異世界旅行2-6 木枯らし吹けば、焚火が燃ゆる 2
まるで黄金色の宝箱のようにきらきらと輝くそれは、ナッツとドライフルーツをたっぷり使った見たことのないスイーツ。
合間合間にははちみつが塗ってあるのか。太陽の光に当てられて、何枚にも重ねられた層の間から漏れる雫がきらきらとあたしの心を魅せる。
「焼きたての香ばしい香りが広がるな。なんて名前のスイーツなんだ?」
「これはね、バクラヴァっていう名前のスイーツなんだって。とっても薄い層の生地をいっぱい積み重ねて、間に細かく切ったナッツとドライフルーツをいっぱい敷き詰めて、はちみちを塗って、薄い生地をそーっと乗せて、いっぱい乗せたて焼いたの。さっくさくであまあまでとってもおいしいよ!」
「それはとても楽しみだ。せっかくだから朝食の前に一個だけ食べてみよう。あーん。さくさく。うっ、うまいっ!」
噛めば小気味よくサクサクとほどける生地と共に、ザクザク食感のナッツと甘酸っぱいドライフルーツ。ねっとりとした甘さのはちみつと相まって絶品のスイーツに昇華されている。これはうまい。ついつい二個目を手に取ってしまいそうになる。
「これは本当においしいな! シルヴァ、素敵なスイーツを教えてくれてありがとう!」
「いえそんな! 喜んでもらえて嬉しいです。でも、できればリィリィちゃんとローズマリーたちをもって褒めてあげてくださると嬉しいです」
「ということは、ローズマリーたちも協力したのか?」
聞くと、彼女たちは嬉しそうに楽しそうに宙を舞って踊り出る。
「そうなの! 私と月下とバーニアがナッツとドライフルーツを切ったんだ。細かく切りそろえるのは大得意だから!」
胸を張って自慢する彼女の誇らしげな表情を見るとあたしまで楽しくなってしまう。
フェアリーが大好きなアクアが補足を入れた。
「フェアリー流剣技なら、ナッツもドライフルーツも全て同じサイズに切れるんです。だからバクラヴァをかみ砕いた時の食感が均一で、より強いサクサク感を楽しめるんです。それだけじゃないんですよ。赤雷と白雲は生地を薄く切ってくれました」
「はい。とても薄い生地を使うということで、持ち上げると生地越しに向こう側が見えるくらい薄く切りました」
「おかげでたくさんの生地を乗せられて、よりサクサクなバクラヴァになったそうです。ね、シルヴァ様♪」
「そうなんです。人間では不可能なレベルの薄さで、これは妖精流剣技の成せる業です! 彼女たちでなければここまでサクサクなバクラヴァは作れません。私もこんなにおいしいバクラヴァを食べたのは初めてです。ナッツもドライフルーツも均一の大きさだから口当たりがいいし、層をいっぱい積んでるのでサクサク感が強く、中に挟んだはちみつがじゅわっと口いっぱいに広がる広がり方も、私たち人間が作るものよりずっと滑らかでおいしいんです!」
「なるほど。みんなの特技が生かされたスイーツだったわけか。わざわざ作ってくれてありがとう」
感謝を述べると、フェアリーたちはどういたしましてと喜んでくれた。
リィリィは自分も頑張ったんだとアピールする。
「あのねあのね、リィリィはバクラヴァの焼き加減を見たんだよ。上手に焼けたかな?」
「それはもう完璧だよ! リィリィはスイーツを焼くのも上手だな!」
「えへへ♪ 褒められちゃった♪」
頬を染めるリィリィにセチアが優しく声をかける。
「うふふ♪ よかったね。エディネイさんに会う時はいっぱい作ってあげようね」
「うんっ!」
リィリィが満面の笑みを見せると、つられてアクアもシルヴァも、みんなが笑顔になる。
子供の純真な笑顔っていうのはいいものだ。心が洗われるようだなあ。




