異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 15
「聞き間違いか? すみれが私の作るストーンウォールを破壊してみせると聞こえた気がしたんだが……?」
「聞こえた通りです」
「どういう状況なんだ?」
「すみれの恋路を叶えるために必要なことなんです」
「ストーンウォールを破壊すると恋路が叶うのか?」
「そういうわけではありませんが、初めの一歩が踏み出せます」
「…………?」
理解が及ばないシェリーさんたちに、ことの経緯を説明すると、意味が分からないという顔をして答える。
「意味が分からない」
「ですよね。占いで出たそうですよ。友人と戦って真の姿を解放すると、意中の相手がラブずっきゅん、だそうです」
「そんなこと言ってたっけか……?」
「気持ちはよくわかります。あたしも、すみれに荒事をしてほしくないです。が、残念なことにウララの占いで出てしまったことはもうどうしようもありません。ので、そこそこ本気のストーンウォールを出してあげてください。よろしくお願いします」
「ああ……分かった…………」
なんとかギリギリ納得してくれたシェリーさんがストーンウォールを出す。
厚さ1メートル。高さと幅が2メートルの大きな壁。比重は約3程度。普通に殴っただけでは壊れない。
「よし、すみれ、これが壊せたらペーシェと一緒にマジック・コンペティションに出ていいぞ」
「押忍ッ!」
これだけ見ると、生き急いだ素人が無謀に拳を振るおうとしてるようにしか見えない。
シェリーさんもキキもヤヤも、手をケガするに決まってると思って心配で仕方ない。すみれの料理は絶品。もしも料理が作れなくなってしまったらと思うと怖くて仕方ない。
本当に恐怖でしかない。できればマジでやめてほしい。
一応、アルマ経由でハティにも来てもらった。状況が理解できない彼女はなにをするのかよくわからないけど、とりあえずポーラを腕に抱いて状況を見守る。
なにかあってもハティがいれば治療できる。なんなら時間を巻き戻すことで確実に治療っぽいことができる。
「それでは、大手を振って参りますッ!」
我々の心配をよそに、すみれは綺麗な構えを見せて石壁に相対する。
並みのベルン騎士団員も、レナトゥスの宮廷魔導士でもなかなか破壊できない強度を持つシェリーさんのストーンウォール。破壊できなければそれでよし。破壊できてしまったら…………諦めるしかない。ハティに全てを託すしかない。
すみれは構え、呼吸を整え、完璧な正拳突きを見せた。
「破ッ!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
とても拳が石壁に当たったとは思えない轟音を響かせて石壁が爆散した。
これを見た全員がドン引き。唖然として言葉を失う。
対して、やりきったすみれはどや顔で満面の笑みを見せた。
「これで免許皆伝ですかっ!?」
「――――――ああ、免許皆伝だ」
「やったー!」
嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねる。
それを見て、冷や汗の止まらないシェリーさんがあたしに耳打ちした。
「これ、どういうことだ? すみれって一般人だよな?」
「育ての親が護身術に拳法を教えたそうです。まぁ、彼女が叩きこまれた拳法はそもそも護身するものじゃなくて、敵がモンスターだろうが壁だろうが、魔法だろうが概念だろうがなんだろうが問答無用で破壊する超攻撃系の拳法です」
「育ての親の顔を殴りたいッ!」
「あたしもですッ!」
なんてこった。こんなはずじゃなかったのに。
とにかく全てを円満にするため、現実からちょっぴり逃避するため、全員を集めて早めの昼ごはんにしようと思いますッ!




