異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 11
「問答無用拳の極意は体幹だ。力強い体幹と鋭く重い拳で相手の攻撃力を上回る。これが基本戦法だ」
「はいっ! せいっ! せいっ! せいっ!」
冒険者が利用する訓練場の一角で、すみれが真剣な眼差しで胴着を着て空に正拳突きをする。
なんでこんなことになったんだっけ?
ことの発端はウララの占い。サマーバケーションで意中の相手の気を引けなかった彼女はどうすれば恋が成就するかをウララに相談した。その時の占いの結果が、『友人と共に戦い、知られざる己の真の姿を解放すれば意中の相手はラブずっきゅん!』という、相変わらずマジかそれ、っていう占い結果が出てしまった。
すみれは育ての親から護身術として問答無用拳を教わった経緯があるみたい。どうして異世界にいる義兄が使う拳法を知ってるのかはともかく、できれば料理人のすみれに危険なことをしてほしくないんだが……。
万一、腕や手をケガしたり後遺症でも残ろうものなら大惨事。料理ができなくて彼女の悲しむ顔を見たくない。
が、育て親の教えがいいのか、すみれにセンスがあるのか、めっちゃいい拳を打ち込んでらっしゃる。
しかもちゃんと気功術も会得してらっしゃる。基本ができてるなら、もうあたしが教えることなんてほとんど無いと思う。
なぜなら、問答無用拳に必殺技的なものはなにもないからだ。拳ひとつで全てを粉砕する。敵の拳も、硬い壁も、強大な魔法攻撃も、モンスターの牙も爪も、拳ひとつで解決する。それが問答無用拳。これを聞いたあたしは幼いながらに、『バカなのか?』と思った。
「せいっ! せいっ! せいっ!」
真剣に取り組むだけ、意中の相手に本気ということ。
でもなー、できればなー、すみれに戦ってほしくないなー。
『友人と共に戦い、知られざる己の真の姿を解放すれば意中の相手はラブずっきゅん!』
ウララの占いの結果を捻じ曲げられた記録はない。しかし、ここはなんとかして避けたい。捻じ曲げたい。修正したい。可能性があるとすれば、文言の前半を削除すること。
『知られざる己の真の姿を解放すれば、意中の相手はラブずっきゅん!』
これだけならすみれが危険なことをする必要がなくなる。多分。さて、運命を握り潰す手段を考えなくては……。
「暁さん。次は組み手をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。最初はゆっくり手合おう」
「よろしくお願いしますっ!」
考える暇もなく、すみれはやる気満々で次の選択肢を迫った。




