異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 25
それは今後のお楽しみとして、シェリーさんにクレアとハティの感想を聞いてみよう。
「どうですか? あたしはこれでも芸能を少しはかじった口ですので、演奏の良し悪しは分かります。掛け値なし、贔屓なしで上の上ですよ。正直、子供とは思えません。本当に驚いてます」
伝えると、シェリーさんは感動とともに本音を語ってくれる。
「恥ずかしい話し、どのレベルの人が満足する演奏なのかってことは分からない。だけど、彼らが本当に音楽を愛してるということは理解できた。それだけで十分だと思う。私は、だが。このへんは上流階級に属するサンジェルマンさんとヘラさんに聞きたいです」
指名された二人は両手でダブルサムズアップ。
ヘラさんはサムズアップからのダブルガッツポーズを見せた。
「国際芸術祭の演奏部門で優勝できる! ガチで! 世界最高峰のオーケストラ集団と肩を並べられるレベル! マジで! 異世界間交流が始まったら彼らにも活躍してもらいましょう!」
ヘラさんは冗談でここまで言わない。よいしょはしても、分別は弁える人。
サンジェルマンさんはどうだろうか。
「ワールドツアーで簡単に億稼げるレベル。演奏を収録して使う用と布教用と永久保存版を作りたい。国際友軍繋がりでオーケストラに伝手があるんだけど、彼らにならオーケストラホールを貸してくれると思うよ。冗談でなく。マジで」
ヘラさんとサンジェルマンさんの反応を見てあたしの長年の経験と勘が間違ってなかったことに安心する。
「ハティは演奏が得意ですからね。ダンスは超絶下手くそですけど」
あたしの言葉をきっかけに、ベレッタがグレンツェンでの記憶を思い出す。
「以前に演奏してもらった二胡はとても印象的でした。収録するのでしたらわたしも音源がほしいですっ!」
ベレッタの言葉にローザが反応する。
「それ、わたしも欲しい。お母さん、音を収録する会場とか設備的なやつ出して」
「私はドラ●もんじゃないのよ? 音楽に関してはハティちゃんのやる気次第だから。でもきっと、練習とかプレオープンとかでシェリーちゃんが練習会場とか、そういう設備を用意してくれるはず」
「それは当然です。演奏する以外の物事は全て任せてください。私は騎士団長ですが、広報も担当してますのでそっち方面も顔がききますから」
「そういえばそうでしたね。ところで話しが戻るんだけど、ペーシェ、マジック・コンペティションって参加人数は最大15人だけど、ほかに誰か仲間がいるの? 友達がいないならアダムに声をかけてあげようか?」
「うるせえよ。ハティさんとアルマとあたしがいれば大丈夫だろ。ゆきぽんもすみれもいるし」
「なんですみれが参加するの? 優勝賞品目的?」
「そういうことにしておいてくれ」
まさか友達と戦うと意中の相手がラブずっきゅんだなんて思うはずもない。
それにしても、参加人数15人って多くね?
「シェリーさん、あたしが参加するわけじゃないですけど、15人って多くないですか?」
「マジック・コンペティションはトーナメント戦なんだが、見世物的な側面が強いんだ。だから多種多様な魔法が見られるように参加人数を15人にしてる、と聞いたことがある。あとは個々人の体力を鑑みて、一戦に一人の負担でいいようにしてる、と聞いたことがある」
「聞いたことがある……?」
「そういう細かい事情は口伝だからはっきりとした理由が伝わってないんだ」
「見世物ってことならうちの冒険者を何人か派遣しようかな」
ぽつりと呟くと、シェリーさんは目を見開いて驚き、ペーシェは振り向いて感謝の言葉を発する。
「あざすッ!」
「魔剣持ちの冒険者が出てくるなら、私は辞退しよう」
「騎士団長が逃げた!?」
「逃げもするだろ。そもそもベルン騎士団はあくまで対魔獣戦を想定した部隊だ。対人戦は門外漢」
「そういえばそうでしたね」
「ペーシェは私たちをなんだと思ってたんだ?」
「とにかく魔法をぶっぱなしたい人たち」
「それはじじぃ……エイリオスおじいちゃ…………エイリオス騎士団長だけだ」
「言われてみればたしかに。印象が強すぎて間違えました」
「そこは大事なところだから、くれぐれも間違えないでくれ」




