異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 4
この状況を見て全員が黙りこむ。
この時、ヘラさんは心の中でこう思った。
『おかしいな。シチューの中のお肉を一個だけ食べただけだから、全部なくなってはないはずなのに。もしかして、実はあれが最後の一個だった? いや、さすがにそんなはずは……』
サンジェルマンさんは昨日の記憶を掘り起こす。
『うーん……。夜に起きた時にお玉一杯しか食べてないはずなんだけど、そもそもがそんなに少なかったっけ? 暗かったし、中身の量を見てなかったけど、お玉を落とした感じからして、たんまり残ってたように感じたんだが。しかし、あんまり覚えてないなあ……』
インヴィディアさんは頬に手を添えて昨晩のことを思い出す。
『あらら? おかしいわね。珍しく小腹が空いてお夜食と思ってシチューを食べた時は、まだ底に残ってたはずなのに。もしかして、私が最後に全部食べちゃったのかしら。半分寝てたから覚えてないわ。なんにしても、私が減らしたのは事実。でも、これを正直に言うのはちょっと……』
アルマは無いものは仕方ないと言い、サンドイッチの準備をしながら、アルマの隠ぺい癖が顔を出す。
『そんなバカな。アルマが食べた時はまだたくさん残ってたはず。でも一杯だけ、お肉一個だけ食べただけ。全部無くなるはずはない。周囲に誰もいないことは確認済み。黙っていればバレないはずだ。あ、でも嘘発見器を使われたら即アウト。その流れにならないように話しを誘導しなくては!』
ベレッタはアルマの背後を追って朝食の準備を整えながら、罪悪感に身を焦がす。
『誘惑に負けて夜にシチューを飲んじゃった。一杯だけならいいだろうと、なんて浅はかなことをっ! でもでも、わたしが食べた時はまだあんなにたくさんあったのに、どうして全部なくなってしまったんだろう? いやいや、そういう問題じゃないよね。どうしようどうしよう!』
レーレィさん、ミレナさん、レオさん、シェリーさん、ラムさん、アーディ、リリス姫、シャルロッテ姫、クラリス、スカサハ、ローザ、ニャニャ、リリィ、桜、ロリム、キキ、ヤヤ、以下略!
全員、別々のタイミングで昨夜、シチューをつまみ食いした。全員が犯人である。
唯一、失礼ながら意外にも、すみれだけ食べてなかった。
なので当然こうなる。
「シチューがないッ!? あんなにたっぷり作り置きしておいたはずなのにッ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「(や、やばいッ!)」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「みんなで朝食にドラゴンシチューを楽しむ予定だったのに…………」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「(ぐはッ!)」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
良心の呵責が痛む。
このシチュエーションで最も前に出てはいけない魔人がすみれの心に寄り添う。
セチア・カルチポア。嘘アレルギーの彼女に嘘を吐いたらたいへんなことになる。




