそも年に一度使うかどうか分からない家屋を所持してるとか、意味不明なんですけど。
庶民には理解しがたい感性ですわ。
フィアナのぽろりから話しが雪だるま式に転がって、それこそ収拾がつかない巨大な雪玉に仕上がった。
バティックの別荘で1週間過ごすから始まって、6人でウェディングロードを歩むまでテンション爆上げ。
楽しそうな会話で家が揺れる。
しかしそもそも、マルコはあなたたちのことをそこまで了承してるのかしら。
いまだにねーちゃんねーちゃんって言ってるってことは、彼にとって貴女たちは友達以上恋人未満なのでは?
疑問に思うも彼女たちの思惑がうまくいけば、さすがのマルコも折れるだろう。
そうすればシスコンが治るかもしれない。孫が5人できるかもしれない。私の余生が楽しいものになるかもしれない。
なので何も言うことはない。
むしろ応援しましょう。
そうしましょう。
それにしてもバティックか。ハネムーンで行って以来、もう足を運んだことはない。
綺麗な海においしい料理。観光客向けのイベントも多く、楽しい時間だったことを覚えている。
となれば、彼女たちの旅行について行くというのもアリだ。
この子たちのウェディングへの道を応援すると言えば、2つ返事で手を取ってくれるに違いない。
ついでに家族旅行もしたいわぁ。サンジェルマンは仕事が忙しくて、殆どグレンツェンには帰って来ない。
一般人が連休でも、騎士団は年中無休で営業しているどころか、繁忙期は書き入れ時と言わんばかりに忙しくなるものだから休みも合わない。
たまには家族水入らずで遊びに行きたいものです。
騎士団員のお嫁さんになった時からこうなることは覚悟していたけれど、あんまり離れ離れだと寂しいわぁ。私の大事な大事なお財布。
明日も早いしそろそろ寝ようと催促をして、私は先に部屋へ戻ります。
あぁ~明日も仕事。仕事なのはいいのだけれど、グリムと一緒のシフトじゃないからやる気でないわぁ。
ため息まじりにあくびをすると、愚息がかけよってとんちんかんなことを言ってきた。
「ねぇねぇ母ちゃん。姉ちゃんに家に帰ってくるように言ってよ。せっかくグレンツェンに帰ってきたのに全然顔を見せてくれないだ。電話は着拒されてるし。SNSはブロックされてるし。扉は生体認証で鍵開けできないし」
「かぐわしい犯罪の香りがしたのは気のせいかしら。でもまぁそうね。ペーシェに会いたいんだったら、今来てる子たちと結婚したらいいと思うわ。そうしたらペーシェもお祝いに結婚式場に来てくれるでしょう」
「えぇ~? 俺は姉ちゃんと結婚したい」
「うふふっ。死ね」
「ひどっ!」
酷いのは貴方の脳みそよ。
本当にどうしてこうなっちゃったのかしら。サンジェルマンに問いただす必要がありそうね。
追いかけてくる息子の腹を抉るように殴って扉に鍵をかけました。
さぁてベッドに入る前にペーシェに電話をしておかなくちゃ。もしかしたらとはいえ、イベントの予定は早め早めに連絡しておくのが肝要なのです。
海。あぁ~海。楽しみだわぁ。
「――――――と言うことがあったんだけど、そうなったらペーシェもみんなと海外旅行に行かない?」
「母さんと父さんと…………それからマルコの取り巻きの女の子? と一緒なのは別にいいんだけど、マルコが一緒なのは絶対に嫌ッ!」
「まぁまぁそう言わずに。姉弟だからって仲良くしろとは言わないから。それにマルコと恋愛対象にされていない可哀そうな女の子たちをくっつければ、貴女への興味も失せるでしょう。自分のためと思って、ね?」
「恋愛対象にされていない可哀そうな女の子って、言い方酷くない? 母さんのそういう口ぶりを聞くと、あたしって母さんの子なんだなって自覚する。とにかく、マルコと一緒の空間にいるくらいなら気合いで異世界転移するわ」
「貴女も大概酷いからね?」
「酷いのはマルコの腐った性根でしょ」
「だよねー」
正論すぎて何も言い返せないわ。
はぁ~~~~~~~~~~………………。
何か良い妙案はないだろうか。
やっぱり取り巻きの子たちと無理やり結婚させるしかないか。
まぁしょせん他人事だし、深く考えなくてもいいや。
それではおやすみGoodbye.
妖精の姿を夢に見て眠りについた人は少なからずいるのではないでしょうか。
彼女たちもそんな幼少期を過ごして夢を通って不思議の国に遊びに行った人たちです。
作者はよく夢の中で死ぬので羨ましい限りですね。
次回はベルンのお姫様・シャルロッテ姫のやる気スイッチが全開になるお話です。




