異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 72
羊皮紙を258枚積み上げたところでアルマちゃんの手が止まる。
「これでひとまず全部です。ハティさんが同時併用した魔法陣は種類にして258種類。全展開した魔法陣の数は――――数えきれませんでした。でも配置は覚えているので、いつか必ず再現してみせます」
「す、すごいです。魔法陣を詳細に見て覚えるのみならず、展開された形まで記憶してるです。どうかレナトゥスに来て一緒に魔法の研究をしたいです」
ニャニャさんの言葉を聞いたシェリーさんがアルマちゃんを勧誘しようと、魔法陣を理由に近づいてきた。
「ハティがクロに使った魔法を羊皮紙に書き出したのか。それにしてもすごい数だな。いろいろと聞きたいことがあるんだが、今度ハティを連れてレナトゥスに来てくれないか。どうして魔法陣を複数組み合わせたのか、とか、どうしてわざわざ不可視の魔法を使ったうえで、あれほど巨大な魔法を行使する必要があったのか、とか。ひとまず、彼女の識る魔法の知識を借りたい」
これを聞いたアルマちゃんはフリット・ガレットを突き出して満面の笑みで答える。
「世界の平和のため、人々が大好きな人たちと共に幸せなご飯を食べるためなら、きっとハティさんは喜んで協力してくれると思います。こちらの質問に対して欲しい答えが的確に返ってくるかはともかく」
「そこなんだよなあ…………」
なにをそんなに困ることがあるのか。ハティさんは頼れるお姉さん。特にお友達の数がすごい。どこにでも友達がいて、みんなとってもいい人たちばかり。尊敬するばかりです。
「ハティさんならきっと素敵な魔法を教えてくれますよ。オートファジーが素敵な魔法だってリリィさんも言ってました。きっと見せてないだけで、すんごい魔法を知ってるに違いありません。魔法だけじゃないです。ハティさんそのものが本当にすごいんですっ!」
ついつい声が大きくなってしまった。それには理由がある。ハティさんに落胆されたのが嫌だった。尊敬する人の心が傷つけられてしまったみたいに感じて感情的になってしまう。
私の感情を察してくれたシェリーさんは、抱きしめたポーラちゃんをニャニャさんに預けて私の額に触れないように細心の注意を払いながら頭を撫でる。
「いや、すまない。彼女を蔑んだわけじゃないんだ。ただ、使うことと教えることでは要求される技能が違うから、必ずしもハティがほかの人に魔法を教えられるかどうか不安になっただけなんだ。特に彼女は、こう、なんていうか、言葉が短いから」
「あ、はい、それは、たしかに」
そこは否定できない。たしかに言葉は短い。あんまり人になにかを教えてるところは見たことないかも。強いて言えば音楽。ハティさんは演奏が上手。教えるのも演奏も超一流。きっと魔法も教えるのは上手なはず。
「ハティさんならきっと大丈夫ですよ。少なくとも、シェリーさんたちのためなら協力してくれます」
「そうなると本当に助かるよ。その時はアルマもすみれも、キキもヤヤもレナトゥスに来てくれ。たくさんもてなすよ」
「チョコレートはありますか?」
声の主はいつの間にか隣にいたヤヤちゃん。純真な眼差しをシェリーさんに向ける。
唐突なヤヤちゃんの出現に驚くも、シェリーさんはサムズアップして答えた。
「もちろんだ。フィエリテで好きなスイーツを頼むといい」
「フィエリテ! 行ってみたいです!」
「キキもフィエリテに行きたい! ミラベラさんに会いたい!」
「よし、みんなで会いに行こう」
「「やったー!」」
キキちゃんとヤヤちゃんはシェリーさんに大好きと言って抱きしめる。シェリーさんも二人のことを大好きと言って抱き返した。
背後でリリス姫が嫉妬の眼差しで三人を見下ろす。
ここにも大好きがいっぱいある。
この大好きを大切にしたいな♪




