おいしいご飯のその先に
鯛が食いたい。でも作者は捌けないので回転ずしの鯛が主です。
魚介系はイカしか捌けません。魚系はノータッチですね。
じゃあなんで捌く様子を知ってるのと言われれば、祖母の手料理を参考にしているからです。ぶっちゃけ細かいところは覚えていないんですが、だいたい作中の感じだったと思います。
作中に登場したすまし汁は思い出の料理なのです。祖母は下処理して鍋に入れて適当に味を整えたら誰でも作れる。と言っていましたが、同じ手順でするのに美味くいかないんですよね。
熟練の技かそれとも愛のなせる業なのか。人生における永遠のテーマかもしれません。
以下、主観【小鳥遊すみれ】
晩御飯はスーパーで購入した2匹の鯛。
みんなにはお世話になりっぱなしなので、少しでも恩返しができればと思い、いざ捌きます。
正直なことを言うと、台所で包丁を握る理由は自分の存在価値を試してみたいという動機が大きい。
何も知らない、分からない自分が、誰かのために何かをできるのだろうか。
電化製品はおろか1人でお風呂にも入れない。こんな私が誰かを笑顔にできるのだろうか。誰かの為に何かをしていいのだろうか。そんな不安に襲われたからだ。
だから自分の今できることを考えて、それは料理しかないと思った。
おいしいと言ってもらえるかどうかは分からない。だけど、挑戦してみたい。
本日のメニューは鯛の兜煮。すまし汁。鯛炒飯。故郷で使ってた短粒米は品切れで長粒米しかなかったけど大丈夫でしょう。
料理をしますと手を挙げると、料理人を夢見るエマさんがお手伝いに名乗り出て下さいました。
まずは合掌です。頂く命に感謝を。それから調理に入ります。
大きくて硬い鱗を綺麗に取り除き、頭を落として内臓を除去します。
背びれと尾ひれを切除して三枚におろします。
臭みを抑えるために熱湯をまんべんなく身にかけます。
身は刺身にもできたけど、グレンツェンでは生魚を食べる習慣が少ないとのことで、これも全てお米と一緒に炊いてしまいましょう。
圧力鍋の中に甘辛タレを準備して兜を入れます。目の周りと頬の筋肉が一番おいしいです。
残ったアラを沸騰した水の中に放り込んで、臭み抜きの香草とネギを投入します。灰汁が出なくなるまでひたすら掬いだしては捨てるを繰り返します。
冷凍のミックスベジタブルをフライパンに適量出して、鯛の旨味を移すためにすまし汁を少量混ぜます。
炊けた鯛の身入りご飯をほぐしてフライパンに投入します。
IHの特性を知らないので、鍋を振った時に音が鳴ってびっくりしました。接地面から離れると警告音がでるみたいです。火炎で調理する経験しかないのでやりづらいです。
私たちが料理する姿をみんながカウンター越しに覗き込む。なんかちょっと緊張する。
「魚が捌けるってだけで需要高いよ。グレンツェンは内陸だからか、魚料理より肉料理の方が多い傾向あるんだな」
カウンターから顔をのぞかせるルーィヒさんから値千金の情報をゲット。
お魚が捌けるは希少価値有り。
「そういやぁ、スーパーの店長が魚を捌ける人を探してるって言ってたっけ。ヘルシーブームが来てるから魚介類の需要が増えてて、切り身で販売したり惣菜コーナーのレパートリーを充実させたいって。レストランでは昔から魚料理は見るけど、家庭ではあんましないよね。あ、そういえば倭国ではカルパッチョって生のサーモンの切り身なんだって」
ペーシェさんからも値千金の情報が出た。千両箱の山が築ける。
「生肉ではなくて生魚を使っているのですか? にわかには信じがたいです。生肉料理で生魚を使うだなんて」
「ねー。面白いよねー。一度は倭国に行ってみたいな」
ティレットさんは驚きの表情。が、私の料理のレパートリーに『カルパッチョ』なる料理はない。今度調べておかなくては。
私の故郷の人たちは生魚でカルパッチョという料理を作る。しかもおいしくて面白い。
自分もよく知らないけど、故郷のことを褒められるのはちょっと誇らしい。
それ以上に、料理を教えてくれたおばちゃんたちを褒めてくれてるようで嬉しかった。
親以上に長く生活して、色々なことを教えてくれて、今日ここに私がいるのだって彼らのおかげ。
グレンツェンを勧めてくれたのもおばちゃんたち。全ては私を愛してくれてる人たちのおかげなんだ。
まだ見ぬ両親の代わりに育ててくれたおばちゃんたち。
私の手料理を心待ちにしてくれるみんな。
全部全部、みんなのおかげ。感謝してもしたりないよ。
手作りの料理を机に並べてみると、みんな笑顔だったり、物珍しそうにお皿の上のものを眺める。
変じゃなかったかな。やっぱり文化が違うと食べるものも違うよね。
思い出したように、ペーシェさんが四角い板を取り出した。
「めっちゃいい匂いするじゃん。超おいしそう! あ、手を合わせる前にみんなで記念写真撮っとこうよ! それじゃあ1枚、ハイチーズ!」
何がなんだかよくわからないまま抱き寄せられて、きょとんとした顔で眩しい光にさらされた。
何が起こったのかわからない私は頭の上にはてなマークを咲かせて硬直してしまう。
それはスマホのカメラ機能というもので写真を撮ったらしい。ハイテク機器に慣れてない私には分からないことだった。
液晶画面を見るとそこにみんなの姿が写ってる。辺りを見渡して安堵する理由は、みんながこの小さな硬い板の中に入りこまれたと勘違いしたからだ。
ほっと言葉を漏らすとペーシェさんはにっこり笑って、今度、携帯を見に行こうと誘ってくれた。
光る板は携帯というものらしく、遠くの人とおしゃべりをしたり、手紙を送ったり、写真を撮ったりと色々できるらしい。欲しい!
「まぁそれは後日として、冷めないうちにいただきましょうか。すみれの自信作だもんね」
「すみません。キキが待ちきれなくて食べてます」
「すみれお姉ちゃんのご飯おいしー! お吸い物が一番おいしー!」
「あらら、仕方ないよね。それじゃあ、いただきます」
手を合わせて一斉にお口に運ばれるふわふわの焼き飯。
おばちゃんたち以外に自分の作ったものを食べてもらうなんて初めてだ。
緊張する。味見した段階ではよくできたと思った。だけど自分の味覚と他人の感じ方は違うわけだし。はわわわ…………。
「これ……マジで…………うめぇッ!」
「鯛ピラフもおいしい。こっちのスープは格別においしいんだな! しょっぱいでも甘いでも、酸っぱいでも苦いでもなく。本能的にうまいと叫んでしまう味なんだな!」
「こっちの、なんと言いますか、その、お魚さんの頭はどうやって食べるのですか?」
ペーシェさんはうまいと叫び、ルーィヒさんも太鼓判。
ティレットさんは鯛の兜煮を指さして疑問符を打った。
皿から魚の頭部が生えたように見えるグロイ料理と認識されてる。
赤黒いタレは血のようにも見えるらしい。慣れてないって怖いです。
「あ、うん、これはね。中に入ってる身を取り出して食べるの。ごめんね、先に取り分けておけばよかった」
「お、それは噂のチョップスティックだ。しっかし器用に扱うもんだね」
「このピラフっておかわりないの?」
「ご、ごめんなさい。焼き飯はないんだけど、すまし汁ならあるよ」
おかわりがあると知ってキキちゃんダッシュ。そんなに気に入ってくれたのかな。それはすっごく嬉しいな。
ウォルフさんも続いてキッチンへ。ヤヤちゃんはもう片方の兜の身をほぐしてくれてる。
アルマちゃんもガレットさんもおいしいおいしいって言って頬張った。
兜の身を取り出しながら、そんな風景を見て不意に胸の奥から熱いものが込み上げてきて涙がこぼれる。
異国の地でこんなにもいい人たちと出会えて、良くしてくれて、尽くすことができて、本当に私は幸せ者だ。
ペーシェさんは、そんな大げさなって言うけれど、私にとっては信じられないことなんだよ?
本当に、本当に素敵だなって思うんだ。
縁もたけなわ。おいしいご飯も食べ終わり、みなそれぞれの家路をたどる。
手を振ってもらって、またご馳走になるからねって言ってもらえたことは本当に嬉しかった。私にも誰かを笑顔にできることがあるんだって知ることができて本当によかった。
それと同時にさよならを言うのはちょっぴり寂しくもある。
また会えるって分かってるけど、人の温もりが離れていってしまうようで、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、心に冷たい風が吹いたような、そんな気持ちになってしまった。
玄関からリビングに戻ると、歩幅の大きなハティさんが先んじて空になった皿の片付けを始める。
「あ、ハティさん。お片付けなら私が」
「ううん。すみれはリビングでくつろいでいて。おいしいご飯を作ってくれたお礼。こんなことしかできないけれど、私もすみれと同じでみんなに何かしてあげたい。私も世間知らずで、そんなに多くのことができないから」
「そう、ですか? ありがとうございます」
それではお言葉に甘えて楽をさせていただきます。
リビングに戻って今日の光景を思い出す。
いつかまた、さっきみたいにみんなで騒いで食べて遊びたいな。
まだまだこれからたくさんの出会いがあるのかな。
夢想して微笑むと、お風呂上りのキキちゃんが飛びついて来て、ご飯のお礼をいっぱい言ってくれた。
今日は私に髪を洗って欲しいとアルマちゃんが頼ってくれる。
頼って、頼られるって素敵だな。
そんな1日でした♪
~~~おまけ小話『スルースキル』~~~
ティレット「鯛料理と言えばポワレを思い出しますが、みなさんはどんな料理を思い浮かべますか?」
ペーシェ「そんなおしゃんてぃーな料理、食べる機会がまずなくて分からん」
エマ「窯焼きや蒸し焼きです。いずれにしても、わざわざ包丁を入れず、下処理をしてそのまま調理するイメージです」
ルーィヒ「鯛がどうのこうのの前に、タラとサーモン以外は分からん」
ペーシェ「フィッシュアンドチップスもタラだしね。ムニエルもタラのはず。白身魚はほぼほぼタラ。燻製がサーモン。時期によってスズキってお母さんが言ってた気がする」
ティレット「サーモンはみんな大好きですね。私も本当によく食べます」
すみれ「みんなサーモン好きなの?」
ルーィヒ「好きだけど結構いい値段するから、お祝いとかちょっとした贅沢をする時くらいのもん」
すみれ「なるほど。つまりサーモン料理を出すと、みんな喜んでもらえるんだね」
ペーシェ「そりゃ嬉しいけど、無理はしないでね。ってか、今日食べた鯛料理がめっちゃおいしかったからまた作ってほしい」
ウォルフ「自分でも作ったらいいんじゃね? せめて一緒に作ろうとか」
ペーシェ「――――――キキちゃんとヤヤちゃんはお魚さん、好き?」
キキ/ヤヤ「「大好きっ!」」
ウォルフ「ナチュラルにスルーしやがった」
バターコーヒーを飲んでみた。
バターにコーヒーを入れるもんだと思っていたんですが、よく調べてみると、コーヒー(好み)+グラスフェッドバター(ギー)+MCTオイルをミキサーでぶるんぶるんさせるんですって。スーパーに売ってるケーキ用のバターを買ってました。多分それでもいいんでしょうけど、せっかくなのでグラスフェットバター
を注文。ついでに粉末の炭も投入。
バターが入ってるだけあって、苦いコーヒー飲まない党の作者も続けられそうな、なんというかコクが足し算された感じになっていました。
余談ですが、何かのくじ引きで当てた記憶のあるジューサー用のちっちゃいミキサーが家に仕舞われていました。なるほどこの時のための伏線だったんだなと、運命を感じました。