異世界旅行2-5 旬には少し早すぎて、だから今から待ち遠しくて 35
空中を飛んで見えた。水面の下に巨大な影がある。3本の暗い線が俺たちのいる岸に向かって伸びていた。
概算50メートルの巨大な影。
潜水艦ではない。これこそがシーサーペント。
振り向いて、会敵の号令を出すと同時に水面が大きく揺れる。
ギョアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
三頭の海蛇。
水色の体表は太陽の光に反射して虹色にも見える。
美しく、恐ろしく、逞しい。
これがモンスター。カトブレパスとは違った迫力がある。
やっぱりデカいってだけで威圧感がすごいな。
咆哮が轟いて、しかし冒険者は笑みを浮かべた。
「よぉーし。今日はシーサーペントのかば焼きだぜ」
「蒸し焼きにしてよお、サラダに和えるってのもうめえぜ」
「なに言ってんの。醤油漬けにして丼が一番でしょ」
「小生は新鮮な刺身がよおござるなあ」
みなさま、討伐したあとの献立のことしか頭にないようで……。
最初に叫び声を上げたのはふわふわきゃっと。巨大なモンスターの姿に驚いた猫ちゃんは叫び声を上げて一目散に森へ逃げる。と、同時にシェリーちゃんが空へ吹っ飛ばされた。
マジかッ!
空中で状況を一瞬にして把握したシェリーちゃんの額にうっすらと血管が浮き上がる。
ふわふわきゃっとを驚かせたこと。
もふもふタイムを邪魔されたこと。
討伐すべきモンスターが現れたこと。
怒りを隠さない彼女は自由落下を捻じ曲げる。
巨大な盾をライブラから取り出し、空気抵抗を利用して真下への落下を斜めに受け返す。一直線にシーサーペントの頭上へ向かう。
膂力を乗せるために体を翻し、盾を海獣めがけてぶん殴る。
「超加重衝撃ッ!」
空気が震えるほどの衝撃が肌に走る。
耳に痛い鈍い轟音とともにシーサーペントの頭が潰れた。次第次第に力が抜け、巨大な体が岸に倒れる。




