異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 62
今回は皮が臭い魚なので、適当なサイズに切ったボラを出汁の入った深鍋に入れ、上から季節の野菜を放り込んで蒸し焼きにする。
これが古にありしポワレである。
「でも一応、アロゼしたポワレも作ります。おいしいと思うので」
「そっちもちゃんと作るんだ。大賛成♪」
「あ、俺もやってみる!」
三人並んで鍋を傾け、ふんわりふっくらなボラの身にアロゼをする。香味野菜を加えたアロゼはかぐわしい香りを放つ。するとどうだろう。臭くて嫌がられたボラに興味を持った人たちが集まった。
最後にお皿に盛り付ける。
「私は魚介類の出汁を使ったからアサリとオリーブを添えましょう。お野菜の旨味も合わさって、きっとうまうまに違いありません」
「俺は長ネギとキノコにしよう。甜面醤とジンジャーソースを端に置いてみようかな」
「味変できるのいいね。私はバジルソースとオレンジの果肉を添えて華やかに! 甘酸っぱいオレンジとポワレしたボラの身の甘さが合うはず」
「では、いざ実食!」
ぱくり。
うまいっ!
「新鮮なので、アロゼしても魚の生臭さがまったくないですね。ふわっふわの身と魚介からとった出汁が沁みててほっこりうまうまです。にんにくもよく効いてて食欲をそそります」
「おぉー! 単純に焼いたり蒸したりするのとは食感も味わいも全然違う。こうなると、さっき言ってた皮がパリッとするっていうのも体験してみたいなあ」
「寒ボラは旨味が強いって聞いたけど、本当にしっかりした味をしてるね。思った通り、オレンジの果肉と一緒に食べるとうまい。これはいろんな食材の組み合わせを試したくなる。ポワレをする代表的な魚は鯛とかスズキだから、養殖してる鯛で作れるよ。正直言うと、力強い天然の鯛と違って、柔らかくて甘味が強いっていう養殖の鯛にものすごく興味がある」
はっ!
こんなことを聞いたら、ショウさんは『一匹くらいなら水揚げしましょうか?』って言っちゃうに違いない。現に今、そう言おうと体を乗り出そうとしている。
それはいけない。気持ちはすごく分かるけど、それはいけないのだっ!
気持ちはすごく分かるけどっ!
「ラムさん、気持ちは分かりますが極力、エルドラドの資材はあまり使わない方向でっ!」
「そうだった。ごめんごめん」
「いえ、先日に山の恵みを取ってきていただいたので気にしなくていいですよ。みんな本当に感謝してるんです。試算によると、余裕を持って冬を越せるだけの食料は確保してますから」
ラムさんは本能と理性に板挟みにされながらも、大人の対応を取り戻す。
「いや、感謝してくれるのは嬉しいけど、私はすみれに連れまわされただけだったし、いくらか料理方法を伝えたとはいえ、主食の魚料理は全然だったからなあ。ここではお肉は貴重品で、私のグリレでの経験はあんまり活用されなさそうだし。燻製って言っても、材料が少ないからあんまり役にたたなかったし」
「そんなことはありませんよ。外世界にいろんな料理があるって知れただけで楽しかったです。今後とも、よろしくお願いします」
「それはもちろん。あ、そろそろボラの蒸し焼きができたんじゃない?」
「いい感じですね。ふっくらうまうまなボラの蒸し焼きとお野菜の取り合わせはどんなもんでしょう。それと、お刺身を作っておいたのでリンさんにも食べてもらいましょう」
厨房をのぞくようにして、ショウさんの背後に耳をぴこぴこさせるリンさんが見えた。
料理に興味津々のようだ。私が料理好きだから、彼女も料理に興味があると思い込みたい。
彼女を呼び込んで話しを聞こう。
「えっと……最近獲れたっていう臭い魚の匂いがして、みんなからアレを厨房に持ってくるのはやめてくれって頼んでくれと頼まれてしまって。でも、なんだかいいにおいがしてきたのだけど、なにを作ってるんですか?」
なんか思ったのと違った。
それにしても、そんなにボラの匂いがキツイのか。鼻がいいのも考えものですな。




