異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 3
ほっこりしてると異世界渡航組が起きてきた。
朝に強いすみれのテンションが既にお昼前のそれ。ほかのみんなは寝起きでテンションが低い。すみれの元気パワーに引っ張られる形で血圧を上げていく。
「暁さーん! おっはよーございまーす!」
「すみれ、おはよう。今日も元気いっぱいだな。今朝はリィリィたちがおいしいスイーツを焼いてきてくれたんだ。みんなで食べよう」
「スイーツ? むむっ! これはバクラヴァ。なんて美しいのでしょう。黄金色に輝く宝石箱のようです! ほんとにいただいていいんですか?」
聞かれて、視線をリィリィたちにやると、彼女たちは満面の笑みで答える。
「「「「「「どうぞっ!」」」」」」
「やったー! ありがとう! 朝食前だけど、さっそく焼きたてをひとつ、いただきます♪」
さくさく。
ざくざく。
もぐもぐ。
「おいしい! 薄く均一に伸ばされたフィロ生地のサクサク感もさることながら、ナッツとドライフルーツ、噛むとじゅわっとはちみつの甘さが口いっぱいに広がる!」
「はちみつ!」
シェリーさんが覚醒した。
すみれが言葉を続ける。
「こんなにおいしいバクラヴァは初めて食べた!」
「でしょでしょ♪ これはフェアリーの妖精流剣技なくして成せない業なのよ。生地を均一に薄く切ることと、ナッツとドライフルーツを同じ大きさに切り分ける技術。さすがローズマリーたちだわ。日々の研鑽の賜物ね♪」
「いえ~い♪」
「いえ~い♪」
シルヴァとローズマリーたちがハイタッチ。一人終わったら次のフェアリーにバトンタッチ。全員とハイタッチして朝食を始める。
今日の朝ごはんは昨日のシチューの残りとサンドイッチ。基本的にご飯派のあたしも、今日はバクラヴァがあるのでパン食にしよう。あと、すみれの作ってくれたドラゴンシチューがおそろしくおいしいから。
それはみんなも同じようで、ドラゴンシチューを目当てに厨房へ行く。
するとどうだろう。シチューが入ってたはずの寸胴鍋の中身が空っぽである。
そんなバカな。昨夜、夜に起きた時に、せっかくだからと思ってシチューを一杯飲んだ時にはまだたんまりとあったのに。
不可解な現実を前にして、みんなが首を傾げる。
最初につっこんだのはつっこみが大好きなペーシェだ。
「あれ? シチューがない。昨晩にはまだあったのに」
「昨晩?」
「あ、いいえ、昨日の晩御飯を食べ終わった時に、朝食にするって残してましたよね? 楽しみだったのに、早起きの冒険者さんが食べちゃったんですかね」
と、平静を装うペーシェはこんなことを考えていた。
『あっれー? 昨日たまたま深夜に起きた時に一杯飲んだけど、その時はまだ全然余裕で残ってたのになー……』
実はペーシェも飲んでいた。
でも言えない。普通のシチューならともかく、人生において次があるかどうか分からないドラゴンシチューをこっそり食べたなんてことは口が裂けても言えない。




