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異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 37

 ラクシュは幼いながらに他人の心を慮って気遣いできる子。とはいえ、上質とはいえ苦味のあるコーヒーを飲んで顔をしかめない子供などいるはずもない。ということは演技ではない。ラクシュはコーヒーをおいしいと感じることができる大人の舌を持っているのだ!


 これに喜んだのは当然、インヴィディアさんである。

 彼女を優しく抱きしめてほっぺをほっぺでぷにぷにした。


「ラクシュ、うちの子になる?」

「わたちはハティおねえちゃんといっしょがいい」

「あ、そうだね。ハティお姉ちゃんが大好きだもんね」


 一瞬でインヴィディアさんの願望が砕かれた。だけど、珍しくコーヒーを子供に認められて嬉しいインヴィディアさんはラクシュを特にかわいがりはじめた。

 イチャイチャする姿にラムさんが嫉妬の炎を燃やす。自前で用意しておいたフルーツティーをコップに注いでラクシュの気を引こうとする。

 かわいい幼女の隣にいい歳した大人がべったりである。本人が楽しそうだからそれでいいか。


 それにしてもバクラヴァはうまい。

 はちみつを入れたり生地に紅茶を混ぜたり、ジャムを入れてもナッツを入れてもいい。いろんな味が楽しめるから、ついうっかり食べ過ぎてしまう。

 子供たちもバクラヴァを食べる手が止まらない。

 フェアリーたちもひと口ひと口を噛みしめて満面の笑みをこぼす。

 自分たちが手伝って、みんなにおいしいって言ってもらえてもっとおいしく感じる。幸せを感じる。あー、もうほんと、見てるだけで幸せになるわー。

 幸せになると言えばふわふわきゃっともそう。あたしの人生史上初めて、あたしが近づいても逃げない、怖がらない、吠えない、鳴かない。抱きしめてあげると嬉しそうに嬌声を発するにゃんこちゃん。

 おやつのナッツをもしゃもしゃするポーラちゃんを抱きしめさせてもらおう。


「シェリーさーん♪ ポーラちゃんをはぎゅっとさせてもらっていいですか?」

「それはもちろん構わない。だけど、ポーラはおやつタイムだから少し待ってくれ。びっくりするとうっかり魔法を放ってしまうかもしれないからな」

「わかりました。それにしても食べる姿もかわいらしいですね。こんなに間近でにゃんこがご飯を食べてるところを見たのは初めてです。こんな感じなんですね~。かわいいですね~」

「そうだろ~。かわいいだろ~♪」


 真っ白な毛玉のような毛並みはもふもふのふわふわ。抱きしめさせてもらった時の感触が忘れられない。

 もこもこのぬくぬく。ぎゅっと抱きしめると嬉しそうににゃあと鳴く。

 そんなことを思い出していると、あたしは無意識にポーラを抱きかかえていた。

 おやつに夢中だったポーラはいきなり抱きかかえられてびっくり仰天。自衛のための魔法をうっかり使ってしまった。シェリーさんの言いつけを守らなかったあたしはポーラの魔法で100メートル上空まで吹っ飛ばされる。


 おお……これが空から大地を、空を海を眺めた景色か。

 浮遊要塞アルカンレティアから見る景色とはまた違った体験だ。地に足の着かない、浮遊した感覚で世界を見渡す。これはそうだ、アルマの空中散歩の体験に似てる。

 美しい。世界はどこまでも美しい。


 世界に見惚れるも束の間、あたしの体は重力に従って落下した。

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