異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 32
見たことある魚。見たことあるような気がする魚。明らかに見たことのない魚。いろんな魚がいる。昼飯用にメリアローザから食材を持ってきたが、結局結構な量の食材をシャングリラに負担させてしまった。そのうちのいくばくかはシャングリラの港町に住む人々からもらったものだという。
ここでいっぱい収穫して、彼らにもふるまいたい。燻製にすれば保存もきくし、大抵の料理に使える。みんな魚は大好物ってことだから、きっと喜んでくれるだろう。
大漁大漁♪
あっという間に荷台がいっぱいになってしまった。
回収役が5人もいたら仕事が早いわー。
「それじゃあそろそろ戻りますか。いやー、大漁でしたね。きっとみんなも喜んでくれますよ!」
「そうだといいね。僕もこんな魚の獲り方をしたのは初めてだよ。このあと燻製にするんだよね。僕は若いころに燻製魚を作った経験があるから手伝うよ」
「それは助かります。火を使う場所はメアリから聞いてますので、そちらに移動しましょう。あと、すみれに速攻捌いてもらいましょう」
「一応僕も捌けるけど……たしかに彼女のほうが早いか。プロに任せよう」
さすが、サンジェルマンさん。見栄を張らず専門家に依頼するところは謙虚な大人の鑑です。
厨房に戻ると成形したバクラヴァがテーブルいっぱいに並ぶ。テーブルの上にバクラヴァを乗せた皿の上にまたバクラヴァを乗せた皿の上に更にバクラヴァを乗せた皿が積み重なる。いったい何個作ったのか。ティーパーティーが楽しみだ!
魚を見せるとすみれが水を得た魚が如き勢いで捌き始める。
早い。龍のギルドの食堂で働く歴戦の料理人たちより圧倒的に早い。鱗取りから内臓取りまで完璧すぎる。
すみれの生き生きする姿を見て、一緒に働くレーレィさんが感嘆の溜息を漏らした。
「さすがすみれちゃん。私もすみれちゃんに教えてもらって魚を捌けるようになったけど、いつ見ても惚れ惚れする技術だわ。うちの子になりましょう」
「激しく同意」
レーレィさんとペーシェがなんか変なこと言いだした。
仮にレーレィさんちの子になったとしても、働く場所がフレナグランなら問題無し。
「すみれはグレンツェンでの勉強が終わったらフレナグランで働いてみないか? エルドラドは食材の宝庫だし、いろんな料理人がいるから勉強になる。きっと楽しいと思うぞ?」
「いいんですか? その時になったらぜひともお願いしますっ!」
「はっはっはー。あたしに二言はない!」
胸を張って断言する。すみれが料理に戻った瞬間、レーレィさんとペーシェに肩を掴まれた。いったいなにがあったのか?
「どうしましたあ?」
「『どうしましたあ?』じゃないよ! すみれちゃんはパーリーで私と一緒に楽しく働くの! いつまでも!」
「そうですよ! グリムさんと一緒にあたしの家族になるんですから!」
相変わらず、すみれは愛されてらっしゃる。喜ばしい反面、敵が多いというのは困ったものである。話しを聞きつけたラムさんまでやってきた。
「なんか聞き捨てならない話しが聞こえたんですけど~?」
「さあ~て、子供たちが起きる前にバクラヴァをいっぱい焼きましょ~う。クラリス、ハーブティーの準備を頼む。インヴィディアさん、あたしも久しぶりにコーヒーが飲みたい気分なので、ぜひとも
「暁さんッ! ハーブティーもコーヒーも私が! 私が用意いたしますので、暁さんもインヴィディアさんもゆっくりしてらしてくださいッ!」
「クラリスは気が利くな~」
クラリスを褒めるあたしとは対照的に、インヴィディアさんは梯子を外されて困惑する。
「そ、そう……? 随分と積極的になってしまったというか。義娘の成長は嬉しいけど、思ってた方向とはちょっとズレちゃったっていうか……」
インヴィディアさんはクラリスではなく、ベレッタをちらりと見て呟いた。
とうのベレッタはハティとフムスを作りながら魔法談義に花を咲かせる。リリィもニャニャも、キキもヤヤもハティの魔法に興味津々。アルマは先日、ハティが使った極大魔法について根掘り葉掘り聞きまくる。
構ってもらえて嬉しいハティは楽しそうに魔法の話しをした。戦いを好まないハティが魔法の話しにノリノリなのは珍しい。これもアルマの空中散歩や、ヤヤの光のお絵描き、ベレッタのきらきら魔法を見て心境の変化があったのかな。
なんにしても、人が成長する様を見るのは楽しいものだ!




