異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 70
感謝感激雨あられ。大好きなクロさんにありがとうって言ってもらえた。ご飯がおいしいって言ってもらえた。こんなに嬉しいことはない!
夢見心地の私のそばでヘラさんが暁さんに耳打ちした。
「本当にこれでいいの?」
「結果的に納得すればいいんです。あとはレオさんが舵取りしてくれます」
「超丸投げ! レオくん、頑張って!」
「ガンバリマス」
呆然自失するレオさんに暁さんが助言する。
「大丈夫ですよ。今のクロはボラです。調理する前のボラは臭いですが、調理次第でおいしくなります。クロも同じです。今はとても人間とは言えませんが、レオさんの愛次第で人間になれます」
「すごい酷いこと言ってる。でも否定できないのが困る」
呆然自失のレオさんがどんどん真っ白になっていく。
反対に喜び極まる私は頬を真っ赤に染めていく。
ボラ。旬の季節を間違えず、正しい調理を行えばとってもおいしい淡水魚。
ここで私の閃きが花開く。
シェリーさんに向き直り、私の閃きを披露する。
「ポーラ。この子の名前はポーラ。いかがでしょう!?」
「ボラが語源な気がするところが気になるが、かわいい名前だな。よし、この子の名前はポーラだ。よろしくな、ポーラ」
「にゃあ~ん♪ もぐもぐ」
「『おいしいご飯を作ってくれる人間さんがそう決めたならよろこんで』ということだぞ。よかったな、シェリー、すみれ」
「気に入ってくれたみたいでなによりです♪」
「プリマもポーラも見事にすみれに餌付けされたなあ……」
プリマちゃんもポーラちゃんも食べ盛りなのか、ご飯を出してあげるとおいしそうにもしゃもしゃと咀嚼を始める。
プリマちゃんはいつも通り、焼き魚や昆布などに乾燥して細かく砕いた野菜を混ぜた。
ポーラちゃんは木の実が大好きということで、荒く砕いたどんぐりやクルミのほか、ドライフルーツを混ぜてビタミンを足し算。
いっぱい食べて元気に育ってね♪
よし、クロさんに感謝の言葉をもらって、ポーラちゃんの名づけも終えた。
そろそろご飯を食べるとしよう。クロさんの隣にいたけれど、レオさんと一緒の時間を邪魔しては悪いのでよそに行こう。
ドラゴンのお肉を誰よりも楽しみたいと切望した人。ラム・ラプラスさん。彼女に感想を聞きに行こう。
「ラムさーん♪ 念願のドラゴンのお肉はいかがですか?」
「……………………」
「んん?」
返事がない。まるでドラゴンのお肉がおいしくて放心しているようだ。
実際、その通りだった。隣でくつろぐ華恋さんが状況の説明をしてくれる。
「あまりにおいしすぎて幸せタイムを満喫してるところ。いわゆるマインドフルネスのひとつね」
「なるほど。では邪魔をするのはよくないね。とりあえず、隣に座って魂が戻ってくるのを待ってみる。華恋さんはドラゴンのお肉は食べてないの?」
「私は異世界渡航組みじゃないし、霊芝とも関わってないし、ドラゴンのお肉は丼にするには味が強すぎて、今日はミノタウロスの肉の漬物にタレをかけてご飯に乗せて食べてる」
「丼物に対する愛がすごい! たしかに、ドラゴンのお肉は旨味が強すぎるから、ステーキのほうがいいかも。シチューも食べてないの?」
「シチューはスープだけ飲んだよ。すっごくおいしい。ドラゴンシチューの感想はミレナさんとインヴィディアさんに聞いてちょうだい♪」
なんと。せっかくだから食べてくれてよかったのに。




