異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 60
ガッツのポーズでイケイケな華恋さんはミレナさんにもお願いがあるみたい。
「ミレナさんにはぜひ、滑車を用いた動力に関する知識をいただければと考えてます。時計が作れるなら動力の技術も持ってるだろうという皮算用ですが、どうでしょうか?」
「一応まぁ、水車とか風車とか蒸気機関とか、そのへんの古典的な原動力の知識はあるよ。それにしても、ちょっと皮算用を作りすぎじゃないか?」
「ありがとうございますっ! まずは水車か風車で脱穀と製粉ですね。できれば空気を送り込むやつも作って、ボイラー室から配管を伸ばして冬や夜でも温かく過ごせる住空間の実現をしたいです」
「あれ? そういうのってメリアローザでもやってるんじゃないの?」
「彼らは魔法か力技で解決するんです。私としては、魔法が使えない人でもどうにかできるように、物理的な方法で解決できる選択肢を用意しておきたいんです。獣人さんたちは身体能力が高く、内燃系魔法が得意ですが放出系魔法は苦手ですから」
「なるほど、選択肢は多いにこしたことはない。それに、魔法より物理現象を利用したほうが効率がいいものもあるし。でもさすがに華恋の願望は規模が大きいから、必要資料を後日渡すって形でもいいかな?」
「すごく助かりますっ!」
ミレナさんと華恋さんは熱い握手を交わして笑顔をむけた。
微笑ましい光景を見ると、なんだか私までわくわくしちゃいます。
わくわくを携えながら、厨房へ入ると当然のように新鮮なお魚さんたちがてんこもり。
200人近い人たちの胃袋を満たさなくてはならないのだ。食べ盛りの子供たちもいる。てんこもりでも足りないくらい。さぁさぁ今日はどんな晩御飯にするのかな?
「むむっ! なんて見事なボラなんだ! 今日はボラのポワレ、いやいや唐揚げ、いやいやいや、これだけ鮮度がいいならお刺身、漬け丼、カルパッチョ。なんでもおいしくできますね」
「それなんだけど……」
苦い顔を見せたのはエルドラドの料理人の紹さん。なにか問題でもあったのだろうか。
はっ、もしや!
「ショウさんの故郷やエルドラドで親しまれる調理法があるのですね!?」
「いえ、そういう意味ではないんです」
違った。すごく残念。新しい料理を覚えられると思ったのに。
気を取り直して事情を聞こう。
「今日の献立はボラ料理ですか?」
「いえ、その魚は使いません」
「――――え? いまなんて?」
「その魚は匂いがキツイので、皮を剥いで干物にしようと思います」
「干物……ボラの干物…………」
ボラの干物。一夜干し。悪くはない。悪くはないけどもったいない。




