異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 56
ベレッタちゃんがフライの魔法を使って円を描き終えた。
半径5キロに及ぶ広大な丸の中にはクロちゃんとハティちゃんが距離をとって立ち並ぶ。文字通りの円形闘技場。
二人が戦うと知って、平和的な性格のベレッタちゃんは不安を抱きながらも、ベルンのためを思って雑用をかって出てくれた。
「終わりました。少し歪な円かもしれませんが、半径5キロはきちんとあると思います」
「ご苦労様。便利に使ってしまってすまないな」
「いえそんな。それより、本当に二人が戦うんですか?」
「これは通過儀礼なのだ。さて、決着はすぐに着くと思うが、さくっと終わらせてもらおうか」
暁ちゃんの言葉にちょっとだけムッとする自分がいる。
我が嫁が負けることが前提なのだ。いや勝ってもらっては困るのだけど。だけど俺はクロちゃん推しなわけで、ああもう俺はいったいどうすればいいんだ!?
「とりあえず円の外に出てください。巻き込まれますよ」
「ぐぬう! クロちゃん頑張れっ!」
「応援しないでください。気持ちはわかりますが」
「せめて俺だけでもっ!」
分かってはいる。彼女の謎理論によって、勝者をハティちゃんにしないといけないということは。
でも、だけど、それでも、俺はクロちゃんのことが好きだから、人類が全員敵になっても、俺は彼女の味方でいたいんだ。
引っ張られるようにして円の外へ退避。
暁ちゃんが果てしなく先に見える二人の金髪美女に向けて、勝敗の方法と勝負のルールを説明する。
「この円から出たら負けだ。円の範囲内なら空だろうが地中だろうがどこにいても構わない。そのほか、戦闘不能になったほうの負け。負けた者は勝った者に絶対服従。いいな?」
「わかった」
「殺す」
「それでは、始め!」
クロちゃん、世の中に『殺す』っていう返事は存在しないのよ?
あー頭が痛くなってきたー。
開始の合図が響き渡る。
と、同時に、ハティちゃんが消えた。不可視の魔法を使ったのか、跡形もなくなっていなくなってしまった。クロちゃんは奇襲が来ると考えて神経を研ぎ澄ます。
相手を見つけるか、カウンターを狙っているようだ。
沈黙の間に事情をよく知らないベレッタちゃんから当然の質問がこぼれる。
「どうしてクロさんとハティさんが戦うことになったんですか?」
暁ちゃんは溜息混じりに答えた。
「クロがベルンに行った時にモラルのない行動をさせないためだ」
「だとしても、お二人とも、よく承諾されましたね」
「クロとハティの間には因縁がある。クロはハティが嫌いだから、いつか必ずハティに勝つって恨み節のように言ってる。だからハティと戦えるって言ったら即戦うって言ってくれた」
「恨み節……」
「ハティはクロのことが、クロがハティを嫌うより100万倍は嫌いだ。だけど子供たちの笑顔のために協力してくれた」
「レオさんとベルンのためではないんですね……」
ベレッタちゃんの呟きに、引き金を引いてしまったペーシェちゃんが肩を落として溜息をつく。
「そんなつもりでアレをあげたわけじゃなかったのに……。あたしはただ、子供たちのためにと…………」
最後のひと押しをしてしまった彼女は申し訳なさそうに佇む。こちらこそ、本当に申し訳ない。だけど、俺とクロちゃんの幸せのためになったと思って納得してほしい。




