異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 63
ボラが臭い。でも不味いわけではないのに嫌がられることにショックを受ける私は弁明したい。
「ボラを料理してます。おいしくできたので、リンさんも食べてみてください」
「ボラ料理? おいしくできたなら、ぜひ」
これが皮が臭い魚です。とは言わない。ちょっぴり罪悪感がなくはない。だけど、言うと食べてもらえないかもなので黙っておきます。
リンさんは鼻をすんすん鳴らして最初に見たのはゴミ箱。ボラの皮を捨てたコンポストを見た。相当に気になるらしい。
続いてショウさんが作ったポワレを見てぱくり。
「ん~~~~っ! おいしいっ! ふわっふわの身を噛みしめると味がじゅわっと口いっぱいに広がって、いつまでも食べていたい気持ちになります♪」
「私のも食べてみて。オレンジの果肉と一緒に食べてみて♪」
「それではいただきます。はむっ。ん~~~~っ! 優しい甘酸っぱさのオレンジとお魚さんの旨味の相性が抜群です。バジルソースもとってもおいしいですね。とっても食欲をそそられます」
「私の魚介ポワレも食べてみてください。きっと気に入っていただけると思います」
「それでは、ぱくり。ん~~~~っ! とっても優しい味ですね。こんなにおいしい料理があるだなんて、異世界もすみれさんたちも本当に素敵ですっ!」
「喜んでいただけてなによりです。こちらのお刺身もおいしいですよ。寒ボラって言って、鯛よりおいしいともっぱらの評判です」
「鯛よりおいしいんですか? それは素敵ですね。それでは、ぱくり。もぐもぐ。おいしいっ! 今まで食べたお刺身のどれよりおいしいです!」
「そうでしょうそうでしょう。それが寒ボラというものなのです。ちなみに、ボラはみなさんが臭いと言って嫌がってしまったお魚さんです」
「――――――えっ!?」
想像以上に驚かれてしまった。
やっぱり固定観念というのは強力だなあ。臭いから不味いと思ってしまったらしい。まぁ臭いイコール不味いというのは間違ってない。人間の生存本能として当然の感性である。
むしろそれを押しのけてボラを最初に食べた人って本当に勇気がある。素晴らしい先人に感謝の念が絶えません。
さて、おいしいと言って喜んで食べながらも、臭いと言って遠ざけてしまったボラへの感想やいかに?
「う…………おいしいです、けど、これが本当にあの臭い魚なんですか? にわかには信じがたいのですが」
「本当です。寒ボラは同時期に獲れる脂の乗った鯛よりおいしいと言われるほど美味なのです。調理方法さえ間違えなければ、とっても素敵な食卓になると断言できます」
「う……う~ん…………」
悩む。ものすごく悩んでらっしゃる。
私ならおいしい料理のためなら多少の我慢はできる。
でも彼らは匂いに敏感。嗅覚というのは人間の五感の中で最も敏感で重要な器官という。
それが人間よりはるかに鋭敏となれば、いい匂いはともかく、悪い匂いを特に強く感じてしまう。
判決やいかにっ!




