異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 29
そうこうする間に生地が完成。白雲と赤雷が生地の前へ出て刀を構えた。
久しぶりに見る。フェアリー流剣技。どんな果物も生地も好きなように切り分けてしまう究極の業。剣に覚えのあるあたしでも彼女たちの剣技は真似できない。
ベルン側の世界において【剣聖】と称されるサンジェルマンさんにも真似できない。
「「フェアリー流剣技奥義っ! バクラヴァ用生地いっぱい薄斬りーっ!」」
相変わらずネーミングセンスがストレートでかわいらしい。
やってることはマジですげえけど。冗談抜きで。マジで。
白雲と赤雷が刀をぽむんと生地に当てると、生地の側面から小さく息をするように小麦の粉が吹き出た。それを合図にシルヴァが一枚の生地を持ち上げる。
するとどうだろう。生地の向こう側が透けて見えるほと薄く、持ち上げても破れない。こんなことができるのか。それであんなにサクサクでうまうまなフィロ生地が作れたわけだ。
楽しみだなー。
今朝もみんなで争うようにバクラヴァを取り合ったなー。
卓上戦争しないようにいっぱい作ってもらわなくっちゃなー。
生地を重ねて重ねて、チーズを入れて、刻んだドライフルーツを入れて、ナッツを入れる。
晩御飯用のバクラヴァにはひき肉、キノコ、煮込んだトマトソースなどなど、いろいろ入れて味を楽しむ。料理としてのバクラヴァはフムスやサワークリームと一緒に食べると絶品だという。それはすごく気になるな。
「サクサク生地にひき肉とトマトソースを包んだパイ包み風のバクラヴァは鉄板ですね。個人的にはフムスを塗って食べるのが好きです」
シルヴァの言葉にハティが反応した。
「フムスは大好き。まったりとしてとってもおいしい」
ハティのガッツポーズを真似るように、キキとヤヤもガッツポーズをしてみせる。
「キキもフムスは大好き! バゲットだけじゃなくて、目玉焼きと一緒に食べてもおいしいっ!」
「私も大好きです。使う食材が微妙に違うだけで、味わいががらりと変わって楽しいです!」
「よし、私はフムスを作る。みんなの分もたっぷり作る!」
「キキも手伝う!」
「私もお手伝いします!」
ハティと双子が冷暗室からひよこ豆を取りに出かける。一瞬、ハティが『みんなの分までたっぷり作る』というものだからとんでもない量を作ってくると思った。だけど、キキとヤヤがいるなら大丈夫だろう。
それにいくら収穫量が多い豆とはいえ量に限りがあるだろうし。




