異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 38
大きな溜息をついて、しかし武器がないなら普通に魔法で応戦するしかねえと腹をくくった俺が見たクロちゃんの姿には既視感のあるものだった。
両手にハンドガンを持ってる。
俺のリボルバーと違い、未来的なデザインのフォルムは光に反射して白く鮮やかに煌めく。
銃身部分が異様に広いそれは、通常の拳銃であれば無用の長物。だが俺には分かる。魔力で生成した銃弾を発射する前に練り上げた魔力を溜め、圧縮し、超高速で発射するための機構として備えたそれは全ての魔銃使いが求めた理想の姿。
高純度の魔鉱石の成せる業。
魔力を溜めることができ、圧縮に対する圧力に耐え、圧縮した塊を塊のまま発射できるだけの強靭な耐久力を備える奇跡の鉱石。
欲しい。
使ってみたい。
ハッピートリガー垂涎のアイテムが目の前にある。
童心に戻った俺は憧れて、彼女の言い放つ言葉にチャンスを見出す。
「チッ! やっぱり使ったことのねえ武器は使い辛えな。せっかく昨日、レオの武器をバラして職人に作らせたってのに」
「俺の武器をバラして職人に作らせたッ!?」
いろいろつっこみたいところはあるが、今はそれはおいておこう。
なにより大事なのはシーサーペントを倒すこと。
そしてなにより、新作の魔銃を使いたいってこと。
だから俺はかわいい俺の嫁と俺のためにこう言おう。
「だったら、俺に任せてみな。使い方をレクチャーしてやんよ♪」
「教えろ。三丁あるから二つ使え」
三丁も作らせたんかい。
職人さん、どんだけ仕事が早いんですか。
きっとアルマちゃんや陽介さんたちに鍛えられたんだろうなあ。
職人は無茶ぶりをするクライアントに育てられるって言うからなあ。
感慨に耽るのも束の間、俺はクロちゃんから魔銃を受け取って構える。
教えると言ったからか、彼女は俺の両腕の中に入って三丁目の銃を両腕で構えてシーサーペントに相対した。
魔法を教える方法に手と手を合わせて魔法を口伝する方法がある。今は手が足りない。だから彼女は俺の感覚と同期させ、俺の技術を己の物にするために体を密着させた。
やべえ。めっちゃいい匂いがする。
力強く、怪しく危険な香り。濃厚な黒薔薇を連想させた。
あーもーめっちゃかわいいなーもーっ!
最高ですわーっ!
のろけて、瞬時に仕事へ戻ろう。
「一瞬で魔力を練り上げて溜める。無理に引き留めるようにでなく、限界が来たらパッと離すように。その瞬間に引き金を引き、銃口の先、敵に当たるようにベクトルを添えてやるんだ。こんなふうにッ!」
「よし、だいたいわかった。こうだなッ!」
俺が引き金を引いた1秒後に魔銃をぶっぱなす。
俺の魔弾は圧縮した魔力の塊のまままっすぐに、一直線にシーサーペントの両の目を打ちぬいた。
クロちゃんは両腕で構えた銃の引き金を引く。だけどまだ慣れてないのか、圧縮された魔銃は発射した直後にほどけ、極太のレーザーのように霧散しながら、それでも魔力の練度が高いせいでシーサーペントの頭部を焼き尽くすに至った。
正直、これで俺と同レベルの魔弾が打てたら立つ瀬ないわって思ったので、そういう意味ではちょっと安心した。
彼女に得意の魔銃を教えることができる。ちょっと、いやかなり嬉しい。




