異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 12
相対して、礼。構え。
まずはゆっくりと拳を前へ突き出す。突き出した拳をすみれがはたいて捌く。足を引いて距離を取り、腰を捻って左の拳を打ち込む。
これを数十回繰り返して確信した。すみれは問答無用拳の秘奥を体得している。
問答無用拳の秘奥。それは概念にすら問答無用の拳を叩きつけること。
例えば、桜がよく使う潜影の魔法は身を影に潜ませ、影の中を移動するとともに物理的な攻撃を受け付けない性質を持つ。だが、問答無用拳は攻撃を当てると思えば当てられる。相手がどこにいようと当てられる。どんなに巨大な落石だろうと、破壊できると思えば破壊できる。
それが問答無用を叩きつける拳。問答無用拳の所以である。
幼いながらにこれを体得して思った。『なんて頭の悪い拳法なんだ……』と。
でも問答無用拳を体得して、問答無用の理不尽を剣術に応用したあたしが文句を言う資格はない。
組み手を見て、なんかすごいと感じた祈がペーシェの腕の中ではしゃぐ。
「暁お姉ちゃんもすみれお姉ちゃんもかっこいいです。私ももっと強くなりたいです!」
「そうだねー。祈もきっと暁さんみたいに強くてめっちゃかっこいい女性になれるよー。ところでー、友達と一緒に戦うとかなんか言ってた気がするんだけどー、それってまさかあたしが関係してるのかなー?」
「心当たりが、はっ! ある、ふん! みたいだ、な!」
「うっわー……最悪ー……」
「ペーシェさんと一緒に戦えるなら、もうなにも怖くありません!」
「それ、死亡フラグだからやめてッ!」
「しぼーふらぐ?」
よくわからんが、ペーシェに関係した事柄のようだ。ペーシェが受けた占いは、彼女が原因で世界が滅びかねない、というもの。困ったものである。恋路と世界の破滅がごった煮するとは夢にも思わなかった。




